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読者の皆さん!
初めましての方も、お久しぶりという方もこんにちは、ゆきん子です⛄
お久しぶりという方!前作に限らず、今作もお読みいただき有難うございます!
初めましてという方!沢山の素敵な作品がある中で、私を見つけ、さらに読んでいただき有難うございます!
前作の完結から期間が経ち…やっと連載がスタートすることが出来ました!
沢山綴りたい思いはあるのですが、長くなってしまうのでこの思いは活動報告などにて綴らせていただきます!(笑)
ということで今作もぜひ、楽しんでいただけたら幸いです!
もうすぐで開催される大学祭に向けて、獅音は学園祭実行委員に所属する友達から頼まれて準備を手伝っていた。そんな2時間にもわたる手伝いもやっと終わり、獅音は、自分の荷物を置いていた教室まで1人、誰もいない廊下を歩いていた。
――意外と学園祭っていうのも簡単に準備が終わらないものなんだな。力仕事じゃないのになんか疲れた。
明かりのない教室が続く。そして獅音は自身の荷物が置いてある305教室のドアの前へと着いた。まだ誰も作業が終わっていないのだろう、教室は暗いままだった。
――あれ、さっき遠くで見た時は明かりがついてると思ったのに……ってあ、隣の教室だったか。でも今日306なんて誰か使う予定あったか?もしかして不審者……!?
獅音は、不審者がいないことを祈りながら静かにドアを少しだけ開けて覗いた。幸い、そこにいたのは不審者ではなくただの男子学生だった。自分と同じ2年生か、それとも先輩か……流石に教師にしては若すぎる雰囲気だった。もし誰でもない1年生なのだとしたら、肝が据わった猛者だと言っていいだろう……そう獅音の頭の中では静かに、彼の正体についての会議が行われていた。
そう考えるのも無理がない。なぜなら獅音が在学するこの大学は、学生を軸とした学習・イベントが多々行われることで有名である一方、人気大学ゆえか警備体制が万全すぎるほどに整っているからだ。もし時間外に許可された者以外学校にいた場合、それがたとえ在学生であっても厳しい罰則が課せられる。他にも当たり前かもしれないが、時間や礼儀に関しても厳しいのがこの大学の有名な理由のもう1つだった。だから毎年入学したての1年生は、充実したキャンパスライフを過ごすためにも時間といった特に生活面に対しほぼ怯えた状態で暮らしている。そういった厳しさが恐怖だという在学生側の意見もあれば、社会人になって役に立つ、安心して通えるという意見もあり特に親からは絶賛されている。
――にしても何をしてるんだ。
獅音が開けた隙間からは、彼が何をやっているのかはっきりとは分からなかったが、鉛筆を持ち何かを描いているのは分かった。
――字を書くにしては速すぎるし、何か絵でも描いているか?学祭の人かな。というかどこかで見たことがある気が……。あ、確かあの人って水3と金4とかの授業で見かける人だよな。名前は……そういえばまだ話したことなかったな。いつもディスカッションの時、違う班だし。それにしても何をそんな集中して描いているんだ?
彼は獅音が水中の奥へと潜っているかのように周りの音も何もかも気にせずただ目の前のことだけに集中していた。そんな様子が獅音にとって気になる種となっていた。結局教室の中に入り、獅音は彼の絵をただ見ていた。誰かモデルにしている人がいるのだろうか、女性らしき人と男性らしき人が優しく微笑んでいてそれはとてもリアルに描かれていた。
――綺麗な絵……。
獅音は心の中で呟く。しかしそれと同時に寂しさも感じられる絵でもあった。絵を描いている本人もどこか寂しさを浮かべながら黙々と絵を完成させようとしていた。
すると――
”ガタンッ!!”
獅音はその絵を見て油断してしまったのか、近くの椅子に足をぶつけてしまった。当然大きな引きずる音がその椅子から出てしまった。それと同時に彼の肩が少し上がる。
「あ、ごめ―」
「誰!?」
獅音に向ける睨むような目。彼は警戒しているのだろうか、それ以上近づいてくるなという思いが彼の目から伝わってくる。
「ごめん。驚かすつもりはなかったんだ。本当たまたま通りかかった時に電気ついている教室を見つけて君を見つけて……って言い訳だよね。本当ごめんなさい。でも……その、すごいなってその絵。」
この教室が静かであるせいなのか、ただ焦って声が大きくなってしまっただけなのか、自分の声がこの教室に響いている感じがして気まずくなった。
彼は相変わらずの警戒した目で獅音を睨んだまま一言、水滴を一滴こぼしたかのように弱く、でもどこかとげを含めて言う。
「何も見なかったことにして。」
そう一言残して素早く荷物をまとめ足早で教室を出ていった。
1人取り残された獅音は思わず、誰もいない教室で呟く。
「いや、見なかったことにしてくれって……無理があるだろ。」
幸せが詰まっていそうなあの絵、そしてそれを辛そうに描いている彼の表情。それは獅音にとって見なかったことにできない理由となっていた。