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18 和解②


 今まで溜めていた思いを吐露するように、彼の口からは淡々とユーフェミアへの言葉が続く。



「好き。本当に好き。大好き。絶対に離さない。ユーフェミアは一生、僕のものだ。愛してる。僕を好いてくれてありがとう。天使だ。いや、女神。本当に可愛い――ってユーフェミア!?」



 ヴィクターはあまりにもユーフェミアの反応がなくて、慌てて腕の力を緩めた。

 ユーフェミアの顔は真っ赤で、顔の中心からはもっと真っ赤な血が流れていた。手で抑えていたため制服は無事だが、手は真っ赤だ。



「使って」



 そう渡されたハンカチはイニシャルが入った既製品のハンカチ。



「ありがとうございます。でも手紙では私が贈った刺繍入りハンカチを持ち歩いてると書いてあったのに……嘘つきですね」

「そんなことないよ。普段はお守りとして、使わずにポケットに入れたままだからね。君がくれたハンカチを汚すなんて無理だよ。一枚も捨てることなく、保管しておいてあるほど大切なんだ」



 ヴィクターはポケットからユーフェミアが贈ったハンカチを取り出し、愛おしそうに刺繍に口づけをした。

 彼女の鼻からの血がドバっと流れた。



「うっ」

「ユーフェミア? 大丈夫かい?」

「申し訳ございません……ヴィクター様の……この世で最高峰の顔から、こんなにも愛を伝えられてしまっては、心と血管が耐えられません」

「そんな! まだこれからなのに!」



 ショックを受けた顔100点――と思いながら、彼女はハンカチで鼻を押さえた。



(困ったわ。愛の圧に私の方が耐えられなくなるなんて……以前までと、今のギャップに興奮して、血圧が上がりすぎてしまう。顔面だけだったから今までなんとかなっていたのね。血管のためにも、慣れが必要ですわ)



 ユーフェミアはすすっと、ヴィクターから距離を取った。

 追いかけるように彼の手が伸びてくるが、血のついた手のひらを向けて制する。



「ヴィクター様、しばらくはユーリに接するような感じでお願いしたいのですが」

「無理だ。両思いだと分かった今、目の前に愛しいユーフェミアがいるのに、もう我慢なんてできない。ユーリの姿でも、ギリギリだったのに」

「つまりユーリの姿なら、ギリギリ我慢できるのですね?」

「まさか……」

「しばらくは放課後、ユーリの姿でお会いしましょう?」



 ユーフェミアは満面の笑みを浮かべて、ヴィクターに告げた。



 一週間後の放課後、ふたりは学園外の街へと出かけることにした。

 先日のテストの結果だが、ヴィクターは学年では二位だったものの学部一位。ユーフェミアはなんとか学部で成績上位者に選ばれた。


 勉強を教えてもらったお礼のリクエストを彼に聞けば、「女の子のユーフェミアとデートがしたい」と言われ、ユーリという鎧は簡単に奪われてしまった。



「ヴィクター様、その表情……少し抑えてください」

「どうして? 僕の顔嫌い?」

「いえ、ものすごく好きですけど……!」



 カフェでお茶をしているのだが、正面に座る彼は幸せオーラを隠すことなく、今にも「大好き」と聞こえてきそうな笑みをユーフェミアに向けている。

 その笑みは日に日にパワーアップしているように見えるのは、気のせいではないだろう。

 たった一週間で血管が鍛えられるわけもなく、彼女は懸命に顔の熱を逃がそうと、冷たいドリンクを追加注文した。



「照れるユーフェミア、本当に可愛いな」

「〜〜っ」



 まさにヴィクターが凶器そのもの。美しい容姿と愛の言葉という矢が、容赦なくユーフェミアの心臓を射抜いていく。



「ですから、少しは加減を」

「もう浮気なんて疑われたくないからね」

「根に持っていらっしゃいますね」

「弱みは利用していくものだよ?」

「腹黒めっ! だが、そこも良い!」

「ふふっ、こんな僕を良いと言ってくれるのはユーフェミアだけだよ。本当に好き」



 ついにユーフェミアは耐えきれず、ハンカチを鼻にあてた。

 ヴィクターは、その情けない顔すら愛おしいと言わんばかりの表情で見つめる。



(やっはり血管を鍛えないといけないようですわね。ヴィクター様の甘いお顔が出ないよう、もっと男性らしい男装を研究しなければ……!)



 そうユーフェミアは決意したものの、逆にヴィクターの『そんなことされたら、余計にユーリの鎧を剥がしたくなる気持ち』を煽ることになり、彼女は溺愛の包囲網からは逃げられなかったのだった。



END



これにて完結です。

お読みくださり誠にありがとうございました!

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