EPISODE23 獣王
アイリスたちは会議室に集まり、王国奪還に向けてのブリーフィングが始まる。ピリピリとした空気の中、ナナが話し出す。
「昨日、ブリュンヒルデと話し合った結果、現状での戦力による王都の奪還は不可能という結論がでました」
「こちらからうって出る以上、手加減した騎士団の人たちも今度は敵。殺さない程度には手心を加えてくれるかもしれないけど、反撃はしてくるはずよ」
「しかし、セブン殿、彼らも一枚岩でないのは昨日の様子からも明確。離間工作を仕掛けるというのはどうでござるか?」
「離間工作は悪くない手です。それで離れる人員が居たとしてもごく少数。でなければ、大規模クーデターなど起きることはありません」
「でも、戦力なんてそう簡単に増やせないわ」
「1つだけアテがあります。ZX-0000000レイ、ドクターヴェクターの遺産を掘り返しに行きます」
目の前の壁に地図が張られていく。そこには、大森林の中に赤い円があり、中心に行けば行くほど色が濃くなっている。
「私が封印される前の地形データとブリュンヒルデが撮影した地形データから、ドクターヴェクターが晩年、彼女と一緒に過ごしたラボの位置を特定しています。ただ、地殻変動が激しく、円の中心部付近であると思われますが、確実とは言い切れません。色の薄い箇所にいる可能性もあります」
「さらに言うと、入り口が地面の中に埋まっている可能性まである。アタシがドローンを飛ばしても、気づかない可能性は十二分にあるわ。つまり、実際に現地に赴く必要があるってこと」
「大森林の中を徒歩で探索するつもりでござるか!?」
「いくらナナたちが強いと言っても自殺行為よ!」
「ええ、私だけでは探索に時間がかかります。そこで、大森林の探索に長けた獣人たちと協力することを提案します」
「こんなことになった後で言うのもアレだけど、ライオンキングと合わせる約束を取り付けていたのよねえ」
「ライオンキング……? それって、獣王レオンのこと?」
「そうよ。知り合いだったかしら?」
「いやいやいや!私は直接会ったことないけど、気に食わなかったらぶん殴ってくる危険人物だって聞いたことあるんだけどぉ!私、これからその人と会わないといけないの!?」
「向こうは王、貴女はお姫様。立場的には釣り合うでしょう?」
「いや、ほらあ、姫って言われも落ちこぼれだし……貿易とかの話し合いって聞いたから大臣とか商人とか……一国の主がいきなり相手になるなんて思わないじゃない…………」
「昨日の決意はどこに行ったのですか。マスター、覚悟を決めてください」
「ナナが裏切ったぁ!?」
アイリスが後退って逃げようとするも、いつの間にか回り込まれていたナナによって後ろから羽交い絞めにされる。逃げ道が塞がれて、がくりと首を垂れる。
「ファーストコンタクトはアタシもついてきてあげるから、大丈夫よ。で、次の問題は兵糧ね」
「人が2人増えただけで逼迫するほど、食糧事情が厳しいのでござるか?」
「2、3人増えたところで別に構わないわよ」
「プロトの分は私たちの分が消費されたと思い込みましょう。3人前で足りてほしいところです……」
「そんなに食べるの……!?」
ナナが遠い目をしているのを見て、まだ見ぬマシンドールに対して少し不安になる。それだけじゃないと付け足してブリュンヒルデがしゃべり始める。
「離間工作で裏切ってくれたとしても、協力者が増えたとしても食料って重要よ」
「昨日の食事でわかったと思いますが、毎日の食事がアレになります」
「虫料理が!?」
「しかも、昨日は豪勢だったらしく基本はアレよりも質素になるとお考え下さい」
「兵糧問題、なんとかせねば!!」
「解決するのにアイリスちゃんと話していたのよ。フルートだったかしら? あのノッポたちは何処にいるの?」
「二人は南西部の実家に帰ったわ。こんなことになったけど、もしかしたら手伝ってくれるかもしれない」
「戦力と兵糧……どちらも重要でござるが、どちらを先に解決するでござるか?」
「ここれは、アタシたちのリーダーってことでアイリスちゃんに決めてもらうわ」
「えええ!ここはブリュンヒルデさんの方が……」
「アタシも機械だってことお忘れなく~」
「あっ……わかった。決めないといけないのよね。無茶かもしれないけど、聞いてくれる?」
アイリスがたどたどしく自分の考えた案を伝え、細かいところを修正していく。そうして出来上がった作戦案を確認のため、読み上げていく。
