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#12

●琥珀の家族構成

・祖父母(母方)

・琥珀


●獅音の家族構成

・母

・父

・獅音

・弟・碧音あおと(獅音とは5歳差)

獅音は、ただ1人静かにこの教室を照らす月を見上げていた。誰もいない、あまり使われてもいないこの306教室。この教室に来るまでに誰もいない教室はたくさんあった。しかしなぜか獅音はこの教室に惹かれるように入った。


獅音は電気もつけずに月明かりがぎりぎり照らされていない席を見つけ座る。窓を見るとその場所はちょうど月がきれいに見える場所だった。そして獅音はリラックスなのか、疲れからなのか一息ため息をついた。


――綺麗だ。


そして、なぜかまだ小学生だったころのあの記憶――忘れたくても忘れられない春のあの出来事が映像として頭の中に流れ始めた。


獅音・小2年生・春――


「ごちそうさまでした!」


母親より早く食べ終えた獅音は食べたお皿を片し、急いでランドセルの方へと向かった。今日は、父親の仕事がまだ終わっていないため母親と獅音の2人で夕飯を食べていた。そして獅音はランドセルを開ける。笑顔をこぼしながら母に見つからぬようランドセルからある手紙をとった。その手紙は今週末の母の日にちなんで、学校の国語の授業で書いた母親への感謝の手紙だった。


――喜んでくれるかな……。


「お母さん!」


不思議そうに母親は獅音の方へと振り向いた。そして獅音は笑顔で隠していた手紙を母親に見せた。


「これ!今日学校の授業でお母さんに手紙を書いたの」


通っている小学校の名前が入った茶色の便せん。隠すときに少し強く持ちすぎたからか、少しクシャっとしてしまっていた。


「うわぁ、ありがとう」


そう言いながら母親は手紙を受け取り、ゆっくりとそれを開けた。読むとそこには日ごろの感謝の思いを綴られた言葉が並べてあった。たくさん考えたのだろうか、消しゴムで消した後がいくつか見られた。

日頃の感謝をうまく伝えることが出来ただろうか……獅音は母親が手紙を読んでいる間心臓が自分でもはっきり確認できるほど活発に動いていることが分かった。

すると――

突然、笑顔だった母親の目の光がグレーに広がり、顔の表情も崩れ始めた。


「……」


母親は何も言わず立ち上がり、キッチンの方へと向かった。


――ハッ、お母さん泣いてくれるほど喜んでくれたの……かな。


そう獅音は思ったが一瞬にしてそれが違うことを理解した。


「……なんで……なんでよ。なんで子どもにまで言われなきゃならないの。こんなに頑張ってるのに……頑張れって……これ以上どう頑張ったらいいのよ!」


突然の大声に獅音は肩が上がってしまった。これまで聞いたことのないような母親の大きな声。なぜ母親が泣いてしまったのかよくわからず獅音の目には涙が浮かんできてしまった。


「ごめんね、お母さん。獅音、お母さんに悪いことしちゃった?」


震える声で獅音は聞く。しかし、その言葉はさらに母親の精神を不安定にさせるものでしかなかった。


「……何で泣くの?泣きたいのはこっちなのに……もうどうしたらいいの……やめて、泣かないでよ……お願いだからもう……」


母親のその一言で獅音の涙は止まった。


――獅音が泣くとお母さんは泣きたくなる?獅音がお母さんを泣かせちゃってるの?じゃあ、獅音は笑ってなきゃ。お母さんを困らせたくない。


「……そっか、お母さんを困らせたくない。」


獅音はそう呟きながら涙を目でこすった。笑顔を見せようと無意識に笑顔を()()()()言う。


「僕、泣いてないよ!ごめんね、お母さん。」


するとハッと何かに気づいたように母親は顔を上げた。よく見ると母親の目からも涙が止まっていた。そして獅音を抱く。


「お母さんの方こそ、ごめんね。お母さんなのにダメね、私。許して……ごめんね、ごめんね。」

「ううん、お母さんはダメじゃないよ。僕はお母さんのこと大好きだよ、お母さんいつもありがとう」


ハグされた腕の中でも獅音は笑顔を浮かべていた。

心の中で涙の水たまりが広がっていることを気づかずに。


 

――獅音の頬をすっと冷たい何かが流れ落ちた。


その冷たさで獅音はハッと我に返る。月はまだこの教室を照らしていた。


――あれ、泣いてる?


”ドンッ!”


獅音は突然の物音に驚きながら、音がしたドアの方を見る。


「…琥珀くん?」


そこには普段とは違う驚いた顔をした琥珀の姿があった。

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