EPISODE7 工房
「ここが私の工房よ」
ドアを勢いよく開けると、中央にある作業台や、壁の隅にある木箱に乱雑に入れられているガラクタ、各属性ごとに分けられている魔石、壁には様々な機械の設計図が所せましと張られている。ナナが作業台にあるはんだこてらしきものを手に取り、取っ手部に石がはめ込められていることに気づく。
「これは……?」
「魔石に魔力を流し込んで、コテの部分を加熱するの。温度制御が難しくて、コテ先を何度溶かしたことやら」
「ハンドメイドですか。ここにある器具は……?」
「最初は買ってもらっていたけど、最近はハンドメイドの方が多いかな。作ったは良いけど、役に立たなくて放り投げたものもあるわ」
「無駄遣いして、怒られませんでしたか?」
「外に出られるよりかはマシだと思っているんじゃない。そんなことよりも、今日は『つばさくん』の改良を始めるわ」
アイリスがごそごそと取り出したのは、以前のテスト飛行で墜落した羽の生えたランドセルのような機械だ。アイリスが触り始めると、ディスプレイが浮かび上がり、プログラムの文字が走る。
「ナナが来る前の試運転で、飛ぶ方向を変えようとしたときに負荷がかかったみたいで、ブースターが止まったの。多分だけど、複数の魔石を同期させていたのが原因だと思うわ」
「見させてください…………なるほど。私の時代にも複数のエーテルリアクターを搭載したマシンドールがありましたが、莫大な計算処理を行わなければならなくなり、機体が巨大化した経緯があります。今、この時代のプログラム技術ではこのサイズでおさめるのが厳しいかと」
「だよね……ということで、解決策2、単一の魔石で出力を賄う!前々回は出力不足だったけど、動作自体は良好だったわ。よって、出力が大きい魔石を手に入れれば無事解決!」
「リアクターの出力を上げれるなら、計算処理も膨大にならずに済むというわけですね。ですが、そう簡単に上げれるものなのですか?」
「魔石って言うのは、魔物の体内にあって魔力を生み出していると言われているわ。でも、討伐した際に傷つけたり、破壊したりして大抵は使い物にならない。だから、大昔に生き埋めになった魔物から質の高い魔石を得ているのが現状よ」
「つまり、化石燃料のようなものと。この時代で石油や石炭が使われているのかは知りませんが」
「魔法が広まる前の大昔は使われていたみたいよ。話を戻すけど、発掘された質の高い魔石は希少だから、滅多と出回らない。そこで、私たちは生きている魔物から直接、魔石を手に入れるの!」
「…………正気ですか?」
「私はいつでも正気よ。大丈夫、このゴーグルで魔石がどの部位にあるか分かるようにしているから。この前の調査で動作確認済みよ」
「そのために調査に同行したのですか……つまり、私はマスターを守りつつ、指示されたその部位を避けて、魔物を倒すと」
「大丈夫。この前のナナの戦闘を見て、ナナならやれると確信したわ」
「……わかりました。その任務、喜んで引き受けましょう」
ナナの言葉に満面の笑みを浮かべながら、次の話を進めるため、空中に自国の地図を映し出し、今いる王都が赤い点で表示される。その北東部にある青い点とその間に黄色とオレンジの点が点滅している。
「風の魔石は空を飛べる魔物の生息地から得られることが多いわ。だから、鳥獣系の魔物が数多く生息するドラナヴィア渓谷に行くわ」
「では、この黄色の点は?」
「この話を父さまに話したら、『この付近の村で税収が下がっているから、様子をみてくれ』って頼まれたの。村長は不作だったからと報告しているらしいけど」
「その報告に偽りの可能性があると?」
「少なくとも父さまはそう思っているみたい。だから、本気で取り組むという姿勢を見せるために、王女である私が行くことになったの。さすがに遠いから、オレンジ色のレイヤにテレポート。そのあと、徒歩で村に行って事情を聴く。それが終わったら、魔石狩りよ!」
「しかし、レイヤと件の村はそれなりの距離があります。魔物から身を守りながらとなれば、数日はかかるかと」
「大丈夫。私にはこの『はしるくん』があるから!」
アイリスが取り出したのは魔石が埋め込まれているローラーシューズだ。つばさくんと同じ色の石を使っていることから、これも風の力で動くことが推測される。
「このはしるくんを身に着ければ、馬より速く走れる。というより滑ることができるの」
「すべるくんで良いのでは? いえ、そもそもネーミングセンスが……」
「それだと縁起が悪そうじゃない? だからはしるくん。可愛いでしょう? あと、ナナの分はないけど、大丈夫?」
「馬と同等の速度であれば、問題ないかと」
「よ~し、早く行きましょう。善は急げ!」
色々なものを詰め込んだ大きいリュックを背負い、ナナの手を引っ張ったアイリスは北の商業都市であるレイヤへとテレポートした。
北部を代表する商業都市と言うこともあり、朝早くから活気に満ち溢れている。目移りしそうなほどの品々を見ながら、アイリスは我慢我慢と念仏のように唱える。彼女の財布はまだ寒いようだ。
商業都市から出て村に向かうこと数時間、ナナが急にアイリスに止まるようと指示する。
「どうしたの?」
「前方にゴブリンの群れがいます」
「私には見えないけど……こんなときは『みえるくん』で!」
リュックから双眼鏡を取り出し、前方の道をじっくりと見る。そこには緑色の人影らしきものが確かに存在していた。
「みえるくんでも、ぼやけてよく見えないのに、よくわかったわね」
「はい、目は良いですから。周囲に待ち伏せしている様子もないので、遠距離からの攻撃で片を付けます」
「調査の時に使った砲撃?」
「いえ、村までの距離も近いので、被害が出る恐れがあります。それのゴブリンの強さは騎士団との戦闘で把握済みです。装着武装展開、Gライフル」
「せっかくだから、魔石採掘の練習もしましょう。調査の時見たゴブリンは右胸に魔石の反応があったわ、そこを避けて攻撃して。個体差で場所が変わるかも知りたいし」
「了解しました」
エーテルキャノンより細身の銃身を退屈そうにしているゴブリンの頭に向けて放つ。
1発、2発、3発……どこからともなく撃たれた砲撃によって、ゴブリンが足元に置いていた武器を手に取るが、その間にも仲間が数匹打ち倒されてしまう。砲撃があった方へ果敢に走りこむも、敵との距離は遠く、仲間のゴブリンが次から次へと倒れていく。
ようやくナナたちを視認したころには、ゴブリンは片手で数える程度にしかない。彼我の戦力差を感じ取れないゴブリンたちはナナのGブレードによって、武器を持っていた腕を切り落とされてしまい、無力化された後、頭部を落とされて絶命するのであった。
アイリスはゴブリンの死体を漁り、嬉しそうにビー玉程度の魔石を日にかざす。
「私の目論見通りね。生きている魔物からでも魔石は手に入る」
「仮説は実証されたということでしょうか」
「そういうこと。この大きさでも、何かしらの使い道はあるかもしれないから持ち帰るわ。魔石取ったら、『もえるくん』で火葬しておかないとね」
アイリスがスプレー缶のようなバーナーを取り出し、用済みとなったゴブリンの死体をあっという間に灰にする。
(魔法が使えなくても魔石があれば、それに準じた結果が得られる……こちらのほうが利便性があるように見えるのですが)
ナナはこの国のおかしな偏見に疑問を持ちながらも、村へと向かうのであった。




