07.デスと死神の鎌
「今日から剣術を教えます」
朝、弟子たちに走り込みをさせた後に、レイチェルは言った。
ルインが、喜びの声をあげる。
カルスも、声には出さないがうれしそうだ。
二人が、レイチェルに弟子入りしてから、二週間が経った。
その間、午前中は、基礎トレーニングで体力と筋力をつけさせ、午後は、瞑想で集中力を養った。
子供たちは、ずいぶんとたくましくなった。
食事がいつも栄養たっぷりなのも、効いている。
レイチェルは、二人に刃をつぶした剣を持たせた。
レイチェルからしたら短めだが、二人には、ちょうど良い長さである。
剣の握り方から始まり、構え、重心の移動、とひとつひとつ手取り足取り、丁寧に教えていく。
カルスは、レイチェルに密着されるたびに、顔を赤くした。
思春期に突入し始めた男子として、肌もあらわな美女に触れられて動揺するのは、仕方がないことである。
対してレイチェルは、少年のそういう部分には疎かった。
レイチェルの母の蔵書は、女性視点のものが大半だったのだ。
身近に男の子がいなかったレイチェルが、わらかないのも無理はない。
レイチェルは、顔を赤くしたり、挙動不審になったりするカルスを、単に緊張しているだけだと思っていた。
ルインの方は、まだ異性を意識するようなことはなく、レイチェルの教えを少しでも多く吸収しよう、と気合を入れていた。
結果、ルインの方が、剣の覚えは早かった。
昼食を挟んで午後。
ルインは、もっと剣をやりたいと文句を言ったが、レイチェルは魔法の講義にした。
適度に体を休めていかなくては、痛めてしまう。
それに体と心を交互に鍛えた方が効率が良いことを、自身の経験から知っていた。
毎日、魔力の感知を鍛えてきただけあって、二人とも、自分の魔力を感じ取ることができるようになっていた。
弟子二人はもとより、師のレイチェルも知らなかったが、実はこの過程でつまずくことが多いのだ。
魔力を感じられずに、魔法の道を断念する者が、多数いるのである。
魔力を感じ取れたら、次は魔力の操作である。
体の、どこか一点に魔力を集める。
レイチェルは、右手の人差し指に魔力を集めさせた。
魔法の鍛錬で筋がいいのは、カルスである。
もともと、魔法使い志望だったが、今では魔法戦士にその夢を変えている。
「冒険者をやるのなら、魔法使いでも近接戦闘ができた方が良いです」とレイチェルに言われたからである。
また、ルインも魔法の鍛錬をしているのに、自分が剣をやらないのはおかしいという気持ちもあった。
レイチェルの魔法の師は、ソレルである。剣はもちろんのこと、魔法も上級魔法まで使いこなした。
冒険者としては、超一流の腕前だった。
彼女の教え方は、魔法使いギルドのそれとは大きく違っていた。
理論よりも感覚を重視し、座学よりも実地に重きを置いた。
当然、レイチェルも、その教え方を踏襲した。
自分の経験を踏まえ、より効率的に、簡略化したものを、である。
結果、魔法使いギルドで一年かけて身に着ける技術を、たった二週間で、習得させることになった。
カルスは、魔力操作の後段階である魔力放出を習得した。
人差し指から、魔力の赤い光を放出してのけたのである。
「素晴らしいです」
レイチェルは、思わずカルスを抱きしめた。
真っ赤になるカルス。
レイチェルは、抱きしめながら彼の黒髪を撫でた。
「カルス君はとても優秀です」
レイチェルの心に、これまでなかった感情が込み上げてきた。
嬉しくて、とても堂々とした気持ち。
冒険者でSランクになっても、凶悪なドラゴンを倒して称えられても、こんな気持ちにはならなかった。
それは、レイチェルが何年も感じることができなかった、誇らしさであった。
