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落ちこぼれ王女は封印されし機械人形と共に救国する  作者: ゼクスユイ
第1章 機械人形と出会い

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EPISODE21 リミッター解除

 間もなく夜が明ける頃合い、それは起こった。


 王都から間もない場所を震源とする大きな揺れは、近くにいた住民たちを夢の世界から現実に引き戻すには十分であった。慌てて机の下に避難するが、その揺れはますます大きく、いや、何かの足音にさえ聞こえる。

 なけなしの勇気を出して、恐る恐る窓を見ると、のしのしと歩く剣山のような甲羅を持つ巨大な大亀とその周りに広がるゴマ粒のような魔物の群れがあった。その光景を見た住民たちは途方に暮れるばかりである。




「何があった!」


「大亀の魔物が地中から出現し、魔物の群れを引き連れてこちらに向かっております。距離にして3000!」


「もう目と鼻の先ではないか!アルフレッド、貴様の騎士団はどうなっている?」


「父上、すでに待機していた部隊は全員、討伐に向かわせております」


「マリリンの捜索に兵を割いたのが悔やまれるな。私を護衛している者も出動させよ。住民の避難を最優先とする」


 ドタバタと兵士が各々の戦場へと向かい、アルフレッドとピスコ国王だけがその場に取り残される。願ってもいない状況にアルフレッドは気味の悪い表情を浮かべる。


(予定より早いが、これはこれで。この戦いが終わった時、俺の建国が始まるのだ)




 大亀と対峙している騎士団たち。まずは周りの雑魚を片付けようと、ゴブリンたちの頭部をたたき割るが、もぐら叩きかと思うほどに次から次へと湧いて出てくる。そんな最中、アッシュ副団長とロン毛の男性が遅れてやってくる。


「団長、遅いですよ」


「めんごめんご、叩きおこされるまで寝てたわ」


「こういうやつだからな、ウチの団長は。その分まで働いてもらいますよ」


「わかってますよと。しかしまあ、敵の数が多いねぇ。これは3本入るかな」


 両脇に2本ずつ帯刀している剣の内3本を抜き、指で挟んでいく。


「砕けろ、我が剣。無数の刃となりて、敵を切り刻め!フォーリン・ザ・ソード!」


 刀身が花びらのように散り、魔物に向かって薄い刃が飛んでいき敵を切り刻んでいく。次から次へと手に致命傷を与え続けていく、それは無数の鮮血の花を咲かせていくのであった。


「変異種とかも紛れていないようだし、雑魚は俺一人で十分。アッシュは本丸を叩け」


「団長の命令だ。あの亀野郎は俺たちが叩く。大魔法アルカンシェルの準備は?」


「すでに4つ目の陣の展開まで終わりました」


「あと3つか。それまでは何匹たりとも侵入を許すな!」


 全長数百メートルはあろうかと思うほどの大亀に向かって魔法を放って、のっそりと、だが着実に歩を進める亀の侵攻を遅らせようと足元に攻撃や束縛系の魔法を放っていく。だが、いくら魔法を撃っても効いている様子は微塵も感じられなかった。



 城へと戻ろうとしていたアイリスたちも異変に気付く。宙に浮かぶ巨大な5つの魔法陣を見たからだ。


「マスター、あれは?」


「アルカンシェル。7つの陣をそろえる手間が必要だけど、あらゆる魔法で最大の火力を出すと言われている大魔法よ」


「そんなものを出さなければならないということは……」


「相当切羽詰まっている状況だと考えられまする」


「ペースを上げましょう。ついてこれますか?」


「無論」


 ナナに抱きかかえられているアイリスは振り落とされないように必死にしがみつき、風景が線のように流れていく。そして、徐々に大きくなっていく戦場の鼓動。人々の悲鳴や砲弾、魔法攻撃の着弾による爆音が鳴り響いていく。


「なんなのあの亀!?」


「少なくともあれが敵だとわかります。エーテルキャノン!」


 アイリスを降ろしたナナが亀の右目に向けて砲撃が着弾し、亀が大きく頭を揺らす。有効打となりうる攻撃を放つナナを敵だと認識したのか、侵攻する動きを止め、こちらに顔を向ける。そして、口を大きく開けて、巨大なビームを吐き、射線上にいた敵・味方問わず、肉片残さず消滅させていく。


「Gシールド最大出力!」


「大土壁の術!」


 2重の防壁によって、ビームを遮っていく二人。その後ろの空には7つ目の魔法陣が花開こうとしている。この攻撃を防ぐことができれば、逆転の余地はあると信じて懸命にエーテルと魔力を必死の形相で回していく。


