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14.レイチェルは弟子の帰りを待つ

「聞いてた話と違うじゃねえか」

 青年の戦士が怒鳴った。

 怒鳴りながら鎧姿の骸骨、スケルトンナイトの剣を受ける。


 そのスケルトンナイトの、兜におおわれた頭部に、矢が当たった。

 直後にスケルトンナイトが、白い炎に包まれ、溶けていく。


「怒ってないで、集中」

 弓を構えたエルフの少女。

 次の獲物に向けて、矢を放つ。


 剣と盾と鎧で武装したスケルトンナイトは、まだ何十体といる。

 戦士とエルフの後ろでは、白い神官衣の男がメイスを振るって、呪文を詠唱する魔法使いの女を守っている。


 黒い石造りの廊下。

 通路の幅も天井も広く、戦うには十分すぎるスペースがある。

 だが、それが災いして、四人は魔物に囲まれていた。


 Aランクパーティ『よい明星みょうじょう』。

 大都市フランデルタを、拠点とする冒険者である。


 ギルドの依頼で、Aランクの異界迷宮ダンジョンを攻略にきたのだが、次から次へと強力な魔物が現れ、苦戦している。


「ぜってえ、これSランクだろ」


 戦士が言いながら、スケルトンナイトを斬りつける。

 剣でいなされた。


 スケルトンナイトは、Aランク魔物である。

 それが、二十体近く現れ、しかもその指揮をとっているのは、黄金の鎧に光る剣を持ったスケルトンナイト。

よい明星みょうじょう』の面々は、あんな特別なスケルトンナイトは見たことがない。


「リック、『不死魔物返ターンアンデットし』。もう、魔法を温存してる状況じゃない」

 エルフの少女が、言った。


「了解しました」


 メイスを振るってスケルトンナイトをけん制していた神官の男が、片手を、首から下げたアミュレット(円に十字の入ったマーク)に添え、祈り始める。


 そこへ、スケルトンナイトが攻撃をかける。


 戦士が慌ててフォローに入るが、おかげで、彼が相手取っていた前面の二体が、フリーになった。


 戦士の背後を襲う。

 エルフが、蹴りで、それをけん制。 


「『超衝撃波スーパーショックウェイブ』」

 魔法使いの女が、叫んだ。


 宙に描かれていた魔法陣が、赤い閃光を発してはじける。

 光の爆発のあとに残ったのは、半透明の地図。

 通路と敵、パーティの配置がマークされている。


 魔法使いが、素早く味方のマークを指でなぞり、黄金鎧のスケルトンナイトのマークを指でついた。


 上級風魔法の『超衝撃波スーパーショックウェイブ』が、黄金のスケルトンナイトを中心に、炸裂。

 音が消え、無音の世界で、スケルトンナイトがバラバラになっていく。


 スケルトンナイトは、斬撃や打撃、魔法には強いが、稼働骸骨スケルトンの性質上、全身に受ける衝撃には弱い。

 地面には、衝撃波によって解体された骸骨と、鎧が散乱する。


 立っているスケルトンナイトは、もういない。

 ただのスケルトンナイトは。


「そんな、わたくしの『超衝撃波スーパーショックウェイブ』が効かないですって……」


 魔法使いは、何事もなかったように立つ黄金の鎧を着たスケルトンナイトを、呆然と見た。


 黄金鎧のスケルトンナイトが初めて動いた。

 ゆっくりと歩き出す。

 背中の真っ赤なマントが、ユラユラとなびく。


よい明星みょうじょう』の面々は、初見の魔物が発する圧力に下がった。


 黄金鎧のスケルトンナイトが消えた。


 次の瞬間、黄金の軌跡が、四人の間をすり抜ける。


 四人の背後に、剣を振り上げた姿勢で静止する、黄金鎧のスケルトンナイト。


 四人の体から、血しぶきがあがった。

 腹から上下二つに割れる、戦士と神官。

 腹に裂傷を負い、内臓をあふれさせるエルフの少女。

 杖を腕ごと床に落とす魔法使い。


「な、なに、なにが起こった……」

 エルフの少女が、腹を押さえながら、うめく。

 

