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落ちこぼれ王女は封印されし機械人形と共に救国する  作者: ゼクスユイ
第3章 機械人形と再会

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EPISODE43 汚染

 アイリスたちはインダス島へ向かう定期便に乗り、青い海を眺めていた。ぴちぴちと飛び跳ねる魚たち、それらを狙っているのか白い鳥がその周りを旋回している。


「う~ん、広い海を眺めているとなんか開放的な気分になるわね」


「そうだね。ボクも、この船の下に美味しそうな魚が泳いでいると思うと……じゅるり」


「もうレイったら」


 レイの脳内には食べることしかないのかと思いながら、船上を見渡す。別段、観光地として発展しているわけでもないインダス島に行く観光客は少ないせいか、船内はガラリと閑散している。


「それにしても人少ないわね。ビジネス目的の人がもう少し居てもおかしくないのに」


「ビジネスしている人は向こうで住んでいるんじゃない?」


 そうかもしれないとレイの言葉に賛同しようとしたとき、船が大きく揺れる。何かにぶつかったのであれば、揺れは一度きりかもしれないが、断続的にそれは起こっており、乗組員たちが慌ただしく銃や杖やらをもって海上を睨めつける。


「敵襲みたいだね。ボクも行くよ」


「レイ、気を付けて」


 鎧姿に換装したレイが海の中へと飛び込んでいく。澄んでいる海の中での視界は良好。通常であれば、カラフルな魚と遊泳できたのかもしれないが、レイの目の前にいるのは全身が魚の鱗で覆われている半魚人の群れ。彼が船に体当たりをしているのが、今回の揺れの原因のようだ。


「キミたち、イタズラはそれくらいにしてくれないかな?」


「ぎょ? ぎょぎょ、ギョ!」


「う~ん、襲い掛かるなら仕方ないね。正当防衛ってことで1つよろしく!」


 左腰に収納されている高周波ナイフを取り出して構える。水中に向かって放たれる銃弾や魔力弾は目に見えるほど減衰している。いくらレイの飛び道具が強力無比なものであっても、水中での使用はほぼ不可能と言ってもいい。


 その様子をせせら笑いながら、群れの一部から抜け出した半魚人が硬質の鱗を飛ばしていく。水中の割には速い鱗の弾を躱すと、背後にあった岩が砕ける。


「威力はそこそこあるけど、そんな攻撃が当たると思っているの? 舐めているのかな!」


 勢いよく翼のバーニアをふかして、半魚人の群れに突っ込んで行く。そのとき、鎧に鋭い刃で斬りつけられたような傷があちこちにできる。レイが半魚人の周りを見つめると、太陽の光に照らし出されたキラキラと光る硬質の鱗が水中に漂っている。


「キミたちの鱗は機雷にもなるんだね。でも、それくらいでボクは止まらないから!」


 アーマーや肌に傷つこうとも、速度を緩めるようなことをせず、さらに加速していく。そして、急接近した半魚人にナイフを斬りつけ、海を赤く染め上げていく。


「まずは1匹!さてと、解体して焼き半魚人でも刺身にでもしてあげるよ」


「ぎょえー!」


 半魚人が殴りかかっても、悠々と躱していく。そして、カウンター気味にナイフを突き刺し、次の獲物へと目を向ける。レイの目には半魚人は脅威となる敵ではなくただの獲物としか映っていない。

 仲間たちが次々と倒れていく中、残った半魚人たちが退き上げていく。今回のミッションは半魚人のせん滅ではなく船の護衛。これ以上の戦闘はする必要が無いため、海上へと出ていく。


「ぷはー、半魚人は追い払ったよ」


「レイちゃん、傷だらけだけど大丈夫?」


「へーきへーき、これくらいならすぐに治るから。ところで半魚人って食べれる?」


「さすがに食べられないかなー、食べられないと思うなー、食べたくないかなー」


「分からないってことだね。ねえ、そこのおじちゃん、半魚人って食べれる?」


「半魚人の肉はあまりにも臭くて喰えんが、新鮮なものだと匂い消しをすれば食べれると聞いたことはある」


「サメと同じだね。おじちゃんは作れるの」


「作り方までは知らんよ。フィッシャー島の連中なら知っているかもしれないがね」


「ちぇ、食べようと思っていたのに」


 乗組員の言葉を聞いてレイが半魚人の死骸を放り投げて甲板へと登るやいなや、青い空から一転して灰色の雲が空一面に広がっていく。


「へえ~、山の天気は変わりやすいって聞いたことあるけど、海の天気も変わりやすいのね」


「ちげえ、これは……」


「おじちゃん、何か知っているの?」


「り、リヴァイアだ……!!」


 乗組員の言葉に合わせるかのように海中から飛び出してくる青い龍のリヴァイア。蛇のように長い胴体は、出ている分だけでも船が模型のように見えるほどの大きさであり、その全容は伺うことすらできない。


