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15.師匠について知る

 レイチェルが、ルインとカルスを弟子にしてから、丸一年が経った日。

 レイチェルは、弟子たちとともに、おめかしをして、貴族街の高級レストランに行った。


 弟子たちは、それぞれにあつらえた上着にシャツ、ベストにズボン。

 レイチェルも、この日ばかりは露出狂鎧ビキニアーマーを脱いで、ドレスを着た。


 真珠色のタイトな仕立てのドレスで、完璧なスタイルを誇るレイチェルに、よく似合っていた。


 着飾ったレイチェルを、呆然と見るルインとカルス。

 四六時中、露出狂鎧ビキニアーマーを着ているレイチェルが、初めて着替えたのだ。


 波打つ長い赤毛が、真珠色のドレスに良く映えている。

 大きな胸の膨らみ、腰のくびれ、長い脚。白い手袋をはめた手は細く、とても冒険者のものとは思えない。


「似合いませんか?」


 レイチェルの言葉に、ルインとカルスは、同時に首をブンブンと横に振った。


「すごく綺麗だ」とルイン。「お姫様みたいだ」


 カルスは、うまく言葉が出てこず、ただただレイチェルを見つめていた。


「君たちもよく似合っています。素敵」


 レストランは、貴族御用達の店だけあって、椅子ひとつとってみても一級品であった。魔法道具で室温を調整しており、さらに匂いまで消し去っている。


 案内された個室は、四階にあり、大きな窓から、街の夜景を見下ろすことができた。

 

 シルクのクロスのかかったテーブル。

 美しいガラスの花瓶に生けられた、色とりどりのバラ。魔法で作られたものだろう。


 隙一つないウェイターが、料理を運んできて、テーブルに置いていく。


「君たちが弟子になって今日で一年が経ちました。二人ともとても強くなりました」

 レイチェルは言って、グラスを手にした。

「素晴らしいです」


「師匠のおかげですよ」

 カルスが言った。

「一年間ご指導ありがとうございました。これからも、よろしくお願いします」


「その、俺たちみたいなのを弟子にしてくれて、ありがとう。本当に感謝してる。もっと強くなるからさ、これからもバンバン鍛えてくれよ」


 これはルイン。照れ臭そうに下を向いて言った。

 それから顔を上げて、よろしくお願いします、と目を見て言った。


「それにしても、まさかSランクだったなんてさ。ずっとCランクだとばかり思ってたんだから」


「おかしいとは思ってたんです。恩恵能力スキルを十指に持ってるのに。それもすごい恩恵能力スキルばかり」


「だいたいCランクの守護者ガーディアンを一瞬で倒しちゃう人が、Cランクなわけないよな。あれで、気づかない俺たちって……」


「本当にそうだよね。だいたい、僕らがCランク魔物を倒せるくらいなのに、師匠がCランクって、そんなわけないじゃないか」



 二人が、レイチェルの真のランクを知ったのは、故郷から戻って一月ほど経った頃のことだった。


 それまで、レイチェルは、弟子たちを街で単独行動させることはなかった。

 買い物などの用事をする際には、保護者気分で同行したのだ。


 ルインが、店員に安く値切ろうと粘ったり、カルスが品物の前で、顎に手を当てて考え込んだりするのを、見るのが楽しかった。


 趣味的な側面だけでなく、実際的な面もあった。


 第一に、物騒であるということ。

 王都は、国内最大の都市だけあって、不埒ふらちやからが多い。

 子供が二人でうろついていると、狙われる危険があった。

 特に、二人とも稀なほどの美少年。良い服も着ている。


 第二に、レイチェルがいた方が便利だということ。

 どんな荷物も『道具箱アイテムボックス』に、収納できる。一瞬で移動できる『転移ワープ』もあるから、時間の短縮にもなる。


 弟子たちの帰郷を機に、レイチェルは考えをあらためた。弟子たちに、もっと自由行動をさせるべきだと思ったのだ。

 それは、彼らが戻ってくるのを待つ間に、抱えた不安に起因している。


 要するに、もし、うんざりとされてしまっていたらどうしましょう、と思ったせいである。

 