「つ、強すぎる」


 魔法使いの女は、振り返り、黄金鎧のスケルトンナイトを絶望の表情で見た。

 背を向けているため、目に入るのは、血を塗り固めたような真っ赤なマント。


 黄金鎧のスケルトンナイトが、ゆっくりと振り返った。


 魔法使いの女は、切断され、血を吹き出す左腕を押さえながら、ガチガチと歯を鳴らした。

 確実な死が目の前にある。


 その時、黄金鎧のスケルトンナイトが再び、背を向けた。


 光る剣が、虚空に振り下ろされる。


 何かが、それを遮った。

 光がはじけ、スケルトンナイトが大きく後ろに下がった。


 黄金鎧のスケルトンナイトの奥に、人が立っている。


 魔法使いの女は、その人物が、裸体なのかと思った。

 よく見ると、胸と股の周辺を申し訳程度に隠した鎧を、着ている。


 魔法使いの女の脳裏に、その人物の名が思い浮かんだ。

 露出狂鎧ビキニアーマーを着た最強の女戦士。『狂乱戦乙女バーサクバルキリー』レイチェル・サンダーワンド。


 黄金鎧のスケルトンナイトと、レイチェルの戦いが始まった。


 黄金鎧のスケルトンナイトが、光る剣を持っているなら、レイチェルも同様に剣に光をまとわせている。


 両者の光の剣が、激しく乱舞し、互いの剣を、受け、流す。

 時に、姿を消し、時に宙高く飛翔し、激闘を続ける。

 

