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物語tips:獣人
ヒトを上回る巨体の獣人。黒い短い体毛に覆われ顔は小さな犬のような尖った鼻と細い耳が特徴。テウヘルの社会は知識階級と労働階級に分かれ、見た目は同じだが労働階級は“犬”程度の知識しか持ち合わせていない。唯一大陸の東部の8つの都市に分かれ総勢100億の人口があった。
500年前の第1次テウヘル戦役の敵。戦役の末期、侵食弾頭で8つの都市が焼き払われた。侵攻中のテウヘルもすべて殺処分された。
ヒトと違う文化を築きつつ、先祖が戦ったブレーメンに敬意を払う風潮があった。高い技術は戦後 侵攻した国家の先祖に引き継がれた。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。朝日がまぶた越しに伝わってきて眩しい。黒い砂のベッドにも慣れてしまい、起き上がるのが億劫になった。
アーシャはもう起きていて、逆光の中で彫像のように美しいプロポーションを見せてくれた。逆光の中でアーシャの影がぐんぐんと迫る。
「ソラ、やっと起きたんだね」藍い虹彩の模様まではっきり見える。「もう、お寝坊さん。私がこうして起こしてあげないと起きないんだから」
起きてるからっ──長々しい接吻のせいで反論できない。
「さぁ、来て。今日はワング=ジャイを案内してあげる。私のふるさとだよ」
なかば無理やり、腕を引っ張られ立たされた。ソラが靴の紐を結んでいる間もせっついてくる。アーシャのうきうきステップにくっついて歩く。周囲の建物は白くふわふわした素材で覆われている。その表面が膨らみ浮かび上がり、そして空へ浮かんで雲になった。
ソラはぼんやりと見上げながら、
「この街は雲でできているの?」
「ウフフ♪ おかしなソラ。これは見ての通りマシュマロだよ」
おもむろにアーシャは壁の一部をちぎって口に頬張ってみせた。ぷっくりと頬が膨らみ何度か噛んで飲み込んだ。マシュマロの壁も、削げた部分はいつの間にか元通りに戻った。
食べてみて、とアーシャがソラの口にマシュマロを詰め込んだ。植木鉢を引きちぎったものだ。
味は、感じなかった。それどころか柔らかいのにガラスのようにつるつるいていて生暖かった。
本当にマシュマロなのか──口にマシュマロが詰まっているせいで声が出せない。
「ソラは、私達とは違う。生き物かどうかも怪しい。もしかしたら食事もいらないのかもね」
今一番気にしていることなのに。
口に詰まったマシュマロは、次第に体積が膨らみ口や鼻や目を覆った。呼吸も出きないし音も聞こえない。酸欠で頭がチカチカする。
「ソラ。ねぇ聞いて。私だけが頼りよ。私を頼りなさい。いいわね」
「ソラ? むぅ、大丈夫? 汗がすごい」
動悸が激しい。自分の心臓が鳴る音が聞こえる。息ができないせいで頭も痛い。ぐるりと見渡すと、自分の鼻から下を覆う緑色の軟体生物がいた。
それをひょいとつまみ上げる。くりくりとした黒い2つの点と目があった。
「どうしてポポが僕の口の中に。食べた覚えはないよ」
「口を開けて寝てたからじゃない? ポポもソラが好きだって」
ポポを放してやると、ずりずりと体を引きずってアーシャの背中をよじ登った。
寝起きの頭が次第に回転し始める。黒い砂と青い空、その境界に朝日が登っていた。今日は夜の移動じゃない。
「いよいよワング=ジャイに到着したね」
「うん。間に合ってよかった」
水と食料はすでに無くなり、アーシャは少しだけ元気がなかった。目の下にうっすらとくまを作っている。昨日の晩はあまり眠れなかったらしい。
ワング=ジャイは、小高い丘の上にあった。このあたりは硬い地面の台地にあって砂漠に浮かぶ島のようだった。それでも地面の色は濃い黒色だった。
