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落ちこぼれ王女は封印されし機械人形と共に救国する  作者: ゼクスユイ
第2章 機械人形と別れ

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EPISODE25 力比べ

「腕の無い私は役立たず。しくしくしく……」


 右腕をもぎ取られたナナが部屋の片隅で三角座りで泣いている中、キッドとアイリスが意気揚々として右腕を分解している。

 修理のことなど頭の片隅に追いやった二人は、ミリどころかマイクロオーダーレベルまで設計に組み込まれている部品を見て、感嘆の声を漏らす。それは著名な画家が描いた絵画を見たかのような驚きと発見が次から次へと発見されていく。


「金属の液体をこういう風に……にゃるほど」


「だから、レオン陛下の攻撃がクッションされて、フレームが……」


「外部装甲とのコネクターは……これかにゃ?」


「これとつなげれそうなのはこのジャンク部品よね」


「とにゃれば……」


 ぶつぶつと言いながらも手はテキパキと動いている。キッドが伸ばした爪で形状を整え、アイリスが回路にできるだけ沿うように、粉砕した魔石をピンセットで慎重に接合していく。細かい作業の連続に汗を垂らし、プルプルと震えていうことの効かない手を抑えながら作業を進めていく。


 とっぷりと日が暮れたところで、今日の作業は終了となる。組み立て途中の模型のようにバラバラの部品に変わり果てた右腕を見たナナはガックシと膝をつき、涙を流す代わりか再度しくしくと言い始める。


「大丈夫だ、機械人形。組み立て方はしっかりとメモ書きした。ジャンクパーツの補修が終われば、戻せるはずにゃん(多分)」


「そうよ、アタッチメント部は大きな損傷が無かったから大丈夫よ(多分)」


「……最後、歯切れが悪かったのは聞かなかったことにします」


「そうだにゃ。こういうときはメシでも食べてパーッと気分転換するのが一番!猫は急げ!」


「急ぐのは善……って、キッドさん待って!」


 ぴゅーと外へ走っていくキッドをアイリスたちが追いかける。街のあちこちから灯りが漏れ、飲み屋からは、料理と酒の匂い、賑わいの声が浴びせられどこもかしこも繁盛しているようだ。キッドがその中の1店の酒場に入り、奥のテーブルに座る。なじみ客であるらしく、兎のウエイトレスに「いつもの」の一言で伝わる。


「ここの料理は絶品なんだにゃん」


「それは楽しみなんだけど……」


「ええ、さっきから視線がこちらに……」


 アイリスたちが振り返ると、何名かの客たちがこちらを見てぼそぼそと話しているようだ。そして、何か決まったのかサイ頭の獣人がこちらへとやってきて、ナナに威圧するかのように話しかける。


「アンタ、ウチらの王とやりあったんだってな」


「ええ、そうですが?」


「義腕とはいえ、そんなひょろっちい身体でねぇ……王の強さは俺たちもよく知っている。あの人がたかが人間の女に負けるわけねぇ。いったい、いくら払ったんだ?」


(八百長だと思われていると言ったところでしょうか。このまま無視しても、あることないこと言いふらされれば、この国の協力を得ることが難しくなるかもしれません)


 ナナが店主らしき人を見ると、喧嘩をするなら外でやってくれと言わんばかりにこちらを睨めつけてくる。店内でのあらごとはナナにとっても避けるべき事態ではある。


「わかりました。ですが、見ての通り、私の右腕は修理中です」


「おいおい、逃げるつもりか?」


「いいえ。店の外で戦うにしても周りに被害が出ます。見たところ、貴方は力に自信があるような体つきをしています。よってアームズレスリング、腕相撲による勝負というのはどうでしょう?」


「ガハハハハハ、俺様に腕相撲だぁ? 王ならともかく俺様に腕力で勝てる奴なんかいないぜ」


「さあ、これは見ものだよ。王が認めた人間とこの国きっての暴れん坊サイノスの力比べだ。さあ、張った!張った!」


「サイノス、お前にビール代かけるぜ」


「じゃあ、俺はお嬢ちゃんにつまみ代な」


 サイの獣人の取り巻きが、勝手にどっちが勝つか賭けにして周りから金を集める。空いているテーブルに左腕を乗せ、互いに手を合わせる。

 サイノスから見れば、利き腕ではないとはいえ、目の前にいるナナの倍の太さはあるであろう腕を見れば、結果は一目瞭然だと思い込んでいた。そして、取り巻きたちがコインを投げ、地面に落ちた音を合図に力を入れる。


(な、なんだコイツ。まるで岩みてえにビクともしねぇ……)


「その程度ですか? 私は本気を出していませんよ」


「最初から本気を出す馬鹿はいねぇよ。瞬殺なんかしたらギャラリーが盛り上がらねぇだろう」


「なるほど。そういう考えもありますね」


 ナナの腕が机側に少し傾き、ギャラリーからそのままやっちまえとサイノスに応援を浴びさせる声が届く。だが、当の本人は内心で困惑していた。


(コイツ、わざと力を……)


「ピンチを演出するのも難しいですね。少し押し倒しますか」


(ぐぬお……目いっぱい力を入れているはずの腕をいとも簡単に……!?)


