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17 和解①

 

「ユーリ君がいるのにどうして? ヴィクター様もユーリ君がかけがえのない存在だって言っていたではありませんか!」



 ジョゼットは絶望した表情を浮かべ、ヴィクターに迫った。



「ユーリの正体はユーフェミアだよ。彼女が男装した姿がユーリなんだ」

「なんですって?」



 ジョゼットを始め、他の女子生徒も驚愕の表情を浮かべた。

 もちろんユーフェミアも、正体がバレていることを知って驚きが隠せない。



「最初、ユーフェミアが僕を驚かそうとしたんだろうね。必死に隠しながら僕の近くにいるものだから、その姿があまりにも可愛くて、愛おしくて、いつまでも見ていたくて、正体を知っていることを言えなくなってしまったんだ」

「ではヴィクター様がユーフェミア様を避けていたのは」

「だって可愛いユーフェミアが必死に隠しているんだよ。気づかないふりをしてあげるのが、優しさかと思っていたんだけど……どうやら、それが何よりも大切なユーフェミアを害する人間を生み出す原因になったとは、自分が許せないなぁ」

「ひっ」



 ヴィクターは見本のような美しい笑みを浮かべた。

 責められた訳ではないのに、それを見たジョゼットたちユーリ親衛隊は顔を青ざめさせた。

 一方でユーフェミアの顔は真っ赤に染まった。


 ふたりきりになって、ヴィクターに聞きたいことがたくさんある。そのためには、まずこの場を収めなければいけなかった。

 ユーフェミアはジョゼットの手を両手で包み込んだ。



「私の行いのせいで、振り回してしまったようですね。知らなかったとはいえ、申し訳ありません。どうしたら許してくれるかしら」

「そんな、わたくしたちが勝手に勘違いを」

「それでも、ですわ。そうだわ! 今度ユーリの姿でお茶に誘っても? 容姿を褒めてくれたことは、とても嬉しかったから」

「ユーリ君とお茶会!?」



 ユーフェミアは眼鏡を外し、前髪を耳にかけながらコテンと首を傾けた。



「えぇ、俺と……どう? 駄目ですか?」

「きゃー! 喜んで!」



 ジョゼットたちは元気を取り戻したように、頬を薄紅色に染めた。



「では、今度お手紙書きますね」

「はい! お待ちしております。失礼しましたわ!」



 ユーリ親衛隊はきゃっきゃ言いながら、庭園から去っていった。



(本当にこの学校は勉強さえすれば恋愛も変装も自由なのね)



 そう感心しながらユーフェミアはメリル率いるもうひとつの親衛隊に「ヴィクター様とふたりで話したいから」と伝えて、解散してもらった。


 嵐が過ぎ、庭の東屋にはユーフェミアとヴィクターのふたりだけ。

 それとなく隣り合うようにベンチに座った。数日前までユーリとして隣りに座っていたのに、ユーフェミアとして座るのはもう一年以上ぶりのことで緊張してしまう。



「ヴィク――」

「ユーフェミア、好きだ」

「え?」



 沈黙からの突然の告白に驚き、横を向いた。

 ヴィクターは今にも泣いてしまいそうな表情で、ユーフェミアを見ていた。

 ユーリではなく、ユーフェミアに対しても感情を露わにしてくれる彼の姿に、胸の奥がキュンと高鳴った。



(でもユーリが私と同一人物だと知ったからだわ。きっとそうではなかったら、こんな表情は見せてくれない……)



「分かりましたわ! 可能な限り男装を――」

「関係ない。男装してても、そのままでも、君である限り大好きなんだ……」

「まさか。だってユーリとして合う前――留学前はそんな素振り、微塵もなかったではありませんか」

「信じてもらえないかもしれないけど、僕は出会った頃から君のことがずっと好きだったんだ。だけど伝わってなくて、それが僕の無表情が原因だと知って、君に好かれたくて、無表情を治すために留学までしたんだ。そうでもなければ、ユーフェミアと長期間会わずに我慢する選択なんて、できっこないじゃないかっ!」



 言葉尻を強め、訴えるような彼の姿は初めて見る姿だった。



「本心を言っておりますの?」

「嘘をついてどうする……どうすれば信じてもらえるんだ? こんなにも、ずっと思いを寄せているのに! 好きなんだ……こんな勉強しか能がない僕を受け止めてくれるのはユーフェミアしかいないんだ。最初は側にいてくれれば、君の笑顔が見られれば良いと思っていたけれど、やっぱり好かれたいんだ」



 いつも沈着冷静で、感情を一切表に出さなかった彼だからこそ、その訴えは真に迫るものがあった。けれど感情は表に出ていなかっただけで、ずっと心の中では騒がしく暴れていたに違いない。こんなにも喋るヴィクターの姿も珍しいのだから。


 ユーフェミアの中から疑いは消えていた。



「どうして……私は今まで気付けなかったのかしら。ヴィクター様のこと、誰よりも見ていたつもりでしたのに。ごめんなさい」

「なんで謝るんだい? 感情が見えるようになって、逆に失望した? 情けない顔は嫌い?」

「いえ、ヴィクター様のお顔はどんな顔でもドストライクです! ってそうではなくてですね……」



 思わず出た本音に、自分の面食い具合が忌々しく感じてしまう。



「嬉しいのです。私のためにこれほどまで頑張ってくださったということが。私がヴィクター様を追いかけてきた理由はご存知ですか?」

「僕が寂しがっているから、気遣ってくれたんだろう?」

「表向きはそうです。でも実は浮気調査のためです」

「――は?」



 呆けたヴィクターに、ユーフェミアは留学に至るまでの経緯を説明した。



「そんな……素直な気持ちを綴った僕の手紙が、そのような誤解を生むなんて」

「本当に、申し訳ありません。そのときは本当にショックだったのです……裏切りだと。私は義務を果たしているのに、ヴィクター様は放棄したのだと。でも今思えば、認めたくなかっただけで、ひどく嫉妬していたのです」

「嫉妬……?」

「だって好きだと自覚したら傷つくでしょう? 愛されていないのが分かっていて、一方的に愛するなんて耐えられませんわ。だからムキになって証拠を集めて婚約破棄をしようと……馬鹿ですよね、ふふふ」



 ユーフェミアはヴィクターの手を握り、満面の笑みを浮かべた。



「でも、もう素直になりますわ。ユーリとして一緒にヴィクター様と過ごして、新しい表情が見られて、優しさに触れて、すっかり夢中なんです。こんな私だけれど、これからも好きでいてくれますか? ヴィクター様、大好きです」

「ユーフェミア!」



 ヴィクターに抱き寄せられ、彼女の体はすっぽりと彼の腕の中に納まった。


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