「俺だって、それくらいすぐできるようになってやらあ」とルイン。
カルスに先をこされという思いが奮起させたのか、ルインもそれから魔法のトレーニングに、一生懸命取り組むようになった。
◇◇◇
三週間、四週間と時が経ち、やがて二人が弟子になってから一ヵ月が経った。
この頃になると、二人が剣を構える姿も、ずいぶんと様になってきた。
素振りのほかに、丸太を木剣で打つ打ち込み稽古。さらには、一対一で対戦する立ち合い稽古を、取り入れるようになった。
戦士志望のルインはもとより、カルスもずいぶん剣が使えるようになってきた。
最低ランクのEランク魔物ならば、もう問題なく退治できるだろう。
Dランクでも、よほど多勢に無勢でなければ、対処できそうだ。
とにかく二人とも筋がいいのだ。
この一ヵ月の間に、ルインのレイチェルを侮る気持ちは、すっかり無くなっていた。
むしろ、Cランクの冒険者はこんなにすごいのか、と圧倒されることが多い。
いつの間にか二人は、『レイチェルさん』ではなく、師匠と呼ぶようになっていた。
最初こそ、それに戸惑っていたレイチェルだったが、次第に、それが心地よく感じるようになってきた。
カルスが初めて魔力放出を成功させたあの時に感じた、あの誇らしさ。
その後も、たびたびあった。
ルインが、教えた剣の形を見事に習得した時。
カルスが、魔法について鋭い質問をしてきた時。
二人がレイチェルの走り込み(当然二人の体力に合わせていたが)に、ついてこれた時。
レイチェルも、二人の鍛錬だけをしていたわけではない。
なにしろ、王国に三人しかいないSランク冒険者である。
次から次へと仕事がやってくる。
だが、レイチェルは、それらをさっさと片付けてしまっていた。
隣国からの要請で、ドラゴン退治を依頼されれば、二時間ほどで撃破して戻ってきた。
サイクロプスの集団が現れたときも、二時間で片付けて戻ってきた。
要人の護衛や、異界迷宮攻略など、時間の掛かる依頼は断った。
上ランクの冒険者にしてみれば、そちらの方がおいしい仕事なのだが。
それでも、これは断るわけにはいかない、というものもある。
Aランクパーティが異界迷宮で消息を絶ったので、救助に向かって欲しい、と言われたときは、数日掛かるのを承知で引き受けた。
異界迷宮で死んだ場合、蘇生が可能なことが多い。
頭骨さえ残っていれば生き返らせることができるのだ。
異界迷宮内は、理があやふやである。
そのあやふやさが蘇生を可能にするのだ。
「できるだけ早く戻ってきます。二人とも留守をお願いします」
食料は余分に買い込んだ。
干し肉や干物など、保存の利く旅用の物ばかりである。
豆やイモなどもある。
そちらの料理は、レイチェルよりも二人の方が知っていたくらいだ。
「はい、任せてください」とカルス。
「子供じゃないんだからさ。大丈夫だぜ」とルイン。
レイチェルは後ろ髪引かれる思いだった。
それに、もっと心配して欲しい、という邪心も芽生えた。
「もし、私が帰ってこなかったら……」とか言ってみる。
「私のベッドの下にお金や宝石があります。それを使って暮らしをたててください」
蓄財のためというよりも、貰ったので、とりあえず放り込んでおいたものである。
『道具箱』を開くのも面倒くさいというような時に、ベッドに寝転がる前に、ポイっと投げてそのまま、というようなものである。
「そんなに危険な仕事なんですか?」
カルスが、顔色を変えて言った。
ルインも、なにか言いたいが驚いて言葉が出ない、という様子である。
「大丈夫です。数日で戻ってきますよ」
言って、二人の頭を撫でた。
弟子たちの心配そうな顔に、なんだか、とても癒されたレイチェルだった。
「あの……、戻って来いよな、絶対」