 そして、ビームが晴れるとほぼ同時に7つの魔法陣が完成し、それぞれの魔法陣から巨大な魔力光が放たれ、虹色のビームに収束し、大亀へと向かう。自信とほぼ同サイズのビームを見て、誰しもが勝ったと思った。だが、亀が頭と手足を引っ込むと同時に光の盾が3枚立ちはだかる。


「なんと!?」


「これは私たちの防御と同じ……!?」


 攻撃魔法最大火力のアルカンシェルが2枚をほぼ同時に叩き割り、3枚目と拮抗する。そして、気が遠く感じられるほどの数秒の時を経て、亀の甲羅にぶち当たる。亀の周りにいた騎士たちは既に退避しており、取り残された魔物たちはアルカンシェルの余波によって塵となって消える。


 アルカンシェルの光が収まると、そこには甲羅にひびが入り、数百メートルほど押し戻された大亀の姿があった。そして、甲羅から頭をニョッキと伸ばし、じっと待ち構えている。少しずつではあるが、甲羅のひびが消えゆく様子から、治癒の魔法をかけているのだろう。


「アイリス殿、2回目の攻撃は!?」


「無茶よ!アルカンシェルには膨大な魔力が必要で、1回撃ったら時間を空けないと撃てないの。魔術師の疲労を考えたら少なくとも半日以上は……」


「魔石を使えば可能では?」


「ナナもわかっているでしょう。魔法の中でも初歩に近い飛行魔法でさえ、魔石を使っての再現は困難を極めているのに、大魔法を使うなんて到底不可能だわ!」


「万事……休す…………」


「……………………」


 それがわかっているのか、騎士団も撤退を始め、避難民の誘導に力を入れ始めている。もはやこれまでと思っている中、ナナだけが諦めない表情を浮かべているのをみて、アイリスとアヤメが彼女を見つめる。


「何か手があるの……?」


「……1つだけ……1つだけなら手はあります」


「それを先に言ってほしいでござるよ。なんでござるか?」


「リミッター解除」


「リミッター?」


「今、『この時点』で唯一私だけが持つジョーカー。ドクターとの約束をもう一度破ることになりますが、この状況ならば、ドクターも許してくれるはずです。マスター、リミッター解除の許可を」


 アイリスはこれ以上なく真剣な表情をするナナを見て、すぐ返答するか迷った。だが、彼女の後ろにいる住人たちの姿を思い出し、その迷いをすぐさま断ち切る。


「信じるわ。ナナ、リミッター解除!」


『アイリス・シャルトリューゼの音声認証を確認。SYSTEM G.E.E.S起動。セーフティーロック解除。システムオールレッド』


 ナナの目が正常状態を示す緑色から、暴走状態を示す赤色へと変わっていく。


『暴走状態を確認。システムの強制シャットダウンを開始……Error。システム続行』


「封印指定武器、D-Different Dimension Destroyer WEAPON«Gブラスター»凍結解除。エーテルドライブ、理論限界値突破」


 背中からX字の赤いエーテルの羽根が生え、胸元の装甲が割れ、隠されていた銃口がその姿を現し、大気中のエーテルを収束させていく。


「重力アンカー固定。ターゲットロック。Gブラスター、発射!」


 迸る赤いビームの奔流が大亀に向けて放たれていく。身の危険性を瞬時に感じたのか、今度は5枚の盾を目の前に張り始める。


(アルカンシェルよりも多い! それだけ、ナナの攻撃が危険だってこと!?)


(耳が痛い……)


 Gブラスターの発射と同時に聞こえるキンキンと響き渡るカン高い女性の悲鳴のような耳鳴りに、アヤメやアイリスは耳を塞ぐが、まるで効いている様子が無い。そして、亀の張った盾は4枚目まで抵抗なく割れ、5番目もゼロコンマ数秒の抵抗を見せたにすぎず、亀にぶち当たる。


 甲羅に当たってもその威力は衰えるところは見せず、難なく貫いていき、赤い光は天へと昇っていく。そして、中身をくりぬかれた亀は空いた穴からひび割れが広がっていき、精巧なガラス細工だったかのように砕け散り、消滅していく。


「目標の消滅を確認。ミッションコンプリート」


「アルカンシェルで弱っていたんだろうけど……一撃で…………」


「セブン殿、いったい何者でござるか……?」


 アヤメの言葉にアイリスは以前、教えてもらったナナの話を思い出す。これまでの行動を見る限り、人に害を為すような真似はしないと信じている。その考えはこの光景を見た後でも変わらないが、ナナたちが封印された片りんを確かに感じ取った。


(これは私たちにとって……過ぎた力よ……)


 正常な運転を示す緑色の目をした彼女はどこか悲しそうな顔をしながら、アイリスの下へと歩むのであった。

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