第二章 第八節 絆の指輪
王城アルディナス・女王執務室
朝の陽が静かに差し込み、まだ街も目を覚ましきっていない時間。
アシュラン、レオンハルト、グレン、そしてレイの四人は、出発を目前に、女王イザベルの執務室に呼び出されていた。
イザベルは静かに立ち上がると、机の引き出しから小さな木箱を取り出す。
「これは、あなた達に渡しておきたかったものよ」
そっと蓋を開けると、中には精巧な細工が施された四つの指輪が並んでいた。
それぞれの指輪には、異なる色の宝石が嵌め込まれている。
銀色、黄色、紅色、蒼色──
「これは《絆の指輪》」
イザベルは一つを手に取りながら、説明を続けた。
「この指輪には、持ち主同士の“気配”を繋ぐ魔法が込められているの。
お互いの生存と位置、状態が離れていても、朧げに伝わるわ。
そして──」
イザベルは、指輪の宝石を指し示す。
「それぞれの指輪には、持ち主を象徴する宝石の色が宿っている。
アシュランは銀色、レオンハルトは黄色、グレンは紅、レイは蒼」
四人は指輪を見つめ、それぞれの色に目を留めた。
「さらに、もし誰かに危険が迫れば、他の指輪の宝石が危険が迫っている者の色に変わって知らせてくれるわ」
「……俺たちを繋ぐ指輪、か」
イザベルは柔らかな笑みを向けた。
「この指輪は、もともと私があなた達のために用意していたものよ。
本当はもっと平和な時に、別の形で渡したかったけれど……状況が状況だから」
「……母上」
アシュランは指輪を見つめ、静かに拳を握る。
グレンがぽつりと呟く。
「……あんた、やっぱり“お袋”だな」
「当然よ。あなた達は、私の子ども同然なのですから」
四人は、それぞれ指輪を受け取り、手のひらに包み込む。
そして、それぞれの胸に、改めて誓いが刻まれていった。
絆が、ここに結ばれた。
王都アルディナス・東門前
朝の冷たい空気の中、東門前には既に神聖騎士団の数名と、馬の準備を終えた兵士たちが控えていた。
だが、今日は護衛の軍勢は一切いない。
この任務に同行するのは、あくまで四人のみ。
アシュラン、レオンハルト、グレン、レイ。
それぞれが軽装ながら戦支度を整え、馬の前に立っていた。
城門の上から、見送りの兵たちの姿が見える。
その中には、彼らの帰還を信じて疑わない者もいれば、不安げに手を合わせて祈る者もいた。
アシュランは軽く息を吐き、腰の剣に手を添えた。
「さて……行くか」
「エルフの森は遠いが、道は知っている」
レオンハルトは静かに呟き、馬に手をかけた。
「教団の野郎ども、また妙な企みをしてるってんなら……俺たちがぶっ潰してやるさ」
グレンは肩を鳴らし、気合を入れる。
レイは少しだけ緊張した面持ちで、皆を見渡し、小さく頷いた。
そのとき。
「……待って」
背後から声がかかる。
振り返ると、イザベルが城門の前まで歩み寄ってきていた。
その後ろには、数名の騎士団員たちが控えている。
「最後にもう一度、言わせて」
イザベルは微笑みながら、四人に視線を向けた。
「くれぐれも無茶はしないこと。……戻ってくるまでが“任務”よ」
「はい」
アシュランは軽く会釈し、微笑み返す。
「必ず」
レオンハルトが短く応じた。
「まかせときな。俺たちはしぶといからな」
グレンは笑って手を挙げた。
「行ってまいります」
レイも深く頭を下げる。
イザベルはそっと手を振り、四人の背を見送った。
***
王都郊外・街道
馬を駆りながら、朝陽に照らされる道を進む四人。
その先には、森深きエルフの国。
かつて六種族が争った戦乱の地であり、今再び波乱の兆しが灯りつつある場所。
ふと、レオンハルトが馬上で懐から指輪を取り出し、指先で転がすように眺めた。
淡く輝く黄玉。
その小さな光に、彼は短く呟いた。
「絆か……」
彼はそう言って、指輪をそっと指にはめた。
その表情は変わらないが、どこか、ほんの少しだけ柔らかく見えた。
隣で、それを見たグレンもニヤリと笑う。
「お前が絆とか語る日が来るとはな」
そして、自分の指輪を見下ろす。
「……ま、悪くない」
短く呟くと、指輪をくるりと指に回し、拳を握った。
その後ろでは、アシュランとレイも、同じ指輪を見つめていた。
四人を繋ぐ小さな光が、朝陽の中で、確かに淡く輝いていた。




