EPISODE48 望まぬ再会(前編)
秋から冬に変わっていき、肌寒くなってきたこの頃。次元崩壊のXデーがいつ起こってもおかしくない日々の中、溜まりに溜まっていた業務を終えたアイリスはアルバムを眺めていた。その中には生まれたばかりの自分の写真も含まれており、その中の1枚を抜き取り、調べ始める。
「魔力跡はなし……物理的な跡もなさそうだから、偽装工作の可能性は無し。私がこの時代に生まれた何よりの証拠ね」
「となると、アイちゃんが実はボクたちと同じ時代の人間で血のつながっていない養子っていう説は無さそうだね」
「もとからその可能性は薄いとは思っていたけど?」
「なんで?」
「ドクターヴェクターは私のことを『弟子』って呼んでいたわ。つまり、赤ん坊ではなく、思慮の判断ができる年齢で会ったということ」
「赤ちゃんに弟子って言わないものね。でも、小さい子供くらいなら記憶もあいまいだろうし、お手伝い程度させた子を弟子と呼んでもおかしくないんじゃない?」
「それなら、この写真みたいに私が赤ん坊の写真なんて無いわよ」
「う~ん……でもさ、音声認証のデータにアイちゃんの声紋が登録されていたんだよ」
リミッター解除と連動しているせいかレイブラスターには、ナナと同じくアイリスの声紋が必要となっている。ナナの場合は同じ時を過ごした時間も長く、サンプリングする機会は多いため、アイリスの声紋が登録されていても不思議ではなかった。
だが、レイの場合ははじめからアイリスの声紋が登録されており、ヴェクターとの接点があったことを意味している。
動かぬ証拠を突き付けられ、頭をかきむしっても答えは出ず、机に突っ伏してしまう。
「分からない。なんで、会ったことが無い証拠も会ったことがある証拠も同時に存在しているの?」
「わかんない。ところでさ、見るかに怪しい手紙はどうなったの?」
にっちもさっちもいかない状況にレイは先日届いた手紙のことに話題を変えた。それは帝国からの救助要請であった。
「旧オープナーで暴龍タイラントが暴れまわっていて、手が付けられないから応援がほしい……」
「どの面を下げて言っているんだろうね」
「ははは……でも三か国同盟ができて以来、反旗を翻した国や地域も少なからずいる。なりふり構っていられない状況なら、敵国に救助を求めてもおかしくない。それに救助をしたにもかかわらず、攻め入るようなら、中立的立場をとっている国も時刻を護るために反帝国に一気に傾く。受けるメリットは大きいわ」
「これをきっかけに和平交渉……ちょっと甘い考えな気もするけど、罠って可能性は?」
「一応、アヤメさんにオープナーの状況を調べてもらっているわ。もうすぐ第一報が――」
「定刻通り、戻ってきたでござるよ」
ドロンと現れたアヤメが報告書をアイリスに提出する。それなりに分厚いそれは読み進めるだけで時間がかかりそうなので、彼女に要点だけを説明してもらうことにした。
「まずは旧オープナーで起こっている騒動についてですが、仲間たちから現場から飛び去る竜種を確認。言い伝えにある特徴に酷似している姿から、おそらくタイラントで間違いないかと」
報告書に添付されている二本の角を赤い龍が火を噴いている写真を見る。周りに映っている人たちが軍服を着ていることから、襲われているのは民間施設ではなく軍事施設なのかもしれない。機密情報を漏らさないために基地の警備は厚いはずだが、よく写真を取れたものだと感心しながら、アヤメに問い尋ねる。
「軍の基地が襲われたのはわかるけど、民間人への被害は? 大昔には民間人も含めて大多数の使者が出たって聞いたことがあるんだけど」
「現段階では町や村への攻撃は見受けられていません。軍事基地に狙いが絞られていることから、首都近くの基地に戦力を集中させ、タイラントを迎え撃つ算段かと」
(軍の基地がターゲット……明確な意思がある以上、そこには何か狙いがあるはず)
軍の基地が狙われる理由は何だろうかとアイリスは考える。もっとも容易に思いつくのは、帝国の支配から祖国を取り戻すというレジスタンス的な理由だ。だが、それならば攻められたときに手助けすればいいだけのこと。今、この時になってタイラントが動き出す理由付けにはならない。
「タイラントの襲撃前後で変わったことは無い?」
「……タイラント襲撃から数日後に帝国軍から脱走兵が出たそうです」
「相手がタイラントなら、脱走兵が出るのはおかしくないとは思うけど?」
「命は大切だもんね」
「それがマシンドールだそうです。しかも、王家の血を唯一引いているオーロラ姫をさらって逃走。タイラント討伐の戦力の一部を捜索に回している状況」