「嬢ちゃん、良いぞやっちまえ!」


「サイノス、お前にこの店の今までのツケをかけたんだ。負けるんじゃねぇぞ」


(む、無茶を言うな。こいつ、遊んでやがるだぞ……)


「怪しんでいる目で見ている人もいますね……これ以上、長引かせるとバレそうなので勝ちます」


 わざとサイノスがあとわずかで勝ちそうなところまで寄せた後、一気に押し倒してナナが勝利する。賭け事に泣く者、笑う者、胴元の取り巻きは思わぬ収入でホクホクと言ったところだ。


「サイノスが手を抜いただけじゃねぇのか。今度は俺がやる」


「良いでしょう。私に疑問を抱くのであれば、だれでも挑戦を受けましょう」


「参加費1000。チャンピオンに勝ったら積み立て全額だ!もってけ、ドロボー!」


「いつの間にか腕相撲大会になったにゃ。ご飯が冷めないうちに食べるのが一番」


「それにしても……肉しかないわね」


 腕自慢たちが続々とナナに挑んで大賑わいのテーブルを見ながら、アイリスは何の肉かはよくわからない謎の骨付き肉にかぶりつく。塩コショウが効いており、酒のツテによさそうだ。他の料理を見ると、野菜をベーコンで巻いたもの、蒸し鳥、果物をくりぬいた中に肉が入っていたりと肉づくし。


「この世で美味しいものは脂と糖分。栄養は添えるもの。これが世界の真理にゃ」


「ま、間違ってないけど……こんなの食べ続けていたら、太る」


「食べた分だけ食べなかったら良い。メカをいじっていたらいつの間にか丸二日。なんてことはよくあるゆえにな」


「あっ、時間忘れることは私も……いやいやいや、さすがに私でもそこまで忘れることは無いわ。気が付いたら朝ってのはあるけど」


「ふっふっふっ。まだまだのようだにゃ、メカ子人間。あたいみたいになりたくなければ、メシを食え。そして、大きくなるんだニャン」


(……キッドさんと私って、そこまで背丈変わらないんだけど?)


 キッドの言葉に疑問符が付きながらも、出された料理を平らげていく。そして、ふと見た腕相撲大会の方は挑戦していた獣人たちはぐったりと倒れ、ナナに挑む気概のある獣人がもう居ないのか、お開きになりそうな雰囲気だ。


「それでは八百長ではないと認めますね」


「ぜいぜい……認める。認めるよ。悪かった。俺たちの負けだ」


「それでは失礼します」


「ナナの姐さん、待ってくれ!」


「……姐さん?」


 聞きなれない言葉に、踵を返そうとしていたナナが思わず聞き返す。先までぎらついた目は何処に行ったのか、勝負を仕掛けてきた獣人がきれいな目でこちらを見つめている。雲行きが怪しくなった状況にナナの直感がこの場から立ち去るべきだと警告するほどだ。


「そうさ。自分で言うのもあれだが、荒くれ者でさあ……喧嘩に明け暮れる日々を過ごしていたわけよ」


「でも、姐さんと出会ってわかりました。そんなことをしても強くなれないって」


「姐さんにどこまでもついていきますぜ!」


(なぜ、そのような結論に至ったのか……シミュレーションを繰り返しても分からない)


 ナナは彼らの言いがかりに反証すべくただ腕相撲をしていただけという認識だ。今まで積み上げてきたプライドをズタボロにされた獣人たちの心の変化などわかる由もなかった。助けを求めるかのようにアイリスの方を見る。


「誰かさんから聞いたんだけど、判断を委ねたら駄目って聞いたわ」


「マスター!? それは……!」


「私って結構根に持つタイプみたい」


「姐さん!」


「どうしてこうなったのですか!??」


 寄ってくる獣人の対処など、ナナの脳内メモリーにあるわけもなく、ただただ頭を抱えることとなるのであった。

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