「ルー、今のうち」


 エルフの少女が、魔法使いの女の切断された腕を持って、それを傷口につなげようとする。

 彼女自身の傷は、塞がっている。


 エルフの少女が、治癒魔法を使い、魔法使いの腕を治す。


 その間にも、レイチェルと黄金鎧のスケルトンナイトは、攻守を何度も入れ替え、互いに一歩も引かずに、剣を合わせている。


「レイチェル・サンダーワンド。さすがにすごい」

 エルフの少女が言った。


「わたくしたちとは、次元が違いますわね」と魔法使いの女。

 傷は塞がったが、血を流しすぎ、顔色が悪い。


 最初こそ、レイチェルとスケルトンナイトの戦いは互角に見えたが、次第に、レイチェルがゆとりを、スケルトンナイトが焦りを持っているのが、はっきりと見えてきた。

 明らかに、天秤はレイチェルに傾いている。


 やがてレイチェルの光の剣が、黄金鎧のスケルトンナイトを、縦に真っ二つに割った。

 敵は、床に崩れる前に、サラサラとちりのようになって、消えた。


 後に残ったのは、魔物が羽織っていた真っ赤なマントだけ。


 レイチェルは、首をかしげて赤いマントを眺めた。

 恩恵能力スキルの一つ、『鑑定エキスパートオピニオン』を使ってみる。


――――――

『ヘルナイトのマント』

 あらゆる魔法を跳ね返す障壁を作る。

 縮小と拡大が可能。意志を持ち自律して動く。主の命令に忠実。

 戦神いくさがみの生み出した最強の武具の一つ。

 その魔力からヘルナイトという名の魔物を生み出した。

 ヘルナイトは異界迷宮ダンジョンを渡り、幾多の冒険者の首を取ってきた。現在のマントの主の名はレイチェル・サンダーワンド。

――――――


 以前、デスから得た『死神の鎌』と同じような鑑定内容だ。

 なにか、二つの魔物につながりがあるのだろうか。


 そこで、エルフの少女と魔法使いの女性が、自分を見ていることに気づいた。

 見れば、二人ともすでに怪我を治している。

 顔見知りではないが、この異界迷宮ダンジョンに来たのなら、Aランクだろう。


 レイチェルは、『ヘルナイトのマント』を道具箱アイテムボックスに放り込むと、二人に近づいた。


 緊張して、レイチェルを見る二人。

 レイチェルは、そのまま一言も発せずに脇を通り過ぎる。


「お待ちなさい」

 魔法使いの女が、呼び止めた。

「わたくしたちを、このままにしていくおつもり?」


 レイチェルは振り返った。

「何か手助けが必要ですか?」


「この有様を見てわかりません? 仲間二人は死んでいるし、わたくしもこの人も、深手を負っていますわ」


「私は『蘇生魔法リサレーション』はできません」


「外に出るまでご同行願えませんこと? それとも急ぎの用がおありかしら?」


「最近、この異界迷宮ダンジョンに入ったきりの冒険者が多いので、骨を拾いに来ただけです」


「でしたら、わたくしたちも拾ってくださらないかしら?」


 無表情だったレイチェルが、クスリと笑った。

「面白い冗談です」


 骨になっていないのに、拾ってくれという表現に、レイチェルは面白みを覚えたのだ。


 しかし、交渉した方は、レイチェルの態度を拒否ととらえた。


「なっ」

 魔法使いの女が、青ざめていた顔を赤らめる。


 それを手で制して、エルフの少女が言った。

「きちんと報酬は払う。それならいいでしょう?」


「必要ありません。相互扶助は冒険者のマナーですから。外まで送ります」


 エルフの少女も、魔法使いの女も、わけがわからない、という顔だった。


「鎌、来てください」

 レイチェルがつぶやく。


 宙に縦の一本線ができた。


 そこから大きな鎌が出てきた。

 レイチェルが以前、デスという魔物を倒して手に入れた『死神の鎌』だ。

 わざわざ道具箱アイテムボックスを開かなくても、呼べば、いつでも手元にやってくる。

 恐らく、『ヘルナイトのマント』も、同様の能力を持っているのだろう。


 レイチェルは、鎌を両手で握ると、大きく斜めに振りかぶった。

 そのまま振り下ろし、グルリと下で弧を描いて、上に持っていき、もとの位置に戻す。


 宙に、楕円形の赤い光の軌跡が、残った。


 まるで空間に穴が開いたかのように、楕円形の中だけ、景色が変わっている。

 同じ黒石の通路なのだが、明らかに場所が違う。


「ここをくぐれば玄関口の側に出ます」


『死神の鎌』の能力は、異界迷宮ダンジョンを自在に移動できる、というもの。

 異界迷宮ダンジョンでは通常、『帰還リターン』や『転送ワープ』などの魔法や恩恵能力スキルは無効化されるため、大変貴重な能力である。


 驚く二人に別れを告げると、レイチェルはさっさと立ち去った。




◇◇◇




「またかよ。ヘルナイトっていったらなあ、伝説級の魔物だぞ。こんなやばそうな物を持ち帰って」


 リフレッサが、テーブルの上に置かれた赤いマントを、見て言った。


「そこそこ強かったです。鍛錬の相手にちょうど良かったです」とレイチェル。


 他者からは、激闘に見えたヘルナイトとの戦いだが、レイチェルはちょうどよい鍛錬相手だと思って、剣技の練習台にしていた。


 レイチェルほど突出した強さになると、鍛錬相手にも、ことかくようになるのだ。


「そこそこって……。まあ、いいけどさ」


 呆れ顔のリフレッサ。それから考え込むような顔で、赤いマントを見る。


「最近、上位ランクの冒険者がいなくなってたのは、こいつやデスのせいだろうな」


 レイチェルの元へ、やたらと、AランクやSランク冒険者の捜索依頼が来る。

 今回も、いくつかのAランクパーティを探しに、異界迷宮ダンジョンに潜ったのだ。


「どうもおかしいな。デスもヘルナイトも、滅多に遭遇するような奴らじゃなかったんだ。私だって、噂で聞いた程度なんだぞ」


戦神いくさがみは迷惑な武具を作りましたね」


「神々は限度を知らないからなあ」


 言いながらも、リフレッサは、『上級鑑定ハイエキスパートオピニオン』をしてくれた。


 例によって、鑑定結果が記された半透明の紙を読む。


「おいおい、ことわりの書き換えをリセットって。なんつうチートな……あれっ、これは」

 リフレッサが顔を上げた。

「レイチェル、『死神の鎌』を出してくれ」


 レイチェルは言われた通り、『死神の鎌』を呼んだ。

 空間を斬って、大鎌が現れる。


「ほら、ここに書いてあるんだよ。『死神の鎌』『ヘルナイトのマント』は魔王デベルドアス復活をたくらむ者たちが利用したって。一緒に鑑定すれば、もっと詳しく分かるかもしれない」