目を凝らすと、ブレーメンらしい視力で遠くまで見通せた。街の周囲は、ゴミ山と背の低い小屋がひしめいていた。黒い地面に錆びたトタン屋根がぎっしりと並ぶスラム街があった。そのスラム街はグラデーションのように背の低い家々に変わっていき、街の中心部、一番標高の高い地点には尖塔が輝いていた。
「今日は変身なし。歩いていく。むぅ、さすがに獣人化したら軍警察に見つかる。国家親衛隊だったらもっと面倒。ソラは、そのマントを着て、なるべく肌を出さないで」
「わかった」
ソラは弾帯を装着し、自動小銃と予備の弾薬を詰めた。背中側にはニケ翁の剣が2振り下がっている。武器を隠すのにちょうどいい。いざというときはヒトを斬る。覚悟はできていた。
太陽が頭上にのぼりジリジリと熱くなるころにはバラックの並ぶスラム街へたどり着いていた。歩きやすい大きい通りを選んだが、環境は劣悪だった。
道の中心には溝が掘られどろっとした汚水が流れている。人口は過密気味で、それでも働き手の男たちの姿はなく、老人と子供を抱えた女たちが暗い戸口に座っている。裸足で半裸の子どもたちは汚水を跳ね上げ、あちこち走り回っている。地面もよく見たら金属片やゴミが散乱しているが誰も気にしていない。
ソラは、体を隠すために顔を布で覆った。それ以上に、何かの腐った臭いと酸化した機械油の臭い、そして錆びた臭いのホコリがが乾いた空気といっしょに舞っている。
そして──わかっていたことだが、全員がアーシャと同じ藍色の肌だった。多少の濃淡の違いは日焼け跡だろうか。瞳も濃い紺色で、本当に別世界へ来てしまったかのようで落ち着かない。
女衆が軒先の大鍋で煮炊きをしていた。手作りの粗雑な釜には石炭がくべられ、真っ黒い煙が立ち上る。しかしそれに臆することなく小舟の櫂のような木べらで茶色く淀んだ液体をかき混ぜている。その水面に見え隠れするのは、光沢ある節足動物だった。
「あれ、僕にはエビに見えないんだけど」
しかしアーシャは前を見て歩きながら返事をしない。しばらくあとで、
「虫もエビも、同じ生き物だって理科の先生が言っていた」
「何の話?」
「むぅ、言っていなかったけど、普通の人はあれを食べるの」
「……虫を?」
「食用昆虫。兵士ならもっと栄養のあるものが食べられる。栄養のある、何から作ったか わからないブロック状の、食べ物を。お金持ちの人たちなら、たぶん、連邦と変わらない」
「でも」
「ソラ、あまりジロジロ見ないほうがいい。ここのヒトたち、よそ者をすごく警戒する。人攫いとか借金取りとか。襲われてもわたし、打ち返せるけど、あまり荒事、よくない。貧しいけど悪い人たちじゃない」
アーシャが押し黙っているのはそれが理由だったのか。そう言われてみればたしかに、周囲の視線が集まっている。こちらが顔を向けると、見ていませんよというふうに顔をそむけてしまう。背の高い美人とフードを被った怪しい姿じゃ、しょうがないか。
どこもかしこもサビと汚水とゴミだらけだったが、小屋の入り口には植木鉢が梁からぶら下がっていた。栄養価の高そうな柔らかい土に、しかし生えているのは観賞植物や花ではなく豆類やハーブだった。
“壁”を越えて土を持って変える。それが軍の責務だとアーシャが言っていたのを思い出す。
「みんな、植物をぶら下げて育てているね」
「むぅ、そう。黒い砂に触れると植物が育たない。だから地面から離して育ててる」アーシャはバラックの屋根を指さして、「あの大きい桶で雨水を集めて、飲んだり植物に水をやったりする。きれいじゃないけど、あれだけが飲める水。地面の水はどんなに深い井戸でも汚染されていて飲めない。わたし達でも飲んだら死ぬ」
