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落ちこぼれ王女は封印されし機械人形と共に救国する  作者: ゼクスユイ
第2章 機械人形と別れ

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EPISODE29 同型機

 アイリスたちがアイスヘルへと歩んでいたころ、ブリュンヒルデは帝国の外殻にあたるエリア3にあるリバティーズのアジトである『桃源郷』に案内されていた。表向きは山奥にあるさびれた村にしか見えないが、それぞれの家屋の地下はつながっており、その地下施設はかなり広い。


「少し古そうだけど、しっかりとした設備もあるのね」


「最新鋭のは買う金も……廃品回収で出されたものを横流ししてもらって直しているのが現状でござる」


「分かるわ。レジスタンス活動ってひもじい思いしないといけないのよね」


 ブリュンヒルデはかつての戦いを思い起こす。自分を造った研究者が不味い不味いと言いながらも飲んでいた薬膳茶もどき、戦乱の長期化に伴って徐々に少なっていく機材や食料。ストレスや食料等の限界から導き出された最終決戦日とその実行。

 ブリュンヒルデから見ればあまり良い思い出とは言えないそれらから目を背けるかのように、近くにあった古ぼけたコンピューターの画面を見る。そこには各地に散らばっている同志たちの連絡が逐一入っており、各地で起こっている出来事がリアルタイムに近い速さで手に入っている。


「ここ数日、エリア2に配備されていた帝国軍がエリア1に集結しているようでござるな」


「内部の守りを固める……ってのはおかしいわね。逆ならまだ分かるけど」


「エリア2は侵入できるでござるが、エリア1はセキュリティが厳しくてとても。噂で何か無いか聞いてみるでござるよ」


「お頭、会議の時間じゃないっすか」


「もうそんな時間でござるか。ブリュンヒルデ殿、ゲスト用カードキーを渡しておくでござる。セキュリティレベル1なら自由に出入りできる優れものでござるよ」


「あら、気が利くわね。ありがたく使わせてもらうわ」


 カードキーを受け取った後、アヤメはレベル2と書かれた扉の奥へと入っていく。手持ち無沙汰になったブリュンヒルデは地下施設の見学でもしようかと思案していると、バンダナを巻いた男性が声をかけてきた。


「そこのキミ、エリア2で会わなかった?」


「なに? 新しいナンパ? 私って可愛いから仕方ないわよね」


「いや、そういうつもりじゃないんだけど……」


「照れちゃって」


 ブリュンヒルデが顔を近づけてまじまじとバンダナの彼を見つめていると、彼の顔が少し赤くなる。


「そうね。リバティーズ全員がジャパニーズ・シーフ、ニンジャの恰好をしているのかと思っていたわ」


「いや、さすがにそれは勘弁。といっても、ここには変わり種しかいねぇけどな」


「たとえば?」


「お頭みたいな反政府運動する奴は多いけど、俺みたいな浮浪者みたいな連中に、仕事(げんじつ)よりも芸術(ゆめ)を取った奴……まあ数は少ないけど、色々いるわな」


(思った以上にまとまり無いわね……大丈夫なの、この組織?)


「すげー不安に覚えるだろう、顔に出てるぜ。キミが何をしに来たのか知らないけど、ここは最低限のルールしかねぇから気楽にやろうぜ。どうだい、少しお茶でも?」


「やっぱりナンパじゃない。私はお高い女だから、安物だと満足しないわよ」


「だからちげえよ。それに出すのはオープナーの紅茶だ。今じゃあ、エリア3になって手に入れにくくなったレアモノだ」


「美味しいの?」


「ああ。ストレートで飲むならオープナー茶に敵うモノはいないと思っている」


 最後にトミーと名乗ったバンダナの彼が紅茶を入れ始める。お茶菓子のクッキー数枚と一緒に出されたお茶をブリュンヒルデは味わうかのようにゆっくりと飲み始める。


(人間だったら細かい味とか風味とか分かるんだろうけど、アタシにとってはお湯も同然なのよね)