 リフレッサが再び、『上級鑑定(ハイエキスパートオピニオン』の魔法を使う。

 今度は、『ヘルナイトのマント』だけでなく、『死神の鎌』も同時に鑑定する。


 閃光とともに現われた半透明の紙。

 それを手にしたリフレッサが、うめいた。

 見る見る、顔から血の気が引いていく。


「なんて書いてあったのですか?」


 レイチェルの問いに、リフレッサはしばらく答えなかった。

 やがて、大きなため息を吐いた。


「魔王デベルドアスの復活は、もう間もなくだそうだ。魔王の露払いとして、高ランクの冒険者を狩っているらしい。『戦神いくさがみの加護』って恩恵能力スキルを持ってる奴がいて、そのおかげで、デスとヘルナイトを使役できたらしい」


「魔王が復活する?」


「前にお前がやっつけた連中とは、別の組織らしい。まったく、どいつもこいつも。魔王なんか復活させてどうしようってんだ」


「今から阻止することはできないのですか?」


「もちろん、最善は尽くすが。なにしろ情報が少なすぎる。誰が、どこでってのが欠片もわからないんじゃな。ヒントといえば『戦神いくさがみの加護』の恩恵能力スキルだが、かといって目立つような恩恵能力スキルじゃないしなあ。誰彼構わず『恩恵能力看破スキルリーディング』をするわけにもいかないしなあ」

 リフレッサが、またため息をついた。


 お前にも、これからいろいろ頼むことになりそうだ、と言って、リフレッサは席を立った。

 魔王復活のきざしありの情報を、王や、各国の冒険者ギルドに、報せにいったのだろう。


 冒険者ギルドを出たレイチェルは、酒場にも寄らずに、屋敷に戻った。

 弟子たちがいなくなってから、どうにも気が乗らなかった。

 以前は、マン・ハントに燃えていた情熱が、まるで湧かない。


 その代わり、ルイン君とカルス君は今頃、故郷についたでしょうか、とか、私のことを忘れてしまいはしないでしょうか、とか、ことあるごとに、弟子のことばかり考えてしまう。


 あるいは、弟子たちを鍛えるためのプログラムを練ってみたり、彼らの戦闘訓練ために『魔法人形マジカルドール』を調整したり。

 自分で提案した弟子たちの帰郷だが、レイチェルは、寂しさで一杯になっていた。


 弟子たちに余暇を与えてから、四週間が経っている。

 そろそろ帰ってきても良い頃合い。


 レイチェルは期待しながら屋敷に戻った。

 だが、といおうか、屋敷に明かりはなく、二人に出会う前の静寂があった。

 

 レイチェルは、小さくため息をついた。

 早く戻って来てほしいです、ルイン君、カルス君。


 片側しかなかった玄関扉は、補修されている。

 ルインとカルスが板を拾ってきて、大工仕事をして付けたのだ。


「これは仮ですからね。そのうちにちゃんと直します」と、出来栄えに不満顔のカルスが、言っていた。


 玄関ホールも、だいぶ片付いた。

 壊れたシャンデリアや破れた絵画は、片付けられてスッキリした。

 ルインとカルスが、毎日掃除してくれているのだ。


 レイチェルは、そんな必要はない、と言ったのだが、ルインは呆れた顔で言った。


「自分のためにやってるんだよ。俺たちの家なんだからさ」


 二階に上がると、たくさんの犬猫が寄ってきた。金属サソリのデススコーピオンもである。


 レイチェルは、彼らを撫でてやりながらも、ルインがデススコーピオンとたわむれる姿や、カルスが犬と走り回る姿が思い浮かんだ。


 ペットたちもどこか寂しそうだ。


 特にルインに良く懐いていたデススコーピオンは、ハサミをやたらとカシャカシャ鳴らして、友人の帰りを待ち望んでいる。


 ルインとカルスの部屋に入る。

 二人が出ていった朝のまま。


 ルインが買ったクロスボウや盾、甲冑。カルスの本や魔法道具。

 それらが、新設した棚に入っている。


 レイチェルは、二人のベッドに交互に腰かけては、ため息をついた。

 ルインの買った甲冑に、付与魔法エンチャントマジックをかけたり、カルスの魔法道具を改造したりして、時間をつぶす。

 なんだか、時間を持て余して仕方がないのだ。


 二人に出会う前は、暇などとと、考えたこともなかったのに。


 夕食は食べなかった。

 食堂に行って、道具箱アイテムボックスから出来上がった料理を出すだけなのに、それすら億劫おっくうだった。

 そのまま弟子たちの部屋で、ため息をついたり、細々とやることを見つけたりして、過ごす。


 やがて、夜も更けた。

 今日も帰ってきませんでした、とレイチェルは不貞腐ふてくされた気持ちで、ルインのベッドに寝転がった。 

 

