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第一章 第六節 王都帰還

朝霧の中、三頭の馬はゆるやかに速度を落とし始めていた。


 「……王都、アルディナスだ」

 レオンハルトが指差す先、霧の彼方に白亜の城壁が浮かび上がる。

 朝日を背に受けて、荘厳なその姿はまるで世界の中心であり続けるかのような静けさを湛えていた。


 「うぉぉ……やっと着いたか。長かったぜ」

 グレンは先程までの騒ぎもどこへやら、伸びをしながら肩を回す。


 「……お前、さっきまで『あ゛あ゛あ゛!!』って叫んでなかったか?」

 レオンハルトが呆れ顔で尋ねると、グレンは咳払いしてそっぽを向いた。


 「知らねぇな。なんか変な夢でも見てたんだろ、きっと」


 「夢じゃなくて、“記憶”ですよ」

 レイが小さく笑いながら口を挟む。


 まだアシュランの背にもたれ掛かっていたが、先程よりも明らかに表情は柔らかく、少しだけ頬に血色が戻っていた。


 そのやり取りに、アシュランも口元を緩めた。

 「おや、もう終わりですか? 黒炎の騎士殿」


 背後から、くすくすとレイの声が届く。


 「おい! その呼び方やめろ!!」

 グレンが振り返って叫ぶ。


 「ええと……“漆黒の剣を携えし孤高の魔狼”って名乗ってたのは、確かグレンさんでしたよね?」

 レイが無邪気に首をかしげる。


 「うおおおおお!! 言うなぁぁぁ!!」

 グレンは馬上で頭を抱え、のたうち回る勢いだった。


 「……お前、本当にあんなポエムじみた二つ名を自分で考えてたのか」

 レオンハルトは心底呆れたように吐き捨てた。


 「もうやめろって!! 頼むから、二度とその単語を口にしないでくれ!!」


 レイは堪えきれず、アシュランの背に肩を預けながら笑いを零した。


 「レイ、お前さっき、俺とレオンの記憶も見えるって言ってたが……本当にそんなことできるのか?」

 グレンが半ば諦めた顔で問いかける。


 「はい。私が“共鳴視”を使えば、触れた相手の記憶や感情の断片を読み取ることができます」


 「ふーん……じゃあ、レオンも一度見られてみるか?」

 グレンはニヤリと笑い、レオンハルトを肘でつつく。


 「必要ない」

 レオンハルトは即答した。


 「だよなー……お前、そういうの嫌いそうだし」

 グレンは苦笑しながらも、ふとレオンハルトを横目で見た。

 その無表情の裏側に、どんな過去が眠っているのか。

 何を背負い、何を抱えているのか。


(……いつか、こいつの記憶も読ませてやる。笑い飛ばしてやるためにな)

 心の中で、小さくそんな決意を噛みしめた。


***


 城門前では、神聖騎士団の兵士たちが交代の警備にあたっていた。

鋼鉄の鎧が朝の光を反射して鋭くきらめき、周囲には緊張感が張り詰めている。


 その中の一人、まだ若さの残る騎士が、遠くからアシュランたちの姿を認めた。


 「お待ちしておりました! アシュラン様、レオンハルト様、グレン様!」


 彼は顔を上気させながら、真っ直ぐ駆け寄ってくる。


 「イザベル陛下より、至急、王城へお戻りくださいとの伝令がございます!」

 その声には緊張と、同時にどこか焦燥の色が滲んでいた。


 王都にも、遺跡で起こった異変の余波が届いている——アシュランは直感的にそう感じた。


 「……やはりか」

 彼は静かに馬を下り、抱えていた少女――レイを慎重に馬から下ろした。


 「この娘を……すぐに治療できる者を呼んでくれ」

 その声音には、いつも以上に切実な響きがあった。

 使命ではなく、守りたいという強い想いが宿っていた。


 「承知しました! すぐに!」

 若き騎士は深く一礼し、周囲の兵士に命じて走り去る。


 残されたアシュランたちは、しばしの沈黙の中で城を見上げた。


***


 王城アルディナス・謁見の間


 静寂と荘厳さが支配するその空間の中心、王国の女王にして神聖騎士団総帥、イザベル・アルディナスが白金の王座に座していた。


 その蒼き瞳が、王座の前に跪く三人を鋭く見据える。

アシュラン、レオンハルト、グレン。

帰還した三名は深々と頭を垂れ、沈黙を守っていた。


 「よく戻りました」


 イザベルの声は凛としていたが、その底には母としての安堵と、王としての緊張が微かに混ざっていた。


 「では、報告を」


 その一言を受け、アシュランが一歩前に出る。

真っ直ぐに母であり女王でもある彼女の瞳を見返し、言葉を紡ぐ。


 「オルデナ遺跡の封印は……破壊されました」


その言葉に、謁見の間を包んでいた空気が一気に緊張に変わる。


 「破壊に伴い魔物の異常発生、瘴気の増大、そして……暗黒の教団の痕跡も確認されました」

 レオンハルトが冷静な口調で補足する。


 「また、俺たちが魔物と交戦している間に、何者かが封印の核へと到達し、それを破壊した可能性があります」

 グレンの声には、悔しさと焦りが滲んでいた。


 イザベルはじっと沈黙を守っていたが、その蒼い瞳の奥にわずかな翳りが差す。


 「……それだけではありません」

 アシュランが言葉を継いだ。


 「遺跡の最奥で、一人の少女を保護しました。名前 はレイと名乗っています」


 イザベルの眉が微かに動く。


 「彼女は封印の異変を“感知”して、あの場にいたと言っています。しかも……彼女自身も、感応者の力を持っているようです」


 「感応者……?」

 女王の声が低く響く。


 「はい。私と同じように、周囲の魔力の流れや瘴気の動きを察知できる力を持っていました。さらに固有の能力にも目覚めており、触れた相手や物の“記憶”や“感情”を読み取ることもできるようです」


 イザベルは長く沈黙した。

 その場にいる誰もが、王の判断を待ち、息をひそめる。


 やがて、女王はゆっくりと瞳を開き、低く、しかしはっきりと命じた。

 「……分かりました。事態は深刻なようですね。六種族会談を招集します」


 その宣言は、ただの指示ではない。

大陸における重大な局面が、今まさに訪れようとしていることを示す鐘の音だった。


 「封印の崩壊、教団の影、そして未知の存在——そのすべてを見逃すことはできません。

 大陸に生きる六種族全てが、この脅威に直面する覚悟が必要となるでしょう」


 その言葉を受け、アシュランは深く頭を下げた。


 イザベルの決断と共に、大陸全土に向けて伝令が走る。


 六種族の長たちが、再びひとつの場に集う日が近づいていた——。

第一章はここで終了です。

読んでいただきありがとうございました!


主人公達も揃い、それぞれのキャラクターの持ち味も少し出せたかと思います。

よろしければ、第二章も引き続きお楽しみください♪

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