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チクチク刺さる視線

「ぬぅ……今、完全に見ていたな……ローレライの奴。完全に私のお腹を見て一瞬固まっていたな」


 そんな自嘲めいた事を口にしながらジェラールは密かに深いため息をついた。


 視線を落とし、愛娘ローレライが見つめていた自身の腹部に両手を当てどっぷりと蓄えられたその柔らかな質感のお肉を掴み、ジェラールは再び深いため息を漏らす。


「はぁっ……」


 今にもぷにぷにという癒し系の効果音が耳に届きそうなこの現実を彼は一人、厳粛に受け止めていた。


 それもその筈。お肉を掴み、ため息を漏らすーーこの一連の動作を彼は一日に何度繰り返しているのだろう? 正確に計測したわけではないが、気のせいでなければ百は優に超えている事だろう。


 では、なぜこんな事態に陥ってしまったのか? それを考えると答えは自分でも驚くほど簡単に出た。


「やはり運動不足かな……」


 そう、ジェラールの身体を変化させた原因とは、すなわち極度の運動不足のようだ。


 加齢にともない激しい運動とも縁がなくなりつつある昨今。どころか、軽い運動はおろか身体をなるべく動かさないで済むような生き方ばかりしてしまっていた。


 なるべく動かないように、最小限の動きだけで済むようにと。まるでそれが人間として生きるのに最適な生き方であると盲信してしまっていた。


 けれど、健康体でありたいのなら適度に身体を動かして汗を流すのは必要だと頭の片隅では理解していたし、それを実践しなくてはいけないと少なからず思ってもいた。


 が、


 ジェラールは決して動こうとはしなかった。


 なぜか?


『今日は体調が良くないな……』


『今日は気分が優れない……』


 などと、とってつけた様な理由で自分自身をとことん甘やかしていたのだ。


 それこそ、まるでどこぞの御令嬢のように面倒だ面倒だと動く事を頑なに避けてきた。


 そんな自堕落で保守的な生活を日々送っていた彼だが、一日どれだけ動かずとも自然とお腹は空くのだ。何もしていなくても、ただそこに有り続けているだけで自然とお腹は空く。


 植物が育つ為に水が必要なように、暖炉の火が燃える為に薪が必要なように、人間が生きる為にはエネルギーすなわちカロリーが必要となる。


 だから彼はカロリーを摂取する為に食事を摂るのだ。


 生きる為に食事をする。ごく当たり前の事だ。


 と、ここで誤解を招く恐れがあるため予め説明しておくが、ジェラールは決して欲望のまま本能のまま醜く食事を貪り食っていた訳では無い。


 彼は彼なりに考えて日々の生活を送っていたのだ。


 人間が生きる為にはエネルギーが必要だ。必要以上のエネルギーを摂取すれば言うまでもなく肥え太ってしまうし、逆にエネルギーが足りなければ痩せ細ってしまう。


 だからジェラールはいつもバランスの取れた食事を心がけ、満腹より少し足りないぐらいの量だけ摂取するようにしていたのだ。


 先ほど、自身がここまで肥え太ってしまったのを運動不足だと断言したのは、そういった日々の食生活が裏付けとしてあったからだった。


 彼の考えを簡単に数値化するとこうだ。自身が生きるのに一日おおよそ2000キロカロリーを消費する。その為、食事量を若干減らしておおよそ1800キロカロリーを摂取するようにしていたのだ。その為少しずつ痩せるか、もしくは現状維持出来る筈であるとそう踏んでいた。


「なのに、なのになぜっ⁉︎ なぜなんだぁぁぁ⁉︎」


 そんな疑問にぶつかった事から彼、ジェラール・ポーンドット86Kgのダイエット奮闘記が始まったのであった。


 

 


 


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