#11
琥珀の目は月光のスポットライトの先を映した。そこには切なく、そして寂しそうに月を見ている見覚えのある横顔だった。
琥珀は焦りと混乱から静かに後ずさりをする。しかし琥珀の足はドアの位置と少しずれていたらしく壁にぶつかってしまった。
静ずかな部屋で鳴り響いてしまった音。流石に獅音の耳に聞こえないわけがなく、獅音は瞬時に物音がした琥珀の方へと視線を写した。
「…琥珀くん?」
ばれてしまったことに対する焦り。そして獅音の目には涙があったことに驚き琥珀は急いで教室を出た。
「……待って!」
そう言って追いかける獅音を背にただ琥珀は足を走らせた。
――何で……何であいつがいんだよ。しかも何だよ、あの顔…。
いつも見ているあの笑顔とは真反対の表情。でもなぜか琥珀にはあの涙する表情こそが獅音の本当の顔なんじゃないかと感じた。月を見る彼の顔は、切なさや寂しさのほかに何かを求めているようなそんな顔だったように琥珀は感じた。理由は分からない。でも――あの表情に、琥珀は自分と似たようなものを感じてしまった。
――んだよ、これ以上、何を求めてんだ。あいつには俺がどんなに願っても手に入れられないものが全部あるくせに。家族もいて、一緒に笑いあえる友達もいて、あたたかい帰る場所もあって。なのに……なのに他に何を求めてるんだよ。
水曜・金曜、そして獅音が琥珀を見つけた時は一緒に食堂で一緒に昼食をとる。食事中はいつも獅音が話し、それを琥珀は聞くだけ。獅音が話す内容にはよく家族の話があった。両親、弟の4人家族。そんな家族の話をする獅音はいつも楽しそうで、仲のいい家族なのだろうと琥珀は思っていた。
――家族……家に帰れば家族がいる。それだけで幸せだろ。
そんなことを考えながら琥珀はΩ館の出入り口を目指す。流石にここに来た時には下校時間が近かったからか教室はすべて電気が消えていた。出入り口まであと少しの時、丁度後ろへと振った左腕が誰かの手によって止められてしまい、同時に足も止めてしまった。つかまれた左腕は無理に前へと持ってこようとしても動かない。
「待って……。」
琥珀は後ろへ振り向かなくても、その声で自分の腕をつかんでいるのは獅音なのだと分かった。そして呼吸が落ち着いたのか、少したってから獅音はいつもとは違い、弱く震えるような声で言う。
「お願い……ちょっと……ちょっとだけでいいから、一緒にいてほしい。」
それは普段の彼の様子からは想像できない一言だった。