EPISODE40 ナナ、運命の先に…
「ワハハハ、圧倒的ではないか」
飛行艦2隻と地上艦3隻からなる混成部隊は王都に向けて前進していた。その中でも通常の地上艦の倍以上の大きさはある旗艦の巨大戦艦に乗るカンタル艦長は、主砲の一撃で大きく穿った灼熱の大地を見て高笑いする。そんな彼の隣でグラムがわざとらしく咳払いをする。
「おお、これはグラム監察官殿。何かありましたかな」
「ん? ああ、最近ついた肩書きは慣れないな」
「今や個人の武力など些細なもの。戦争の主役はマシンドールへと変わっていくのですから、心・技・体を表す三幹部の役目も終わったのも同然。もはや我々は座ってボタンを押すだけです」
「そんな戦いに意味があるのかねぇ」
「人の血が流れないクリーンな戦いというやつですよ」
「戦いってのは血生臭いものなんだが……ちょっくらサイケの船に行くわ」
巨大戦艦から出たグラムが後方の地上艦へと飛び移る。それなりの高さはあるが、武術を極めた彼にとってはこれくらいは朝飯前といったところだ。兵士たちに案内され、サイケのために設けられた工作室へと案内される。
「相変わらずごちゃごちゃだなぁ、ここ」
カタカタとパソコン作業を止めないサイケが「何もないなら出てもらうよ」と、めんどくさそうに言う。それを聞いたグラムがわざとらしく肩をすくめる。
「おっと、そいつは困る。一応、これも仕事なんでな」
「邪魔しないならいいけど。何の用だい?」
「3号機の進捗状況についてだ」
「3号機じゃないんだけど。これだから脳筋は」
「3番目の機体だろう? だったら3号機でいいじゃねぇか」
「はぁ……この子にも名前はあるの。また言うのも面倒だから言わない」
グラムがケーブルにつながれている銀髪の少女を見ている。その傍らには別のパソコンでモニタリングしている軍服姿の1号機と、メイド服に着替えてお茶くみをする2号機の姿があった。
(こいつらをみていると、同じマシンドールでも随分と違うよなぁ……)
戦闘用のマシンドールが彼女たちみたいな外見で、ある程度の個性があれば、共に戦う味方として見れるかもしれないが、実際の現場は無機質な機械が蹂躙跋扈している。少なくとも自分は仲間として見ることはできない。
そんなとき、警報が鳴り響く。グラムは急いで部屋に備え付けられた通信機に向かって、カンタル艦長に通信を入れる。
「何があった!」
カンタルは部下たちに警報について問い尋ねる。すると、索敵班から急接近する物体を感知したという答えが返ってくる。
「ミサイルか? 数は?」
「数は1。早い……マシンドールと比べ物にならない速度です」
「モニターに映します」
前方の大型モニターに映し出されるのは流星のごとく闇夜を斬り裂く赤い光。それが何なのかは噂話だけだが、カンタルは知っている。
「あの光はもしや数多くの同胞を討った『赤い死神』!?」
「赤い死神ってたった一人で飛行艦を抑えたっていう、あの!?」
ディアボロスを討伐し、単身での獣人の国の防衛を行った生きた英雄。そして、それは帝国からすれば悪魔や死神も同然の存在だ。
「ええい、死神相手に予備戦力を残す必要はない。全軍出撃せよ!」
カンタルは檄を飛ばし、命令を下していく。死神をここで討つ!それくらいの意気込みが無ければ、彼女の手から逃げられないと判断したからだ。
そんなことを知らないナナは周囲の被害状況を調べる。人が焼けた匂いが充満している中、遺体らしきものの数は多く見当たらない。つまりは、それは攻撃によって身も骨も蒸発しているということだ。
「このイオン化濃度と放射線量は……衛星砲の時と同じ陽電子砲か!大気による減衰があるとはいえ、直線上にあるこの国の王都は……」
大陸を吹き飛ばすほどの威力があった衛星砲よりも、小型化されているとはいえ、その被害は尋常だろう。今のナナには魔法で誰かが壊滅的な被害を防いでいると信じるしかなかった。そして、2発目を防ぎきる余力など残っていないだろう。つまり、もう一発でも撃たれるわけにはいかない。
「陽電子砲を撃てるサイズがあるのはアレか!」
