INTERLUDE2 ―ENCOUNTER―
夕暮れ時、アイリスは用意された部屋のテラスからぼんやりとオレンジ色に染まっていく空を眺めていた。国を取り戻すにしても、具体的に何をすれば分からず、そのあたりはナナたちに任せてしまっている。明日には、ブリーフィングを開くらしいが、何か意見を求められても案なんか出せるはずが無いと落ち込んでいた。
「こんなことになるんだったら、策謀について勉強しておくべきだったかしら?」
「人には得意・不得意がありますよ、マスター」
「ナナ、ブリュンヒルデさんとの話は終わったの?」
「ええ、大体の方針も決まりました。ブリュンヒルデも大亀戦を見ていたらしく、『Gブラスター』についてアレコレ聞かれて大変でしたよ」
「ブリュンヒルデさんも知らなかったの?」
「次元破壊兵器、通称D4。この装備を付けたのはフライトユニットの試験飛行時、彼女が作られる前です。それにとある事件をきっかけに、危険性が判明し、試射すらせずに1度はお蔵入りになった兵器ですから」
「とある事件って?」
「…………それはまだ話すべき時ではありません」
「ケチ」
「すみません。でも、いずれわかる日が来ると思います」
不満げに頬を膨らますアイリスを見ながら、ナナは懐かしむかのように昔の記憶を思い出す。
「セブンスセブン、気分はどうだい?」
「問題ありません、ドクター」
作業台からむっくりと起き上がり、セブンスセブンは自分の手足を動かしてみる。背中についている天使の羽根を模したような翼、空中戦の火力の確保のため、2門のショルダーキャノン、エーテル弾を放つアームズガトリングを両腕に、エーテル誘導弾フットミサイルが増設されたアーマーまで着こんでおり、かなり重い。
「動かせないことはありませんが、地上では重荷になるだけかと」
「一応、各所にスラスターをつけて機動力を上昇させているって先生が言っていたんだけど」
「ピーキーにもほどがありますね」
「う~ん、セブンスセブンがなんとかするって信じているんだろうね」
「あとはこのGブラスターですが……」
「ヴェクター博士考案の新兵器『Gブラスター』。転送技術を応用し、敵を異なる次元へ送りこんで破壊する……相手の装甲関係なしで破壊できるとはいえ、話を聞く限りはそこまで強力な兵器だとは思わないんだけど」
「そのドクターヴェクターが反対されていたとお聞きしましたが?」
「うん。僕もその場にいたけど、ものすごく怒っていたよ」
「ふん!知らぬ間に陰口をたたく機能までつけよったか」
噂をすればと思いながら、宇月博士はヴェクター博士にお茶を入れる。彼はコーヒー派らしいが、地上が焼け野原と化している今となっては、嗜好品に生産に回す余力もなくぜいたく品になってしまっている。今、飲んでいるこのお茶も緑茶や紅茶の類ではなく、タンポポ茶やトウモロコシ茶のようなものだ。ヴェクター博士はお世辞にもおいしいとは言えないソレをぐいっと飲み干す。
「儂が理想とする兵器とは常に対抗策のあるものを指す。そのほうが売れるからのう。あんな一方的な兵器、駄作にもほどがある」
「今はこういう時ですし、相手が対抗手段を用意できないほうが良いのでは?」
「そんなことを言っていると、いつかしっぺ返しがくるぞい。それに作った儂がいうのもなんじゃが、あれは次元の壁を破壊する可能性まである」
「次元崩壊を招くと……さすがに論理が飛躍しすぎでは? 長距離転送なら、セブンスセブンだって使っています」
「はい。少なくとも、そのような現象は確認されておりません」
「小規模であればな。だが、兵器として使うのであれば、その規模は大きくなる。軍は何を考えてDefective Different Dimension Destroyer Weapon、D4兵器を搭載しようとしたがる。この間なんかミサイルに搭載しようとしたぞ」
「元が転移装置だから詰めるというわけじゃな」
「先生!」
「軍は軍でこの未曽有の危機を招いた自分たちの汚名を返上しようとしているのじゃろう。少し焦りすぎな気もするがな」
「汚名を挽回しなければいいがな」
「それはともかくとして。1300より試験飛行を行ってもらう」
「もう少しだけ時間がありますね。セブンスセブン、準備は大丈夫かい? 不具合があるようなら、今のうちに直さないと」
「はい。問題ありません。いつでもいけます」
「私は新装備の開発に取り掛かりに行くよ」
「先生、どんな装備なんです?」
「外付けのエーテルブースターだな。一時的にマシンドールのエーテルリアクターの出力を上昇させることができるのだが、エーテルの蓄電システムがうまくいかん。有効範囲を考えると、歩兵に持たせる必要があるのだが、大掛かりすぎる」
「小型化してもエーテルブースターを持つ主人が倒れれば意味が無いな」
「うむ……だが、Gブラスターのような大出力の武装が今後の戦いにいるのであれば必要不可欠になる。撃つたびに動けなくなるようではただの的だ。作っておくのに越したことはない」
「使い捨てにすればいい。マシンドールといえども所詮、兵器。消耗品だ」
「マシンドールはただの兵器ではない!人類と共に歩む仲間だ」
「所詮は機械だ。どちらが正しいか本人に問いただせばいい。そう思うだろう、セブンスセブン?」
「はい、ドクターヴェクターの言う通り私は機械です」
「ほら見てみろ。本人もそういっている」
「ムムムムムム……!!」