スラム街を抜けてロータリーに出た。そのせいかアーシャも少しだけ表情が緩んでよく話してくれた。ロータリーは、3車線ほどの幅があり、黒煙を上げて走る車やピックアップトラックが反時計回りにぐるぐると回ってそれぞれの行先へ左折していく。街の外環道路といったところだろうが、あまり交通量は多くない。ロータリーの中央にはセメント製の像があるが、酸性雨のせいで溶けてしまい何の像だったかまでは判別できない。
「僕が初めてアーシャに会ったとき、覚えてる? 国家の人々を助けてほしい、って。僕、ごめん、あのときはきちんと理解していなかったみたいだ。なんとなく、悪い政治家がいて沢山の人が苦しめられている。そんな程度だと思ってた。だけどこうもひどいなんて」
「ありがとう、ソラ。優しいブレーメン。まだ約束を覚えていてくれたんだ」
アーシャはぬいぐるみのようにソラを抱き寄せたが、ソラは搦手から抜け出した。
「それで、ここからアーシャのうちに行くんだよね」
道は丘と並行して走り、2階建てのレンガ造りの建物がばらばらと建っている。道路脇はゴミが山積みだったが、それでもスラムと違って自動車が路上駐車され道にはバスも走っている。数世代前の博物館で見るような自動車ばかりだったが、凸凹の舗装路を左右に揺れながら走っている。
「バスのほうがいいけど、お金が無い。もう1日歩くかも。ソラ、大丈夫?」
「僕は大丈夫。この体、思ったより丈夫みたいだし。でもアーシャのほうが心配」
「むぅ、ソラの美味しそうな匂いを嗅いだら元気が出るかも」
拒否──するわけにもいかず、アーシャのしたいように任せた。すらっと長い腕が体にまとわりついて歩きにくい。ポポまでが、平たく伸びて首周りに張り付いた。本当に食べられているかもしれない。
空腹は感じるし喉も乾いた。足も疲れた。それでも2振りの剣に触れると気力が湧いて足取りが軽くなる。作られた体と言っても本当にブレーメンを模倣している。
ここにいる人達は連邦側に移住できないだろうか。あちこち砂漠化が進んでいるが。土地はあるし住む家は建てればいい。
「でも、アーシャが言っていた国家のアイデンティティという意味がだんだんわかってきた。同じヒトだったけどもうヒトじゃない。違うアイデンティティだ。もう違う種族になってる。肌の色も、文化も食べ物も。連邦が受け入れるかどうか以前に、ここの人たちは連邦といっしょにはなりたがっていないのかも」
ふと皇の娘のカミュを思い出した。彼女はこの事実を知らされているのだろうか。優しそうだったけど、この人たちにも優しさを分けてあげられるのか。
街の中心街とその外は区別されているようで、古い巨石を積み上げた壁がありアーチの下を自動車が走っている。そのアーチの根本に警察のような制服姿の男が2人いた。タバコに火をつけゲラゲラとなにか話している。道の反対側から警察の様子を目の横でチラ見しながら堂々と歩く。
「常識的に考えて、という言い方は失礼かもしれないけど、僕の格好、すごい怪しい」
「むぅ、そうだね」
「普通、職質するよね。警察だったら」
アーシャはしばらく考え込んで、言葉を探しながら口を開いた。
「不真面目だから」
「でも、警察でしょ」
「むぅ、アレンブルグに行ってびっくりした。みんな仕事をしてた。真面目に。警察も道路清掃員も。仕事は、みんな嫌い。真面目にするものじゃない。だから仕事をするふうに上手に手を抜く」
「その、それがアーシャの言う『ワング=ジャイに行けば誰にも見つからない』という根拠?」