「わらわのしもべをあっさり迎撃した奴がどんなものかと思って来てみたら、小童ではないか」


「お嬢ちゃん、逃げるんだ!」


「逃げないわ」


 乗組員の忠告を無視し、アイリスは一歩前へ出る。その様子を見て、リヴァイアはほほうと興味ありげな唸り声をあげる。


「貴方がリヴァイアなのね」


「さよう。わらわがこの海を支配する者、リヴァイアぞ」


「だったら話が早いわ。帝国が貴方を狙っているかもしれないの」


「カーッカッカッカ、わらわは帝国だのなんだのは知らんが、なにやら物騒なものを積んでいた水中を進む船のことか。あれは爆発しないように深海の奥深くで眠っているわ」


「水中を進む船って潜水艦のことかな?」


「レイの時代にある技術ってことは帝国の船よね、多分」


「まさか人間如きにわらわの心配されるとはずいぶんと落ちぶれたものよ。わらわの海を汚す人間どもは許さんが、これほど愉快なことはない。今日はそこの小娘に免じて見逃してやろう」


 リヴァイアがそう言い残し、海中へとその姿を消していく。それと同時に曇天から一転して、澄み渡った青空へと戻っていく。


「う~ん、帝国のことはリヴァイア自身が解決しちゃったみたいだし、残りの滞在期間はただの観光

 かな?」


「ははは、そうねー、どうしようか。まあ、乗り掛かった舟だし、観光がてらインダス島を探索しましょう」


「お嬢ちゃんたち、あんな島に観光する場所なんかないよ」


「セントレアと違って、工業と貿易が盛んな島なんですよね」


「半分は当たっているが、半分は間違っているな」


「どういうことですか?」


「あそこはとてもじゃないが、人が住む場所じゃない。だが、最近はリヴァイアの襲撃も盛んになったことで、定期便が狙われることもある。やむなくってやつさ」


「海を汚しているって言っていたけど……」


「見ればわかるよ」


 乗組員のおじさんが持ち場に戻り、二人が取り残される。先ほどの襲撃もあって慎重になっているのか、船の進行速度はゆっくりと感じられる。到着予定時刻よりも大幅に遅れながらも、二人の前にインダス島が現れる。


「これって……」


「うん、これは怒っても仕方がないよ」


 2人の前にはもくもくとおびただしいほどの真っ黒な排煙と紫色に染まった排水が海に放出されている様子だった。港に着くと、昼間にもかかわらず靄がかかったように薄暗く、ごほごほと咳をしながら歩く一般人が歩いており、アイリスも喉に痛みを感じるほど空気が悪い。


「これは霧の都ロンドンと比較できるレベルで不味いんじゃない?」


「ロンドン?」


「19世紀から20世紀半ばのロンドンだと、石炭の灰やススが霧と混じったことで光化学スモッグが発生。1年で1万人以上が亡くなったこともあるんだって」


「1万!? ちょっと待って、都市丸々一つ消えるレベルよ、それ!」


 アイリスはあっけらかんと言うレイの言葉に驚愕する。自国において1万人を超える大都市は数える程度しかない。毎年それに近い人数が死に絶えていくのであれば、国家存続の危機に陥るのは明白だ。


「うん、だから100年以上の時間をかけて問題の深刻さに気付いた人間は数十年の時をかけて問題を解決したんだ」


「そんなに時間が……じゃあ、リヴァイアが襲っているのも」


「多分、問題が深刻化する前に気づいて欲しいんじゃないかな」


 リヴァイアが海洋汚染や大気汚染が遠くない未来に大きな影響を与えると判断したとしても、人が果たしてリヴァイアの言葉を大人しく聞き入れ、従うだろうか。それは、先の乗組員のおじさんが言うように、この国の民もその真意には薄々と気づいていても、汚染を止めていないことからも明確だ。


「どうしようかしら……」


 女王とはいえ、他国の人間であるアイリスがとれる方法は限られている。だが、リヴァイアをこのまま悪者扱いにされたままにするのも嫌であった。それは、悪者であり続ければ帝国に命を狙われる大義名分を与え続けることになるからではなく、リヴァイアなりの価値観を持ち、その行為が悪と断言できないからだ。


 インダス島を周ってみたが、一般人立ち入り禁止の地区が多く、得た収穫はこの島の料理は見た目も味も不味いと言うことくらいだ。結局、アイリスは答えが出ぬままインダス島を後にするのであった。

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