「これからは、三日に一度、午後に自由時間を作ります。好きに過ごしてください。買い物をしたり、買い食いをしたり、自由にすると良いですよ」


 そんなことを言われた弟子たちは、戸惑った。

 なにがあったんだ、といぶかしんだ。


「高く飛べるようになるには羽を伸ばす時間も必要です」とレイチェル。


 そういったわけで、三日に一度、弟子たちは、自由時間を与えられることになった。

 とはいっても、二人とも、これといってやりたいことが思いつかなかった。


 今まで、夕方には、レイチェルが市場やいろんな店に連れ回してくれたおかげで、欲しい物は買っている。

 特に知り合いもいないし、見たいものもない。


 当初は、せっかくだから、と二人で連れ立って街を散策したが、すぐに飽きてしまった。

 ルインは、自由時間にもかかわらず剣を振り回して過ごし、カルスは魔法の本を読んで過ごすようになった。


 そんなある日のこと。

 古本屋に買い物にいったカルスは、その帰り道に、男たちに絡まれた。


 十代後半と、おぼしき少年たちだ。

 薄手の革鎧。腰には剣。裾の長い派手なマント。そんな三人組。

 

 弟子たちが自由時間で絡まれるのは、これが初めてのことだった。

 理由は簡単。


 レイチェルが、二人を連れ回してきたおかげで、二人の顔が売れたのだ。


 アウトローたちも、Sランク冒険者『狂乱戦乙女バーサクバルキリー』を、恐れていた。

 レイチェルの無茶苦茶な武勇伝は、数知れず。

 彼女を怒らせ、潰滅した組織は、片手の指では足りない。

狂乱戦乙女バーサクバルキリー』には関わるな、が裏世界の住人たちの共通認識である。


 だが、不良少年たちにまで、その認識は広がっていなかった。

 もし、彼らの兄貴分がこの場にいたら、全力で少年たちを止めただろう。


 こっち来いよ、と路地裏に連れ込まれ、服と金を置いてけ、と凄まれる。


 戦いにもならなかった。


 少年たちは、独学で剣を学んだのだろうが、動きは隙だらけで、重心はブレブレである。

 攻撃をかわしているだけで、勝手に三人とも息を切らして、倒れ込んだ。


 ルインなら面倒くさがって、そのままさっさと立ち去っただろうが、カルスは正義感の強い少年であった。


 彼らに言われるががまま路地裏に来たのも、お灸をすえるためである。

 もし、絡まれたのが自分ではなかったら、とカルスは考えたのだ。

 きっと、身ぐるみをはがされ、辛い思いをしたに違いない。


 カルスは、少年たちを痛めつけた。

 一方的な暴力。

 もちろん手加減はした。少年たちが、カルスに対して行使しようとした暴力に比べれば、穏やかなものである。ただ、威力は比べ物にならなかった。


「いいですか。もし、あなたたちが、もう一度、誰かをこんな風に痛めつけて、身ぐるみをはごうとしたら、その時はもっとひどい目を見ることになりますよ」

 鼻血で汚れた拳を、少年の服で拭いながら、言った。

「僕は人を騙したり、危害を加えて利益を得ようとするような人たちは、大嫌いです。全員死んだ方がいいと思っていますから」


 怯えた顔で、コクコクとうなずく少年たち。


 カルスは微笑むと、少年が落とした剣を拾い、それを無造作に折った。


 ちょっとやり過ぎたかなあ、と反省しながら、気分転換に別の本屋へ向かう。

 すると、そこで、非常に高価だが、興味深い本を見つけてしまった。


 値段を見ろ、値段。

 でも今の僕には買える。

 だけど、やっぱり高い。


 そんな葛藤を二時間ほど。

 すると、本屋の外がガヤガヤとうるさくなった。


 少年たちが入ってきた。