ルインが言った。
「僕たち、師匠にまだまだ教わりたいんですから」
カルスが言った。
大丈夫です、とレイチェルは言って、『転移』した。
さっさと片付けて戻ってきましょう、と思いながら。
◇◇◇
Aランクの異界迷宮だけあって、魔物も強く、たくさんの罠があった。
通路も複雑で、幾多の異界迷宮を(ダンジョン)を攻略してきたレイチェルでさえも、何度か迷った。
人骨も多数あった。
Aランク冒険者の場合は、こうして捜索依頼をギルドが出してくるが、大抵は家族や友人が、ギルドを通して依頼してくることが多い。
そういった相手のいない場合は、そのまま放置されることもある。
とはいっても、冒険者のマナーとして人骨(頭骨)を見たら拾えというものがあり、『道具箱』に余裕があれば、ギルドカードとともに、とりあえず拾って、ギルドに渡す。
死ねば『道具箱』の中の物は、その場所にあふれるので、死体の周辺が、腐った食べ物や道具類で埋め尽くされている、ということも多々ある。
ちなみに、それらを取得するのは、発見者の権利として認められている。
大切な物があった場合、蘇生してもらった後に、発見者やギルドから買い戻す形となる。
Aランクの異界迷宮に来ているだけあって、ほとんどのパーティが『道具箱』を持っていた。
死体の周辺に物があふれている。
魔法が付与された武具。
貴重な魔法道具。宝石や金貨。そういった物もあったが、レイチェルは置き去りにした。
惜しかったら、戻ってきて勝手に拾えばいい、と思ってのこと。
死者の持ち物に手をつけるというのが、どうも性に合わないし、面倒臭くもある。
Aランクの異界迷宮に現れる魔物は、当然Aランクが多い。
ごくごくたまに、Sランクの魔物が現れることもある。
立ちはだかる魔物をバッタバッタとなぎ倒し、斬り捨て、石造りの迷宮を駆けていたレイチェルの前に、その魔物が現れた。
最初は、黒い影の塊のように見えた。
近づくにつれて、それが黒いボロ布をまとった人骨だとわかった。
大鎌を構え、フードをかぶった上半身のみの人骨。
デスという名のSランク魔物。
名前の通り死を象徴する強力な魔物である。
さすがのレイチェルも足を止めて、剣を構えた。
幾多の異界迷宮を攻略したレイチェルだったが、デスと出会うのは初めてである。
噂では、即死の攻撃をいくつも持っているという。
強い魔法抵抗のある魔法使いや神官ですら、それらを防げないという。
もうそろそろ帰らなくてはならないというのに、とレイチェルは舌打ちしたい気分だった。
異界迷宮では、時間の流れ方が外とは違う。
時計でさえ、狂ってしまい当てにはならないのだ。
レイチェルの感覚では、だいたい三日間が経った頃だが、それでさえ、正確ではない。
ダンジョンでの三日間が、外では三週間ということだってありえる。
ゆらゆらと飛んでくるデスに、レイチェルは斬りかかった。
先制攻撃で畳みかける。
五メートル近くの距離を一気につめて、横薙ぎの斬撃。
デスはそれを鎌の柄で弾いた。
レイチェルは止まらない。
そのまま上からの切り下ろし。
これも鎌で弾かれる。
さすがにSランク。手強い。
レイチェルは、攻撃の手を休めなかった。次々と斬撃を放つ。
どれもが、必殺の威力を秘めた鋭い一撃だ。
デスは防戦一方。
徐々に、レイチェルの刃が、ボロ布のようなローブを裂いていく。
ついに、レイチェルの剣が、デスの首を跳ねた。
デスの髑髏が、フードごと宙に飛ぶ。
レイチェルは油断しなかった。
相手はSランク。ただでは終わらないだろう。
レイチェルの更なる斬撃。
首を失ったデスの肋骨を叩き折り、背骨も割る。
ついに、デスが地に転がった。
頭骨、胸部、腹部に別れた骸骨。
