INTERLUDE1 ―BIRTH―
就任パーティの食事も、残すはケーキのみとなっていた。ナナが1ホールのケーキを正確に切り分けようとナイフを手にしようとしたら、横からブリュンヒルデの手が伸びる。
「アタシが切り分けるわよ」
「ブリュンヒルデ、貴女は客の立場ですから……」
「別に硬いことは言わない。じゃあ、アタシはこの板チョコのっている側を貰うわ」
「1/3に切り分けるときに、まるまる残してる!? ずりゅい」
「こういうのは主導権を握ったもの勝ちよ。覚えておきなさい」
パクリとケーキの上にあった板チョコを真っ先に口の中に入れる。美味しいものはあとに残さない主義のようだ。そんな様子を見て、ぐぬぬといった表情のアイリスは机に置いてあった炭酸水割の天空ワインをごくごくと飲み干す。
「マスター、先ほどから飲み過ぎです」
「別にいいじゃな~いの~ひくっ」
「出来上がっているわね、このヘベレケ王女」
「だれがへべれけよ、ひくっ。あんたらも酔いなさいよぉ」
「いえ、そもそも私たち機械ですからよわ……」
「わたしのおさけ飲めないって言うの?そんなのいや、うわ~ん」
ストレートの天空ワインをぐいぐいとナナに押し付けるやいなや、急に泣き始める。痴態を晒しまくりのアイリスをクスクスと笑いながら、ブリュンヒルデはナナに話しかける。
「そういえば、あんたの過去聞きたがっていたわよ」
「……この状況で話すのですか? 確かに誤魔化して話しましたが」
「わつぁひぃ、しりたいも~ん」
「はぁ……仕方ありませんね」
ろれつが回らなくなっているほど酔っ払っているアイリスを膝枕にしながら、ナナはドクターたちから聞いた自身の生誕についてゆっくりと語りだしていく。
軍事AI『ギース』の反乱により、世界各地でミサイル攻撃や無人機による空爆が放たれ、地表は焼け野原となり果てていた。だが、偶然にもあるいは対抗すべく生き残った人々は地下で暮らしていた。
地表だけでは人口を支えきれなくなっていた人々は、地下や月に食料や工業プラントを設立していたこともあり、暮らすだけならば問題はなかった。
だが、兵器の大半を奪われた軍人にとっては、骨董品の銃や剣以外の新兵器の開発をしようにもマンパワーがとにかく不足していた。そこで、彼らが目を付けたのはお手伝いロボットの第一人者である叢雲博士であった。
『非戦闘時は生産活動をはじめとする業務をこなし、戦闘時は奴らの機械兵を破壊できる戦闘力を持つロボットを作れ』
軍からの指令を受けた叢雲博士は、弟子の宇月博士らとともに新兵器である『マシンドール』の開発に着手した。既にひな形はあったことから、戦闘用に変えるだけであり、知り合いである軍事兵器の専門家であるヴェクター博士の助言をうけながら、実験機を作り上げた。
「できましたね、先生。あとは僕がプログラミングした疑似人格プログラムをインストールすれば、人間と同じように動き、細かい指示を出さなくても、自分の意思で行動します」
「暴走の危険性は? ハードの方にも幾重のプロテクトをかけておいた」
(僕は100%無いと言いたいところだけど、先生は絶対とかいう言葉は嫌っているからなぁ)
「こちらもリミッターをかけています。もし、暴走するようなことがあれば、強制的にシャットダウンです」
「ならば安心か。G-7777777にインストールを開始する」
「G『X』-7777777だと何回言えばわかる!」
「ヴェクター博士、なぜ型番にこだわるのです? 私からすれば、0だろうと7777777だろうと、Xがあろうとなかろうと些細なことだと……」
「『G』eneration ne『X』t、そして『X』はあらゆる数字、可能性を内包する。次世代兵器の実験機の型番としてはこれ以上ない名じゃ。軍の連中はそれをGrandだけで十分だろうなど抜かしておって。7777777などという中途半端な数字は許可するくせに」
「幸運の数字だからな。あとは7777777機も生産するようなことは無いようにという願いじゃよ」
「ふん。儂の見立てでは少なくとも1000万機は生産する必要はある」
「思う分にはタダじゃろ。宇月君、インストールの状況は?」
「98、99……インストール完了です。セブンスセブン起動します」
「7が7つでセブンスセブンか。安直なネーミングじゃな」
「わかりやすいでしょう?」
「まあな。儂も参考にさせてもらうとしよう」
『疑似人格プログラム起動。G-7777777、通称セブンスセブン。システム、オールグリーン』
実験台で横たわっているセブンスセブンの目がゆっくりと開き、異常をきたしていないことを示す緑色の瞳を灯す。少し緩慢ではあるが、起き上がる動きは人間のソレと大差がない。
「せ、成功だ……」
「ドクター、指示をお願いします」
「僕が指示、指示か。えっ~と……戦闘データもとっていない状況で、いきなり実戦は無理だろうから、この部屋の掃除でもしてもらおうかな」
「散らかり放題だからな。儂も人のことは言えんが」
「うむ。私は軍に起動実験の成功を伝えよう。宇月君、後は任せるぞ」
「片付けが終わったら訓練場に来い。武器が問題なく作動するか確認テストを行う」
2人の博士が部屋から出ていき、3人の中では最年少の宇月博士とセブンスセブン、そして散乱した書類やゴミくずだけが残されていた。
「ロッカーの中に掃除道具あるからね」
「了解しました。それでは掃除を――」