 先ほどの少年たちと、同じようなかっこうをしている。


 うるさいな、なんだよ、とカルスは思った。

 本を買うか買わないかという、ものすごく重要な決断をしようとしているというのに。


「こいつだ」と声。

 見知った顔の少年。顔の下半分に包帯を巻いている。


 カルスは、ため息をついた。微笑みを向ける。

「次は殺すって言ったつもりなんですけど。通じませんでしたか?」


 少年の一人が、乱暴に積んである本を蹴った。

 本の山が倒れる。


 あっ、こいつら殺そう、とカルスは思った。


 本は、人類の文化の結晶である。

 本に敬意を払えない者は人ではない、猿である。だから、本を乱暴に扱う奴は死ぬべきである。

 というような過激な三段論法がカルスの中でなされた。


「外へ出ましょう。大丈夫です。あなた方の顔は覚えました。大丈夫です」

 ふふふっ、と笑いながらカルス。


 外へ出ると、十人ほどの少年が、店を囲んでいた。

 先ほどの二人もいる。カルスの顔を見ると、口汚くののしる。


「あれ、このガキ、どっかで見たことあるぞ」と少年の一人が言った。

「アックスさんが、なんか言ってた気がするんだよなあ」


「アックスさんが? じゃあ、手出しちゃやべえ奴じゃねえの」


 それまで、袋叩きにする気まんまん、という様子で、ニヤニヤとカルスを見ていた少年たちが、ひるんだ。

 それに、カルスに殴られた三人が怒ってわめく。


「おい、ビビるなよ、それでも『ブラックアロー』かよ」


「こんなチビがなんだってんだよ」


「いや、こんなチビにやられてるお前らがなんだってんだよ」


「アックスさんにドヤされるのごめんだぜ」


 なにやら、もめ始めた。


 だが、カルスには、相手が仲間割れしようが、なにをしようが関係がない。

 こいつらは人類の敵。殺す。


 手始めに、本の山を蹴飛ばした少年を殴った。

 かなり本気で殴ったので、少年は数メートル吹っ飛んで、転がり、ピクピクと痙攣した。


 少年たちが、何が起こったのか察する前に、カルスは次の相手を殴っていた。

 その少年は、二メートルほど宙に浮かび、弧を描いて落下した。


「ま、待った。待ってくれ。ちょっと待った」

 最初に、カルスを見覚えがある、と言った少年が大声をあげた。

「思いだしたぞ。『狂乱戦乙女バーサクバルキリー』だ。こいつ、あの『狂乱戦乙女バーサクバルキリー』の連れだよ。絶対に関わるなって、アックスさんが何度も言ったんだ」


 その言葉で、次の相手を殴る寸前だったカルスは、拳を止めた。

「師匠のことを知ってるんですか?」


 だがカルスの問いは、少年たちには届かなかった。

 全員が、ギョッと目を見開いてカルスを見る。見る見る血の気が引いていった。


「『狂乱戦乙女バーサクバルキリー』って、あの露出狂鎧ビキニアーマーのあの……。俺の兄貴、声をかけただけで半殺しにされたって……」


「『レッドホース団』がつぶされたのって、『狂乱戦乙女バーサクバルキリー』を娼婦と間違えたからって聞いたぞ」


「俺、『狂乱戦乙女バーサクバルキリー』は、今、弟子二人に夢中だから、なにがあっても、そいつらに手を出すなって言われた」


 少年たちが口々に言う『狂乱戦乙女バーサクバルキリー』とは、師の二つ名だろう、とカルスは思った。

 なにしろ、ものすごくしっくりとくる。


「『狂乱戦乙女バーサクバルキリー』ってSランクなんだろ。ドラゴンを倒したり、魔王の復活を阻止したりしてるって」


 その言葉は、カルスを大いに動揺させた。


 Sランク。

 師匠がSランク冒険者?

 CではなくS?


