プロローグ
六月上旬、パラパラと雨を降らす暗い色の空、道行く人々の足音、変わらない通学路、終わりの見えない工事現場、塀の上に寝そべる猫ですら何もかもいつも通りだ。
チャイムの音が鳴り授業の始まりを知らせる。板書を写しマーカーを引く、先生の声とペンを走らせる音が教室に響く。時間が経つにつれて段々と強くなっていく雨の音に耳を傾け、窓の外をぼーっと眺める。
そういえば最近雨の日ばかりだなと思い何日前から降っているのか考えてみたが思い出せない、例えば一昨日の晩御飯が何か思い出そうとしてる時のような、あるいは朝確認したはずなのに次の時間割を聞かれた時に一瞬戸惑ってしまうよな、そんなもどかしい気分。あれやこれやと考えているうちに終わりのチャイムが鳴った。
昼休み、クラスメイトの話しや笑い声が翔び交うなか周りの雑音を消したのは紐付きのイヤホン、一昔前に流行した曲を聴きながら今日も売店で買った菓子パンを頬張った。午後の小テストに向けて徐にノートを取り出したが、気力が湧かず重力に身体を預けて机に突っ伏し重い瞼を閉じる。
何十分、いや何時間そうしていたのか体を起こし辺りを見渡す、戻されずに散らかった椅子、列の乱れた机、明かりのついていない薄暗い教室、何が書いてあったのか読める程に強く残ったチョークの跡、人一人いる気配がない。昼頃見ていた雨はいつの間にかグラウンドに大きな水溜りを作るほどの土砂降りになっていた。
朝見てきた天気予報がなんて言ってたかなんてこの寝ぼけた頭では思い出せる訳もなく、この不自然な状況から逃げようとしたのか教室を出ようと立ち上がろうとしたとき、不意にイヤホンが耳から外れたと同時に鳴った雷は目を覚ますと共に心を恐怖に染めるには十分すぎるほどだった。小テストのことなど最早頭に無く、急いでノートをバックに放り込み教室を後にした。