4
難産でした。
木製の地球儀とか、天球儀なんかあったら、本当に映画の魔法使いの部屋だよな、と思う。
違うのは、埃の臭いが無いこと。
そして、机。
一見、木製だか、何かが違う。
「気になりますよね」
アンスタントが、徒に微笑みながら言う。
「気になるって言えば、答えは貰えるのか?」
「さあて、どうでしょう?」
試すような声音はレイノシュとよく似ている。
……
そっと手を伸ばし、アンスタントの髪に触れる。
「なんですか、それ」
金色と黒色の違いだけで、アンスタントとレイノシュの髪はまるで同じだ。
「…………」
沈黙を破ったのは、アンスタント。
「その事は、またの機会にお願いします。今は……」
どの事だ?と思わなくもないが、俺がここに居るのは、近親婚というモラル的にも、生物的にも難問に立ち向かうためだ。
「その、なんだ?メイペスの親と、アンスタント、お前さんの親が同じっていうのは、メイペスはお前さんの姪ってことになるのか?」
「……どうなんでしょう?生物学的には限りなくそうなんでしょうけど……今から、ちょっと気色悪い話になりますけど、いいですか?」
「どの方面にだ?あまり、血みどろのスプラッタとかは得意じゃないが」
「スプラッタではないですね。倫理的にです」
「…………き、聞かせて貰おうじゃないか」
「あのですね……」
俺は何で聞いてしまったんだろうと、後悔した。
「……で、あいつらはそれを知っているのか?な、訳もなさそうだが」
「知りませんね。彼らはぼくたちの出自に関心はないはずです。受け入れるだけですから」
「お前らは、神にでもなるつもりなのか?昔の王様みたいに」
「大きなお墓たてて?違いますね。寧ろ神は否定されてる」
もう一人、誰かいるのが見える。
けれど、その事には触れるつもりはないらしい。
「これでも、申し訳ないとは思うのですよ。核心をお話しせずに、聞いて貰ってるのですから」
アンスタウトは無理して笑っている。
その顔は、レイノシュと重なる。
と、いうか…
俺は思わず目を擦る。
いや、違う人間だ、と言い聞かせる。
どうかしてる。
アンスタウトとレイノシュが似て見えるなんて。
「眠たいですか?」
「いや、そうじゃない…」
言葉半ばに、この部屋には似つかわしくない音が突然鳴り響く。
「何だ?!」
アンスタウトはキーボードを操作して現状を確認しているようだ。
俺はどうすればいいのか戸惑っていると
「そこにあるグラスを着けて、モニターを見てください!」
先程までの調子の良い口調とは打って変わって緊張した声で指示される。
慣れぬ手付きで片眼鏡を嵌めて、モニターを見る、と。
「マルボナ・ユウロ……」
俺は目にしたものが信じらなかった。
なぜやつが、ここにいる?
「侵入者です。行きますよ」
モニターのマルボナは、崖を登ろうとしていた。
もしリアルタイムの映像なら、まだこの地には着かないだろう。
アンスタウトは俺の手を掴んだ。
「行きますよ!」
「どうやって!」
「走るしかないでしょう!」
アンスタウトが焦っている。
初めて見る、動揺が隠せない表情。
「ちょっと待て」
と、俺は腕の端末に話しかける。
「レイノシュ、ここに来い」
「え?無理ですよ、ここは…」
「何勝手にばらしてるですか。他人がいるならそう言ってて下さらないと困ります」
「え?」
「話しは後だ。レイノシュ、これつけて、ここ見ろ。悠長なこと言ってられなくなる」
と、俺は自分のしていた片眼鏡をレイノシュへ渡す。
意外にもレイノシュは付け方を知っているようで、何の戸惑いもなく装着した。
「マルボナ…なぜここが…」
「行くぞ」
「…もしや、これもですか?」
と、アンスタウトを指差すレイノシュ。
「後で話すことがひとつ減ると思え!」
レイノシュは大きなため息をつくと、
「僕は何も話しませんよ」
と、俺とアンスタウトの腰を両脇に抱えると、“移動”を始めた。
レイノシュの“移動”は、彼に言わせると『飛んでもなく速く走っている』らしい。
“速い”ことで、物理的にも壁や床、天井を通り抜けて見える、らしい。
そんなものなのか?と疑問には思うが、原理は彼にも分からない、と煙に巻かれていてそれ以上追求させてはもらえない。
“革命”において、それは便利な移動手段ではあった。