 機械の身体であることに普段は不満を抱かない彼女であるが、こういうときだけは損した気分になる。そんな複雑な表情をする彼女を見て、何か地雷でも踏んだのかとトミーは焦り、話題を変えようとする。


「あっ、そうだ。キミ、どこ出身? 俺はエリア2の生まれなんだ。勉強苦手で……追い出されたけど」


「私は北欧生まれね」


「ホクオー? ホク王?? 聞いたことないけど、どっかの王族の生まれか?」


「ふふふ、今は無い場所よ」


(あっ、やべぇ。あれか、どこかのエリアの王族の生まれか。そりゃあ、別の地域とはいえ、帝国に支配された国のお茶なんか出したらああいう顔するわな。支配されたら王が処刑なんてザラにあるし……)


 色々と勘違いして焦りの色を浮かべているトミーだが、ブリュンヒルデはそんな彼の心情を知らずに出されたお茶を飲み干していた。




 ブリュンヒルデがのんきにティータイムを過ごしていることを知らないナナたちはアイスヘルに差し掛かろうとしていた。


「この峡谷を抜けたらアイスヘルよ」


「ということは賞金稼ぎたちが襲うとしたら、崖の上からの奇襲などが考えられます」


「だけど、人影はないみたいよ」


「ええ、こちらも生命反応は見受けられません」


「おかしいわね……血の匂いはするんだけど?」


 カーミラの違和感を信じて、もう一度探索するが、アイリスの分析用ゴーグルにもナナのセンサーにもそれらしい反応は無い。考えすぎだとしても、用心に越したことは無いと辺りを見渡しながら進むと、岩にもたれかかっている小さな人影が見える。


「あれは……!?」


「レッサーデーモンの死体。誰かが倒したのかしら」


「これが血の匂いの原因ってわけね」


(全身に銃痕があるにも関わらず、薬莢が見当たらない。魔法の弾によるものなら、弾痕はもっと丸みを帯びる。どちらかというと私の……)


 ナナがレッサーデーモンの死体を観察していると、何かに気づいたのかカーミラとアイリスを押し倒す。すると、二人が居た空間を銃弾が降り注ぐ。


「いったい、何なの?」


「空からの攻撃に見えたけど……」


「あれはGアサルト! なぜ、ここに!?」


 ナナの視線の先には、ナナにそっくりな2機のマシンドールが銃を構えている。かつてナナが試験運用していたプロトアサルトよりも、小型化された羽をもち、取り回しにくいエーテルキャノンはオミットされ、ミサイルポッドになっている。

 正式量産装備であるアサルトアーマーを装備した同型機の内1機がナナに通信を入れる。不用意に近づくような真似はしないようだ。


「こちらカーディナル帝国軍所属Gアサルトリペア1号機。実験機G-7777777、要人誘拐の容疑で破壊の命令を受けている」


「ちょっと、1号機。今の私たちの任務は性能試験のために魔物の討伐でしょう」


「ふん。このあたりの魔物は弱くて話にもならん。だが、実験機を倒せば、私たちの優位性も示し、他の任務も遂行できる。Dr.サイケも喜ぶだろう」


「オープンチャンネルで話されているので、私にも聞こえていますが……」


「………………2号機、なぜ指摘しない?」


「1号機が勝手にやったことでしょう。私は知らないから。上空で待機するわ」


「うむ。次はチャンネル1248で話すとしよう」


(まだオープンチャンネルのままということは指摘したほうがよろしいのでしょうか?)


 機密内容が駄々洩れな1号機(ポンコツ)をみて、ナナは不安げな表情を浮かべ始める。だが、そんなことはお構いなしにナナに発砲していく。Gシールドで初撃を防いだナナは巻き込まれないようにアイリスたちから距離を取る。


「ミサイル攻撃一斉発射!」


「Gガトリング!」


 放たれたミサイルを一発一発撃ち落していくが、上下左右、3次元の動きをするそれらを全て打ち落とすにはあまりにも手数が足りない。


「撃ち落せないのであれば!」


「ちっ、ディフェンシブモードか」


 外部装甲にエネルギーを回して赤くなったナナを見て、1号機は舌打ちする。ミサイルが数発着弾をしても、ダメージを与えたかのようには見えないからだ。ナナから放たれたGライフルの弾を悠々と躱していく。


「やはり、こちらの有効射程は把握していますか」


「無論だ。そして、その形態には防御にエネルギーを回している分、機動力も攻撃力も落ちることもな。ならば、こちらは攻撃し続ければいずれは破壊できる。問題はない。フルバーストアタック!」


 1号機から放たれ続ける銃弾とミサイルの嵐。それをナナは何かを待っているかのように懸命に耐える。それを見たアイリスは大声で叫ぶ!


