EPISODE58 AEGIS
双眼鏡で煌煌と照らし出されているギースの基地を見ているアイリス。道中、カシムが荒れた道を迂回している可能性も考え、大回りしつつ捜索を行っていたため目標地点への到着時刻に大幅な遅れが生じていた。
これ以上近くづくと、彼らの警戒網に引っ掛かるとモハメドからの情報もあり、立ち止まって辺りを見渡している。一見すれば、肉眼で視認できるかどうかという距離。これが警戒網の外側ギリギリというのだから、イージスタイプのレーダーの性能の高さがうかがえる。
「ナナ、動いている熱源、生命反応は?」
「基地に近いせいかこのあたりは妨害電波が多く、スクリーニングに多少時間がかかります。少々お待ちを」
「レイ、上空からは?」
「動いているもの、動いているものと……機械兵が歩いているね。イージスタイプもいるけど、こっちには来ていない。パトロール? いや、でもパトロールにしては数が多い気もするけど」
「こちらでも確認しました。進軍方向に限定してスキャンを開始……小さな人型の熱源を確認。あたりのがれきでどうやら身を隠しながら進んでいるようです」
「急がないと!」
見つかるリスクは覚悟の上で装甲車をフルスロットルで走らせていく。カシムがいると思われる地点へと急いでいると、ガシンガシンと機械兵の地響きが聞こえてくる。進軍スピードを考えると、カシムを拾えば彼らの射程距離に丁度入る頃合いだ。
「Gシールド!」
カシムを発見するや否やセブンスセブンがGシールドを展開し、機械兵からの砲撃を防いでいく。爆音と爆風が吹きあふれる中、アイリスは身を隠しているカシムの手を引っ張ろうとするが、叩き落とされる。
「いやだ、僕はパパとママの仇を取るんだ!」
「わがまま言わないで」
「他所から来たお姉ちゃんに僕の気持ちなんてわかるものか!」
「大切な人を失った気持ちなら分かるわよ」
「!?」
「それでも、私たちは前へ進まないといけないの。前へ進むために仇を撃つなら止めはしないわ。でも、カシムくんがやろうとしていることは立ち止まって、死のうとしているだけ。だから止めるの」
「だったらどうすればいいんだよ」
「生きる。まずは生きるの」
「…………生きる」
「そう。死んだ人は魔法でもよみがえらない。でも、その人の思いを受け継ぐことはできる。だけど、その思いを誰かに継がないと無駄死になってしまうわ」
カシムはアイリスの言葉を反芻し、自分らが暮らしていた廃墟から逃げる際、機械兵に突っ込んで行った両親の最後の姿を思い出す。
なぜ、あの時、自分を見捨てたのか。一緒に逃げなかったのか……
分からないことだらけだった。でも、それは自分たちが戦うことで、自分の分まで生きてほしいという願いがあったからではないかと思う。
「僕が死んだら、パパとママは悲しむ?」
「パパとママだけじゃない。カシム君を心配した友達も、モハメドさんも悲しむわ」
「……うん、わかった」
カシムが手を伸ばし、アイリスと一緒に車の中へ乗り込む。バリアを張ったイージスが時々セブンスセブンから繰り出される砲撃を防ごうと味方の前に出ている。だが、レイの機動力には追い付けず、背後に回り込んでノーマル武装の機械兵を着実に切り倒している。
強固なバリアを持つイージスタイプは難敵かもしれないが、他の機体が強くなったわけではない。周りの敵から倒していけば、残るのは壁と索敵しか能の無い機体が孤立するだけだ。
「殿は私が!Gロングブレード転送!」
長身の剣の切っ先を真下にいるイージスに向けて勢いよく突進する。最大加速で突かれたイージスはバリアの出力を上げ、拮抗させるが真上に攻撃するオプションがない。そして、ここぞと言わんばかりにセブンスセブンはアサルト装備の銃口を向け、色どりの砲火を耐えることなく放っていく。
