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第九話 自称天才、他称……天才

 セレンとの模擬戦を経て、自分に足りないものと向き合ったシグルド。

 その成長を後押しする存在として紹介されたのは――



「やぁ、君がこの天才たる僕と行動を共にしたいと願ったファン君だね?」


「いや、俺は――」


「いいや、言わなくてもわかっている! ファンが自ら“はい、そうです”などと名乗るのは無粋というもの! 良いとも、僕の後を追い、才能の落とし物を拾って人生の糧にしてくれたまえ!」


「……なんだこいつ……」


 どこかの舞台からそのまま出てきたようなハイテンションの男。

 話すたびにブロンドの髪を揺らし、身振りも口もやかましい。

 そんな彼を前に、シグルドは目に見えて疲弊した表情を浮かべていた。



「ちょっといいかな、アルフォンスくん」


「ん? えぇ、もちろんですとも、隊長!」


「ありがとう。彼はアルフォンス。戦闘員の一人で、旧都探索隊のメンバーだよ」


「旧都探索隊?」


「ヴァルハラの下層、闇に包まれた旧い都市を調査している実働部隊のことだよ」


 セレンが会話の主導権を握ると、さっきまでの騒がしさが嘘のようにアルフォンスは静かになった。

 ……とはいえ、腕を組みながら「うんうん」と頷き続ける様子は、視界的にはやかましいままだった。



「彼は自称通り“天才”だよ。もしかしたら、私より強いかもしれないね」


「ご謙遜を、隊長。確かに僕は天才であり、腕にも自信はありますが……それは隊長との相性の問題かと」


「まぁ、そうかもしれないね。でもこの子に足りないものを、一番体現しているのは君だと思ってさ」


「ふむ……彼に足りないもの、か。顔は僕には及ばないが整っている方、体つきも僕には敵わないが一般人としては上出来……」


(……褒めてる、のか?)


 顎に手を当て、まるで美術品を鑑賞するかのようにシグルドを見つめるアルフォンス。


 内容的には評価されているはずなのに、あまりありがたみを感じられないのは、その一言一言ににじみ出るナルシズムのせいだった。



「まぁ、“習うより慣れよ”って言うしね。とりあえず彼を連れて仕事してもらいたいんだ。天才の君なら、新米が一人ついたくらいで問題ないだろう?」


「えぇ、それは当然!」


「……あの、それは別にいいんだけど、一つだけ言わせてくれ」


「ん? どうかした?」


「仕事するにしても、まずはあいつらに一言伝えておきたい。黙っていなくなったら、心配かけるだろうし」


 自分を置いて勝手に話が進んでいくことに、多少思うところはあった。


 だが、口を挟んでも面倒が増えるだけだと察し、大人しく様子を見ていたシグルドは、タイミングを見計らってそう切り出す。



「ああ、確かに。挨拶は大事だからね。行ってくるといいよ。アルフォンスくんも、それでいいかな?」


「もちろん! 天才たる僕は常に余裕ある行動を心がけている……いやしかし、これほどの才を一時とはいえ遊ばせておくのは世界にとって損失……というわけで君、ゆっくりと急ぎたまえ!」


