#13
なぜか焦って逃げ去る琥珀を獅音は追いかける。
「……待って!」
そう言ってやっとの思いで追いついた琥珀に逃げられないよう、つかんだ腕を獅音は離さなかった。
――ちょっとだけ一緒にいてほしい……なんて言ったら琥珀くんはどんな顔をするだろうか。
きっと琥珀ならわかってくれる気が獅音にはしていた。でも言えない、きっと彼を困らせることになるから。
「ハァ……何?何かあった?」
腕をつかんだままただ下を向く獅音。そんな彼に琥珀はため息をつきながら訊いた。心配という感情を隠すかのように並べられた言葉。その言葉をのせたとげのないかすれた琥珀の声に獅音は気づいてしまった。
――ほら、琥珀くんはやっぱり受け入れてくれるんだ。
獅音の笑顔を見破った唯一の人間。そんな彼だからこそ、そんな感情の変化に敏感な彼だからこそ、獅音は受け入れてくれることを予想していた。でも――
「あ……っとごめん!なんでもないんだ」
掴んでいた琥珀の腕を話し笑顔で獅音は言うが、気まずさのあまり獅音はすぐに視線を落とした。そんな彼を見ながら琥珀はまたため息をついた。
「写真でも撮ってやろうか?」
「え?」
予想もしていなかった琥珀の言葉に驚き、獅音は視線を琥珀の顔へと戻す。
しかしそこには――
――え!?僕!?
視線の先には琥珀のスマホに映った驚いた表情をする自分の顔があった。
「むかつく笑顔以外にもやっぱいろんな顔すんじゃん。」
そう言う琥珀の声は、どこかやわらかく、冷たくなりつつあった獅音の心を毛布のように温かく、優しく包み込んでいった。琥珀はスマホで隠しているつもりなのだろうか、琥珀の口元だけ笑っているように見えた。その笑顔を見た瞬間、なぜか獅音の心はぎゅっと何かに締め付けられるような感じがした。
――やっぱ……か。琥珀くんは本当すごいな。
「あ、あの……ちょっと話したい。」
獅音の一言に、琥珀は返事をしなかった。ただ、近くの教室へと向かう獅音の背中を静かに追いかけた。