自分の体よりも格段に華奢なレイノシュに、抱えられると云う情けなさは残る。
彼が“瞬間移動”ではないと言うから、そうなのだと理解しておいた。
崖の上にアンスタウトを残し、崖を下りる。
なんの指示をすることなく行われる動作にストレスは無い。
崖にへばりつくように登っているマルボナの頭上に出て、蹴落とす。
すまんな。折角5メートル程登ったのに。マルボナを躊躇無く崖下まで落とす。
人の声とは思えない音が、マルボナの口から発せられる。
俺を崖下に残し、レイノシュは崖上へと戻る。
「マルボナ、あなたは何がしたいんだ?俺から地位を奪っただけでは満足できないのか?」
マルボナも腐っても革命家だ。
俺を蹴落としてでもやりたいことがあるのだろうと思っていたが。
「お前が生きていては!あいつらはお前を欲しがる!」
そういって、飛び道具を構えている。
そもそもが頭脳派のヤツに扱えるとは到底思えない。
「おいおい、そんな器じゃないだろう?」
「うるさい!おれを莫迦にするな!おれに指図するな!」
案の定、ヤツは引き金を忙しく引いているが、銃は一向に火を噴く様子は無い。
易々と距離を縮め、マルボナの腕をねじ挙げて、銃を取り上げる。
「こう使うんだよ」
安全装置を外し、マルボナの膝に向けて銃弾を打ち込む。
乾いた音が峡谷に響き、声を出せないマルボナは崩れ落ちる。
妙に手に馴染む銃は、俺から奪っていたものか。
ロープを持ったレイノシュとアンスタウトが現れる。
「こういうのってエデノでは勿論、御法度だよな」
と、アンスタウトに銃を見せる。
真っ青な顔をしているアンスタウトは、意外な言葉を返してきた。
「必要なら、持っていて下さい」
「え?こんなん持ち込んだらメイペスが煩いんじゃないのか?」
「見つからないようにして下さい。…何がおかしいんです」
「……それは、こいつで方が付く問題なのか?」
「分かりません。ただ、自分の身は、自分で守らないといけない状況かもしれません」
レイノシュは素早くマルボナを縛り上げ、そのまま森へと引き摺って行く。
いつもながら、見事な手際だ。
に、してもレイノシュは何で態々アンスタウトをここまで運んだんだ?
こんなに真っ青な顔をしているのだから、直ぐに移動は出来ないだろうに。
森から戻ったレイノシュは手ぶらだった。
「マルボナは?」
「言いません。言えばあなたはまたあの男に慈悲をかける気でしょう?」
「いや、もうさすがにそんな気は無いよ」
ぶんぶんと音がするんじゃないかって位首を振ってみる。
「嘘です。あなたは許そうとします。そういう人です。僕は知っています」
「……」
見抜かれてる。
「僕が許せないのです。本当なら、あなたが刺された時に、いえもっと前に!こうしておくべきだったんです!だから、あなたは気に止めなくても結構です」
きつく唇を噛んで、俺を睨むように見るレイノシュは今にも泣き出しそうにも見える。
「すまな…いや、有り難う」
謝罪より、感謝だろう。
俺が不甲斐ないばかりに心労ばかりかけている。
それが厭と言う程、身に染みるから俺はレイノシュを抱き締めた。
「だから、そういうのは気持ち悪いからやめて下さいって言ってるでしょう?」
…ん、通常運転だ。
「すいませーん。そろそろいいですかあ?」
と、若干顔色を取り戻したアンスタウトが声を掛けてくる。
レイノシュが、ちらっと俺の顔を見てアンスタウトに近寄り、顔に手を翳している。
「あれ?あれ?」
みるみる良くなっていくアンスタウトの顔色。
「…あなたは?レイ・グレコ…?何故、この力を使えるのです?」
ああ、そういえばそんな偽名を使うつもりだったな、すまん、レイノシュ。
ずっとレイノシュと呼んでいたな。
それにしても、レイノシュにしては力の大盤振舞だ。
いつもは、俺以外の前でこんなに発揮することはまず無いのに、どういう風の吹き回しだろう?
「そうするつもりだったんですけどね、あの方はすっかり忘れていたようで、僕の思惑は丸潰れですよ」
レイノシュと出会ってもう十年以上たつんだぞ、呼び慣れた名前になるのは当然だろう、と悪びれもせず立っていたら、
「本当に仕様もない方なんだから」
言葉と表情がまるであってないぞ?レイノシュ。
何でそんなに優しく微笑んでいるんだ?