ひときわ大きい巨大戦艦を狙いをつけて、エーテルキャノンを放つ。だが、巨体がゆえに前進を止めるほどのダメージが与えられていない。そして、周囲を囲むマシンドールの数々。しかもアサルト装備だけでなく、軽装備の機体までいる。
「高機動接近タイプのフライヤーも投入しましたか。そして、この数。馬鹿げた戦力差ではありますが、私が知る未来のために!」
周りの敵に向かって吶喊していくナナ。Pフライヤーが手に持ったレーザーソードで斬りつけようとするが、カウンター気味に斬りつけられる。
「そして、運命を乗り越えて見せる!」
もはやお前たちは敵ではないと言わんばかりの鬼神の如き無双はカンタルたちにも伝わる。
「ええい、何をやっている。周りをかこってから一気に攻めればいいだけだろうが」
「ダメです。あまりにも反応速度が違いすぎて、接近戦では……」
「ならば、遠距離からの飽和攻撃に切り替えろ。フレンドリーファイアなど気にするな」
「……被弾してもまるでダメージがありません!」
(刃が届かず、銃弾が効かない……これはまるで本当の死神ではないか)
次から自軍を示す光点が消えていくのを見て、カンタルの顔が青くなっていく。飛行艦1隻が死神から放たれたビームによって片翼がやられ、撤退を余儀なくされる。このままではやられると思った時、隣の地上艦から通信が入っていることに気づく。
【ようやくつながったか】
「監察官殿!相手は死神です!」
【死神か……サイケの新型機を応援に出す】
【ちょっと待って。あれはまだ試運転も終えていないんだよ。第一、落とされでもしたら大損。僕はともかく君はクビ】
【クビ上等だ。責任は俺がとってやる。今の立場上あまり口出しするつもりはねえから、艦長、アンタが決めな】
「わかった。新型機の出撃を許可する」
カンタルが通信を終え、後方から3機のマシンドールが出撃するのが見えた。
「高エネルギー反応!?」
急に飛来した極太のビームを躱し、その出先を見る。そこには随伴機としてのGアサルトリペア1号機、2号機の姿と――
「あれはGD-01!彼女まで再建したというのですか!」
「私はGD-02だ!」
Gブレードを改良したGDブレードの白銀の刃がナナに襲い掛かる。それを難なく受け止め、はじき返す。
「今、貴方たちに構っている暇はありません!」
「なにを!」
1号機がライフルを連射するが、ナナに一向に当たる気配はない。だが、1号機の攻撃に意識を奪われている間にGD-01が背後から近づいていく。それを瞬時に躱すものの、態勢を崩したナナに2号機のライフルが直撃する。
「ぐっ……」
「最大出力のGライフルで倒せないのは困りものよね。ディフェンシブモードで防御力を上げていると言っても、確実に当てればいつかは壊れるでしょう」
「1号機、2号機、私の援護をたのむ」
「GD-01、いえ、GD-02!貴方たちはこの虐殺を良しとするのですか!」
「命令ならば!」
「それは間違っています。私たちがただ命令に従うだけの存在であれば、意思を持たせる必要などありません」
GD-02と激しくぶつかり合うナナにライフル弾が当たる。最大出力までエネルギーをためる必要があるため、連射こそできないものの、そのダメージは豆鉄砲同然のPアサルトたちと比べ物にならない。
「何が言いたい!」
「マシンドールは人を救うために作られたもの。戦闘用でありません」
「私は生まれた時から戦闘用として作られた。ならば、命令に従い戦うしかあるまい!GDブラスター発射!」
まともに喰らえばいくらリミッター解除をしているナナといえどもひとたまりもない胸部ビームをGシールドで耐える。だが、その一瞬だけ動きを止めた隙を突いて、周りのマシンドールが一斉にナナに向けて銃弾を放つ。
「やったか!」
「ハチの巣……ならまだマシね、これは」
「いいや、まだだ!」
警戒を怠っていないGD-02がナナの銃撃を躱していく。爆炎が晴れたその先には来ていた服はぼろ切れ同然となり、むき出しになっているフレームも見受けられる。
「高エネルギー反応感知……陽電子砲のチャージが始まったか」
「もはや気にする必要はない。ここで倒れるのだからな」
(ブリュンヒルデたちも近くまで来ているようですが、陽電子砲のチャージまでには間に合わない。2撃目を止めれるの私だけ……ならば!)
