ターニングポイント:油断大敵
書きたいシーンが幾つかあるので、それを書ききるまでこの作品は終わりません。裏を返せば、書ききったらすぐ終わります。
母はご飯中ずっとニマニマしながらこちらを見ていた。姉は恥ずかしがっていた。
その僕にとっては地獄とも言ってもいい食事の時間も終わり、寝る準備が整った僕らは寝ようとしていた。
だがしかし、問題が発生していた。
ベッドがひとつしかない。
最初は僕が床で寝て、卯月をベッドで寝させようと思っていたが、卯月が頑なに断る為、どうするべきか悩んでいた。
「一緒にねよ?」
「いやぁーそのなぁ〜。」
別に卯月と寝たくない訳では無い。ただ、思春期の男子としてどこか抵抗感があったのだ。
「君も女の子なんだから簡単に男と寝るとか言っちゃダメ。」
「でも、貴方だったら...いいよ?」
ここでひとつ言っておこう。僕達は寝る場所を決めているだけであって、思春期の間違いを起こそうとしている訳では無い。
やっぱり、どこか嫌だ。だが、上目遣いでそう言われると僕の心にもくるものがある。
「お願い?」
卯月は僕の体の横に手を置き、顔を迫らして来る。
一体どこでこんな事を学んだんだ。
「お願い?」
「よし寝よう。」
これは僕は悪くないと思う。誰だって断れるわけが無い。無理。不可能。
***
子鳥のさえずりが外に響く。時刻は六時四十分。
目を覚ました僕は、体の右側に違和感があった。
横を見ると卯月が僕を抱き枕のようにして寝ていた。
普通だったら静かに振りほどきたいところであるが、それは出来なかった。
僕の服は濡れて、卯月の目は腫れていたのだ。恐らく、泣いていたんだろう。
僕はその姿を見て、振りほどくなんてことは出来なかった。
数十分経った頃、卯月が目を覚ました。なんと、その時刻は七時ピッタリ。体内時計の精度がずば抜けているんだろう。
「おはよう。」
「おはよぅ。」
卯月は片手で目を擦りながらそういった。
「あれ...」
「ん?」
「き、きゃあ!」
突然悲鳴を上げる卯月に動揺する。
「どうした!?」
「ご、ごめんね!抱きついてた!」
「あ、なんだその事か。全然いいよ。」
「そんな軽くあしらっていいの...?」
一瞬虫でも湧いたのかと思った。
「さ、着替えて朝ごはん食べて、散歩に行こう。」
「うん!」
卯月はニッコリ微笑んだ。なんと可愛らしいんだろう。守りたい、この笑顔。
***
「やっぱり暑いね。貴方は暑いの苦手?」
「うーん。どちらかと言えば苦手かな。」
散歩をしながらそんな話をしていた。
「貴方はこんなに優しくて面白いのに、友達が居ないの?」
「中々攻めた質問をするね。」
「嫌なら答えなくてもいいよ?」
「...じゃあ、辞めさせてもらうよ。」
「...ねぇ、さっきから視線を感じるんだけどさ。なんでだと思う?」
「分かんない。貴方がカッコイイんじゃないの?」
「馬鹿にしてる?」
「全く?」
そんな事を真剣に言われても返答に困るんだが...
「お散歩楽しいね。」
「そうだね。」
他愛もない話をしていると、目の前の信号が赤に染った。
蝉の声が響いて、夏の生暖かい風が肌を撫でた。
ふと卯月に目をやると、楽しそうな顔をしていたので少し心が温まる。
それも束の間。一瞬にして僕の体は冷えきった。
あまりの驚きに声が漏れる。
「あ...」
「どうしたの?」
僕の目には今、二人の卯月が映っていた。
僕の事を見上げて微笑む卯月と、笑っているかすら分からない表情でこちらを見つめる卯月。
近くにあった電柱には、力強い手書きの文字で書かれた『迷子の娘を探しています』というメッセージと、電話番号、卯月の写真が載せられているポスターがはられていた。
ガムテープで大雑把に貼ってあった。
あまりの衝撃に意識が遠のいていく。
さっきの視線はこれが原因なのか……
完全に、油断していた。こんなものを勝手に貼れば警察沙汰になって、虐待で逮捕される可能性があるはずだ。常識を持っていればそんな事は考えればすぐわかるだろう。
ただ、相手は常識を持っていないらしい。
「ねぇ、なんか様子が変だよ?」
僕の事を見上げている卯月がそう言った。
遠のいていた意識を取り戻し、冷静になる。
卯月の目にもしポスターが入ったらパニックになる事間違いなしだろう。怯えている卯月を見るのは懲り懲りだ。
僕は卯月にこの事を悟らせては行けない。
とりあえず、今は家に急いで帰るしかない。
「ごめん、少し体調が良くないから家に帰っていいかい?」
「確かに、顔色良くないね。早く帰ろ?」
「ごめんね?」
「いいよ、私がわがまま聞いて貰ってる立場だから。」
卯月には申し訳ないがここは一旦家に帰る他、方法は無い。
***
あの後、何事もなく無事に家に戻れた。帰る時、周りの視線が痛かったが。
「体調良くなった?」
「うん。」
自室で卯月と2人。今年の夏は、僕の人生で一番波乱かもしれない。
もしかしたら今後IFルートを書くことがあるかもしれません。