1話 副団長、その悩み
「はぁ〜~」
とある一室で、椅子に座り頭を抱えながら一際大きな溜息をついている青年がいた。
ここは、エトワール王国にある第3騎士団宿舎の副団長室。そしてこの頭を抱えている青年こそ、この部屋の主であるエトワール王国軍第3騎士団副団長のセルジュ・ノーアークである。
「はぁ、どうするんだよコレ」
彼の机の上には、その原因である請求書の束が山のように積み重なっていた。
「酒場の修理代、ケンカして殴られた客と、その仲裁に駆けつけた王国軍団員の治療費…。駄目になった酒の代金も…か。…はぁ~」
先程から目の前の請求書を1枚1枚読み上げては、何度目か分からない溜息をつくという行為を繰り返している。
「どうやったらこんな請求書まみれになるんだか…。そもそも…」
そう言いかけた時だった。部屋の扉がバンと大きな音を立てながら開き、1人の女性がつかつかと彼の机の前まで歩いてきた。すると、彼女はおもむろに右腕を上げ、机の上の請求書の山をグンと払い除けた。そして、目の前の青年を睨みつけながら
「セルジュッ!!」
と大声で怒鳴りつけた。
「何ですか、団長…」
セルジュは抱えていた頭を上げ、物憂げな顔で目の前の女性に返事をした。
そう、団長と呼ばれたこの人物こそ、セルジュの上司であり、エトワール王国軍第3騎士団団長ティータ・トゥーライーガである。
「何ですか、ではない!!約束を忘れたのか!出仕したらすぐに私の部屋に来いと言っただろう!」
「約束は覚えていますよ」
「では、分かっていながら上司との大事な約束を破ったということか!!」
「俺も出仕直後に請求書の山を見せられなければ、真っ直ぐに団長室に向かいましたよ」
セルジュは激高するティータに、先程彼女が床に払い除けた請求書の束を指さしながらそう言った。確かにセルジュは出仕後直ぐに団長室へ向かうつもりだった。そう、彼の前に団の経理担当の団員が泣きながら沢山の請求書を持ってくるまでは…。
しかし彼女は、
「そんなものは後にすればいいだろう!」
と、意に介する様子はなかった。
その様子を見たセルジュは再び溜息をつきながら
「そういう訳にもいかないでしょう…。全部団長に関する物なんですから…」
「何…?」
そこで初めてティータは動きを止めた。
そう、これら沢山の請求書は全て彼女、ティータへ対しての物だった。それもたった一夜にして発生した物だったのである。
「団長…。あなた、昨日仕事終わりに酒場に行ったそうですね」
「う…、あっ、あれは巡回の為だ。街の治安を守るのも仕事だからな!」
「それでなんでこんなに請求書が発生するんですか?」
「し、知らん。何かの間違いだ!」
「まぁ、詳細は既に聞いてますけど…」
実は経理担当の団員より、セルジュは請求書と共に事の経緯と詳細を伝えられていた。
それによると事の始まりは昨夜に遡る。