乙女の修行場所
「このメイド服着なさい」
メイド長が出したメイド服は、フリル付きエプロンのメイド喫茶にありそうなやけに可愛いメイド服だった。
それに……。
「あの……デザインが明らかに違うんですけど……」
洋館で働くメイドさんの服と渡された服に明らかな違いがあった。どんな違いかと言うと、メイドさんのはシックな淡いブラウンの英国式なメイド服で、あたしのメイド服は白いフリルエプロンに安っぽい紺色の生地に加え、胸元がポッカリ空いている谷間が目立つアキバ的なデザイン……。
ふざけ過ぎでしょう?
「デザインが違う? そんなの当たり前でしょう。貴女は正規メイドじゃない。だから身分が分かるようにメイド服も違うのです」
「んなっ非正規差別反対っ!」
「おだまりっ!」
ピシッ!
「きゃあっ!」
口答えしたからか、メイド長があたしのお尻に鞭を振るった。痛ったあぁぁやばいっこのメイド長は鬼だ。おしとやかにしないとお尻がパンパンに腫れるよ。
「着替えましたか?」
「はいっ」
「では修行先に移動します」
「えっ移動っ?」
メイド長はクルリと背を向けてスタスタ歩いて行った。そして洋館を出て校舎の方に向かった。ちょっと待って校舎は不味い。だって今放課後で生徒たちがわんさか出歩いてるんだ。
だってこんな胸元が開いた恥ずかしいメイド服姿見られたら明日から学校に行けないよー。
「おいっ田中じゃねえか?」
「そうだな、んっなんでメイド姿してんだ?」
ぎゃーー男子生徒に見られた。あたしは恥ずかしくて腕をクロスして胸元を隠し猫背気味に歩いた。
するとメイド長が足を止めた。
「背を丸めない。姿勢を正しく両手は指先をピーンと伸ばし腰につけて歩きなさい」
ピシッ!
「痛ったハァイ!」
説教されてからの理不尽体罰。マジ鬼よこのメイド長。
メイド長は正面玄関に入らず左方向に転換して正門に向かった。
あれぇ修行場所は学園内じゃないの? ちょっとホッとした自分がいる。
だけど新たな不安が生まれた。修行場所って外?
「外に出るわよ」
「外って場所はどこですか?」
「黙ってついて来なさい」
「……分かりました」
無茶苦茶不安じゃないか行き先教えてくれないなんて。
しかも外は学園に比べて危険度MAX。護衛の王子さまもいないし、メイド長一人で大丈夫なのかなぁ……。
「おいっ!」
うわっさっそくガラの悪い男が絡んでキタ!
ボサボサ白髪頭にポケットに両手を突っこみガニ股で歩くいかにもな一人の男。まさか刺客?
「失礼ですが、どなたでしょうか?」
メイド長の足が止まり右手で眼鏡を添え眉をひそめた。
「おうっメイドの姉ちゃん俺にもご奉仕してくれねえか?」
「……先を急ぎましょう」
メイド長の華麗なスルー。輩を無視して通り過ぎた。
「おいっ!無視すんなよっ!」
「失礼ですが、貴方とわたくしでは住む世界が違いますので」
「おい!それはどう言う意味だよ?」
メイド長にしつこくつきまとう輩は回り込みメイド長の顔を覗き込んだ。
「……退けてくれますか?」
「やだねー!」
子供か……。
「むうっちったあ反応しろよ。仕方ねえコッチのメイドにするか」
うわっコッチ来た!
「おいっオメエ俺にご主人様って言ってくれよ金出すから」
と言って輩はズボンのポケットを漁ると100円玉を差し出した。いやいやずいぶんと安く見られたな〜せめて500円玉。
「なあっ姉ちゃん俺にご奉仕してうっゲップ!くれよ」
ちょっと口酒くっさただの酔っ払いじゃないの?
「んっお姉ちゃん。えっろいな〜?」
こらおっさん胸元ガン見するな!
「あっあのっ困ります……」
「いいじゃねえかよ別に減る訳じゃねえっんだネーかー?」
いや減るから精神が……この酔っ払い。
「行きますよ」
「えっちょっと!」
メイド長一人で歩き始めた。あたしは慌ててかけ出すと輩の肩にぶつかった。ちょっと待って今明らかに当たりに来てない?
「痛ったあぁぁ〜」
輩はゆっくりと倒れ左肩を押さえ大袈裟にわめいた。
「痛ってえぇ肩の骨が折れた〜」
「……」
コイツ当たり屋か……。
「お前今ワザとだなっ?」
ほらっイチャモンつけてきた。
「……いえ、ワザとじゃないです」
「嘘言うなよオメエからワザとぶつかった。警察呼ぶぞ」
「ちょっと!」
歩道で胡座をかいた輩は上着の胸ポケットからスマホを取り出した。
「あーもしもし警察ですかぁ? あーハイハイ実はこうで今すぐ来てもらえますかぁ?」
コイツマジで警察呼んでる。なるほど輩の狙いは難癖つけてあたしたちを犯罪者に仕立てあげることね。
卑怯な詐欺師。コイツも新咲が送った刺客なの?
