表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/36

第二章 第六節 響く悪夢

王都アルディナスは月の光に包まれていた。


城壁の外では、街の明かりも消え、ただ遠く風が石畳を撫でる音だけが響く。

そんな夜半、王城の一角にある客間──そこに、かすかなうなり声が漏れていた。


「……っ、は……」


アシュランは、寝台の上で額に汗を浮かべ、身じろぎしていた。


夢の中で、何かを見ていた。

無数の断末魔が、赤黒い残滓となって広がっていくのが見えた。

無慈悲な斬撃、無数の命の消失、英雄の首が、宙を舞う光景。


そして、封印が──砕け散る音。


「──っ、あああッ!!」


彼は荒く息をつき、目を見開いた。


同時刻──


別の部屋。


「……っ、はぁ……はぁ……」


レイもまた、寝台の上で目を覚ましていた。

胸元に手をあて、乱れる息を整えようと必死だった。


「これって……」


彼女の蒼い瞳には、恐怖と、得体の知れない焦燥が映っている。


「……アシュランさん」


彼女は寝間着のまま、部屋を飛び出した。


***


廊下の先、足音が二つ。


「……レイ?」


「アシュランさん!」


二人は、ほとんど同時に互いの名を呼んだ。


「……感じたか?」


アシュランが問いかけると、レイは小さく頷いた。

その顔色は青白く、額にはまだ汗がにじんでいる。


「嫌な気配が……胸が潰れそうなくらいの……」

「……ああ。俺もだ」


アシュランは、壁にもたれかかるようにして息を整えながら言った。


「さっきまで……まるで自分が、あの場にいるみたいだった」


「…… 無数の命の消失と……封印が砕ける光景……」


レイの呟きに、アシュランはゆっくりと頷く。


「間違いない。これは、俺たちが感じ取った“現実”だ」


二人の感応者の力は、ただの夢などではあり得ない。

世界の“傷”が、彼らにその痛みを知らせている。


「……すぐに、母上に伝えよう!」


アシュランは即座に踵を返し、2人は駆け出した。


感応者の力が告げている。

封印が破られた。


そして、それは――


新たな戦乱の幕開けに過ぎない。


***


王城アルディナス・女王寝室前


静まり返った深夜の回廊。

月明かりが差し込む中、王城の警備兵たちは沈黙のまま立ち、女王の私室前を固く守っていた。


そのとき、足音が駆け寄る。


「……アシュラン様!? それにレイ様まで……」


二人の気配を察知した兵士が目を見開き、慌てて姿勢を正す。


「異常事態だ。すぐに通せ」

アシュランの低い声と、レイの不安げな表情。


兵士たちは互いに一瞬目を交わすと、即座に道を開いた。


「はっ! どうぞ、お通りください!」


アシュランはレイを促し、女王の寝室の扉の前へと立つ。

迷うことなく、扉を強く叩いた。


「母上、起きてください! 緊急事態です!」


その叩きつけるような声に、寝室の奥から微かな物音が聞こえる。


やがて、扉が開いた。


「アシュラン……? こんな夜中に……何かあったの?」


その瞬間、イザベルの瞳が鋭く細められる。

2人の様子から、ただ事ではないと直感が働いたのだ。


「中へ入りなさい」


扉を開け放ち、二人を寝室へ招き入れる。

イザベルはすぐに扉を閉め、警備の兵士たちに向かって静かに指示した。


「この間、誰も入れるな」


「はっ!」


そして、改めてアシュランたちに向き直る。


「それで……何があったの?」


その瞬間──


「あ……」


イザベルの視線が、レイの方で止まる。


「レイ。あなた……その格好……」


レイはきょとんとした後、自分の姿に気づいた。


「……えっ!? 」


薄手の寝間着姿。

急いで部屋を飛び出したせいで、そのまま来てしまったのだった。


「きゃ、きゃああああ!!」


レイはとっさに両腕で胸元と裾を押さえ、真っ赤な顔でアシュランの後ろに隠れる。


「い、いけません! 見ないでくださいっ!!」


「お、おい、俺のせいか!?」


アシュランは慌てて視線を逸らし、後ろ手に回る。


イザベルはため息をつき、微かに微笑んだ。


「落ち着いて。ほら、これを」


そう言って、自分が羽織っていた薄い外套をレイの肩に掛けてやる。


「これで少しは隠れるわ」


「す、すみません……」


レイは顔を真っ赤にしながら外套をぎゅっと掴み、アシュランから距離を取った。


イザベルはもう一度ため息をつきながら、椅子に腰を下ろす。


「さて、落ち着いたところで。改めて……何が起きたの?」


アシュランは一度深呼吸し、真剣な眼差しでイザベルを見据えた。


「先ほど、私とレイ……二人同時に“感応”しました」


「封印が……砕ける感覚。そして、夥しい命が消える気配」

レイも静かに続ける。


イザベルの瞳が鋭くなる。


「……場所は?」


「ヴォルカニアの封印です。間違いありません」


「……また、封印が」


イザベルは静かに目を伏せる。

その表情には、女王としての覚悟と、母としての憂いが滲んでいた。


「わかったわ。詳細はすぐにまとめて。すぐに六種族の大使たちにも知らせる必要があるわ」


そして、少しだけ柔らかな声で付け加えた。


「それにしても……レイ。次は寝巻きのまま駆け出さないようにね」


「~~っ! そこはもう忘れてください……!」


レイは羽織に顔を埋めるようにして俯いた。


そんな彼女を、イザベルもアシュランも、どこか微笑ましげに見守っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