アヤメが懐から1枚の写真を取り出し、アイリスたちに見せる。ややピンボケしているが、黒い鎧に肩にある砲塔や巨大な翼、背負っている1対の長刀など特徴的な外見は見受けられる。目元はバイザーで隠れているが、青い髪の女性がプラチナブロンドの年端の行かない女の子を抱きかかえて窓から飛び降りているようだ。
「これって!?」
「レイちゃん、何か分かるの?」
「うん。だって、これセブンのフルウェポンアームズ、フルメタルウォーの最後の戦いの時にセブンが使っていた決戦用の装備だよ」
「ナナの……」
「つまり、セブン殿の同型機が開発されたと」
「1号機さんや2号機さんがいるから、不思議じゃないけど……」
「あの扱いづらそうな大型装備、セブン以外で使えるのかな」
どれもこれも取り回しに苦労しそうな大型兵器の数々は戦いの経験が豊富なナナだからこそ扱えたもの。汎用性で言うのであれば、先行して作られたアサルト装備の方が取り回しはまだよく、その装備でさえ、隙が多いのをナナたちに突かれている。わざわざ使い手を選ぶ大型装備を試作する必要性が無いのだ。
「……ここで考えてもしょうがないわ。できればナナもどきの正体も探りたいところね。せっかく招待を受けているんだから、正面から堂々とスパイ活動しましょう」
「アイちゃん、それスパイっていうのかな」
「拙者もどうかと……」
「細かいことは気にしない。アヤメさん、帝国の他の地域でも何かあったら教えてね」
「御意」
アヤメが退出し、アイリスとレイの二人だけが残る。アイリスはどこか不吉な予感を感じながら、ナナもどきの写真をまじまじと見つめていた。
一方、そのころ、旧オープナーの首都から遠く離れた今やだれも使われていない古城にてオーロラは暖炉の火をぼーっと眺め、秋の兆しが見えた頃の出来事を思い出していた。
両親も兄たちも帝国の手によって処刑され、残されたのは一番幼かった自分だけ。そのときから、自分の目に映るものから色彩は消えていった。城の中にいた仲の良かったメイドや執事もいなくなり、周りにいるのは見知らぬ人たち。黙々と帝国に従う生きているだけの人形、それがオーロラに与えられた役割だった。
そしてその日、世話係として一人の女性があてがわれた。初めて会った時は武器を外してはいたが、装甲は付けており、その風貌から黒い騎士のようだと思った。まともな自己紹介すらせず、淡々と食事や着替えをさせるだけの、自分と同じ人形のようだと思った。
「黒騎士の名前はなんて言いますの?」
自分でも驚いたほどだ。親族の処刑以来、まともに話したのはこれが初めてだからだ。オーロラの言葉を聞いた彼女はバイザーを外し、緑色の瞳をさらけ出す。
「セブンスセブン」
たった一言だけ喋り、答えたのだからそれ以上の言葉は必要ないと言わんばかりに黙り込む。傍から見れば冷たいと思うかもしれないが、傷心の彼女には同情が含まれた100の言葉を掛けられるよりかは1の言葉の方が気が楽であった。そして――
ぎぎぎとさび付いた扉が開く音が聞こえる。セブンスセブンが偵察から戻ってきたに違いないと思い、ドタバタと出迎える。玄関先には焦げ跡や爪痕が残る鎧を着たセブンスセブンの他にガラの悪そうな赤い髪の男性が居た。
「セブンスセブン、大丈夫?」
「はい、自己修復機能の範疇です。それに彼との協力を得ることができました」
「目的は同じ……敵の敵は味方ってやつだ。実力も図らせてもらったがな」
「この人はどういう人なんですの?」
「彼はタイラント。人間に化けた姿だそうです」
「つーわけだ、人間のガキ」
「ガキじゃなくてオーロラですわ」
「へっ、そうかよ。作戦開始まで寝るわ」
ずかずかと城の中へと入ったタイラントが無数にある空き部屋の一つを選び、中へと入る。タイラントの姿が見えなくなったところで、彼がこぼした作戦についてセブンスセブンに尋ねる。
「帝国は周辺の地域・国に働きかけ、援軍も含めて戦力を1か所に集めてタイラントを迎え撃つ作戦に出るようです」
「協力してくれる国ってあるの?」
「よっぽどのお人好しでもない限り無いと思われます。よって周辺にいる帝国軍の集結と考えるのが妥当。つまり――」
「世界を壊す兵器がある可能性が高いってこと?」
その通りだと頷き、肯定する。ほんのわずかな時間でも彼女が嘘をつくような人物でないのはオーロラがよくわかっている。作戦内容を聞いた彼女はあまりにも無謀そうな内容に文句を言うが
「必ず帰還します」
といってオーロラの頭を撫でた時、セブンスセブンの脳裏にどこかで同じことをしたような光景が浮かぶ。あれはいったい誰だったのか、ここに来る前の記憶が無いセブンスセブンは奇妙なデジャヴュを振り払い、オーロラと一緒に食事の支度をし始めるのであった。