『斥候部隊から入電。機械兵10機がポイントB-1にて交戦中。戦闘員は至急集合してください。繰り返します』
赤いパトランプとともに、基地内が慌ただしくなる。のんびりと掃除をしている場合ではないと判断したのか、セブンスセブンは手にした箒をロッカーの中に再度しまい込む。
「ドクター、指示を」
(指示と言ってもどうしろっていうんだ。機械兵の大群を相手に1機出撃させたところで……)
「あー、まずは軍の指示を仰いで……いや、先生たちに連絡を……」
「ドクター、私は戦うために作られた存在です。だとすれば、行くべき場所は一つしかありません」
「無茶だ」
「システム上問題ありません。それにドクタームラクモから、『あとは任せる』と私に指示を与える権利があります。出撃の許可を」
「……わかった。許可する。ただし、必ず帰ってくること。良いな」
「了解しました。ドクター」
部屋から出たセブンスセブンは急いで基地の出入口へと向かう。道中、避難区画に逃げ込もうとする非戦闘要員とすれ違うが、自分のことで精一杯なのか彼女を不審に思うものはいなかった。
「お、おい。とまれ。お前の所属と――」
「G-7777777。ドクターから許可を得ています」
「お、おい待って。今なんていーー」
出入り口でセブンスセブンを制止しようとした軍人を振り切り、自動車かと思うほどの速さで戦場へと向かっていく。
交戦していた斥候部隊30名ほどは苦戦を強いられていた。目の前には、右手が機関銃、左手には火炎放射器、胸にはブレストバルカン、肩部にはエーテルキャノンを装備された2足歩行の機械兵が無駄弾を打ちながら、こちらに差し向っていた。
「事前に仕掛けておいた地雷トラップは除去され、こちらの装備は博物館に眠っているような骨董品だけ。よくこれで上層部は戦力比を1:6と言えるな」
「バロン軍曹、どうします? 白旗でも降りましょうか?」
「それで命が助かるならな」
「しないでしょうね。突撃でもして一泡くらいふか『その必要はありません』」
「誰だ?」
バロン軍曹らの後ろから、右腕を銃口に変えたセブンスセブンが到着する。彼女の眼にははっきりと初めて見る敵の姿が映し出されている。
「G-7777777、通称セブンスセブン。本日より、人類のために戦います」
「聞いたことはある。科学研の連中が作っているおもちゃだ」
「おもちゃ? なるほど。私の性能に疑問視していると。ならば、お見せしましょう。チャージは済んでいます。エーテルキャノン!」
右腕の銃口から放たれた青白い光線によって、1機が融解、その両隣にいた機械兵も中の弾薬が誘爆し、その機能を停止させる。4,5mの鋼鉄の巨人を3機も葬るその圧倒的な火力に、軍曹らはゴクリと息をのむ。
「殿を務めます。貴方たちは撤退を」
「何を勝手に!?」
「ああ、わかった。貴公の奮闘に期待する」
「軍曹!」
「我々では機械兵に太刀打ちできん」
悔しさ混じりながらの声でバロン軍曹は撤退命令を下し、軍用の車に乗り込み始める。基地まで撤退する時間を稼ぐまでの間、彼らに攻撃の手が伸びないよう、ヘイトを稼いだセブンスセブンは接近戦を仕掛ける。
飛び交う銃弾の嵐。これが相対しているのが人間ならば、ハチの巣どころか肉片すら残らないのではないかと思うほどだ。
「エーテルによる防御機構、Gシールド展開」
彼女の頭上に青い光の盾が現れ、降り注ぐ銃弾から身を守りながら、近づいていく。銃弾では近づくのを止められないとわかったのか、火炎放射による炎の壁でそれを防ごうとする。だが、それを無視するかのようにセブンセブンは炎の中へと飛び込む。
「その程度の炎で 私を止めることはできません。Gブレード」
炎をまき散らしていた機械兵の腕を切り落とし、続けて、足、胴体、頭とだるま落としのように切り落としていく。フレンドリーファイアすら厭わない機械兵の銃弾がセブンスセブンを襲うが、機械兵の残骸を盾にしつつ、各個撃破していく。
斥候部隊が後方の部隊に合流し、戦場に舞い戻るころには、機械兵の軍勢は1機残らず壊滅し、それらの残骸の山にセブンスセブンが立ち、応援部隊を見つめていた。
「たった1機で10機もの機械兵を倒したというのか!?」
ありえないと言わんばかりの表情で軍人らは目を見開く。
機械兵1機に歩兵6人の戦力が必要というのが上層部の考え方だ。だが、これは人類にとって好条件がそろっているというかなり甘いシミュレーションの上で成り立っている数字。現場からすれば10人いても、必ず勝てると言えないのが現実だ。
2個小隊は少なくともいる10機の機械兵を単独で倒すのはおとぎ話でしかない。助けられた斥候部隊も、反発していた軍の一部の人らも、彼女の存在、マシンドールの性能を認めざるを得ないのであった。
「そのあとは、基地内の掃除をしていました。私の居た基地は軍や科学関係者が多いせいか、男性の割合が高く、女手が不足していました。そういう事情もあって、女性型になったのでしょう」
「アタシが居たところは民間人も多かったから、そんな風には感じなかったんだけどねぇ」
「むにゃむにゃ……ナナ、すき。すぴー」
「マスターを部屋に寝かしにいきます」
「パーティーはお開きってわけね。何かあったら遠距離通信しなさいな」
ブリュンヒルデは翼を広げ、星空へと舞い戻っていく。膝の上ですやすやと眠るアイリスをそっと抱えながら、ナナはパーティー会場を後にするのであった。