 その後、少年たちは哀れなほど怯え、二度とこのようなことは致しませんので、命ばかりはお助けください、と命乞いのちごいをした。


 カルスは、一刻も早くこのことを親友に知らせよう、と、そのことばかりが、頭を占めた。

 結局、彼らをどうしたのか、後から思いだしても、はっきりと思いだせなかった。


 屋敷に戻ったカルスは、庭で一人素振りをするルインに、このことを伝えた。

 ちょうどレイチェルは、仕事で出ており、彼女のことについて話すのは好都合だった。


「Sランク? 本当に?」

 さすがのルインも驚いた。

「Sってあれだよな、要するに最強ってことだよな」


「そうだよ。A以上のランクがS」


「なんか、納得っていえば、納得だよな。あの人が、Cなわけないもんなあ」


「ちょっと冒険者ギルドに確かめにいかない?」


「そうだな。考えてみたら俺たち師匠のこと、全然知らないもんな」


 こうして、二人連れ立って、冒険者ギルドへと向かった。


 途中、カルスは、レイチェルが『狂乱戦乙女バーサクバルキリー』と呼ばれていることを話した。

 それが、どういう意味の言葉なのかも。


戦乙女バルキリーはともかく、狂ってるってなんだよ。師匠はもの凄いまともじゃないかよ」

 ルインがいきり立った。

「ちょっと不器用だけどさ。優しいし、真面目だし」


「なんか、ものすごく怖がられてるみたいだよ」


「ただの戦乙女バルキリーでいいじゃないか。赤髪の戦乙女バルキリーとか」


「でも、乙女って少女のことだし。年齢的にさあ」


「歳なんて関係ない」


 二人が冒険者ギルドに入ると、受付嬢がにこやかに迎えてくれた。

 魔物解体を依頼したり、核石を引き取ってもらったり、とレイチェルに同行してちょくちょく来ているので、すっかり顔なじみである。


「レイチェルさんは、まだ戻っていませんよ」と受付嬢。


「いや、そうじゃなくて」とルインが言いよどむ。


「僕たち、師匠のことが知りたいんです。師匠はあまり自分のことを話さないし、口下手なので。ごく一般的に知られている感じのことでいいんです。みんなが知っていることを、弟子の僕らだけが知らないのも、まずいと思うんです」

 カルスが言った。


「と、いうと、ルイン君とカルス君はどの程度、レイチェルさんのことを知っているのでしょう」

 首を傾げて受付嬢。


「ものすごく強い」


恩恵能力スキルを十個持ってます」


「めちゃくちゃ美人」


「たぶん、上流階級なんじゃないでしょうか。なんか、所作に品があるというか、なんというか」


露出狂鎧ビキニアーマーしか着ない」


「魔法も中級まで使えます。あと魔法道具にも詳しいです」


 なるほど、と受付嬢が、小さくうなずいた。

「確かに、もう少し。せめて、この街の住人の大半が知っているくらいのことは、知っておいた方が良さそうですね」


 言うと受付嬢は、一度奥に引っ込んで、別の女性を連れてきた。

 彼女と受付を交代すると、空いているテーブルに、二人を誘った。


「まずはSランク冒険者レイチェル・サンダーワンドのプロフィールですが……」


「やっぱりSランクなんだ」

 ルインが口を挟む。


「僕ら、ついさっき師匠がSランクだって知ったばかりなんです。『狂乱戦乙女バーサクバルキリー』なんて二つ名があることも」

 カルスが補足。


「……ついさっきですか」

 受付嬢がこめかみを押さえた。

「もう少し、現状把握を早くしましょうね。置かれている状況を、素早く的確に把握するのは、冒険者にとって最重要ですよ」


 はいっ、と素直に返事をするルインとカルス。

 受付嬢は、気を取り直して、説明に戻った。


「レイチェル・サンダーワンドはサンダーワンド伯爵家の一人娘として、七歳までなに不自由のない生活を送ったそうです」


「伯爵? じゃあ、貴族だったの?」


「ですが、サンダーワンド伯爵は政争に巻き込まれて処刑。夫人もあとを追うように、病となり亡くなったそうです。伯爵家はお取りつぶしになりました」


「処刑? お取りつぶし? それじゃあ、あの屋敷は、本当に師匠の家だったんですね」


「ちょうど、レイチェルさんのばあやソレルは、冒険者ギルド運営会議の幹部を務めたこともある凄腕の冒険者でした。レイチェルさんは彼女に鍛えられ、冒険者となったのです。十三歳になったレイチェルさんは冒険者となり、三ヵ月でBランクに。半年でAランクに上がりました」