「獣王レオンのところには私とナナ、ブリュンヒルデさんの3人で行く。その間にアヤメさんはリバティーズの人と話し合って、これまでの出来事を伝えてもらって協力を取り付けてもらうわ」
「その後、バッカス伯爵領とブランダー子爵領の情報を仕入れ、ゲートから帰還すると」
「こっちも引率が終わったら、そっちに合流するわ。情報は機動力よ」
「ハーピィたちにはゲートの監視の強化をお願いしてもらうわ。みんなで生き残って、お兄様から私たちの国を取り戻すわよ!」
おー!とその場にいた全員が手を天に突き上げ、彼女たちの反抗作戦が開始される。
面している大森林からは強力な魔物が度々出没する上に、険しい山々に囲まれた中、獣王レオンが治める獣人の国はある。特異的な場所でもある国には、一般人が偶然迷い込むことは無く、何らかの意図が無ければたどり着くことができない。
それゆえ、高額アイテムを取り引きするにはうってつけであり、時たま闇オークションが開かれることもある。
そんな国に降り立ったアイリスたちは、狼のような獣人からぎろりと睨まれてしまう。少し怖がったアイリスだったが、ブリュンヒルデが一睨みすると、そそくさとどこかへと行ってしまったことに一安心する。
「いつもこんな感じなのですか?」
「そんなわけないでしょう。普段ならもう少しフレンドリーだし、こんなに閑散としてないわよ」
「何かあったってこと?」
「さあ? ライオンキングならわかるでしょう」
ブリュンヒルデを先導して、街の中心部、ピラミッドのような巨大な宮殿へと向かう。道すがら、人間が珍しいのか、それとも別の思惑があるのか、アイリスの顔を見る獣人が絶えない。
宮殿に入ると、玉座に座っていた獅子の頭を持つ獣人がこちらを値踏みしているような目で見ていた。
「ライオンキング、元気にしてた?」
「おお、よく来てくれたな、美しき空の支配者よ。この者たちがお前の客人だな」
「は、はい!アイリス・シャルトリューゼと申します。こちらは私の騎士で護衛のナナです」
「歓迎しよう。早速で悪いが、ナナだったか、貴様には我と手合わせをしてもらう」
「ちょっと聞いてないんだけど」
「こちらにも事情があるということだ」
「わかりました。手合わせお願いいたします」
「うむ。では地下の闘技場で待っているぞ」
羽織を脱ぎ捨て、岩のように割れている割れている筋肉を見せびらかしたレオンは、一足先に地下闘技場へと向かった。それに少し遅れて、アイリスたちが入ると大勢の獣人の観客たちが、これから起こるレオンとナナの戦いを見に来ていた。
メインモニターにはオッズの倍率が書かれており、レオンの圧勝と判断されているような数字の差がある。
「貴様の信念、確かめさせてもらう」
「よくわかりませんが、相手になりましょう」
「まずは小手調べだ。獣王弾!」
魔力の籠った拳を振るうと、獅子の頭の形をした魔力弾がナナに襲い掛かるが、余裕綽々といった様子でかわしていく。
「ならば、獣王連弾!」
高速で拳を振るうことで、先ほどよりも小さいが、ガトリングの弾のように降り注いでいく。これはかわしきれないと判断したナナは慌てる素振りを一切見せずに、Gシールドで防ぐ。
「今度はこちらから行かせてもらいます。Gライフル!」
「その程度、ビーストハウリング!!」
ナナが放った数発の弾丸を見て、レオンは大声を上げて威圧する。観客たちの鼓膜が破れるかと思うほどの怒声による空気の震えで、弾丸の軌道がそれていく。
(あれは一種のジャマーのようなもの……これでは遠距離攻撃は通用しない。つまり……)
いささか誘導されている気もするが、ナナはボクサーのようなインファイトスタイルをとる。それを見たレオンは口元を緩め、挑戦者に挑まれる王者のような威風堂々とした姿で迎え撃とうと構える。
「まずは一発!」
「なんの!!」
レオンのボディーに1発のパンチを叩き込むが、鋼鉄のように固い筋肉に阻まれ、まるでダメージが通っていない。ナナはすかさず距離を取るが、ファイティングポーズは崩さない。
「我に接近戦を挑むその覚悟は受け取った。ならば、こちらも応えよう。獣王拳!」
獅子の頭部に見えるオーラを纏わせたパンチを躱すが、アレをまともに喰らってはいけないと判断する。隙のあるモーションゆえに拳をカウンター気味に叩き込むが、鍛え上げられた肉体には効いている風には思えない。
「その程度か!獣王衝撃拳!」
(あのときのオーガと同程度の威力……再生能力なくとも、速度も防御力はこちらのほうが数段上!)