「ナナ、リミッター解除!」


「マスター、それを待っていました。今回は一瞬だけあれば十分。G.E.E.S起動!」


 リミッター解除により、パワーが上昇したナナは空高く跳躍する。


「馬鹿な、ディフェンシブモード中にこれだけのパワーを発揮できるはずが……」


「最終決戦後にデータ更新はなされていませんからね。そして、有効射程に入り込めれば!」


 両腕のGライフルで1号機を狙い撃つ。致命傷となる胴体部の着弾だけは避けたものの、右腕が吹き飛んでしまう。まだあきらめていない1号機が左腕のアームズガトリングを落下していくナナに向けた時、2号機が射線上に割って入る。


「何をしている2号機。私はまだやれる!」


「はいはい。博士からの連絡。こっちに合流後、撤退ってさ」


「うう……覚えてろ!」


 1号機が銃口を降ろし、2号機が地上に降り立つ。攻撃する意思はないと言いたいのか、手を広げてバンザイのポーズをしている。攻撃する意思が無い以上、ナナも武器を降ろし、彼女たちの話を聞く。


「私たちの開発者、Dr.サイケが貴方たちに話したいことがあるんだって」


「私たちに?」


「ぜーはーぜーはー……その通りだとも!」


 息を切らしながら現れたのは白衣を着た、ぐるぐるメガネの男性。1号機と2号機が彼に近寄ったところを見ても、彼がDr.サイケであることなのは明確だ。


「いや~、この僕が復元した1号機を破損させるとか。というより、さっきのナニ? 皇帝陛下から頂いたデータにあんなの無かったんだけど」


「機密事項です」


「だよね~、知ってた。で、本題。アイリス王女殿下、ウチに来ない?」


「…………はい?」


 事態が呑み込めていないアイリスはハテナマークを頭上に浮かべながら、受け答えする。


「君の研究成果を見させてもらったんだけど、魔石に関する研究はきれいにまとめられているし、ウチの部下より優秀。おかざりな姫にいるより、ウチで働いてもらったほうが良いと思うんだ。処遇はそれなりに優遇するし、実験機にかけられた容疑だってなかったことにしてもうよ。こう見えて、僕、三幹部とかいうクソダサイ立場にいるし。それくらいの権力は持っている。それに実験機が手に入ったら、僕の研究もより早く進められる。Win-Winだし、一石二鳥どころの話じゃないんだよね。分かる? どう?」


「えっ~と……ごめんなさい」


 サイケのマシンガントークを頑張って処理したアイリスは断った。それを聞いたサイケはがっくしと分かりやすいほどまでに落ち込む。


「だよね~僕、人望ないもん。予算はギリギリなくせに納期だけは守れって言うし。というより予算がぴったり無くなるように計算してくる皇帝陛下ってやばくねぇ? ここいらで手柄立てて予算アップ!ってしたいのよ。まあ、アレの納期は間に合わせたし、1号機と2号機だけは勝手に使っていいって許可を出す皇帝陛下って懐広くねぇ? やっぱ皇帝陛下についていこうって思えるよね。で、ウチに来ない?」


「だから行きません!」


「しつこい男は嫌われるわよ」


「だよね~言いたいことは言ったし、僕たちは帰るよ。それじゃあ、また会おう。シーユーアゲイン」


 2号機に背負ってもらったサイケは上空へと旅立っていくのであった。数分にも満たないわずかな邂逅であったにもかかわらず、疲れがどっと押し寄せてきたアイリスたちは、アイスヘルに入るまでの最後の野営をするのであった。

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