幕間 共鳴視の警告!?
幕間です!
シリアスな展開ばかりだと、キャラクター同士の素があまり見えないと思い、書いてみました。
アシュランは天然のラッキースケベ野郎です。
王都アルディナスに戻った翌朝。
一連の報告と六種族会談の準備に追われていたアシュランは、ようやく一息ついた。
まだ早朝。
廊下には人気がなく、朝陽が淡く差し込んでいる。
(レイのお見舞いにでもいくか)
昨日、遺跡の奥で命を賭けて助けた少女。
共鳴視――触れた相手の記憶や感情の残滓を読み取る力を持つ、もう一人の“感応者”。
廊下を歩き、レイが入院していると聞いた部屋の前で立ち止まる。
扉に手をかけた瞬間、中から微かに衣擦れの音が聞こえた。
「……?」
不思議に思いながら、軽くノックする。
「レイ、入るぞ」
返事がない。
(寝ているのか……)
そう思い、静かに扉を開けた――その時だった。
「きゃっ……!!?」
部屋の中央、レイは薄布の白衣を半ば脱ぎかけた状態で振り返っていた。
細い肩、すらりとした腕、露わになった背中。
濡れた黒髪が白い肌に張り付き、淡い桃色が頬を染めている。
アシュランの脳裏に、雷が落ちたような衝撃が走った。
「……なっ……!?」
「な、ななな、何してるんですかっ!!」
レイは慌てて衣服をかき寄せ、アシュランに背を向けて縮こまる。
その背中は真っ赤になり、耳まで赤く染まっていた。
「す、すまん!!」
アシュランは慌てて扉の前で硬直し、必死に目を逸らした。
心なしか、背中に冷や汗が伝う。
「着替えてるって、言って……!」
「いや、返事がなかったから、てっきり……!」
「だ、だからって入ってくる人ありますかっ!!」
レイの声は震え、羞恥と怒りと困惑が入り混じっていた。
「すまん……本当に、悪かった……!」
アシュランは壁に額をつけ、深く頭を下げる。
このとき、王国第一王子としての威厳も、感応者としての鋭敏さも、何ひとつ役に立たなかった。
しばらくして――
背後で、布擦れの音が止む。
「……着替えました。もう、大丈夫です」
控えめな声がした。
アシュランは恐る恐る振り返り、ようやく彼女の方を見た。
レイは、簡素な白い療養服に着替え、ベッド脇の椅子に腰掛けていた。
頬の赤みはまだ引かず、伏し目がちにアシュランを見上げる。
「さっきのことは……水に流しますから。二度としないでくださいね」
「ああ、約束する……」
アシュランは気まずそうに言った。
部屋に静寂が戻り、二人の間にかすかな気まずさが残る。
「それで……何か、用事だったんですよね?」
レイが、ようやく正面からアシュランを見た。
「……ああ」
アシュランは一呼吸おき、まっすぐに彼女を見返した。
「その...体の調子はどうだ?」
「ええ、昨日よりはずっと……もう、ほとんど平気です」
レイは微笑み、小さく頷く。
その瞳には、穏やかな光が宿っていた。
「良かった」
アシュランは胸を撫で下ろし、ふっと安堵の息を吐いた。
「本当は、いろいろ話したいことがある。だけど、それはまた後でいい」
「……はい」
レイは静かに頷いた。
「ひとまず、ゆっくり休め」
アシュランはそう告げて、扉へ向かう。
その背に、レイがそっと声をかけた。
「……さっきは、本当にびっくりしましたけど」
「ん?」
「……でも、来てくれて嬉しかったです」
アシュランは振り返らず、ただ小さく頷き、立ち上がった。
外の空は、いつの間にか朝の光に満ちていた。
扉へ手をかけたアシュランの背中に、再びレイの声が届いた。
「……あの、アシュランさん」
「ん?」
振り返ると、レイはベッドの上で、少しだけ頬を膨らませていた。
けれど、怒っているというよりは、どこか拗ねたような、不器用な笑みが口元に浮かんでいる。
「さっきは水に流すって言いましたけど……」
レイは少しだけ、わざとらしくため息をついた。
「次、もしまた着替え中に入ってきたら――」
そこで言葉を切り、アシュランに蒼い瞳を向ける。
「今度は“共鳴視”で、あなたの恥ずかしい記憶を全部、読ませてもらいますからね?」
「……えっ」
アシュランは一瞬、素で固まった。
「二度としないと約束します...」