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第四章 第一節 グラン=ドラムへの道

大陸南西部——ドワーフの王国、グラン=ドラム。


険しい山々に囲まれた要塞都市へと続く街道を、二つの影が進んでいた。


レオンハルト・ルシアード。

神聖騎士団の副団長にして、冷静沈着な戦術家。


隣を歩くのは、長い弓を背に背負い、はしゃぐように前を行ったり戻ったりを繰り返す少女、リリシャ。

エルフ族の若き弓の名手にして、見た目と裏腹な実力者。


「ねえレオンハルト様、ドワーフの都ってどんなとこ? お肉は美味しい? 鍛冶屋さんいっぱい? ねえねえ!」


「……落ち着け。街道では無駄な騒ぎは禁物だ」


「えー、だって道中長いし、しゃべらなきゃ眠くなっちゃうじゃない」


リリシャはまるで遠足の子どものような調子で、次から次へと話しかけてくる。

それに対し、レオンハルトは時折相槌を打ちつつも、周囲への警戒を怠らない。


彼らの旅の目的は2つ。


一つ目はジークに破壊されたレオンの大剣の代わりを見つけること。


二つ目はドワーフ国にある封印を確認し、もし敵の介入があれば、それを阻止するためだった。


「……見えてきたな。グラン=ドラムの外郭都市だ」


前方の山肌に、赤銅色の石で組まれた巨大な城塞都市が姿を現す。

火山地帯に築かれたその街は、煙と鉄の匂いに包まれ、山肌を削るように広がる階層都市だ。


リリシャは思わず目を輝かせる。


「すごーい! おっきい! あれ全部ドワーフの建物? あんなに積み重ねてるの!?」


「ドワーフ族の建築技術は、重力と戦うことすら美学とする。特にこのグラン=ドラムは戦時を想定して作られた“要塞都市”だ」


「へえ〜じゃあ、ここを攻めるのってすごく大変なんだね!」


ふと、レオンハルトが呟く。


「……封印も残り3か所だ。グラン=ドラムに着いたら、すぐ戦になるかもしれない」


リリシャの足取りが一瞬だけ止まる。


「……うん。でも、私はもう怖がらないよ」


彼女は振り返り、少しだけ大人びた表情でレオンハルトを見上げた。


「エリオス様やみんなが、命を懸けて守ろうとしたものを、私も守りたい。それに、あのとき……レオン様に助けてもらったから」


「……」


レオンハルトは短く息を吐き、視線を前へ戻す。


「無理はするな。お前に何かあったら、アシュランたちに合わせる顔がない」


「ふふ。心配してくれてるんだ」


「言っておくが、戦力の問題だ」


「はいはい、戦力ね」


リリシャはくすりと笑い、再び前を駆けていく。


そうして二人は、険しい山道を越え、視界の先に重厚な岩の城壁を望む。


続きを自然な流れでお書きします。


***


グラン=ドラムの城門前。 厳つい甲冑を身に着けたドワーフ兵士たちが、往来する者たちに鋭い視線を向け、荷車や旅人に次々と検問を行っている。


その光景に、リリシャは少し表情を曇らせた。


「レオン様……」


「……フードを被れ、リリシャ」


レオンハルトは低く告げた。


「エルフがこの街を歩くことを、歓迎しない者も多い」


「……うん」


リリシャは素直にフードを深く被り、耳と髪を隠す。


門前で兵士の一人が声を張り上げた。


「そこの二人、身分を!」


レオンハルトは即座に神聖騎士団の徽章を掲げる。


「神聖騎士団副団長、レオンハルト・ルシアード。女王陛下の勅命により、グラン=ドラムへ向かう」


兵士は徽章を見て一瞬目を見開き、慌てて姿勢を正した。


「し、失礼しました! 通って構いません」


兵士たちが道を開ける。


その横を通り過ぎながら、リリシャはフードの奥で小さく吐息をついた。


グラン=ドラムの城門をくぐると、二人の前に広がったのは――

