トロイメライにはかなわない
灰色の空から落ちる雨粒が全身を打ち続ける。
歩行者用の信号はようやく赤色に変化した。
信号の光は濡れた地面に映り込み、周囲のコンクリートを赤く染めている。
あぁ、違うな。俺の下にある液体は信号の光で赤くなっているわけじゃない。
生温い液体は身体から熱を奪いながら溢れ広がっていく。
視界は眩む、しかし、聴覚だけはまだはっきり聞こえる。
雑踏の音、物見客達の話し声、スマホのシャッター音、救急車のサイレンの音、あと……
「なん…で、なんでなんでなんでなんで、こうなるんですかッ!」
誰かの悲痛な叫び。
今更気付いた、俺の顔を濡らしているのは天からの雨粒ではなく彼女の瞳からこぼれ落ちた涙だった。
大きな瞳に真っ青な顔が映り込んでいる。
酷い顔だ、元々も人相が悪いと言われていたのに顔についた傷も相まって今はもっと酷い。例えるならゾンビだろう。それも腐敗が進んだ醜いゾンビ。
彼女はそんな俺のそばに力無く座り込み顔をぐずぐずにして泣いている。
手を伸ばしその涙を止めてあげたかったが手を伸ばすどころか指一本動かすことができない。
本当に最後まで格好がつかない。意識が遠のき始めた、「すまない」口が動いてくれたおかげで彼女に謝ることができた。聞こえただろうかサイレンの音に掻き消されたかもしれない。
それを確認する手段は全て暗闇に奪われていた。
意識が暗闇に溶けていく、自分という個の要素が消えていく。
結局、変えられない。
努力など無意味、願いなど無意味、運命は変わることなく。無情にも俺は世界に殺される。
結果が全てだと知っている。運命が全てだと知っている。人間が無力なことも知っている。
傲慢だと罵ってもらっても構わない。嘲笑ってくれてもいい。
それでもいいから……
底のない暗闇に呑まれる最中、声無き声で世界に叫ぶ。
"誰か彼女を救ってくれ"
暗闇に呑まれた彼はもう戻ってこない。
彼の死を嘆いていた彼女は彼の頭を膝に乗せ、溢れ出る赤にスカートが染まるのも気にせず、彼の頭を優しく撫でる。
「ねぇ、湊。私は君が大好きだよ。君のためならね、なんだってできる気がするんだ。だから......私は君と明日を迎えたい。」
彼女の言葉とともに世界が歪み始める。世界はまた、彼女を孤独にしようとしている。
歪む世界、消えかける意識の中で言葉通り最後の力を振り絞り赤が滴る手を伸ばし彼女の頬に触れる。
俺は無理やり笑顔を浮かべる。うまく笑えていたのかはわからない。
「ま...たな、トロイ......メライ」
「ッ!......うん!またね、湊さん」
こうして世界はまた書き換わる。
2024年 5月18日 14時53分
雑踏が鳴り止まない盛岡駅の構内、人の流れから逃げるように待ち合わせをした場所に向かう。
駅の中ですれ違う人は休日だということもあり私服に身を包んだ人が多く見られる。平日によく見かける死んだ魚のような目をしていた学生達も今日はお洒落な装いで瞳を輝かせながら生き生きと歩いて行く。
活気のある構内を抜け、東口から外に出るとすぐに待ち合わせ場所が見えた。
スマホで時間を確認しようとしたが日差しが反射して画面が良く見えない。
目を細め、手で画面を覆い日差しを遮ることで確認できた時刻は待ち合わせの五分前。スマホをポケットにしまい周囲を見渡す。
待ち合わせした少女はすぐに見つかった。
彼女の服装は平日なら全く目立たないのだが休日だと少々目立っている。
「僕は夢の私服も見てみたいんだけどな。」僕は待ち合わせを取り付けた後輩の鳴瀬 夢に歩み寄る。
学生服を着た少女の黒く大きな瞳に僕が映る。
「私は学生服がデフォルトの衣装なので私服は課金要素となりますよ、百瀬 湊さん。」
ニコッと笑い冗談を言う変わった名前の黒髪ロングの少女は残念なことに私服ではなかった。
「ちなみに衣装一つにつき3000円です。」夢は指を三本立てて楽し気に話す。
「バイト代が入ったから余裕だな。どんな、衣装があるんだ?」
「今はウエディングドレスしかありませんね。購入すると特典で私との幸せな新婚生活が付いてきますよ。」