アンスタウトも何か一緒になって笑ってるし。
解せぬ。
「僕の本当の名前はレノシュです」
と、レイノシュは澄ました顔でアンスタウトに言った。
「レイノシュ?レノシュ?なんだそれ?」
俺は初めて聞くその名に動揺が隠せない。
レノシュって…
「ぼくの、本物…」
アンスタウトがそう言った。
本物とは聞き捨てなら無い単語だが、レイノシュは何食わぬ顔を見せていて、その表情はアンスタウトの飄々とした顔と重なる。
「グラスコ様、彼を背負ってください。面倒なので移動しながら話します」
“様”付けで有りながらも、態度は不遜で全くレイノシュらしい。
「そんな…」
と遠慮するアンスタウトの前に屈み、背中に促す。
「アイツがこう言うなら、結構な距離を歩かせるつもりだぞ。遠慮するな」
「何処に行くのです?」
出会ってからまだ3日足らずだが、常日頃湛えていた嘲るような笑みは成りを潜めて、親とはぐれた子犬みたいな不安気な顔を覗かせている。
「何処に行くんだ?」
目の前にいるから充分聞こえているのだけど、俺にも聞かせろという意味も込めて、アンスタウトの言葉をレイノシュに中継する。
「…着いてからのお楽しみです」
レイノシュは嘲るように微笑んだ。
レイノシュの言いにくいことを言う時の癖。
無理に作る笑み。
これが見たくなくて、俺はやつの秘密には踏み込めないでいる。
「そんな顔、しないで下さい。大丈夫。多分、頃合いです」
レイノシュは俺の頬を指先で触れて、そう言った。
レイノシュを先頭にして、聳える崖に沿って歩く。
意外にも道は歩きやすく、人一人背負っていると言うのに苦にはならなかった。
まあ、成人男性にしてはアンスタウトが軽いのもあるのだろう。
身長はそこそこあるのに、重さを感じない…のも当然で、どうやらレイノシュが、重力操作をしているらしい。
俺の考えていることを察したレイノシュは
「当たり前でしょう?あなたは十日前に膓が飛び出してたんですよ。そんな無理をさせるわけないですよ」
全く、出来た嫁…じゃない出来た部下だ。
すっ…と、レイノシュから冷えた視線を感じる。
まさかこいつには、テレパスもあるんだろうか?
「ありませんよ」
本当か?!
つんつんと肩を叩かれ、背負われているアンスタウトが会話に加わる。
「どういうことです?」
ま、そうだよな。
「レイノシュは物を軽く出来るらしいんだけど、詳しくは聞かんでくれ。こいつは秘密主義なんだ。この崖を俺を背負って登れたのもこの力あってのものだな。メイペスには悪いけど」
アンスタウトとメイペスに初めて会った時の、正義感溢れる彼女の台詞を思い出しながら言う。
「…あ。すいません。こう言う事情なら言えませんよね。それに、メイペスは知っても理解は出来ないだろうし。えっと、有り難うございます。上手く誤魔化して頂いて」
とはいえ、この崖は一人で登るのも容易ではないのは事実だ。
レイノシュの蒼白だった顔を思い出していた。
「いつもなら森の時点で選別されるのに…」
と言ったのは、アンスタウトの筈だが、谷の反響か、レイノシュから聞こえた気がした。
小一時間程歩いて、レイノシュは歩みを止めた。
別段なにも変わらない崖の風景。
何を目印にしたかも、俺が見る限りは分からない。
「あ、あれ。足元です」
背中からアンスタウトが答える。
レイノシュが乗り移ったのかと思ったら、
「あまりにも回りを見回しておいでだから。それより、ほら。レ…イノシユさんを見失いますよ」
天然のカーテン、と言うのか、パーティションと言うべきなのか。
正面からは見逃しそうな微妙な岩の重なり。
人工でも、天然でも見事なものだ。
分け入れば、外からの光はない筈なのに、岩がほんのりと光を放っている。
一体どんな仕掛けが施されているのだ?
「何なんです?ここは…」
背中から聞こえるアンスタウトの、驚嘆とも不安とも取れる声がする。
レイノシュはそれに答える気はないらしく、歩みを止めるどころか振り向きもせず前を進む。
「なあ?レイノシュ。厭なら無理するなよ」
そう言うと、漸く足を止めてくれたレイノシュが振り返って、
「ここまで来たらそういうわけには行かないですよ」
と、あの顔をして笑う。
ここに来て初めて、掴み所の無い“不安”が俺にのし掛かる。
レイノシュ?