アーシャはしたり顔で頷いた。たしかに、これは口で言われただけでは理解できない。警察も含め、街のすべてが“ちゃんとしていない”。黒煙を吐く自動車はちゃんと作られていないし修理されていない。ビルの壁は無茶な増築で傾き、配管からは液体が漏れ出ているが、上からコーキング材を塗るだけなのですぐに壊れてしまう。そして道路に沿って頭上を走るケーブルの束が、それが電線であると気づいたのはしばらく後だった。
それでも、このあたりはだいぶ生活にゆとりのある市民たちの街らしい。長屋のように一戸建てがくっついて並んでいる。家の土台は古代ブレーメン時代の石造りで、その上に旧テウヘル時代のコンクリートやレンガ造りの家が建っている。小さなレシプロエンジンの自動車が各家のガレージに収まっている。
「アーシャの家族の家は、このあたり?」
「ううん、もっと先。繁華街の方」
まだ時間がかかるのか──アーシャの足取りが重くなってきた。豊かな住宅地を抜けるとフェンスのない線路があり、やはりここもゴミだらけだった。アーシャは縁石の石に腰を下ろして息を整えている。枯死して化石のように干からびた巨木が頭上にあった。1日の最高気温に達していたが、日陰はまだ過ごしやすかった。
ほんの30分ほどの休憩の間、ソラは周囲を警戒して立ったままだった。しかしやってくるのは資源ゴミを集めるおじいさんと、物乞いの母娘、物乞いの老人、物乞いの若者、ガラクタをリヤカーで引っ張って売るおばあさんだった。
「ね、安全でしょ。危ない人はいない」
「安全だけどさ、でも落ち着かないよ」
線路の少し先には駅があり、100年以上前に作られたであろう列車から肉体労働の男たちが背中を丸めてぞろぞろとホームにあふれ出ていく。
「もう終業の時間?」
太陽はやや傾いているが、まだ昼の真ん中だった。
「うん。30時間労働だから」
「そ、そうなのね」
アーシャが休んでいる間に1度だけ、きれいめな自動車が走り去った。古風だが汚れが無く、車体は磨き上げられていて、神経質そうな運転手と後席には恰幅の良い男がいた。ボロボロの歩道を歩く労働者たちへの視線は、蔑視とかそういうのではなく、道端のゴミと同じように目に入らないようにと努めているようだった。この街に生きていく中で覆せそうにない社会階級があった。
日がかしいだころ、アーシャはすっと立ち上がった。
「むぅ、元気が出た。行こう」
アーシャは水の枯れた水路に沿って歩いた。水路は緻密な石造りで、その堤防はコンクリート製だった。増築されたバラックが柱を水路に立てて建っている。
「ねぇ、今夜中に着くかな」
「無理と思う。変身したらすぐ着くけど、そんなことしたら軍警察が来る。それにお腹が空いてたぶん変身できない」
「じゃあ、今夜どこで休むか考えないと。お金が無いならホテルに泊まるわけにもいかないし」
この数日、野宿続きでしかも昼夜逆転だったので屋根と壁のある部屋で寝たいと思った。それにアーシャも安全なところで休むべきだ。
「むぅ、考えてなかった。じゃあ、こっち来て」
アーシャの背中を追って丘を登る。家々の姿は次第に少なくなり枯死した樹木が亡霊のように立っている。さっきまでは朽ちた舗装路を歩いていたが、すっかり岩の転がる荒れた道だった。しかし人の往来はあるらしく、周囲の荒れ地とは色が違っていた。
夕日が地平線に沈む頃になって、丘の頂上についた。古代ブレーメンの遺跡で、一枚岩の石柱が立っていた。その頂点を見上げると何かのレリーフが刻まれているがその意味はわからない。もしここにアヤカがいたら、よじ登って調べ尽くすんだろうな。
周囲には行き場のない浮浪者ばかりだった。遺跡の由来なんて興味もなくしっかりした床と壁の寝床を探してここまでたどり着いた、という感じ。遠くでは若いギャングが浮浪者に乱暴狼藉を働きなけなしの金品を奪っている。
「わたし達も、襲ってほしい」
「ん、え? 今なんて?」