目を輝かせ、僕に押し売りのごとく婚約を迫る少女に冷静にツッコミをする。
「それは3000円じゃ足りなくないか?」
「大丈夫です、購入ページの一番下に小さく※追加課金が必要な要素が含まれます。って書いてありますから。」
「詐欺の常套手段だな。」
「優しい湊さんは騙されてくれますよね?」首を傾げ上目遣いをするトロイ。
「残念なことに僕は優しくないんだ。」
「湊さんが優しくないならこの世に優しい人はいませんね。」
「嬉しい言葉だけど世界中の優しい人を敵に回すような発言はやめたほうがいいよ。」
中身のない会話を繰り広げながら夢は目的地まで歩き出す。
小さな歩幅で前を歩く夢の小さく華奢な背中を追って歩いているうちに今日の目的地について伝えられていないことに気が付いた。
「これからどこに行くんだ?」僕は夢の横顔に視線を向け質問する。
「内緒です。」彼女はこちらを向くことなく返答する。
「内緒かぁ。」
しつこい男は嫌われると聞いたことがある。
僕はしつこい男ではないので黙って夢の背中を追うことにした。
「夢さん、目的地はどこですか?」
決意は数秒も持たず、僕はしつこい男となった。
いや、会話の話題ために仕方なく訊いただけで、決して僕がしつこい男という訳ではない。
「利き方を変えても教えませんよ。」夢はしつこい男に素っ気なく答える。
「夢さん、これから何をしに行くんですか?」
しつこい男は懲りずに会話を続ける。
「行き先のヒントもあげません。」
「夢さんはケチですね。」
強情な夢にしつこい男は悪態をついた。
「私はケチではないです。そんなことを言うとモテなくなりますよ。」
「もともと、モテる性格してませんよ。」
しかし、しつこく口の悪い男はすぐに屁理屈を返す。
「それは嘘ですね。だって、湊さんは私からモテてますから。」
しつこく、口が悪く、屁理屈を言う男はその一言で口を塞がれる。
屁理屈に対して好意で返答されるとは思わなかった。
「あ、着きましたよ。」
駅構内を3分ほど歩いて着いたのはSNSでよく見かけるロゴのちょっとお高めのコーヒーショップだった。
「私、この新作が飲みたかったんです!」
メニューに大きく描かれたピンク色の飲み物の上にクリームといちごが乗った商品を指を差し瞳を輝かせた。
「美味しそうですよね!」
「美味しそうだな。」
「では、行きましょう!」
行かない選択肢はないと言わんばかりに手を引き店のカウンターまで連れてこられた。夢は躊躇なく、新作の飲み物を二つ頼む。
「飲み過ぎじゃないか?」
「一つは湊さんのですよ。」
「僕に選ぶ権利はないのか?」
「好きな人と同じ物を飲むとより美味しいって言いますよ?」
「それは僕には適用されないな。」
「これから私を好きになるので適用されますよ。」
「あまり、甘いのは得意じゃないんだが」その言葉を口にする前に僕は諦め財布の口を開いた。そんなに歳が離れてないとはいえ隣にいるのは高校の制服を着た学生だ、大人として1人分しか払わないという訳にはいかない。夢も財布を探すのに苦労してるようなので仕方が無いから払おう。
というのを言い訳に夢に良いところを見せたいという打算しかない理由で二人分の支払いをした。
店員から品物を受取り、窓側の席に座る。
僕の正面に座った夢は背負っていたリュックを下ろし再び財布を探し始めた。
「どうしたんだ?」
財布を探す理由はわかっていたがとりあえず訊いた。
「出してもらったのでお金を返そうかと……。」
僕は彼女がリュックの奥に手を突っ込んでいる姿を見ながら「いらないな。」と即答する。
「そんな、さすがに奢ってもらうわけには、」
バツの悪そうな顔をする夢に僕はどうにか彼女が納得するような理由を探した。
「僕は学食にデザートを付けれるくらいにはお金持ちだから大丈夫だよ。」
残念ながら良い理由は思い浮かばなかったのでとりあえず会話を繋げる。
「いや、それでも……」
彼女は申し訳なさそうな顔をする。
このままじゃ埒が明かなそうなので僕は条件を付けることにした。