「へへっ警察呼んだぜ。てめえら終わったな?」
「ちょっとぶつかって来た貴方が悪いんでしょう?」
「おうっ文句あんのか? この俺が誰だと思ってる?」
いや、知らないって……。
「光輝さん。仕方ないので待ちましょう」
「はい……」
そうかメイド長。警察が到着したら訳を話すつもりですね。
しばらくして遠くからサイレンが聞こえきてパトカーが二台止まった。
「おっ来たか。へへっおめえら終わりだなぁひひっ冥土の土産に教えてやるぜ。俺の名前はぁ〜」
バタムッ!
後方のパトカーのドアが開いて三人の警察が出て来た。
「おっキタキタ!おいっこっちこっち。この女に肩ぶつけられてよぉ骨折れたんだよ〜」
輩が肩を押さえ、片目を閉じ苦しそうな演技であたしに指差し言った。嘘つけこの詐欺師。
警察が輩を取り囲んだ。んっ?
「おいっ俺じゃねえよ!」
「現行犯逮捕する」
警官が輩の手首に手錠をかけた。
「おいっ俺は被害者だぞっ!?」
「黙れえっ!」
前方のパトカーからやけに軽い女の声が聞こえた。んっ聞き覚えあるぞ。
すると助手席のドアが開いてブラウンのコートを羽織った金髪ロングヘアの幼女が出て来た。
「よお光輝ぃ」
目が合った。幼女はにっこり笑いあたしに向けて小さな手を振った。
「…………」
親父だ。
あたしと同じ一度きりの性転換の能力で幼女の姿に変わり果てた親父だ。この姿を見たのは幼少期。あれからさっぱり成長してない。幼い中身もね……。
「所長っ容疑者を確保しましたっ!」
「おいっ離せよこらあっ!」
親父の前に警察官に拘束された輩が突き出される。
「うんっ所まで連れて行くように」
「ハッ了解しましたっ!」
おっ警察官が親父に敬礼した。ちょっと見た目は幼女だけど凄く偉く尊敬されてるんだね親父。
輩は後方のパトカーに連行されて行った。
なんか知らないけど助かった。
「光輝」
んっいつの間にか親父が目の前で見上げていた。
「なんっいや、なんでしょうかお父上」
「うわっ気持ち悪いっ!」
「……」
親父に近況話してなかったな……。今これまでの経緯を説明しないと変態の烙印を押されてしまう。
だから親父に訳を話した。
「ふ〜ん。知ってるよ」
はっ? 今なんか言った親父。
「とにかく二人共パトカーに乗れ」
「ちょっと待て親父っひやっ!」
メイド長にケツ打たれた。痛った!
もーこの非常にも見逃さないなんて本当鬼だ。
「乗りますよ」
メイド長は後部座席に乗り込んだ。あたしも仕方ないので乗り込むと手の甲に鞭を振られた。乗車マナーが良くなかったらしい。でもさ、車内で鞭振るなよ。
あたしはパトカーに揺られ10分ほどで目的地に着いた。
「修行の場に着いたよメイド長」
助手席に座る親父が振り向いて言った。
「ありがとうございます」
後部ドアが開いた。
「出るわよ」
「はいっ!」
慌てて出ようとしたが、またお仕置きされると嫌なんで、おしとやかに車内から出た。
「光輝どうした?」
親父も外に出て呆れた素振りで聞いてきた。ウッザ!あたしが乙女の修行してるの知ってるクセに。
「……あたしこれから修行ですの」
「…………」
急に黙るなっ!
「そうか。行くぞ」
「えっ?」
親父は先頭を歩き出した。
「何故親っお父様も一緒に?」
「おかしなことを聞く。何故って俺の家だからだ」
「えっ!」
前を見ると見覚えのある一軒家が見えた。そこはあたしの実家だった。
「なんだ実家か…………んっ!」
ちょっと待ってまさか修行の場ってあたしん家?
ガチャッ
玄関のドアが開いた。
「お帰り光ちゃん」
「えっちょっと!」
出むかえたのはなんと凛花ちゃん。
「どうして凛花ちゃんが?」
「あのねっそこのメイド長さんに頼まれて先に、光ちゃんの実家に住むことになりました」
「…………」
先にって、色々あり過ぎて開いた口が塞がらないとはこのことだ。
「これから本番まで貴女の実家で修行してもらいます。それで貴女のご両親と親友の凛花様にご協力してもらうことにいたしました」
メイド長がの説明を聞いた。
新しい環境での乙女の修行。よりに寄って恥ずかしいメイド姿での修行を親父と凛花ちゃんに見られる。
これは想像以上に過酷な修行。羞恥心に耐えマナー違反だと鬼メイドの鞭が飛んでくる。
実家に戻り安堵したのもつかの間、やはり地獄だった。
おいコラッビールを飲むな親父っ!
当初は洋館内での修行を考えていたが、実家で修行する展開の方が面白いと思って書いた。
これから可愛いパパの活躍に期待してください。




