EPISODE32 邪龍(前編)
「かくしてギースが起こした戦争は終結し、人類は二度と過ちを繰り返さないように科学技術を封印することを決めるのでした」
ナナが話したギースとの戦争、そしてその直後に起こった次元崩壊現象について語った。誰も知らない歴史について魔王が口を開く。
「ギースとかいうゴーレムいや、AIだったか。その者がこの時代で復活したと?」
「ギースは膨大なデータがゆえにバックアップは不可能。よって、マスタープログラムを破壊すれば、復活はできないはずです」
「だが、帝国のマシンドールとやらはギースが操る機械兵と同じ動きをしていたのだろう。何らかの方法でバックアップを行い、この時代まで生き延びたと考えたほうが自然だ」
「そんなはずは……」
「落ち込む必要はない。貴殿がこうして話したおかげで、帝国内部にギースという協力者がいることが分かった。さすれば、密偵にその者について調べさせることもできる」
「ギースの性格上、最も安全な場所にいるはずです」
「となればエリア1、帝都カイゼルしかあるまい」
「日の沈まない不夜の都って聞いたことはあるけど……」
「その眼で見たことは無いと。陛下も?」
「我もエリア2の最大都市にして、外交の要たるエンパイアまでしか立ち入ったことは無い。確か資料があったはずだ」
魔王が何もない空間からファイルを取り出し、パラパラとめくり始める。そして、お目当てのページを見つけたのか、2人にそのページを見せる。そこには各国の旗が掲げられている領事館らしき建物と、巨大な門が映っていた。
「話には聞いていたけど、エンパイアってこんな街なのね」
「マスターは行ったことが無いのですか?」
「ほら私、落ちこぼれだから。お兄様はお父様と一緒に行ったことあるし、ベルンもお母様も言ったことあるけどね」
「あそこには各国の料理店も並んでいる。特に『鷹の目』という店は良い酒がそろっていたと記憶している。行く機会があれば、立ち寄ると言い」
「鷹の目。覚えておきます」
「しかと覚えておけ。話がそれてしまったが、魔王たる我でさえも今のエリア1の状況は掴めぬ」
「……リバティーズの人はどうかしら?」
「向こうの状況も知りたいですし、聞いてみましょう」
ナナが遠距離通信を行い、ブリュンヒルデと連絡を取り合う。外部にも聞こえるようにスピーカーはONだ。
【セブンスセブンから連絡ってことはまず~い状況に陥ったとか?】
「その様子だとそちらは問題なさそうですね」
【リバティーズのアジト周辺は動きは無いみたいよ。ただエリア2の帝国軍がエリア1に集結して不穏な動きを見せているらしいけど】
「エリア1ですか。こちらもエリア1について話をしたく連絡をしたのですが」
【エリア1ね……トミー何か知っている?】
【俺に振るのかよ。えっ~と、どこに向かって話せばいいんだ。話せば勝手に拾う? よほど良い通信機持っているんだな。つーか、どこに着けているんだ? 結論から言えば、俺たちも分からねぇ】
【だって】
【しょうがないだろう。エリア1の連中がエリア2に来ることなんて滅多にねえし、逆もしかりだ。エリア2と3を往来する抜け穴があるだけでもヨシとしてくれ】
【リバティーズも分からないってことで】
【あと、もう一つ。王国については国王が帝国と徹底抗戦の構えをしているから、戦争が長引いていると第一王子が批判。これ以上の兵の犠牲を出さないためにも、ピスコ国王を弾劾。今は第一王子が王の代わりを務めて、和平路線というより服従路線を進めているそうだ】
「お父様は無事なのよね?」
【処刑されたって話は聞いていないから幽閉でもされているんだろう。だが、急いだほうが良いぜ。オープナーの国王や妃らは処刑されて幼い姫君だけが傀儡用に残されたって話だ。もし、このクーデターに帝国が絡んでいるなら、同じことが起こるかもしれねぇからな】
「そんなことはさせません!必ずお父様を助け出して、お兄様を止めます」
【見ないうちに言うようになったわね。その意気よ、何か動きがあったら連絡するわ】
「エリア1に軍が集結……密偵はエリア2に入るのも一苦労しているのだが。リバティーズの首魁とはいずれは話をつけないといかんな」
「リバティーズのリーダーとコンタクトを取ることは可能です」
「ならば、こちらも何かしらの対価を払わなければならんな……うむ、貴殿らが望むものを1つ叶えてやろう」
「1つですか……マスター、貴女が決めてください」
「私? う~ん……」
「貴殿は何を望む? 国を取り戻すための軍か? 力か? 金か?」
「ん~~、今は返さなくていいです」
「ん? んんんんんんんん?????」
「国を取り戻すのは自分たちの問題だから、他国の力を借りるわけにはいきません。だから、今は力も金も要りません。でも、帝国と戦うときは必要だと思うので、そのときに返してもらえればと」
「なるほど。身内の不祥事は身内で解決すると。だが、ただ無欲というわけではないその答え、気に入ったぞ。今日は我が城でゆっくりと休むと良い」
「でも、急がないと……」
「今日はこちらも仕事があるがゆえにできないが、明日ならば転移魔法で国境まで送るくらいはできよう。それにだ。客人を早々と帰らせるのは少々外聞が悪い」
「わかりました。それではお言葉に甘えて」
2人が頭を下げて、魔王のいる部屋から退出していく。彼女たちの姿が見えなくなったところで、魔王は深く椅子に腰かけ、天を仰ぎ見る。
「空間のひび、次元崩壊か……」
ナナの話に出てきた単語を脳に浸透させ、未来予知を行う。だが、その未来予知の結果は何回やっても依然と変わらないものであった。
「数か月後には発生する空間の裂け目、その先からの未来は見通せぬ。これが次元崩壊によるものであるなら、そのトリガーを引くのは……」
退出した二人の顔を思い出すが、すぐに打ち消す。出会って間もないが、少なくとも世界の崩壊を望むようなことはしないと信用できるからだ。
「となれば、帝国か。邪龍ディアボロスを復活させようとするのも、D4を撃つ口実を欲しているからかもしれん。我が領土でそのようなことをさせるわけにはいかん!」
ディアボロスの封印の警備を人員を増やすことにした魔王は部下に命令を下していくのであった。
そんな魔王のことは知らず、アイリスたちは浴場に向かっていた。湯船には真っ赤な色の湯がブクブクと泡立っている。
「血の池地獄ですね。ドクターたちの故郷にこのような温泉があったと記録にあります」
「へえ~、そうなんだ。大昔にあるなら、今も残っているかな?」
「どうでしょう。ギースの無差別攻撃で日本も攻撃対象でしたから、失われているかもしれません」
「でも、失われていないかもしれない。確かめたわけじゃないでしょう」
「私たちは東ヨーロッパの基地に居たので、この目で確認はしていませんが……」
「だったら、いつか行ってみましょう。その日本があった場所に」
「そのためには大森林を抜けないといけませんね」
「ナナと一緒なら大丈夫よ」
「……そうですね。今ある問題を解決したら、一緒に行きましょう」
2人はこつんと軽く拳を合わせて先の未来を誓うのであった。
8/20 設定一部変更しました




