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この世界は残酷だ。
弱者は幸せを、平穏を望むことさえ許されないのか・・・
そんな事を考えてしまうほど目の前の光景は凄惨だった。
男はこの村が好きだった。決して大きくない街だがここに住む人々は日々を懸命に生き、わずかばかりの喜びを見出すようなあたたかな村。朝までは何一つ変わらない平和なはずだったのに。
村一番の大通りは今や悲鳴と血の匂いであふれていた。
こうなった原因は最近行商人達の間で噂になっていた傭兵崩れの盗賊団である。
「お前ら!あんまり殺しすぎるなよ?ガキと女はあっちで纏めて置いとけ。あー・・・男は若い奴だけ取っておけばいい。あとは魔獣の餌にでもすればいいだろう。」
リーダーのような男が部下の者達に指示を出しながらこちらへ歩いてくる。
「誰だぁ?若い男以外はいらねえって言ったろうが。逃げられたら後がめんどくせえんだよ。」
こちらを見て顔をしかめた不精髭を生やしたリーダーの男が腰に差した剣を抜き、見下すような笑みでこちらを見下ろして来た。
「すまねえなぁ、これも運がなかったと思って諦めてくれや。」
「なん・・・で?」
震える口で出せたのはその言葉だけだった。
「なんで?何言ってんだ?決まってんだろ、お前が弱いからだよ。俺の方が強くてお前の方が弱い、だから俺達に好きにされてこうやって殺される。それだけだ。」
抜いた剣を手の中でもて遊びながら退屈そうに答える男は目を細めた。
それを聞いた途端爆発するような感情を抑えられず悪手だとわかっていても問いかけを、慟哭を止められなかった。
「弱かったらいけないのか!?弱くても俺は幸せだった、隣のあいつだって来月には結婚するんだって、やっと幼馴染と結ばれるんだって嬉しそうに教えてくれたんだ・・・それをお前たちが全部、全部奪ってていいわけがないんだ・・・」
あふれ出る涙をぬぐうことさえ忘れて叫ぶが最後はただぼそぼそとしゃべるのが限界だった。
「うるせえな、なんもできねえ奴がいっちょ前に叫んでんじゃねえ。ま、どうなったところでお前の未来は決まってるんだがな。」
男の声に鬱陶しそうに空いた片手で耳を塞ぎながらこちらを見下ろす視線に嘲りの色を浮かべる男の口はにやにやとした笑いは崩すことはなく形を保っている。
もう何を言っても無駄なのだと理解し絶望にうなだれてしまった。
「お喋りはこんなもんでいいだろ、これから奴隷商の所に行って捕まえた奴らを売りさばかなきゃならねんだ。」
男の声に顔を上げ、視界に映った光景はだるげな中にどこか暗い笑みを浮かべた男が剣を振り上げていた姿だった。