BADEND-BREAK THE WORLD-
アイリスたちがたどり着いた場所には、まるでスプーンでくりぬいたような巨大な空洞が広がっていた。地上に降ろしてもらったアイリスは、そこに何があったのか地図を広げて慌てながら確認すると小さな村があるはずだった。だが、その面影は何処にもない。
「生存者は……探すまでもないわね」
「対岸にいる地上艦から通信が入っている。皆にも聞こえるようにしておく」
【脱走兵どころかタイラントも連れ出してくれたのですね】
通信に出てきたのはかつて邪龍攻略戦で戦果を上げられなかったボルドーの代わりに館長を務めているモンペラだ。
「貴公がこの惨状を招いたのか?」
【ええ。脱走兵がD4に関しての書類を見た可能性に気づいた私は、おびき寄せるためにD4を使用したのです】
「ならば、なぜ村を焼いた」
【あそこは亜人が多いですからね。害獣駆除もかねての試験ですよ。思った以上の火力で驚きました。これがあればタイラントも怖くありません。GD-02も離れてください。敵の王女様ごと焼き払います】
「そうか……アイリス女王陛下、指示を頼む」
「えっ、でも……」
この状況下でタイラントやナナと戦うつもりはない。それどころか、D4を使用し、民間人を虐殺したあの艦を止めるために、帝国軍と敵対するつもりでいる。それは帝国軍に所属しているGD-02にとっては裏切り行為でしかない。
「今は貴公の指揮下にいる。それに同じ軍にいるものとして、これ以上の惨劇を止めなければならん!」
「わかった。GD-02はあの艦の動きを封じて。D4を積んでいるだろうから、決して堕とさない様に。レイはその援護を」
了解と意を決して、飛び出していく二人。そして、そのあとをすぐに追いかけるタイラントとセブンスセブン。
裏切り者を憎しみの籠った目で見ながら、モンペラはD4ミサイルの装填を急がせつつ、時間稼ぎのためにマシンドールを発進させる。
「その程度のマシンドールなど!」
目の前に来たマシンドールを切り捨てながら、前へと進むゼロツー。だが、行く手を阻む無数のマシンドールによって思う通りには進めない。そんなとき、光線と火球がマシンドールを灰に変える。
「ゼロツー、マシンドールの相手は任せて」
「私たちが援護します」
「加減するのが下手なんでな、今回ばかりは譲るぜ」
セブンスセブンとレイ、タイラントの集中砲火により、防衛に穴が開く。その隙を突き、フルスロットルでゼロツーは艦に肉薄する。悪あがきと言わんばかりのCIWSによる砲撃を躱して、艦をロックオンする。
「出力調整完了。GDブラスター!!」
艦の装甲が焼け落ち、中に入ることができるほどの穴が開く。艦の動きを止めるには、爆発する危険がある動力炉を狙うよりもジャックするのが一番有効で安全だ。
(あれだけの数のマシンドールを出せば、中の守りが薄くなるのは必然。私だけでも制圧は可能だ)
内部に侵入したゼロツーは襲い掛かる兵士たちを容赦なく撃ち、迷わずブリッジへと向かっていく。そして、ブリッジに侵入したゼロツーは銃口を向ける。
「艦内は制圧した。外の戦闘も時間の問題だ。これ以上の抵抗はやめ、投降しろ!」
「くくく……そうですか、では投降しましょう。くくく」
「なにが可笑しい。まさか!」
ゼロツーが慌ててブリッジのコンソールパネルを操作すると、そこにはD4ミサイルの発射シークエンスが開始されていた。緊急停止ボタンは無いのかと探すが、どこにもそれらしきものは無い。
「もう遅いですよ。D4を撃てば、この戦争は終わる。私たちは勝者となり、人間が支配する正しい世界が生まれるのです」
「黙れ!!民間人を殺して何が正しい世界だ。このことをあいつらに知らせなくては!こちら、GD-02!作戦は失敗した。繰り返す、作戦は失敗した。直ちに避難しろ」
GD-02からの通信はレイとセブンスセブンに届けられるが、マシンドールの攻撃は止む気配が無い。どうやらここで4人を始末したい算段のようだ。レイたちは一度引き下がり、アイリスにどうするか話しかける。
「……レイ、リミッター解除。レイブラスターでイチかバチか、D4ミサイルを迎撃する」
それはかつてナナが次元崩壊を止めた時と同じ次元干渉によるD4の無力化。ほんのわずかな時間で逃げ切れる保証が無い以上、この賭けに出るしかなかった。
「わかった。やってみるよ」
そして、レイはアイリスの期待に応えようとその身体を赤く染める。そして、前方から飛来する禍々しい黒い弾頭。射線を邪魔する敵をナナとタイラントが妨害する。
「目標捕捉、レイブラスター!!」
世界を壊した兵器と世界の崩壊を防いだ兵器。根本は同じであれど、真逆の成果をたたき出した兵器が悠久の時を経て、再度ぶつかり合う。頭が痛くなるほどの耳鳴りが発生し、空間にミシミシとひびが入っていく。それは魔王が予言した終焉の日と同じ光景だった。
「ナ、ナナ……」
アイリスはセブンスセブンに手を伸ばそうとする。自分の考えではここまでしかできなくても、きっと彼女ならなんとかしてくれると信じて――
だが、伸ばしたその指先がジグソーパズルのように崩れ去っていく。
不思議と痛みもない。
まるで、はじめからそこには何もなかったようだとさえ感じるほどだ。
そう、彼女たちは敗北した。
世界の崩壊を止めるすべはもうない。
今の彼女たちに逆転の手段は残されていない。
この時、この瞬間をもって、世界は終焉を迎えた――