石畳に落ちたまま、ピクリとも動かない。
レイチェルは、剣を構えたたまま観察を続けた。
魔物との戦いは、半ば自分との戦いである。慢心や油断が、致命的なミスを生む。
大鎌が動いた。
閃光のような斬撃。
レイチェルが、油断して近づいていれば、胴から真っ二つに割れていたことだろう。
だが、レイチェルに油断はなかった。
瞬時に高く跳んでそれをかわす。
そこに黒い弾が飛んできた。
転がっていた頭骨が吐き出したものだ。
黒い粘性の球。
レイチェルは、それを反射的に左の手で払った。
激痛が走る。
レイチェルの左手は、肘の先から消えていた。
レイチェルは、即座に『完全回復』の恩恵能力で、怪我を治した。
その間も、大鎌の斬撃と、頭骨が吐き出す黒い弾を、かわし続ける。
左手を治した後も、レイチェルは防戦一方だった。
それほど敵の攻撃は鋭く、間断なく続いた。
そこにさらなる攻撃が加わる。
デスのまとっていたボロ布のような黒衣が、溶けて霧のようになったのだ。
黒い霧は瞬く間に広がり、レイチェルの動きを制限する。
絶体絶命。
もう間もなく『狂乱戦乙女』は殺される。
もし、第三者が見ていたら、そう思ったことだろう。
誰が見ても、レイチェルは押されており、ここから攻勢に転じることは不可能。
ピンチは焦りを生み、ミスにつながる。いつまで、デスの死の攻撃から、逃れつづけられることか。
だが、当のレイチェルに焦りはなかった。
実際、押されているように見えて、彼女は挽回する手を、いくつも残していた。
レイチェルは、敵の攻撃をかわしながらも、ただ観察を続けていた。
頭骨の動き、胸部の動き。動かない腹部までも。
やがて、レイチェルは一つの結論を導き出した。
跳び回りながらも、右手の薬指で輪を描く。
青い光の輪が大きく広がり、レイチェル包む。
輪が半透明の青い球に変わった。
『絶対防御』の恩恵能力である。
『絶対防御』の、青い半透明の球体に包まれたレイチェルは、通路に広がり、障害物と化した黒い霧の中に、踏み込んだ。
青い球が、黒い霧を弾く。
黒い霧の除かれた先に、赤い塊が見えた。
レイチェルの剣が赤い塊を斬る。
布を破るような音が響いた。
浮き上がっていた胸部の骨と、大鎌が、床に落ちる。
頭骨がコロンと転がった。
霧は晴れ、骨が、サラサラと塵となって消えていく。
最後に残ったのは、不気味な大鎌だけである。
レイチェルは右手の小指で輪を描いた。
青い光の輪が現れる。それが大きく広がり大鎌を包む。
宙に文字が浮かび上がった。
魔法語である。
――――――
『死神の鎌』
あらゆる障壁を裂き、命を刈り取る。意志を持ち、自律して動く。主の命令に忠実。
戦神の生み出した最強の武器の一つ。
その魔力からデスという名の魔物を生み出した。デスは異界迷宮を渡り、様々な異界迷宮に現れ、幾多の冒険者の命を刈り取っていた。
現在の大鎌の主の名はレイチェル・サンダーワンド。
――――――
『鑑定』の恩恵能力である。
この世のあらゆる知識があるという、知恵神の書物庫にアクセスして、武器や道具の情報を、得ることができる。
「私の手の中に来てください」
レイチェルは、試しに命じてみた。
大鎌が、フワリと浮き上がり、レイチェルに向かって飛んできた。
長い柄が、レイチェルの手に収まる。
今度は投げてみる。
頭の中で、飛んでいった大鎌が止まり、回転する様を思い描く。
大鎌が、宙でピタリと静止。高速で回転する。
これは使えそうですわ、とレイチェルは思った。
◇◇◇
「デスを倒した?」
金髪の美女が大きな声をあげた。
王都の冒険者ギルドにある応接室である。
レイチェルは、黒い革張りのソファに腰かけ、最近、模様替えをしたらしい室内を見回している。