まさしく「鉄と火」の都だった。


石畳の大通りの両脇には、黒煙を吐く工房が立ち並び、道行く者たちは皆、筋骨隆々なドワーフたち。

荷車を引く者、鉄塊を担ぐ者、巨大な炉の前で火花を散らす者――

街全体が、鍛冶場そのもののように息づいている。


「うわあ……」


リリシャが思わず目を見張る。


「レオン様、見て見て! あの店、剣が山ほど積んである! こっちは斧専門かな? うわ、あっちは鎧屋さん! 本当に街ぜんぶが鍛冶屋さんみたい!」


「ドワーフ族にとって、武器と防具は誇りそのものだ。生活と戦いが地続きにあるこの国では、街がそのまま“砦”であり、“工房”でもある」


レオンハルトは周囲に目を配りながら、淡々と説明する。


「うわー……あっ、あの子ども、斧振ってる! あれ、訓練中?」


「子どもと言っても、あれでもう成人間近だろうな。ドワーフは寿命が長い分、成長もゆっくりだ。だが幼い頃から戦と鍛冶を叩き込まれる」


「へぇ……すごいなあ。エルフの里じゃ、あんな小さい子に斧持たせたら、森番のおばあちゃんに怒られちゃうのに」


リリシャは楽しそうに街を見渡しながら、次々と質問を投げかける。


「ねえねえ、あっちで売ってるの、なんだろ? パン? お肉?」


「火山岩で焼いた“熔炉パン”だな。中に肉とチーズが詰めてある。重労働者向けの保存食だ」


「美味しそう! あとで買いに行こ!」


リリシャが突然、立ち止まり、路地の一角を指さした。


「ねえねえ、レオン様! 見て! あれ!」


「……ん?」


レオンハルトが視線を向けると、そこには他の工房とは少し趣の違う一軒の店があった。

看板には小さく《銀炎工房》と書かれており、窓越しに煌めく宝飾品の数々が並んでいる。


鍛冶の街に似つかわしくないほど繊細な細工。 宝石をあしらった髪飾り、細やかな彫刻が施された指輪、精巧な腕輪。


リリシャは目を輝かせたまま、店先に駆け寄った。


「すごい……! こんなきれいな飾り、エルフの里にもないかも……!」


ガラス越しに宝石を見つめるリリシャは、さっきまでの陽気さを忘れ、まるで子どもが夢見るような目をしていた。


「……まさか、こんなところで足を止めるとはな」


レオンハルトは苦笑しつつも、その横顔を一瞥する。


「えへへ……だって、あんなに綺麗なんだもん。戦いの街に、こんな場所があるなんて思わなかった」


「戦に備える者こそ、心の安らぎを忘れぬために、こういうものを求めるのかもしれん」


リリシャは目を瞬かせ、レオンハルトを見上げた。


「レオン様、女の子ってこういうの見るだけで、ちょっと元気になれるんだよ」


「……そうか」


「今度、戦が終わったら……ひとつ、買ってくれる?」


リリシャは冗談めかして笑う。


「……検討しよう」


通りの奥では、巨大な歯車が回り、水路の力で鍛造炉を動かす仕組みが見えた。

どこを見ても、鉄と火と石が生きている。


「本当に、全部が“働いてる”って感じだね。」


「戦争のために造られた街だからな。贅沢はないが、必要なものはすべて揃っている」


「うん、……すごく、強い街だって感じる」


リリシャは少しだけ真剣な顔で、巨大な王城を見上げる。


「でも、その強い街が……これから争いに巻き込まれるんだよね」


「……ああ。だが、この街は、戦うために生まれた」


レオンハルトは静かにそう言い、街の奥、王城へと続く階段を見据えた。


「そして俺たちの仕事は、ここを守ることだ」


「うん」


リリシャは小さく頷き、レオンハルトの隣に並ぶ。


二人は騒がしい工房街を抜け、王城へと続く長い石階段を登り始めた。

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