EPISODE68 BEYOND THE TIME
衛星砲攻防戦でギースを討伐したことにより、彼が再稼働するまでの一時的とはいえ、世界各地に展開していた機械兵の動きが大きく鈍る。中には軍事的な統制すら取れていないところもあるほどだ。これを好機と見た国連軍は世界各地でギース軍への反抗作戦を企てていき、勝利を収めていく。
世界の情勢が変わりつつある中、衛星砲攻防戦で最大の功績を上げたS-FORCEは青空の下、打ち上げをしていた。マイクを持った宇月が皆に向けて話しかける。
「本日は無事に……って誰もこっちみてないね」
「何やっているんですか、指令代理。早く食べましょうよ」
「一応、僕代表だからね。代表のあいさつくらいはしようと思っていたんだけど……まあいいか。みんな、楽しそうにしているし」
宇月が辺りを見渡すと、全員の力で取り戻した誰の監視下にも置かれていない青い空の下、普段は食べることができない合成肉ではない肉がじゅうじゅうと焼きあがり、周りの目を気にせず騒ぎながら酒を飲んでいる。バーベーキューの串を一本取ったあと、女性隊員に囲まれている今回の最大の功労者、アイリスに近寄っていく。
「今日はあんたが主役なんだから、もっと食べないと」
「いや~、ちょっと量が多いかな」
「何言っているの、ほらほら食べないとそだたないわよ!」
「ひゃ!? キャシーさん、どこ触っているんですか!?」
もみくちゃにされ、セクハラまがいのことをされているアイリスはこれ以上近づくのをやめようかと思ってそうな宇月に助けを求める。
「お疲れ様。スキンシップも良いけど、あまりやりすぎないようにね」
「は~い」
散らばっていく女性隊員にアイリスは安堵し、ゆっくりと皿に山盛りに置かれたバーベーキューの串を1本とる。作戦中、手持無沙汰になった整備班が自家製のタレで漬け込んだお肉は柔らかく、甘辛い。串からお肉を取り外し、ちょっと硬めのパンに挟み込んで食べるとパンにしみ込んだタレがパンを少し柔らかくし、ぺろりと平らげれるほどだ。
「それにしても大変だったね」
「そうですよ。キャシーさんたち、すっかり酔っちゃって」
「そっちじゃなくて、衛星砲の方」
「あっ、そっち? そのときは無我夢中でやっていたからそんなに……でも、もう一度ヤレっていわれた断ります」
「さすがにもう一回同じことは無いかな。いや、あってほしくないと言うべきか……」
「まったく、相変わらず煮え切らんな、宇月君は」
「先生。セブンスセブンは?」
「そっちの方は問題ないわい。腕の修理も終わった、すぐにこっちに来る。で、問題は突如現れたとかいう新機能バーストモードについてだ」
2人はこれからどんなことを話すのかと真剣な表情でコクリと頷く。
「ヴェクターとも話したが、結論からいうとワシらでも分からん」
「先生でもわからないのに、バーストモードが付与されるのっておかしくないですか?」
「まてまて。話を急ぐではない。それが真実かは分からんがゆえにそういう結論を出したが、仮説は作った。魔法に関する知識が全くない儂らにとって何の根拠もない空論かもしれん」
「それでも聞かせてください」
「うむ、わかった。まず、バーストモードの仕組みだが、あれは魔力とエーテル、ほぼ同一存在である二つの力が同じ指向性を持つことで共鳴し合い莫大なエネルギーを産み出すことで性能を一時的に向上させる」
「同じ指向性……」
「要は術者とマシンドールが心を通わすことで真価を発揮できるシステムと言っていい。結果だけを見るならば別のエーテルドライブやコンバーターを装着すれば疑似的なバーストモードにすることは可能かもしれないが、本質的にはバーストモードと呼ぶべきものではないだろうな」
(そうか。ギースはナナに負けたから、同じ力を得ようとしてイミテーションバーストを得たのね)
「バーストモードの発現理由は?」
「魔石がナノマシンの結晶体であると未来のセブンスセブンは言ったらしい。おそらくだが、食物連鎖によって蓄積されたナノマシンが魔石になるまで成長したと考えておる。捕食によって蓄積されたナノマシンの中にはエーテルを制御するものや情報を蓄積するものと多種多様なものが含まれておるだろう」
「そうか、私たちがやっている魔石の加工技術って、ナノマシンに新しいデータを入れているのと同じなんだ」
それゆえに魔石に魔法のプログラムを組み込んだ時と、過去の世界でコンピューターでデータを打ち込むのと大きな差を感じずにすんなりと覚えることができたのだとアイリスは思う。
「そして、使用されておった魔石に含まれているナノマシンの情報の中にバーストモードの記録があったことにより、画面にバーストモードの記載がなされたと考えておる」
「僕たちにとっては未来の出来事でも、魔石にとっては過去の出来事ってことか」
「まあ、どれもこれも根拠は薄いのが難点じゃが」
「なるほど、そういうわけでしたか」
「あっ、ナナ。身体、大丈夫だった?」
「ええ、新しい腕もつけてもらいました。ですが……」
妙に歯切れが悪いと思いながら、アイリスは彼女の言葉を待つことにした。
「この……ロケットパンチとかいう追加武装の実用性の無さはどうかと思います。強度も低下しますし……」
