人生とはスイッチの連続である。
夜、夏の下。僕は頭を抱えていた。
「卯月をずっと泊まらせられるかな...」
そう、卯月を守るにあたっていくつかの問題があるのだ。
今日も許可をとって一応泊めさせてもらえることになった。でも、毎日とは行かないだろう。うちの家も裕福じゃないから、無償で衣食住を提供するにも限度があるだろうし、ずっと泊めさせて居たら家族にも不審がられるだろう。
それに、夏休みが終わったらどうする?卯月はそもそも学校に行けているのか?もし行くとなっても、制服も文房具も教科書もない。そうなると、必然的に家にずっといることになるだろう。
頭の中でシャボン玉のように浮かび上がる問題に頭が痛くなる。
...少し待てよ。もっと大きな問題がないか?
そうだ!ポスター!あれがもし家族に見つかったら大問題だ...。
明日は母も父も仕事に行く。その途中でポスターを見られたりなんてしたら...。
まずい。
今日の夜にポスターを剥がすしかない。
僕はそう決心した。
***
「...」
家族全員が眠り、卯月が当たり前のように僕の隣で寝ている所をするりと抜けて、外へ出た。
「ポスター貼られすぎだろ。」
散歩中に見つけたポスターの場所へ行くと、辺り一帯にポスターが貼られていた。散歩の時には気づかなかったが、大量に貼られていたらしい。
コンビニで買い物をした時に付いてきたポリ袋を手に、ポスターを剥がして行った。
「はぁ。こんな夏の日に、俺は何してんだろ。」
「何してるの?」
隣から聞こえてくる、冷たい声に思わず目を見開く。声のする方をフッ、と振り向くと、そこには。
卯月ではない女性がいた。
いや、正確には卯月なのだろう。ただし、卯月 七時ではない。
「貴方は誰?」
「ぼ、僕は、この地域のボランティア団体に属しておりまして、こういった無許可で貼られたポスターを剥がしたりしているんです。」
咄嗟に思いついた言い訳を並べる。
「そのポスターを書いたのは私です。」
推測はあっていたようだ。この人は、こいつは卯月。卯月 七時の母親だ。
「あぁ、そうなんですか。こういった物を貼る時は、しっかりと許可証を提出してください。」
「...ちっ。」
確実に苛立ちを覚えている卯月の母親に警戒しながら、僕はそれっぽい言葉を並べて逃げようとする。
「とりあえず、今回は厳重注意という事で。次回からは科料をとる場合もあるので気をつけてください。」
「...分かりました。」
睨みながらそう言われる。
「...それでは。」
「...クソが。」
その場から、一歩一歩と歩みを進め、段々と速度を早めて行った。
後ろから刃物で刺されないかが心配であったが、刺されるのは冷たい視線のみであった。不幸中の幸いと言うやつだ。
今日は家に帰って寝よう。