 二人がちゃんと戻ってきてくれるか、不安だった。

 家族と和解して、そのまま幸せに暮らすのではないか。


 そもそも、ルインは、口減らしのために家から出されたのだ。ルインが大金を持って帰れば、問題は解決。

 カルスも、一人では戻ってこないかもしれない。


 今更ながら、自分が、きちんとした師ではなかったことを悔やむ。

 いや、きちんとした大人ですらない。

 そもそもが、二人を弟子にした理由からして、ろくでもない。

 そんなことを欝々(うつうつ)と考えていると、泣きそうになった。


 一人きりの屋敷は寂しすぎる。



 夢を見た。

 弟子たちは、いつまでも帰ってこず、そのまま何年も過ぎた。

 レイチェルは、とうとう我慢できなくなり、彼らの村へ行った。


 立派なイケメンになったルインとカルスが、それぞれ結婚し、幸せそうに暮らしていた。


 レイチェルは、それを見て、声すらかけることができなかった。


 二人が幸せそうで、嬉しいのに、とても寂しい。

 むなしい。

 自分のことを忘れているのが悔しい。



 目を覚ましたレイチェルは、しばらく夢の余韻に浸りながら、そのまま天井を眺めていた。

 結局、ルインのベッドで眠ってしまった。


 二人が屋敷を出てから、十日目くらいから、日替わりで、ルインとカルスのベッドを、使うようになっていた。


 夢のせいで、憂鬱な気分のまま、日課のトレーニングをする。

 ひと通りこなして、体を洗ったら、気分もサッパリとした。

 大丈夫。今日こそ、二人は帰ってきますわ。


 冒険者ギルドに顔を出すと、リフレッサに呼ばれた。

 魔王復活の件は極秘に、と釘を刺される。


「各国で調査を進めることになった。『戦神いくさがみの加護』の恩恵能力スキルについては、戦神いくさがみ教に、詳しい情報を確認するそうだ」


 レイチェルは、魔王が復活したら忙しくなりそうで嫌ですわね、と思った。

 弟子の指導がある。魔王を相手にしている暇はないのだ。


 特に仕事はなかったので、屋敷に戻った。


 以前ならば、良い出会いを求めて、むやみと繁華街を歩いたり、店に入ったりしたのだが、今やすっかり落ち着いてしまった。


 屋敷に戻り、そろそろ帰ってこないだろうか、と門の前に立って待つ。

 そうしていると、時間の流れが酷く遅い。

 

 昼になる。

 昼食を食べに街に出てた。

 南門の近くの料理屋である。戻ってきた二人に会えるかもしれない。


 もちろん、ルインもカルスもいなかった。

 その代わり、旅の冒険者とおぼしき三人の青年が、話しかけてきた。


 彼らは、レイチェルのことを知らない様子で、かなりフランクな態度だった。

 三人とも見栄えが良く、自信にあふれていた。

 以前のレイチェルだったら、垂涎すいぜんの獲物だっただろう。


 レイチェルに、自分たちの強さをアピールする戦士の青年。

 それを茶化しながらも、密かに持ち上げる魔法使いの青年。

 二人とも迷惑だよ、と言いながらも、レイチェルとの距離が近い、神官の青年。


 あっ、とレイチェルが声をあげた。


 次の瞬間、青年たちが吹っ飛んでテーブルを倒す。

 レイチェルの姿はすでに店外にあった。


 通りを歩いていた二人の少年に、飛びついている。

 照れ臭そうにしながらも、金髪をかく少年。

 真っ赤な顔で笑顔を浮かべる、黒髪の少年。


「おかえりなさい」

 レイチェルの輝くような声が、通りから聞こえた。

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