彼は腕を伸ばし、“岩”に手を触れる。
溶けるように拡がる視界。
東洋の建築物のような、木材が使われている、見慣れない知識でしか知らない内装が拡がる。
「レイノシュさん!?ここは!」
突然、アンスタウトが声を上げる。
いや、耳元で聞こえたからびっくりはしたが、彼の声量は極力、押さえられている。
レイノシュは口の前に人差し指を立て
「しぃー」
と音を立てないように俺達に合図をする。
俺はレイノシュに近寄ってから
「誰の家だ?」
と、俺なりに声を潜めて聞く。
俺の顔を見たレイノシュは、注射を見た猫みたいな真ん丸な目をして、そして吹き出した。
「全く、あなたって人は…」
褒められてるのだろうか?
そんな俺らの軽口を余所に、俺の首の前で重なっているアンスタウトの腕は、明白に緊張を感じる。
レイノシュは、俺ではなくアンスタウトと顔を合わせる。
それから、ゆっくりと俺を見ると、
「ん~。それはまだ知らなくてもいいかもです」
と、いつもの調子になっている。
あれ?『不安』はもう終わったのか?
それにしても、だ。
辛うじて建物の内部だろうと思われるここは、薄暗く、然程モノが有るわけでもないのに、雑然とした雰囲気がある。
見慣れないだけかも知れないが、不思議な内装に眼を奪われる。
「あ、グラスコさん。ここ、土禁です」
と、アンスタウトが言う。
「それと、大丈夫みたいですので、下ろしてください」
背中からアンスタウトを下ろすと、彼はまず靴を脱いだ。
「掃除はされていますから、きれいですよ。暗いだけです」
見ればレイノシュはとっくに靴を脱いで手に持っている。
いつの間に。
「レイノシュ…」
「気づかない方がいけないんです。注意力散漫ですよ」
はいはい。
俺は不貞腐れた子供のごとく、その場に座り込んで靴を脱いだ。
初めて触れる、草の床。
冷たく暖かくもない草の匂いが、微かに漂う。
見上げれば、なぜか微笑ましい眼差しが俺に向けられている。
何だ?それは。
「さあ、行きましょうか」
ここが何かは教えてくれないんだな、と俺はレイノシュの後ろに、大人しく従った。
紙製の、大凡防御を欠いた扉を通り抜ける。
レイノシュもアンスタウトも勝手知ったるらしく、迷いがない。
俺は扉と天井の間の彫刻が気になりはするのだか、構っては貰えないようだ。
何回か紙製の扉を抜けると、空気が急に軽くなる。
と、云うことは今まで重かったのだろうか。
扉の先には、それまでと打って変わってインスラと同じ、曲線を描く石の壁が天井まで高く続く。
『研究室』のような、雑然とした無機質なそこはアンスタウト部屋の空気に似ていて、紙製の扉で区切られていた今までの部屋と明らかに別物の様相だ。
レイノシュとアンスタウトが大きく息を吐いて深呼吸をしている。
「?」
「体力的には楽になりますけど、精神的には苦ですよね」
と、アンスタウトが言うと、
「これだけ警戒するなら、挨拶くらい出てくればいいのに」
レイノシュが答えている。
くすくすと笑い合う二人は、兄弟というよりは姉妹のようでもあると思ったら、二人から冷たい視線を受けた。
お前ら、絶対、心読んでるだろ?と思わずにはいられない。
「なんか、俺だけ蚊帳の外か?」
「いじけなくても教えますよ。ほら、ここであなたの膓を詰め込んだんです」
「は?」
そこにはベッド…と言うより酸素カプセルを彷彿とさせる物体が横たわっている。
「ここが、ランデフェリコです」
アンスタウトが言う。
レイノシュが、苦笑いを浮かべている。
「ぼく、ここで生まれたんだ」
恐らく、力のことより秘密にしておきたかった事の筈だ。
出生に関して何十年も割らなかった口を事も無げに白状する。
もっとも『ランデフェリコ』何て言われても何処だ?それ?としか言えないのだけど。
「そっちの部屋で生まれたんですけどね。恥ずかしいから見せてあげません」
レイノシュが指を指した方を見ると、アンスタウトも困ったような顔をしている。
「えっと、じゃあお前らは兄弟なのか?」
「そんなようなモノですね。少なくとも姉妹じゃありませんよ」
「レイノシュて、テレパス能力もあるのか?」
「ありませんよ。あなたが解りやすいだけです」
アンスタウトが大きく頷いている。
おかしいな?クールな獅子の筈なんだか。
「獅子何て言って、猫アレルギーじゃないですか」
「そうなの?!」
「うるさい!戯れるぞ!」
「アンスタウトにどうぞ」
「え?何で?」
レイノシュはするりと逃げたので、逃げ遅れたアンスタウトの肩を抱き、髪に触る。
「何ですか~これ」
怯えたようにレイノシュに助けを求めているが、こいつは助けんぞ。
「それがその方の精神安定剤みたいです。堪忍して犠牲になってください」
やはり不遜だと思うぞ。
いつまでも戯れてても仕様がないので、その部屋を見回す。
「この、酸素カプセルみたいなのは何だ?」
「ヴィタスフィアって言うらしいです。恒常性維持や再生促進、感染防御に 代謝管理、精神安定効果や外的モニタリングまでやってくれて、術後に楽なんですよ」
相変わらずの飄々とした調子でレイノシュが説明する。
楽?おい?