「じゃあ、お代はいらないから次は可愛い私服を頼むよ。」
「………あと2000円足りませんよ。」
「夢は記憶力がいいなぁ。仕方がないからあと2000円分の飲み物買ってくるよ。」
「そんなに飲めませんよ………わかりましたしょうがないので湊さんの口車に乗せられてあげます。今度の休日は空けといてください、湊さんが天に召されてしまうくらい可愛い私服で来てあげますから。」
「たのしみだなぁ。」
奢りの件は僕の命と引き換えに一件落着した。
雑談をしながら少しの時間を過ごし、飲み物の甘さに飽き始めた俺は目の前で美味しそうに飲む夢にこの後の予定について訊いた。
「このあとはどうするんだ?」
「近くのゲームセンターに行きましょう。そこで湊さんの家の合鍵を賭けてメダルゲームをするんです。」自分の絵を自慢する子供のように自信満々に答える夢に俺は目を細め苦言を呈する。
「人の家の鍵を賭け事の賞品にするな。」
「あ、これでは湊さんにメリットがないですね。じゃあ、湊さんが勝ったら私をあげます。」胸に手を当て何故かドヤ顔でこれで良いだろと言わんばかりに話す夢。
「いらないな。」間髪入れず返答する。
「なんでですか!?」夢は意味が分からないと驚いた表情を浮かべる。僕的には夢がなぜそれでいいと思ったのか分からない。
「小学生の頃は私と結婚してくれるって言ってましたよね!?」
「小学校の話だろ。」
「小学校の話でも約束は約束です。約束は守るものですよ。」
確かに小学校の頃に夢と結婚を約束したのは覚えている。しかし、あれはなにも知らない小学生だったからできた約束であって、今とでは何もかもが違う。
「というか、夢はよく覚えてるな。」
「忘れるわけがありませんよ。あの時、私を優しく抱きしめてくれた湊さんの温もりが今でも私の心を温めて・・」
「存在しない思い出に浸るな。」
手元の飲み物を飲み干し、夢の飲み物に視線を向ける。彼女の飲み物の空であることを確認して「じゃあ、そろそろ行くか」と夢に声をかけ店を後にした。すぐにゲームセンターに向かうと思いきや衣服が並んでいるのが視界に入った途端、小走りでその店に近づき、「湊さん、湊さん、これ可愛いですよ!」と夢は目を輝かせる。この一言がこの衣服の迷宮の始まりだったと気付いた時にはすでに1時間が過ぎていた。
るんるんと買い物袋を手に歩く夢。
その横でどんよりと痩せた財布を手に歩く僕。そんな心に差のある二人は元々の目的地であるゲームセンターに向かっていた。
いつだって僕の前を歩く彼女は服が買えたことがそんなに嬉しかったのか笑みが溢れ続けている夢を見て僕も少し笑ってしまった。
ゲームセンターにつくと彼女は直ぐ様メダルゲームコーナーに向かい、メダル貸し機の前に立ち、僕を手招きする。
「さぁ、お互い1000円ずつ入れて勝負です!最終的に多く残ってた方の勝ちですよ!」夢は早速、メダル貸し機に1000円札入れる。出てきたメダルを置いてあった容器に入れ、「私、ここのゲームセンター何度も来てるんで負ける気がしません!」といって小走りでどこかへ行ってしまった。
僕は思う「この購入したコイン使わずにそのまま残しておけば勝てるんじゃないのか」と、しかし、そんなことをして勝っても夢からは文句を言われてしまうに決まっている。僕は仕方なく夢と同量のコインを持ち、近くのゲーム台の前に座った。コインを入れるとゲームが動き出した。連続して入れえているうちにチャンスゾーンという穴にコインが入り、目の前の画面にスロットが映し出され回転を始める。「ボタンを押して数字を揃えよう!」と画面に表示される、何もわからないまま支持されるままにボタンを押した。
結果的に僕は元々のメダル枚数の3倍の数を手に入れた
僕には何が何だかわからないが後ろを通り過ぎる人たちからは「すげえ、この台で当たってるやつ初めて見た」と小声で言われているのでなんかすごいんだろう。
僕の隣にはメダルをすべて使い切り、こそこそとメダル貸し機に走り1000円追加しようとしていた夢が「湊さん!湊さん!このまま何枚になるかやりましょう!」とはしゃいでいる。