目の前の美女の、絹糸のようなサラサラの金髪の間からつきでた尖った耳が、ピクピクと動いている。
興奮している証だ。
「デスってのは、要するに死神のことだぞ。分かってるのか。ただの魔物とは違うんだぞ」
ギルド長のリフレッサ・メリン・ルー。華奢で小柄な体に長い耳。
エルフである。
「『鑑定』で調べました」
言ってレイチェルは、目の前の大きなテーブルに、取得した大鎌を出した。
リフレッサが、おお、と身をのけぞらせた。 それから、恐る恐る、といった様子で、鎌を観察する。
高速で呪文を唱え、宙に魔法陣を展開する。
「『上級鑑定』
赤い魔法陣が弾けて、キラキラと輝く紙が現れた。
その輝く紙を手にして、大鎌に近づける。
輝く紙に青く光る文字が記されていく。
おお、おお、うおっ、と、次々と記される文字を読みながら、リフレッサが声をあげる。
「隠し機能、異界迷宮旅行って。使いこなせるのか、こんなもん」
などとつぶやく声。
リフレッサは、最後に、輝く紙を宙に放った。紙が溶けるように、宙に消えた。
どかり、とソファに腰かけて、呆れた顔でレイチェルを見る。
「お前、本当にデスを倒しやがったな」
「強かったです」
「そりゃあ、そうだろ。伝説級の魔物だぞ。今までこいつに遭遇して、死んでいった冒険者の数といったらなあ」
Sランクとは、要するにAランク以上のことである。強さの判定ができないために、Sランクとされている。
これは冒険者も同様。一口にSランクといっても、その強さはピンからキリなのである。
「だがまあ、これで上位ランクの冒険者が死ぬことも少なくなるかもな。大手柄だよ。勲章でもやるか」
「いらないです。代わりにエルフの男を、紹介して欲しいです」
エルフは、男女ともに美形ぞろいである。長寿で老化も遅い。小柄なのがたまに傷だが。
「馬鹿。紹介できる男がいたら、今頃、結婚してるよ」とリフレッサが返す。
毎度お決まりのやりとりである。
『死神の鎌』は、このままレイチェルの所有で問題ないということになった。
レイチェルは、それを『道具箱』に、戻した。
「そうえば、ヴァヴリスから聞いたが、弟子をとったんだってな」
「二人とりました」
「お前、倫理に反するようなことはしてないだろうな」
「意味がわからないです」
「たまに、モテないエルフがやるんだよ。人間の異性を子供の頃から育ててさ。成長過程を楽しみつつ、最後は結婚みたいな。人間の成長は早いからさ」
「エルフはエルフと結婚すれば良いのでは」
「森に引きこもってる連中はいいんだが、外に出たエルフはなあ。欲求不満になるというか、欲望むき出しになるというか。人間に影響されるんだな、どうも。羽目を外す奴が多くなる」
「ガツガツとしたエルフ。……いい」
レイチェルは、肉食系のエルフ男子を想像して、ポッとなった。
「まあ、ガキに手を出すほど落ちぶれちゃいないか。しっかり鍛えろよ。強い冒険者は、いくらいたっていいんだからさ」と話題を戻して、リフレッサ。
「はい、しっかり鍛えます」
言ったレイチェルは、昨日、屋敷に帰還した時のことを思いだした。
◇
結局、四日間も留守にしてしまった。
食料は十分に足りたはずだが、二人とも心細かったのだろう。カルスはもとより、ルインでさえも涙ぐんで出迎えた。
「無事で良かったです」と目に涙を浮かべ、声をつまらせるカルスに、レイチェルはたまらなくなって、彼を抱きしめてしまった。
ルインの方は、「だから言ったじゃねえか。ピンピンしてるってさ」と強がったが、上を向いて涙をこらえている様がいじらしく、レイチェルは彼も抱きしめた。
心に広がる温かい気持ち。
これも、レイチェルが本当に久しぶりに感じる感情だった。