「それにしても、これだけ異様な佇まいだな。……ガラス…石か?」
レイノシュとアンスタウトが顔を見合わせて首を傾げている。
ふわっと髪の毛が揺れて、触りたい欲が顔を除かせる、が退かれる事は目に見えているので伸ばそうとした手を引っ込める。
くすっと笑い声が耳に入り、自分の行動が筒抜けだったことに気が付く。
「あなたって人は、全くブレませんね」
「お、おうよ…」
「褒めてませんよ」
「これね、ここに五百年あるんですって。機能は知っていたから、可能性に賭けてみたんですけどね。成功して良かった」
「はあ?」
飛び出した間抜けな声は、五百年に対してなのか、得たいの知れないものに可能性を賭ける潔さになのか……両方だな。
「このヴィタスフィアはね、琥珀を使っていて、何でもこれが細胞を活性化させる酵素が出るんですって。まあ、僕もそのくらいしか知らないんですけど」
レイノシュが肩をすくめた。
そしてその淡々とした態度を崩さぬまま、ヴィタ…なんとかに…一拳する。
「……痛い」
「だろうな」
「何をしたいんです?」
アンスタウトと純粋な問いかけに、レイノシュは視線を反らした。
「さて?何がしたいんでしょうね。強いて言えば、どうなるか知りたいのでしょう」
五百年も、こんな形で有ったならそう脆いものでも無いとは思うが、レイノシュのやりたいことに検討が付かない。
耐久性を調べていたと納得しよう。
アンスタウトが所在無さげに彷徨き、別の扉に手を掛ける。
「グラスコさん、こっちが面白いですよ。見てみて下さい」
珍しく感情的になっているレイノシュの気を反らすためか、アンスタウトは燥いだように声を掛けてくる。
いつの間にそんなに仲良くなったのだろう、妬くぞ。
「うわあ」
扉の向こうには、バイオプラントが並んでいた。
牛と鶏も確り確認できる。
工場のようでもあり、農場のようでもあり、そのどちらでもない異様で不思議な光景。
「これが、あのエデノの奇怪な生産率の秘密って訳か」
「そうです」
「……これをどうやってエデノに運んでるんだ?ここに人手はなさそうだが?」
アンスタウトが無言で指差した先には、大きな搬入口があって、そこに向かって植物やらが動いている。
「ああ、床が動いているのか、そうだよな」
ベルトコンベアよろしく規則正しく搬入口へ消えて行く。
「あそこは?」
「エデノの地下ですよ。地下の貯蔵庫です。見に行かれたでしょう?」
何とも至れり尽くせりのエデノの仕組み。
「これは、僕しか知ってない事なので、くれぐれもご内密にお願いします」
アンスタウトが、口の前に人差し指を立てて言う。
外堀から物凄い勢いで、埋め立てられている気がするぞ?
ここまでお読みいただき有り難うございます!
1ヶ月ぶりの更新となりましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?
今回の章で物語の新しい一面が見えた…と思いたいのですが、皆さまはどう感じられましたか?
よろしければ、感想やご意見をお聞かせください。
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例えば、こんな感じでどうぞ:
・「この話ってBLですか?」
→さて、どうしたいです?もしそうなら、方向性を考えますね(笑)。
・「メイペスの発言、可愛いけど何かズレてる!」
→そのズレこそ彼女の魅力…と信じてますが、どうでしょう?
どんなお言葉でも、今後の執筆の参考にさせていただきます。ぜひぜひよろしくお願いします!