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#16

=次の日=

普段から一緒に住む祖父母の影響で朝に強い琥珀だが、今日はまだ眠気が残った気分だった。


――なんか、眠。


琥珀は、あくびをしながら自室を出て階段を降りる。祖母・利恵(としえ)が今日も水をあげたのだろう、玄関先にある花がドアの隙間から入る光に反射しながら、喜んでいるかのように存在感を見せて眩しく輝いている。

琥珀は、洗面所で歯磨きと洗顔を済ませ、寝ぐせを軽く治しリビングへと向かった。

襖を開けるとすでに朝食が用意され、すでに祖父・義文(よしふみ)は朝食を食べ始め、利恵はお茶を淹れているところだった。


「おはようございます。」


琥珀はそう言いながら、用意された朝食の前へで腰を下ろす。


「いただきます。」


テレビのないこの部屋は食器の音と、外で鳴く鳥の声や犬、たまに家の前を通る車の音がはっきりと聞こえてくる。利恵もお茶を淹れ終え、朝食を食べ始めた。


「琥珀さん、今日、明日はどのようなご予定ですか」


どこか他人行儀のように思わせる利恵の言い方だが、琥珀にとってこれが普通だった。


「今日は課題で出された本などの教材を買いに出かけた後、せっかくなので学校の図書館で勉強をしようと思います、なので帰りは遅くなります。夕飯も学校で済ませます。明日はどこへも行かず、自室で課題などを行うつもりです。」


琥珀は目を合わせずに返事をする。すると朝食を食べ終えた義文が口を開いた。


「男で……文系。」


この一言で琥珀は鋭い刃で心を刺されたような痛みを感じた。琥珀の肩が上がることにも気づかず義文は続ける。


「男が文系なんぞ、簡単に稼げるわけがない。でも家族を養っていく以上経済力は必要だ、人一倍勉学に励め。」

「はい。」


黒く霧がかかった心を隠すかのように短くはっきりと返事をし、お米を一口食べた。一瞬琥珀は、あの時獅音と初めて一緒に食べた時のカレーを思い出した。


――同じ米なのに、あの時の方が温かい。それにおいしかったかも。


不思議とそう思ったことに疑問を抱きながら琥珀は朝食を食べ終えた。


「ごちそうさまでした。」

「琥珀さん、今日買う教材のお金はありますか。」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」


食器を軽く水で流し終えた琥珀は、静かにリビングを出た。


「ハァ……」


琥珀は襖を閉めると、洗面所に向かいながらゆっくりと肺から空気を抜いた。

洗面所で歯磨きを終わらせ自室に戻り、そし外へ……バイトへ行く準備を始めた。


本を買うことも勉強をすることも嘘じゃない、本当のことを伝えている……琥珀はただ伝えなかっただけ。アルバイトをすることに対して反対している祖父母にばれてしまったら何を言われるか分からない。どんな形で返ってくるかも。そんな謎の緊張感を抱きながら名札を鞄の奥に入れ、財布、タブレット、充電器……必要なものも入れて自室を出た。


「行ってきます。」


――反応なし。


挨拶は必ずしなさいという義文の教えから、忘れずにこの家では行うようにしている。しかし、返事はない、それも琥珀には当たり前のことだった。

それは義文、利恵にとって琥珀が『悪魔の子』だから――。

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