ナナはかつてギース戦でしたように自分のプログラムを書き換えていく。
「各員、攻撃を開始せ――」
「エナジーウィング!」
ナナが羽を伸ばし、周りのアサルトやフライヤーからエネルギーを吸収していく。それをみたGD-02はつまらない悪あがきかと判断しながらも、彼女から距離を取る。
「これだけの余剰エネルギーがあれば、イミテーションでも発動は可能でしょう」
「何をするつもりだ!?」
「私は限界を超える……バーストモード、アローンで起動!」
ナナがバーストモードを発動させると、エーテルで出来た赤い炎の球体に包まれる。そして、卵の殻が割れるかのように皮膚や髪が燃え盛る炎となり、炎の魔人とも呼べる姿のナナが誕生がする。
「なんだあの姿は!?」
「時間が無い。一気に決めます!バーストインパクト!」
炎に包まれた左拳が巨大化し、GD-02にぶちかます!ぶん殴られたGD-02はブースターを噴射しても、その勢いは衰えず、飛行艦を貫通する弾丸と化し、地面にクレーターを作る。だが、その反動に耐えきれなかったナナの左腕が完全に砕け散る。
「よくもGD-02を!」
「陽電子砲はやらせないわ」
「押し通らせてもらいます!」
進路を防ごうとする1号機たちの脇を通り過ぎると同時にそれぞれの片腕が宙に浮かぶ。斬られたのにすら気づかなかった二人をよそに、大型戦艦に急接近する。
「陽電子砲撃て――!!」
死神に邪魔させまいとカンタルは号令をかける。王都への有効射程はギリギリだが入っており、外すことは無い。そして、陽電子砲の射線上に割り込んできた死神と放たれた閃光を見た瞬間、ようやく彼は一息付けれるなと安堵する。
「いかに死神と言えども陽電子砲の前ではむりょ――」
カンタルは目の前にある光景を疑ってしまう。死神がかざした剣が陽電子砲を弾いているのだから。
「ば、馬鹿な!まさか!」
「これ以上、悲劇を繰り返させはしない!バーストブレード・リミットブレェェェェェク!!」
カンタルが最期に目にしたのは陽電子砲によって焼かれながら迫ってくる髑髏が命を刈り取る刃を振るう姿だった。その姿はまさしく――
「死神め……」
「撤退する」
飛行艦2隻と旗艦たる巨大戦艦1隻を失った今、この場に留まることは危険だと判断し、グラムはもう1隻の地上艦にも連絡を入れる。
「1号機、2号機、GD-02の回収はちゃんとするように。あと自分たちのパーツは自分たちで回収。他にパーツがあるなら、ついでにそれらも回収。僕のところの予算は少ないんだから、戦場の廃棄パーツのリサイクル、リユースは基本中の基本。使えそうなものはとにかく回収すること。片腕しかない? そこは頑張って回収するんだよ」
「……サイケに付き合わされるあいつらが可哀そうに見えるぜ」
サイケのマシンドールに同情しつつ、グラムは退出する。自分たちの行く道がこれでいいのだろうと迷いながら……