「だって、ギースとの戦いの決め手になった技なんでしょう。だったら験を担がないと」
「それに僕らから見ればロケットパンチっていたら、古典SFのロマンだからね。こういうときに着けないと試す暇もない」
「はあ……つまりドクターたちの趣味ですか。整備班に怒られますよ」
「ははは、そうだね。班長にお酒くらいつがないと。僕はこれで失礼するよ」
「わしはあそこの大食い勝負でも観戦しておくかのう」
(レイちゃん、先から姿が見えないけどそこにいそうね)
ワイワイと賑わっている人だかりに阻まれ、誰が参加しているかは分からずも、レイが参加してないほうがおかしいと思った。ただ、今はこの山のように積まれている肉の塊をどうしようかと考える。
「ねえ、ナナ。一緒に食べない?」
「私は機械なので食べる必要が……」
「いいからいいから。レイちゃんもたくさん食べているだろうし」
「……しょうがないですね」
セブンスセブンに頼み込んで、肉の山を片付けていくのであった。
それから数か月後、ギースが再稼働し始めたのか機械兵の統制がよくなり、互いの戦力は拮抗し始めたものの、空戦用マシンドールの本格的投入がすでに行われ、奪われていた領土の半数近くを奪還していた。人類の反撃が留まることを知らない中、S-FORCEが管理している部屋の一室に数多くのコンピューターにつながった『門』ができる。
「スパコンの遠隔操作による補助を入れても数分のずれは無くせません」
「……これ以上は人員を増やそうが、金を賭けようが無駄じゃな。BEYOND THE TIME、最終フェーズへと移行する」
ヴェクターの号令と共に行われる次元崩壊阻止作戦。その要となるアイリスとレイ、そして彼女たちを見送ろうと続々やってくる隊員たち。なんだかんだで1年近く一緒にいたこともあり、これからもずっと一緒に戦うのだと思っていた隊員たちも多い。
「――まだまだ言いたいことはあるけど、1年間ありがとうございました」
別れの挨拶は済ませた後、涙をこらえている隊員たちに背を向け、光り輝く門を見る。
「いいか、門を開けるのは1分が限界じゃ。開いたと同時に飛び込め!あとは身を任せれば未来世界にたどり着ける」
「ありがとうございます、先生」
「……そういえば言ってなかったな。衛星砲のハッキングの手腕、見事であった」
「いや~、それほどでも」
「お前さんは自己評価が低すぎる。この時代基準でもお前は魔法使い級のハッカーじゃ」
「魔法……使い。私が?」
「未来のことは知らんが、この時代ではコンピューターのハッキング能力が高いものを敬意をもって魔法使いと呼ぶ。おぬしは魔法が使えんと言っていたが、少し系統の違う魔法を覚える素質はあった。ただ運が悪くそれを育てる土壌が無かったというわけじゃ」
「私にも使える魔法があった……」
「そうじゃ。人というのは自分の才能を生かせる立場に常にあるとは限らん。たとえ王族であったとしてもな。だからこそ、人は常に新しいことに挑戦し、成長していく……武器商人の儂がこんなことを言うのもおかしな話か」
「ううん、そんなことありません。先生だって、昔と比べれば成長してますよ」
「年寄りをからかうのはよせ。儂はお前さんが思っているほどの人物ではない。なんたって、儂は――」
「悪の天才科学者でしょ」
「わかっておるじゃないか」
ヴェクターが宇月にアイコンタクトを取り、門を開く準備を進めるように合図する。
「ゲート開門のカウントダウンの準備を。BEYOND THE TIME、最終フェーズはいかなる作戦よりも優先される作戦だ。しっぱりは許されない。キャシー、準備は?」
「いつでも行けます」
「それではカウントダウン開始」
「はい、カウントダウンスタート…………5、4、3、2、1。ゲートオープン!」
門から虹色の光が漏れだし、周りにいた人たちが思わず目を閉じてしまうほどだ。そして、その光の中をアイリスとレイが歩いていく。新しい未来を切り開くために。
光が収まると、そこにはぷすぷすと煙を立てている壊れた門。そして、先ほどまでいたアイリスたちの姿はどこにも見当たらなかった。
「作戦成功です」
「行ってしまわれたのですね」
「ああ、でも僕たちにはやるべきことがある」
寂しそうな表情を浮かべるセブンスセブンを含む隊員たちに宇月は指示を与える。まだこの時代にいる自分らだからこそできる後始末。
「これより、アイリス、並びにレイの記録の抹消。及びBEYOND THE TIMEに関するデータの全消去。D4兵器に関する開発の無期限凍結を行う」
タイムパラドックスを起こさせないために、未来人が来たことの証拠をほぼ全て消す。それが残された彼らに課せられた任務だ。
「せっかくタイムマシーンができるかもってのにもったいねえよな」
「アレックス、タイムマシーンは僕らにはまだ早いんだよ。でもいつかは使いこなせる日が来るかもしれない」
そう、今は戦闘にしか使っていないマシンドールと心を通じ合える少女のように――
自分たちの研究が遠い未来で実るように
いつかはと祈りながら、宇月は門の先を見る。その先にある少女がつかんだ平和な世界を見ているかのように。
新年あけましておめでとうございます
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