「僕としては賭けにも勝ったことだしやめたいんだけど……」
「なにを言ってるんですか!ここで勝たなきゃいつ勝つんですか!」
「いや、だからすでに夢には勝ってるんだよ。」
それから数分続け、その分メダルも増え続けた。これでは埒が明かないとコインを入れるのをやめ席を立った。「ほら、帰るぞ。」
しかし、夢は「も、もうちょっとだけやりませんか?」と残念そうな顔で駄々をこねる。「駄目だ。」きっぱりと断る。それでもトロイは「まだ、勝てるんですよ!ねぇ、ねぇ、やりましょうよ〜」と僕の服の裾を引っ張った。
「夢、高校生にもなって駄々をこねるのはやめろ。」
「違いますよ、湊さん。私は駄々をこねているんではありません。わがままを言ってるんです!」
「同じ意味だよ。」
コツンとトロイの頭を小突く。
「この後もどこか行くんだろ?このままじゃ、時間無くなるぞ。」
もうゲームセンターに来て一時間が経とうとしている。
「はぁ、わかりました。私はお姉さんなので湊さんのわがままを受け入れてあげます。ですが、わがままを言う湊さんには罰として私と手つないで歩いてもらいますよ」
小突かれた頭を摩り、まるで僕が悪いような言い方をする夢。そんな彼女の頭を先ほどより強く小突く。
「わがままを言ったのは夢だろ。」「ご、ごめんなさい」
「ほら行くぞ」僕は柄にもなく彼女の手を握り歩き出す。
「え、え、湊さん?」夢は自分から言ったことにも関わらず、予想外の僕の行動に顔を赤くして慌てる。
彼女の手が徐々に熱を帯びる、僕は彼女の小さく柔らかい手を優しく握る。
なぜ、このような大胆な行動にでたのか僕自身もよくわかっていなかった。自分の手も段々と熱を帯びていく。僕は彼女のからかいに一矢報いたかったからだと自分に言い聞かせることにした。
「このあとどうしますか?」私は湊さんの手の温もりで心までポカポカです。
「あの、夢さん。手を離してもらってももよろしいでしょうか?」
湊さんは手を繋いだまま歩くのは気恥ずかしいのか、私に手を離すように提案しています。そんな提案は却下です、絶対に却下です。私はいつまでもこの温もりを感じでいたいんです。
「駄目です。」満面の笑みで断ります。
「私はこのままが良いんです。いつも奥手な湊さんが初めて私の手を握ってくれたんです。絶対に離しません」
「そうですか・・・」湊さんは自分から始めたことなので強く出ることができないみたいです。これは好都合!このまま、押し切りましょう!
「そんなに手を繋いでるのが恥ずかしいんですか?仕方ありませんね、離してあげても良いですよ。そのかわり私を抱き締めて下さい。」
湊さんの近くまで身体を寄せます。
さぁ、いつでも抱きしめちゃって下さい。
「手を繋いだままでお願いします。」
ヘタレさんです。目の前でこんなに可愛い女の子が抱き締めて欲しいと言っているのに抱き締めてくれないなんて。
「湊さんはヘタレですね。」
私は頬を膨らまして抗議します。
まぁでも、ヘタレの湊さんが自分から手を繋いでくれたので良しとしましょう。
「でも、そうですね。私が行きたいところは大体行ったので今度は湊さんが行きたいところに行きましょう!」
「僕の行きたいところか・・・本屋とか?」
なるほど、本屋ですか。これは好都合、湊さんの好きな漫画などを知ることのできる良いチャンスです。
「良いですね本屋!さっそく行きましょう!」
私は湊さんの手を引き本屋に向かって走り出します。
本屋に着くと湊さんは「あ、これ新刊出てたのか」と一冊の漫画本を手に取りました。
私はその漫画本の表紙を覗き見ます。
衝撃を受けました。表紙が大人の女性でなんともナイスバディなキャラクターでした。男性を魅了する凹凸を持つキャラに私は「ムムムッ」と眉間にシワを寄せます。
比較として自分の胸を見下ろします。胸を見下ろしたはずなのに床が見えますね、なぜでしょうか。
・・・やめましょう、これ以上考えても悲しくなるだけです。
しかし、帰ったら作戦会議をしなくてはなりません。このままでは湊さんが急に現れたナイスバディな女性に奪われかねないですからね。