自分の師の旗色が悪いなと思いながら、時計をみると飛行試験の時間が差し迫っていることに気づく。遅れたら、軍の人間からねちゃねちゃと文句を言われかねないと思い、セブンスセブンと一緒にこの険悪な場を抜け出すことにする。
「では、僕たちは飛行試験があるので……僕がブレンドしたお茶は戸棚の中にあるんで。それでは!」
「失礼します」
「……逃げたな」
「逃げ足だけは速いからな、宇月君は」
「お前さんの下で働くくらいだから、それくらいの度胸はないとな」
「なにを~」
2人は若かりしときと変わらず、睨めあい、あーだこーだと言い争いを続けるのであった。
自分の研究室で低レベルな言い争いが起こっているとは露とも思っていない宇月博士は、オペレーターと一緒にセブンスセブンの様子を見ていた。
『発進シークエンス開始。出撃まであと3、2、1……』
「セブンスセブン・プロトアサルト、発進します!」
基地から飛行強襲用試験装備を身に着けたセブンスセブンが飛び立っていく。徐々に高度を増していく様子にモニター室から歓声の声が出る。彼らは制空権を握る戦いに挑戦できるチケットをようやく手に入れたのだ。
『異常は無いかい?』
「エーテルの消費量が理論値より多いですが、誤差範囲内です」
『よし。急降下と急上昇も試そう』
「了解です」
勢いよく下降し、万が一でも地面と衝突すれば身体がバラバラになるほどの速度を出し、鼻先が掠るのではないかという距離で体を起こし、上昇させる。あまりにもひやひやさせる行動に、宇月博士は生きた心地がしない。
「問題ないようだね。でも、次からは危険なことはしないでくれよ」
「了解です。ドクター」
「わかったならいい。次はこの地点に行って、武器の性能の試験を行う。今じゃあ、誰もいない廃墟になった街だから、誰に迷惑をかけるわけでもない」
セブンスセブンは飛行速度を速め、指定座標へと向かっていく。かつては花の都と言われた大都市だったらしいが、今では破壊の限りを尽くされ、血のように染まった赤い大地とがれきの山しか見えない。
適当ながれきに向けて、ミサイルやガトリング砲を放っていくが、標準や威力はカタログスペック通りの数値が出ている。
『試験終了。お疲れ様。このまま基地にって言いたいところだけど、こちらの動きに気づいた機械兵と無人戦闘機が3時の方角から近づいている。悪いけど、迎撃を頼む』
「了解です。ドク……この反応は?」
『何かあったのかい?』
「いえ、敵とのエンカウント予測地点に生命反応あり。数は1……あともう一人はマシンドールのようです」
『マシンドールを持った民間人? でも、なぜこんなところに??』
「光学映像出します」
赤黒いアーマーを着た褐色肌の少女型のマシンドールがビームナイフを片手に機械兵相手に応戦しており、がれきの陰に隠れている金髪の少女を守っているように見える。
『見たことの無いマシンドールだ。フライトユニットらしいものもつけているし、北欧基地のブリュンヒルデは組み立て途中のはず。とにかく彼女の援護を。民間人がいるから、くれぐれもGブラスターはしないように』
「了解です」
がれきが破壊されて、逃げまどっている少女に向けて上空から機銃を放とうとしている戦闘機に対し、ショルダーキャノンを放ち、爆散させる。
僚機の破壊を受けて、その場から離脱しようと旋回しようとした戦闘機に対し、ブースターをフルスロットルで回して加速。肉薄したところを、長身のGロングブレードでその翼を切り落とし墜落させる。
乱入者の登場に驚いたのか、助けた2名だけでなく機械兵たちも空を仰ぐ。
「ショルダーキャノン、アームズガトリング、フットミサイル、Gライフルもおまけです。全弾フルバースト!」
地上にいる機械兵に向かって、流星雨のように降り注ぐ弾丸。あっという間に隊列が維持できないほどにバラバラになった機械兵たちに向かって、低空飛行しながらGブレードで切り込んでいく。
彼らもただやられるばかりではなく、ガトリング砲で応戦しているが彼女のスピードに翻弄される一方である。そんな最中、民間人の少女の頭上にがれきが落ちそうになるのを見つけ、急いで彼女の下に急行する。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう――」
少女がセブンスセブンを見る目は何処か懐かしそうな、悲しそうな、嬉しそうな、いろんな感情を織り交ぜているように思える。残りの敵をと思ったが、すでに敵影の様子はない。どうやら、たった今、少女のマシンドールが倒したのが最後の1機のようだ。
「貴女たちから事情を聴かなければなりません。まずは貴女の名前と所属をお聞かせください」
「私の、私の名は――――」
ふと思い出した出会いの思い出に、ナナの口元が緩む。それを見たアイリスはふぐのように顔を大きく膨らます。
「私にも教えてよ」
「いずれわかるときが来ます」
「そのときが来たら教えてくれるのね」
「そのときが来たら、私は…………」
「? どうかしたの?」
「いえ、何も。今日は気合いを入れて夕食を作るってブリュンヒルデが言っていましたよ」
「虫料理以外なら何でもいいわ」
「虫のフルコースかもしれませんよ」
「それはいやよ」
2人は互いに笑いながら、部屋を出て食堂に向かう。先まであった陰鬱な気持ちが少し晴れ、夜空には幾千年も変わらず輝く星々たちが彼女たちを見守っていた。




