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実家の風呂

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 夕食時間になって家族の賑やかな会話。だけど俺はその輪に入ることを許されず立たされていた。そうあたしはメイドだからだ。

 正面に立つ鬼のメイド長が鞭を手にし睨みを効かせ、ちょっとでもマナー違反したら鞭で手の甲が叩かれる。

 しかも、立っているだけなら良いが、そこはメイドだから食事中の家族にきめ細やかな奉仕をやらないと鞭が飛んでくるんだ。だったらやり方くらい教えて欲しいよな、わっかんねーからミスして手の甲が真っ赤だよ。


「光輝」


 寄りによって親父が手招きする。絶対ワザとだな。だけどそこでカッとなるあたしじゃない。ススッと側に寄って一礼してから微笑んだ。


「お父様いかがなさいましたか?」

「なんじゃ光輝。その口調は気持ち悪い」

「チッ!別に好きでなよなよしてんじゃねーよ!」


 ピシャリッ!!


「ヒヤアンッ!」


 電光石火の速さで飛んで来たメイド長に鞭でお尻を叩かれた。そして思わず恥ずかしい悲鳴をあげてしまう。『くっそう!』家族の目の前で不覚だ。


「ししし……」


 あたしの醜態を見た親父は白い歯を見せ笑った。なぁ、食事マナーなんかあったもんじゃない親父も躾けて欲しいぜ。

 そんな訳で俺は家族が食事を終えるまでお預けだった。しかも食事にありつけてもメイド長監視付きだから楽しくない。


 それで家族が食事を終えた後俺は一人食事した。慣れないナイフとフォークの使い方に悪戦苦闘して食べ終えた頃、右手の甲が真っ赤に腫れあがっていた。

 テーブルマナーもクイーンになるには必須の教養らしく、メイド長にみっちり指導されたんだ。そのせいで大好きな母の手作りハンバーグの味が全く感じなかったよ。


 その後、食器洗いから掃除までやらされ地獄のご奉仕が終了したのが午後9時だ。疲れたあたしは重い足取りで自室に向かった。


 ドアを開けると凛花ちゃんが部屋の中であたしを待っていた。


「どうしたの凛花ちゃん突っ立っていて?」

「だって、勝手に光ちゃんの椅子に座ったら悪いから……」

「そうかぁ……だから立ってたんだね。別に気を使わなくて良いよ。う〜ん、しかし困ったなぁ、母さんは凛花ちゃんの部屋用意してくれなかったのかなぁ……」


 あたしが困っていると凛花ちゃんがぷるぷると首を横に振った。


「んっどうしたの?」

「凛花は光ちゃんの部屋で寝泊まりする」

「……そ、それはだっ駄目だよ!」

「なんでっ!」

「なっなんでって、あ、あたしは元男だから凛歌ちゃんを部屋に入れるのはちょっと……」

「寮では同じベッドで寝てるのに?」

「あ……」


 冷静に考えたら確かにそうだ。だけど、自分の部屋に凛歌ちゃんを寝泊まりさせるのはちょっと待てだ。

 見られて不味い物はさっき見つかったからひらき直るけど、男だった時代の匂いが残る部屋に入れるのが抵抗がある。せめて掃除して空気の入れ替えさせて欲しい。


「分かった。凛歌ちゃんこの部屋使っていいけど、掃除するから少し待ってね」

「……私も手伝う」

「ちょっちょっ気を使わなくていいからっ!」


 なんとか彼女をなだめて掃除が終わるまで廊下で待ってもらった。


「さて、どこから手をつけるか……」


 自分は収集癖があって、買い集めた漫画本やらアニメグッズなど床に散乱していてどこから手をつけていいのか途方にくれた。

 でも時間をかけたら痺れを切らした凛花ちゃんが手伝うって入って来そうだから、とりあえず一箇所にまとめることにした。


 本棚に入らない漫画本は床に積みあげ床をホウキではいた。変な毛が落ちてないか念入りね。


「ふう〜」


 なんとか部屋を片付けてベッドを背にしてへたり込み一息ついた。急な運動量に汗をかいて胸元を手でパタパタしてるとドアの隙間から凛花ちゃんが見てた。


「りっ凛花ちゃん!」

「メイドさんはしたない」


 そう言って顔を引っ込めドアを閉めた。まさかメイド長に告げ口しに行ったのではと思い、慌ててドアを開けた。

 すると凛花ちゃんが正面に立っていた。


「あっ……凛花ちゃん」

「なに焦ってるの光ちゃん? ふふっ安心して、メイド長には言わないよ。ケホッ」

「……うん、それならいいけど……」

「じゃあ入るね」


 凛花ちゃんがあたしの部屋に入る。さっき勝手に入られたけど矢張り緊張する。

 すると凛花ちゃんは一直線にベッドに向かってシーツを摩って肌触りを確認した。まぁ、寮のシーツと変わりないって……


「光ちゃんが使ってたベッドに寝ても良いよね?」

「えっ!」


 凛花ちゃんが振り向き聞いてきたから思わず声をあげたけど、いつも同じベッドで寝ている仲だよな……いかがわしいことは何もしてないけど。


「いいけど新しいシーツに替える?」

「うん、替えて」


 はあ〜そこは素直だね。凛花ちゃんが好きなのは女のあたしであって、男時代の光には興味がないし匂いも嗅ぎたくないんだな。

 ちょっとショックだったけど気持ちを切り替えていこう。


「ちょっと早いけど寝る?」


 気持ちを落ち着かせるには寝るのが一番だ。しかし、凛花ちゃんは首を横に振った。


「お風呂に入りたい」

「……」


 来たか風呂イベント。


「分かった。母さんに言っとくらから入って来なよ」

「ムッ……」

「えっ……?」


 不満げに口を尖らせた凛花ちゃんがあたしの袖を握った。


「光ちゃんも私と一緒に入るの……」

「……」


『え〜とっ』それは不味いでしょう。大浴場と違って家庭用の狭い浴槽で女の子二人で入るのは危険すぎます。


「ちょっとそれは無理かな〜?」

「凛花と一緒に入るのが嫌なの……」


『ちょっと!』すぐ泣きそうな顔してあたしを脅す彼女の悪い癖だ。


「い、嫌じゃないけど狭い浴槽で二人だと肌が密着するよ」

「平気」


 そんな即答しなくても……

 このあと断ったら、メイド長に言いつけると脅され根負けしたあたしは一緒に入ることになった。


 あーしかし、大浴場と違って実家の風呂に女の子と入るのは、こんなに勇気のいることだったのだな。

 やれやれ、凛花ちゃん実家泊まり1日目にして大変だ。


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