「……はぁ」


 アルフォンスのテンションは相変わらずだったが、セレンは苦笑しつつ軽く手を振る。



「まぁ、彼の言葉はあまり気にしなくていいよ。じゃあ、待ち合わせはヴァルハラ側の門で。私はこれで失礼するよ。……アルフォンスくんもね」


「ではファン君! また会おう!」


 セレンがアルフォンスを連れて立ち去ると、ようやく場の空気が静まった。


 これからこの“濃すぎる男”と行動を共にすると思うと、軽く眩暈を覚えたが――なるようにしかならない。


 シグルドは深く息を吐くと、痛みが和らぎつつある身体をゆっくりと起こし、置かれていた衣服に袖を通した。


 剣を背負い、仲間たちの元へ向かって歩き出す。



ーーーーーーーーーー



「おや、あんたは……シグルドって人の連れの……?」


「ぴぇ……ぁ、その、はいっ! シルラって言います、えっと……デシルさん、でしたっけ?」


「そうっすよ。ここで何してるんすか?」


 場面は居住区へと移る。保護施設の前、デシルがシルラを見つけて声をかけていた。



「あ、えっと……私、今日からここの子どもたちのお世話をさせてもらうことになって……」


 ここは地上で生まれた子供たちの保護・育成を目的とした施設だ。



「あー……なるほど、っすね」


「それで……お水とお酒が作れるって言ったら、消毒液にできるーって喜ばれて……だから、デシルさんたちの役にも立てたらいいなって……」


「……そっすか。助かるっす」


「ぴぇ……ぁう……」


 献身的な言葉と態度に、デシルはどこか妹を重ねるような眼差しで、そっとシルラの頭に手を置いた。



「わー! デシルにいちゃん浮気してるー!」


「フィオねーちゃんが飛んでくるぞー!」


「いや別にフィオとはそういう関係じゃ——って、お前らやめろ!」


 その様子を遠巻きに見ていた子どもたちが、わいわいと冷やかしを始める。


 どうやら、守備隊の仲間として行動を共にすることの多いフィオとの仲を、子どもたちにしょっちゅうからかわれているらしい。



「デーシールー……! な〜に触ってるんだァ!!」


「ごふっ!?」


「ぴぇっ!?」


 まさに“噂をすれば”の通り、フィオレッタが飛び出してきて、デシルのこめかみに渾身の飛び膝蹴りが突き刺さる。


 デシルの体が派手に吹き飛び、三メートルほど転がった。



「私の天魔ちゃんにっ、あろうことか私より先に触るなんて許せないッ!」


「ぴ、ぴぇぇ……?」


「いや、そっちかい……っす……」


「いやぁ〜ごめんね、天魔ちゃん。お話したいな〜って探してたら、この色情魔が君を拐かそうとしてるのが見えちゃってねぇ? つい反射的に……怖い思いさせちゃって、ごめんね?」


「フィオにだけは言われたくねぇっす……」


「あ、あはは……もしかして、仲の良い人って、みんなこうなの……かな」


 ボロボロになったデシルと、まったく悪びれた様子もなくニコニコと微笑むフィオレッタ。


 どう見てもケンカしてるようなのに、どこか信頼が透けて見えるやり取りは、どこかシグルドとヒルダを思い出させるものがあった。



「それでぇ、子供たちのお世話係になったんだね。ここの子たちはね〜、もうほんと、マセガキばっかりで大変なんだよ〜?」


「ねんからねんじゅーてんまぞくにはつじょーしてるしきじょーまにいわれたくねー!」


「こらっ、そんな言葉使っちゃダメっすよ! フィオみたいになっちゃうっす!」


「……どういうことかな、デシルくん?」


 子どもたちを巻き込んだ小競り合いに、シルラはただ苦笑するしかなかった。


 フィオレッタは、子供たちを手でしっしと払いながら、スッとシルラの隣に寄ってくる。



「で・も・ね〜? シルラちゃんに……ちょっとだけ、お願いがあるんだ〜」


「ぴ、ぴぇ……な、なんでしょう……」


「角、触らせてほしい――――!」


 その願望が最後まで言葉として形になる前に――。


 遠く、廃棄場の方から突如として歓声が上がり、その声をかき消す。



「ん、何だろ」


「あの、あっちの方って……?」


「廃棄場っすね。ゴミ捨て場とか、昨日俺とフィオが倒した機械をバラして使えそうな部品をリサイクルする施設っす。……何か良いもんでも出たんすかね」


「機械……」


「行ってみるっすか? 子どもたちへの土産話にもなるし、おもちゃに使えそうなもんがあるかも」


「……その、はい! 行ってみたいです!」


 ざわざわと広がる歓声は、事件の気配こそないが、明らかに注目と興奮を集めているものだった。

 気になったシルラは、デシルと一緒にその場の様子を見に行くことにした。



「ぁ……角、触りたかった……」


「よこしまな気持ち持ってるからだぜ、フィオねーちゃん」


「うるさいぃ……」



ーーーーーーーーーー



「あんた、すげぇな……これ、どうやったんだ?」


「……えーっと、それはー……き、気合い……とか?」


「パーツひとつひとつが綺麗にバラされてやがる……こいつは職人、いや、神業だ……!」


「いやー……確かに私は神がかり的に可愛いけどー……」


 騒ぎの中心にいたのは、ヒルダだった。周囲にはバラバラになった機械の残骸。


 当人は視線を泳がせ、バツの悪そうな表情を浮かべている。そこへセレン、シグルド、そしてシルラも様子を見にやって来た。



「おや、君は……」


「ヒルダ? ……なんだお前、また何かやらかしたのか?」


「ちょっと!? “また”って何よ、失礼しちゃうわね。……いや、まぁ……何もしてないってわけじゃないけど……」


 シグルドに突っ込まれ、思わず食いつくヒルダ。だが語尾になるにつれ尻すぼみになり、最終的には指先をつつき合わせて目を逸らした。



「これは、君がやったのかな?」


「……それは、まぁ……一応」


「どうやったのかな?」


「……い、言わなきゃ……ダメ、です?」


 セレンの静かな圧に押され、明らかに居心地が悪そうなヒルダ。背中がじわじわと縮こまっていき、とうとう顔まで青くなりはじめる。



「あ、あの……じゃあ、その……壊れてもいいもの……とか」


「おーい、誰かジャンク品持ってきてー」


「あと、エーテルを少し……使い切ったカートリッジに残ってるやつでも……」


「さっきシグルドくんと戦った時のが余ってるよ。よいしょっと、はい、どうぞ」


 おずおずと必要なものを口にすると、驚くほどスムーズに全てが揃ってしまった。


 観念したようにヒルダは息を吐き、用意されたジャンク品に液状のエーテルを垂らす。

 そして、その金属片にそっと手のひらを重ねた。



「――“戻れ”」



「!?」


「これは……っ」


 静かな呟きと同時に、ジャンク品を構成していたパーツのすべてが微細な振動を始める。


 やがてそれらは、まるで互いに結びついていたことすら拒絶するように、鋭く、正確に、バラバラへと解体されていく。


 部品は一つ残らず分解され、それぞれが規則的な動きで地面に散らばっていった。



「これは……ちょっと、話を聞く必要がありそうだね」



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