それらを受け止めている間、イージスタイプの脚部及びバリア発生装置に負荷がのしかかっていく。無敵のバリアと言えども、それを取り扱う機体は無敵ではない。コンディションレッドになったことで、イージスに搭載されているAIは緊急マニュアルに従ってバリアを解いてしまう。
「シールドさえなくなれば!」
ただのカカシと言わんばかりに斬り裂いたセブンスセブンは、逃げていくイージスを追うことはしない。今回はバリア機体を強引に落としたものの、すべてを落とすには時間がかかりすぎる。何らかの対処を考えなければと思いながら、車の護衛へと戻ろうとしたとき、爆発音を聞く。
「私たちの他に人が居るのですか!?」
予想外の出来事に驚きながらも、その救援へと向かっていく。その先には機械兵が武装車にむかって砲撃を放っている。頑張って躱そうとしている車両もあるが、大体は直撃か爆風でひっくり返り、中の人が逃げ出す前に焼かれていくのが関の山だ。
無論、機械兵も無事というわけではない。数を頼りにした武装車の一斉攻撃で数機の機械兵はその行動を不能にさせられている。しかし、戦力の減少スピードは武装車の方が圧倒的に速く、このままでは全滅の憂き目を見るのは明らかであった。
「こちらS-FORCE所属セブンスセブン。これより援護します、下がってください」
【誰が下がるものか!少しでも手薄になった今が好機だ】
(声紋照合……ザイードと判定。子供を捜索するために部隊を編成したにしては早すぎる。もしやこれは……)
こうなることを前もって用意したかのような手際の良さに不信感を抱きながらも、イージス以外の機械兵を蹴散らしていく。旧式の武装しか持たない彼らに制空権を取る必要も無いと考えているのか、それともイージスの護衛だけで十分なのか、戦闘機が出ていないのは幸いであった。
とはいえ、先のイージスの対処は時間がかかる上に、武装した戦力がいる以上、さっきみたいに簡単には引いてくれないのは明確だった。
「邪魔です!」
機械兵のカバーに入ろうとしたイージスの足元に向けてショルダーキャノンを撃ち、つまづかせる。全方位にバリアを張ることができると言えども、移動するために唯一バリアをはがさざるを得ない足元だけはおろそかになっていた。
(支援機が自身の役目を果たさないように立ち回れば、問題ありません。問題は……)
セブンスセブンが眼下を疾走する武装車を見る。敵を惹きつけているうちに基地へと乗り込む算段のようだが、すでに後発の部隊がこちらへと向かっている様子が伺えていた。このままでは誰一人とも帰ることはできない。非常にまずい状況であることは明確であった。
(やることはやりました。このまま見捨てるのが得策でしょう)
撤退しないのは彼らの自由意思。一度は援護した以上、ここで見捨てたとしてもS-FORCEが避難される筋合いはないはずだと考えていた。だが、その行為は既にアイリスがバッサリと切り捨てている。
「機械が未来を選んではいけませんね。困難な道と言えども人間が選んだのであれば!」
ロングブレードを握りしめ、まっすぐ『敵』へと向かう。だが、その切っ先は機械兵ではなく武装車の砲塔であった。さすがに機械兵に通用する武器を失った武装車は反転し、撤退せざるを得ない。
【とち狂ったか!?】
「それはこちらのセリフです。直ちに撤退を!」
武装を失った車両に向けて砲撃を放とうとした機械兵の攻撃をGシールドで防ぎ、発砲する。ミサイルの爆風によるイージスの足止めも忘れていない。そして、武装車へと切りかかろうとしたとき、当然だが彼らからも砲撃がなされていく。
だが、四面楚歌になろうと、この後に起こるであろうことを考えようとも、セブンスセブンの攻撃の手は緩めない。
(敵を倒せば戦いは終わるはず……なのに、私は友軍を討っている)
もはやだれが敵なのか分からぬまま、その刃を振るっていく。鬼神の如き活躍は、ついにザイードに撤退の決意を固めるのであった。あちこちから昇る煙を見ながら、セブンスセブンは声が漏れる。
「誰を討てば……戦いは終わるのですか…………」