振りかざされた拳で出来たクレーターを見て、この時代で出会ったいかなる敵よりも強大であると位置づけする。このままでは確実に敗北するとナナの計算結果が告げる。
「貴様の本気を見せてみろ!」
「……仕方ありませんね。マスター、リミッター解除の許可を」
「でも、アレは……」
「問題ありません。アレを使うつもりはありませんので」
「……わかった。ナナを信じるわ。ナナ、リミッター解除!」
「マスターの音声認証了承。SYSTEM G.E.E.S起動!リミッター解除!!」
ナナの目が赤く染まり、背中にX字の赤い羽根が生え、わずかに浮遊する。相手の切り札を見たレオンは何処から襲われようとも対処できるように隙の無いか前を取る。
「まずは一発!」
「ぐっ……」
先ほどと同じくボディーに一撃を喰らうが、爆音と共にレオンが後方へと吹き飛ばされ、地面にはその轍が残っている。畳みかけるようにナナが連打を浴びさせてくるのに対し、レオンも負けじとラッシュで応戦する。
「獣王百裂拳!オラオラオラオラオラ!!」
「その程度の攻撃なら、まだまだ!!」
互いのラッシュの応戦の果てに決着がつかないと判断したのか、両者とも距離を取り始める。おそらくこれが最後の一撃。観客たちにそう思わせるほどの気迫が二人にはあった。ごくりと息をのむ観客たちは、二人が動き出すのが今か今かと真剣に見入る。
「原点にして頂点!これぞ真の獣王拳!!」
「エネルギー転換装甲に過剰出力のエーテルを注入!」
「真・獣王拳!!」
「エーテルナックル!」
真っ赤に燃え上がるナナの拳と腕まで獅子のオーラを纏ったレオンの拳がぶつかり合い、観客たちをも吹き飛ばしかねない威力の衝撃波が生じる。舞い上がった砂埃が晴れると、そこには外部装甲が剥がれ落ち、右腕のフレームがあらわになっているナナと、腕からおびただしいほどの血を流しているレオンの姿があった。
「痛み分けか……」
「いえ、こちらは奥の手を出したにも関わらず外部装甲の破損……これ以上の手がこちらにないことから、私の負けです」
「ならばそうさせてもらおう」
メインモニターにレオンの顔がでかでかと映し出されWINNERの文字が書かれる。だが、観客たちは激闘を見せた2人に割れんばかりの拍手が送られる。
「皆の者、よく聞け!手合わせしたが、このものには一切の邪悪な思念は感じられなかった。よって、先日の手配書に記載されていた『悪逆の騎士ナナによるアイリス王女殿下の誘拐事件』は全くのデタラメだと断言する!!」
「!?」
「そういうこと……いやらしいわね」
「どういうことなの?」
「セブンスセブンは他の人から見れば高々数か月前に成り上がった人間。アイリスちゃんと比べれば、信用は無いでしょう。つまり、アイリスちゃんが国外逃亡というよりかは新人の側近が裏切ったの方が信じやすい。しかもアイリスちゃんを見かけたら、保護してもらおうと善意で通報してくれる」
「そんな……」
「悪意が無い分、タチが悪いわね」
獣人の国にまで手配が回っているとなれば、相手はアイリスが国外に逃げるところまで予見していたのかもしれないほどだ。あまりにも手際が良すぎて、背筋が冷える。
「色々と申し訳ないことをした。その腕の治療、いや修理のこともあるだろう。我も色々と話したいことがある。部屋に案内しよう」
優しげな表情を舌レオンがナナの左手を取り、エスコートする。自分が抱いていた獰猛なイメージとは違う紳士的な振る舞いにあっけにとられたアイリスは少し遅れて、二人の後を追うのであった。




