プロローグ 落ちこぼれの王女
「できた!」
シャルトリューズ王国の第一王女、アイリスは自身の離宮で自身が開発した機械の羽の生えたランドセルのようなものを嬉しそうに高く持ち上げる。ランドセルの背面を触り、中に埋め込まれた魔石に自身の魔力を注ぎ込む。
「充電完了。さてと、できたからには試さないとね。前々回の反省を生かしたせいで、前は浮かぶ気配すら無かったけど、魔石を増やしてブースターの出力を上げたから、今度は飛ぶはず」
開発したランドセルを背負い、部屋の外へと飛び出す。すれ違ったメイドや護衛の人たちが、呆れた顔をしたり、くすくすと笑ったりしているが、アイリスはそんな外聞を気にせず、廊下を走り、青空の下へと駆け出していく。
「天気は良好。旗がたなびいていないってことは前々回みたいに邪魔な風は無し。よし、飛ぶわよ~」
アイリスが自身が開発したゴーグルを身に着ける。分析の魔法がかけられているこのゴーグルは、アイリスに周りの状況を数値化させて教えてくれる。
「環境条件はクリア。飛行システム、オールグリーン。ブースター、オン!」
ランドセルの下部に備え付けられたブースターから風が噴き出て、アイリスの身体を数十センチほど浮かび上がらせる。
「よしよーし、ここまでは前々回と同じ。次は前々回と同じくもうすこし高度を上げて……」
さらに上昇。数メートルほど浮き上がったところで、一度滞空する。
「順調順調。過去最高に良いわ。今度は移動機能を……うわぁ!?」
右へと移動しようとしたとき、ゴーグルに赤いエラーメッセージの表示が現れると同時に右側のブースターがぷすぷすと音を立てて止まる。その結果、大きく弧を描きながら、アイリスは墜落するのであった。
「あたたた、移動機能のプログラムがおかしかったのかな。あんなところでエラーがでるなんて……」
ランドセルを外して、プログラムをのぞき込む。空中に表示される文字の羅列は作った本人しか分からないほど、複雑なものだ。どの部分に無理があったのか、考えていると後ろから下品な笑い声が聞こえる。振り返ると、そこには貴族の令嬢たちと兄のアルフレッドがいた。
「いやぁ、お見苦しいものを見せてすまない。アレが私の妹でなければ、すぐ追い出していたところだよ」
「あらまあ。ではあの噂は本当と?」
「できそこないは噂までできているのか、残念です。ええ、我が妹は魔法が使えない落ちこぼれででして……嫁に出させようとしてもアレでは」
「苦労しておりますのねぇ」
アイリスの視線に気づいたのか、小うるさいハエでも追い払うかのようにシッシッと払いのける。居心地悪くなったアイリスは作業を中断して、離宮に閉じこもる。
「魔力はあるのに、なんで魔法が使えないんだろう」
はあと大きなため息をつく。機械を使って、難易度の高い飛行魔法を再現しようとしているが、今のところ、うまくいったためしはない。
「魔術師の第一関門、飛行魔法。これができたら、お兄様も認めてくれるよね?」
ランドセルにぽたりぽたりと落ちる雫をぬぐって、様々な機械や設計図が乱雑に置かれている自身の部屋へと入っていくのであった。