#14
「……ちょっと話したい。」
――なんて答えればよかったんだろう。そういえば前にも似たようなことが……ってあの時とはまた状況が違うだろ。
「急にごめんね。」
そう言いながら獅音は教室に入ると同時に、苦笑いを浮かべた。
「いや……別に。」
琥珀は呟くように言う。獅音は近くにあった机に腰を掛けて月を探すように窓を見始めた。
「いや……まさかこんな姿見られちゃうとはな……お恥ずかしいや!」
どこか感情をごまかすように並べられていく獅音の言葉。それを琥珀はただ立ったまま聞いていた。
「俺さ、怖いんだよね……自分の思いを言葉にするの。」
琥珀は表情を変えない。獅音はそんな彼の表情を確認し、安堵したような表情を浮かべ話をつづける。
「本音を言うことも、自分を少しでもだすことも怖い。もしかしたら無意識に誰かを困らせてしまうから、苦しませてしまうから……」
「そんなこと……」
我慢が出来なかったのか、割り込むように琥珀は反論する。その時琥珀は獅音と目が合った。獅音の目はどこか儚く、切ない……でも力強い目をしているように琥珀には見え、言おうとした言葉を止めてしまった。
「小学生の頃ね、母親を傷つけたことがあるんだ。あの日俺は――」
獅音は、小学生の時に起こったあのことについて琥珀に話した。伝えたいという思いが強く伝わってくる声が琥珀の耳に届く一方で、そんな彼の手は爪痕が残りそうなほど強く握られ震えていた。
「――ってなんで俺、琥珀くんに話してるんだろ。」
――ッチ、散々泣きそうになりながら話といて結局その仮面で隠すのかよ。
「どうせ、自分のことを俺って言うのも嘘なんだろ。」
――しまった、また俺口に出て……。
「っフ、フフ……やっぱり琥珀くんはすごいや!確かにそうかもしれない、いつの間にか自分を強く見せようとしてたのかな……でも意識して変えていたわけじゃないんだ」
そう笑いながら獅音は目から流れる雫をぬぐう。それが悲しみから生まれた涙なのか、笑いから生まれた涙のか琥珀は考えないようにした。
「あ、でも琥珀くんが描いた絵が好きなのは嘘じゃないよ」
「あの絵は触れるな……っていうか、今別に俺の絵なんて関係ないだろ。」
やわらかい笑顔で言う獅音の言葉になぜか琥珀は照れながら返した。
――かわいい。
”グゥ~”
静かな教室に琥珀のお腹の音が鳴り響き、琥珀は恥ずかしさから下を向く。
「たくさん話聞いてもらっちゃった。夜遅いのに、付き合ってくれてありがとう。」
「い、いや別に……」
「お詫びと言ったらあれなんだけど、よければこのままうちで夕飯食べていかない?」
「……は?」
こんにちは、ゆきん子です⛄
最後までお読みいただきありがとうございました!
途中にある「かわいい」お気づきいただけましたか?
実はあの一言、あえて誰が思った言葉なのか決めていません。
琥珀が、いや獅音が、それともお互いが……。
どちらかを想像しながら楽しんでいただけたら嬉しいです!