「湊さんはこういう方が好みなんですか?」
とりあえず、聞いてみます。もしかしたら、違うかもしれません。「そうだ」と言われることに内心恐れながら湊さんの言葉を待ちます。
「違うよ。この表紙のキャラも良いと思うけど、僕が好きなのはヒロインの方だよ。」
そう言って、同じ漫画の別の巻を渡されます。その巻は黒髪ロングの少女のキャラクターが表紙を飾っていました。「このキャラ・・・」私に似てますね。これは間接的な告白でしょうか。いや、湊さんから見たら私とこのキャラクターでは何か決定的な違いがあるのかもしれません。漫画のキャラには人それぞれ思い入れがあるものです。「このキャラ、私に似てません?」なんて軽々しく口にするわけにはいきません。それにしても似てるなぁ。
私がその漫画の表紙をまじまじと見ていると湊さんが「そういえば、そのキャラ、トロイに似てるよな。」と口から零しました。「やっぱりそう思いますか!私もそう思ってたんですよ。」私の容姿は湊さんの好み通りだったということですね。ふむふむ、これは嬉しすぎる。おっと、平常心平常心、やっぱり駄目です!嬉しすぎて笑みが零れてしまいます。
私は湊さんに顔が見られないように少し俯きます。「夢、大丈夫か?」湊さんは心配そうに顔を覗き込んできます。湊さんにこんな、顔見せるわけにはいけません。
「ちょっと、お手洗いに行ってきます。湊さんはここで待っていてください。」
私は湊さんを置いて小走りで店を出ます。せっかくのデートなのに私は何をやってるんですか。でも・・・
「これはいけるのでは?」
「腹痛か?」
トイレから戻ってきた夢にそう声を掛けるとジト目で夢に睨まれた。
「湊さん、デリカシーって知ってますか」
彼女への配慮ができていなかったようだ。
「じゃあ、次はどうする?」
「そうですね、ご飯でも食べに行きませんか?」
時刻はすでに18時を過ぎている。日も沈み始めていた。
夕食には少し早いがその方が混まなくていいだろう。
「そうだな、そうしようか。」
食べたいものについて語りながら二人は笑い合いながら足を進める。
「夢はどんな食べ物が好きなんだ?」
「そうですね・・・私はプリンが好きですね。美味しいし、何より可愛いです」
「可愛い?」
「はい、あのプルンってした感じがとても可愛いです。」
プリンが可愛い・・・可愛いか?
ふと思った疑問を彼女に問う。
「ゼリーも同じじゃないのか?」
「違いますよ、ゼリーはぽよんって感じでプリンとは全然違います。いいですか、湊さん、プリンはあの黄色とカラメルの茶色がとても可愛いんですよ。それにプリンといっても色々な種類があってですね、特に私は・・・・」
プリンについて熱く語り続ける夢。内容はあまり理解できなかったが表情をころころ変えながら話す彼女を見て少し笑ってしまった。
僕が笑っていることに気付いた夢は「すみません、話過ぎました」と恥ずかしかったのか赤面していた。
「み、湊さんの好きな食べ物は何ですか?」
「僕の好きな食べ物は・・・」
こちらに話題を振り誤魔化す彼女、そんな彼女との会話が楽しくて、
いつのまにか彼女が隣にいないことに気付くのが遅れた。
「夢?」
後ろを向くと夢が立ち止まり、頭を抱えて顔を歪ませていた。
夢は足がふら付き立っていることもままならない。
僕は急いで彼女の元へ駆け寄る。
「・・・夢ッ!」
「ごめんなさい」夢は声にもならない声でそう言い残し、倒れた。
2024年 5月18日 18時22分
次回予告
「私、ラーメンは塩派なの」
突如として夢が打ち明けた事実に主人公は膝から崩れ落ちる。(ここで大雨ザァー)
「俺は....どうして醤油派なんだ」
衝撃の事実に涙を流し、希望を失ってしまう主人公の前に現れる第二のヒロイン。
「私は豚骨派よ。大丈夫、豚骨醤油があるわ。」(輝きエフェクトキラキラ)
手を取り合う主人公と第二のヒロイン。
新たな希望の出現に空には満点の星空が!!
次回「カップラーメンはチリトマ派」
次回もお楽しみに!!