「悪い人がわたしを襲う。骨を2,3本折って追い返す。悪い人の金を奪う。むふぅ、完璧」
ポポも誇らしげに、アーシャと同じ表情──のように見えた。
「ああいう連中は自分より弱い獲物しか狙わないから、無理だよ」
アーシャが適当な石柱の根本に座り、手招きをした。ソラもその隣に腰掛けようとしたがぐいと引っ張られ、長い脚と脚の間に収まった。背中に丸い乳があたって落ち着かない。
「むぅ、いい匂い。美味しそう」
「すごく、あの、落ち着かないのだけど」
「大丈夫。わたしは落ち着く」
ぬいぐるみのように、アーシャはソラを抱きしめた。
他の浮浪者たちも膝を抱え穴の空いた毛布を体に巻き付けた。夜はどんどん気温が下がっていく。誰一人と話そうとしない。ときどき誰かが咳き込む音が聞こえる。肺ごと吐き出したのでは、というぐらいむせた後で静かになった。
丘から地平線を見渡すと、巨大なクレーターがあった。大きすぎて距離感がつかめない。穴の反対側にも建物の基礎らしい遺構があったが街ではなかった。夕焼けの暗闇に目を凝らすと、クレーターの斜面からは古い時代の地下水道、下水道、地下鉄の穴が見えた。その穴の淵で黒くうごめくのは、浮浪者か地下を根城にする犯罪組織か、そういう影に生きる人達と思った──がそれは黒くうごめく不定形な物体だった。ふいに目が合った気がした。
ぞっとしてすぐ目をそらした。肌が粟立ったまま収まらない。大丈夫、かなり遠くのものを見ていた。何かの見間違えかもしれないが。見間違えであってほしい。
「大丈夫、ソラ?」
「うん、なんでもない。気にしないで」
「このクレーター、500年前の戦争のときのなんだって。戦争に勝つため、連邦は大きい爆弾を使って8つの獣人の都市を焼いたの。8つのうちのひとつがここに落ちたのだけど、ちょっとズレた。だから街がまだ残ってるの。わたし達の先祖がこの街に着いたとき、もうテウヘルはほとんどが死んでいた。でも生きてもいなかった。生き物の形をしていなかった」
さっき見た地下道の不定形のナニカを思い出して身震いした。
「まだその生き物じゃないナニカは、いる?」
「むぅ、それは子供を怖がらせる昔話。でもいるかもね」
「襲われて食べられたり」
「わからない。襲われたヒトもいるかも」
ぞっとしない話だ。クレーター沿いの遺跡群が浮浪者のたまり場というのも、一般人はここに寄り付かないせいか。
500年前、第1次テウヘル戦役のことは、学校の教科書にも載っているし駐屯地の資料室でも見ることができる。ましてや当時の皇とブレーメンの戦士の友情話は何度も映画やドラマになった。知らない人のほうが少ない。
でも“どう”終わったか、は誰も知らない。というより人によって認識が違う。皇の陣頭指揮で勝利した、ブレーメンの貢献、兵士たちの努力──みなバラバラ。軍の資料室でも戦勝の決定打となった新兵器については黒塗りの資料ばかりで判然としない。
カミュやネネなら詳しいことを知っているか。そして憎たらしいルナも。あのしたり顔は、事の真相を全部知ったうえで、だ。
「どんな兵器が使われたんだろう。大きい爆弾、500年で風化してるはずなのにこんな大きいクレーターなんて。“壁”からでもずいぶん離れてるのに、いったいどうやって。ね、こっちではもっと詳しい話、伝わってる?」
「むぅ、ごめん。もう今日は疲れた。寝ていい?」
「そ、そうだね。つい興奮して。おやすみアーシャ」
そう幾ばくもしないうちにアーシャは寝息を立てて眠ってしまった。額をソラの方に乗せているせいで、吐息があたってこそばゆい。
「わたしに頼って、か。夢の中でそんな話をしたっけ。頼りにしているよ、アーシャ」
不審者を近づけないよう、聞き耳を立てたままソラは目を閉じた。