決意
本編開始です。
「「……」」
沈黙に耐えきれなくなった僕は、口を開いた。
「さっきの、そんなに嫌だった?」
「…いや、そんなことは無い。」
卯月に嘘をついている様子はなかった。本当に嫌じゃなかったんだろう。だとしたら……
虐待。卯月は、まともな教育も生活も、与えられてないんだ。だからこんなに痩せてて、力が弱くて、トランプも知らなくて。
「…君が死のうとしていた理由って、親から…」
僕が言葉を言い終わる前に、卯月は僕の口を手のひらで塞いだ。
「それ以上は…だめ。」
心臓の鼓動が早くなり、冷たい汗が流れる。
本当はここで卯月の手を払いのけて、無理やりにでも本当のことを聞くべきなんだろう。
ただ、卯月の顔を見て、僕にそんな事を言う度胸はなかった。
卯月の顔は、悲しそうで、寂しそうで、嫌そうだった。中学二年生の女の子が、していい顔ではなかった。
卯月は僕の口から手を離してこういった。
「…………今日は、ここに泊まらせて?」
「……分かった。」
きっと普段の僕なら、戸惑って、「は?」と言って悪態をついただろう。でも、今は言えない。
卯月の事を、知ってしまったから。
ブカブカの服の襟から、鎖骨についている痣を見てしまったから。
「…トイレに行ってくる。」
「待ってるね。」
僕はそう言って、部屋を出た。階段を降り、一階のトイレのドアを開けて、便座に座り込んだ。
そうすると、僕は言葉では表せない感情に襲われた。
怖い。悲しい。可哀想。卯月の気持ちを考えて、そんな気持ちになった。ぐちゃぐちゃの、スクランブルエッグみたいに。
姉に相談する?警察に通報する?何が正解なんだ?どうすればいいんだ?そもそも、中学生の僕に、何ができるって言うんだ?
…あぁ!通報しよう!そうだ、最初からそうするべきだったんだ!
自殺を助けることが僕にできても、その後の支援なんてできるわけがないんだ!
卯月が自殺しようとした理由は虐待だろうし、児童相談所とかで保護してもらえばいいじゃないか!
そう思いきって僕はスマートフォンを取りだして、児童相談所、と調べようとした。その時、サジェストには、児童相談所の悪評がズラリと並んでいた。
「……落ち着け。冷静になれ。」
そう言って、僕は深呼吸した。
僕が卯月の気持ちを想像して、怖くなって、ボロボロになって、何になるんだ。
卯月をどうやったら、助けられる?
卯月をどうやったら、幸せにさせられる?
卯月をどうやったら、死にたいなんて気持ちにさせられなくなる?
……通報はダメ。児童相談所は、ダメ。
なら、僕しかいない。
僕が、卯月を幸せにするんだ。死なせないんだ。
一緒に過ごすんだ。一緒に生きるんだ。一緒にゲームして、ご飯を食べて、寝て。
卯月に普通の、ごく普通の中学生の生活を送らせるんだ。
卯月に、日常を与えるんだ。
卯月を守るのは、僕しかいないんだ。
自分にそう言って、頬を両手で叩いた。トイレから出て、階段を駆け上がり、卯月が待っている部屋の前に来た。
目を瞑り、もう一度深呼吸をしてからドアを開けた。
「おまたせ。」
僕はそう言って微笑んだ。
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