「三ヵ月でBだって?」


「半年でAランク……」


「彼女の功績を上げればきりがありませんから、特に際立っているものを紹介します。三邪竜の一体、テアマトの討伐。彼女はこれによりSランクに昇格しました。Sランク異界迷宮ダンジョン金剛石塔ダイヤモンドタワー』の攻略。魔王復活を画策していた邪教集団デズモン教団の潰滅。凶悪巨人族ヘカトンケイルとの仲立ち。ローデン帝国に身柄を抑えられたアルテナ王女の奪還」


「三邪竜って、数千年生きてるって言われてる最強のドラゴンですよね……」


「Sランク異界迷宮ダンジョンの攻略って……」


 二人とも、それ以上言葉が続かなかった。すごい人だとは思っていたが、まさかここまでとは。


「現在Sランクの冒険者は大陸で二十二人人いますが、レイチェルさんはその中でも最強だと目されています。彼女に匹敵するのは、すでに引退していますが彼女の師で、やはりSランクだったソレル・メルル・レぺくらいでしょう」



 その日、ルインとカルスはレイチェルが帰るまで、気もそぞろだった。

 どれほどの功績を立てていようと、最強だろうと、師匠は師匠。

 それは間違いないのだが、自分たちが畏怖の気持ちによって、よそよそしい態度になってしまわないかが心配だった。


「いいかい? とりあえず、師匠のことについて知ったことは、気にしないでいこう。これまで通りでね」


「ああ。わかってるよ。でも、変に構えちゃわないかなあ」


「君、そういうの下手だもんね」


「悪かったな」


 だが、二人の懸念は杞憂きゆうに終わった。

 やや強張った顔で、レイチェルを迎えた弟子たち。

 レイチェルが、お土産です、と道具箱アイテムボックスから取り出したのは、ひと抱えもある硬そうな卵だった。


「こ、これ、なに?」

 薄赤いまだら模様の卵に触れて、ルイン。


「ドラゴンの卵、ですよね」

 カルスが言った。


「はい、ドラゴンの卵です。エルフィネル、これは大樹海のエルフの王国ですが、そこから依頼されてドラゴンを退治してきました。雌竜が産卵すると雄竜は一時的に凶暴化します。なので、産卵後の雌竜の最初の仕事は、雄竜を追い出すこと。ただ、この卵を産んだ雌竜は雄竜に殺されていました。こうなると、雄竜はもう正気には戻りません。あらゆるものを殺戮さつりくし、破壊します。邪竜や魔竜と呼ばれる危険な存在となります」


 一通り説明をしてから、レイチェルは、どうします、と二人に聞いた。


「ど、どうするって?」


「この卵についてですよね」


 レイチェルは、一度置いた卵を持ち上げて、言った。

「目玉焼きか、オムレツか。それともゆで卵がいいでしょうか? 私もドラゴンの卵を食べるのは初めてなので、ドキドキします」


「食べるの?」


「た、食べるんですか?」


 レイチェルが、不思議そうに首をかしげる。


「はい。そのために持ち帰りました。エルフィネルでの宴を断って、戻ってきたんですよ」

 そこで、はあ、とため息をつく。

「エルフの美形男子に囲まれたかったですが……」


 まず、ルインが吹き出した。

 レイチェルに、畏怖を感じてよそよそしくならないか、などと心配していたことが馬鹿馬鹿しくなったのだ。

 それにカルスも続く。


 二人で大笑いした。


 卵を抱えたままポカンとする、レイチェル。

 ルインはついにたまらずに、レイチェルに言った。

「し、師匠って、Sランクだったんだね」


「はい、そうです。これでも最強です」

 それが何かという顔。


「三邪竜を倒したって聞きました」


「はい。頑張りました」

 やはり、だからどうしたという顔。


「やっぱり、師匠は師匠だなあ」

 ルインは言って、また笑い続けた。

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