EPISODE15 酔いどれ会談
パーティーの翌朝、アイリスは自分の工房でつばさくんをいじくりまわしていたが、朝起きてからというものの頭痛を覚え、軽く頭をおさえる。
「あ~、頭が痛い……」
「二日酔いですね」
「飲みすぎた。途中から意識を失っているんだけど。私、何もしてないよね? 酒癖悪いと聞いたんだけど」
「ええ。そのまま眠っておりました」
「よかった。つばさくんの改良でもしていたら、そのうち二日酔いも治るわ」
一部の部品をばらし、段ボールに詰めてある部品から、「あーでもない」「こーでもない」とお目当ての部品を探しながら、組み立てていく。
空中に浮かぶディスプレイには文字の羅列が浮かび上がり、赤い文字が今回の修正内容のようだ。その入力している途中でアイリスの手がピタリと止まる。
「どうかなさいましたか?」
「慣性制御のプログラムを入れたんだけど、メモリ不足……」
「今までのプログラムは大きく分けるならブースターの出力と角度の調整の二つだけでした」
「そこに3つ目のプログラムを入れるとなると、メモリが足りないの。角度の調整は最悪の場合を考えると入れたいし……」
「見てて思ったのですが、圧縮プログラムは無いのですか? 私たちマシンドールではドクターが開発した二重螺旋圧縮構造プログラムにより、汎用Aiより多くの行動パターンがとれるようになっています」
「無いわ。そもそも、魔石にプログラムを入力して魔法を行使するのってマイナー技術なのよね。だって、普通の人間は大魔法なんて必要としないし、大魔法を使える人間は必要としないもの」
「需要が無いから技術も発展しないと」
「そういうこと。これ以上となると、圧縮プログラムができるのを待つか、ドラゴンでも討伐して魔石を手に入れるかのどっちかね」
「ワイバーンなら、ブリュンヒルデから装備を借りれば討伐が可能ですが?」
「ワイバーンも竜種だけど格が落ちるわ。私が知っているのだと、北のアイスヘルに封印されたと聞く邪龍ディアボロス、オーブナー王国で甚大な被害を出したと言われる暴龍タイラント、南島諸国を根城にしている蛇龍リヴァイアの3龍が有名どころね」
「国内にはいないのですね」
「居ないのは救いだけど、大森林からのスタンピードがあるから、危険性はさして変わらないわ。どんな国でも魔物の脅威はあるのだから、協力すればいいのに……」
「帝国は周辺地域を侵略していると」
「そうよ。もし、帝国が協力的な態度をとっていれば、魔物の被害も小さくなってみんなが安心して暮らせる世界になると思うの」
(しかし、自分の力に絶対的な自信があるのであれば、力で押さえつけたほうが手っ取り早い。そこまで考えてしまうほどの帝国の『科学技術』とは一体……いちど、帝国について調べてみる価値はありそうですね)
「どうしたの、ナナ?」
「いえ、なんでもありません。今日はブランダー子爵とバッカス伯爵との会談があるので、そろそろお召し替えしたほうがよろしいかと」
壁に掛けられた時計を見ると、会談までの時間にはまだ余裕はあるが、このまま考えても解決策が浮かばないだろうと思ったアイリスはナナの提案を受け入れることにした。
「いくら第一王女とはいえ、魔法も使えぬ者を新大陸の外交官に仕立て上げるなど、ついに王も気が狂ったか?」
「ですな。バッカス卿」
「だろう。とはいえだ。お前もそうだが、農耕主体の我々の土地経営は正直なところ苦しい」
「近年の魔法技術で収穫量が増えても、単価が安くなりすぎて売れば売るほど赤字ですからな。取りすぎた分は破壊処分しないといけないのが現状」
「廃棄処分していた分を外貨に変えれるのであれば、これほど都合の良いものはない」
「レアアイテム以外に取引できるものが無いか確認せねば」
「そういって、酒が欲しいだけなんでしょう?」
「ガハハハッ、バレたか。ハーピィ秘蔵の酒なんてのがあれば、文句ないわい。そういう貴公もだろ、ブランダー卿」
「ほほほ、おっしゃる通りです」
たっぷりと肥え太ったタヌキのようなバッカス伯爵とメガネをかけたキツネのようなブランダー子爵が談笑しながら、離宮内の応接室に入る。フォーマルなドレスに身を包み、軽く化粧をしたアイリスが出迎える。
(王子殿下の陰に隠れていたが、こうしてみると若かりし頃の王妃によく似ていらっしゃる)
軽くあいさつを交わしたのち、二人はさっそく本題に入ろうとしたとき、天空ワインが入ったグラスが置かれる。グラスを傾ければ7色に変わる見たこともないワインに、二人は言葉を失う。
「王女殿下、これは?」
「これは空島で自生している天空樹たる実をハーピィたちが独自の製法で作り上げた天空ワインと呼ばれるものです。ワインと名付けられていますが度数が高く、今回は炭酸水で割らせてもらいました」
「昼間から酒とは……これも仕事の内なら、仕方ないですなぁ」
「ですな、バッカス卿。それでは……」
(む? さっぱりした爽快感……まるで切磋琢磨していた学生時代の青春の日々を思い出させる)
(この口の中に広がる甘酸っぱさがこのワインを引き立たせている……これはクラスの女友達に一目ぼれを抱いたときの恋心。それを表現している!)
「いかがでしょうか?」
「素晴らしい一品であった。まさかハーピィがここまでのものを作り上げていたとは恐れ入りました」
「私もです。魔物風情と侮っていた私が恥ずかしい」
「それは無理もありません。今の統治者になるまでは人畜を襲っていたこともあり、良い印象を持たない人も多いでしょう。ですが、そういった悲劇の過去を乗り越えてきました。人とハーピィ、種族は血が違えど、分かり合えます!そう、この天空ワインのすばらしさのように!」
「私もそう思いますぞ!」
「ええ!ハーピィたちの食糧支援を惜しみません。いいえ、それどころか人材派遣もしましょう。知り合いの植物使いであるジャックを……」
「お~っと、ブランダー卿、ここで点数稼ぎは許しませんぞ。それにそのものは確か畑作を専門とする魔術師、このケースでは不適切では?」
「むむむ……」
「ブランダー卿が引き下がってくれたところで、私の知り合いであるフルートを紹介しましょう。こちらは果物の専門家ゆえ、きっと有意義な意見を出してくれますぞ」
「二人ともありがとうございます。それぞれ違う観点からの意見も聞きたいので、両名の意見を受け入れようと考えております。よろしいでしょうか?」
「異議はございません」
「同じく……すまないが、あともう一杯貰えるか」
「できれば、私も」
「ナナ、3人分よろしく」
(マスター、また二日酔いになっても知りませんよ)
ナナは心の中でそう思いながらも、主君の命令を聞き入れ、3人分のワインとつまみのチーズを持ってくる。
「王女殿下がお酒も行けるクチとは思いませんでしたぞ」
「噂や評判がこれほど役に立たぬものとはおもいませんでしたな」
「良いの良いの。そんなちっぽけなコト。今はもっと大きなことをしゅりゅるんだから」
酔いどれたちの会談の翌日、二日酔いならぬ三日酔いに突入したアイリスの姿があったそうな。




