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刺客の雇い主

 

「ふんっジョレーンがいなくても俺一人で十分だった」


 ぶっとい右腕をブンブン振り回しながら残りの刺客マスターが言った。このスキンヘッドの渋い男は多分新咲が放った刺客の一人で、触った物質を鋼鉄の強度に変える能力の持ち主だ。


「硬質化の能力か……ふむ」


 対する山本警部は腕時計をチラチラ見ながら呟く。そして恩塚警部と目配せしたのが少し気になった。

 俺たちはと言うとただ見ているだけで戦いに参加出来ないのは歯痒いけど、か弱い女の子の身体だから仕方ない。

 それを思うと女性でありながら、能力を使わず己の身体一つで刺客を倒した恩塚警部は凄いと思う。


「次はなにを硬くする?」

「そうだな……少なくとも下ではないな」

「……」


 山本警部の質問に寡黙なマスターは急に下ネタを言った。ちょっと止めて! 凛花ちゃん顔赤くしちゃったよ。


「ふははっ今のは冗談だ。強度するのは下でなく上だ!」


 マスターは左右の上腕と胸を触った。


「上半身を強化した。さあっどこからでも殴れよ」


 マスターは腕を広げて無防備アピールだ。

 でもさ、強化してない顔殴られたらどうすんだろ?


「では遠慮なく」


 ズバン!


 山本警部は一瞬でマスターの間合いに入り胸部に正拳突きを一発食らわせた。


「ぐっ! やはり鉄板のように硬いな」


 攻撃した山本警部の方が苦悶の表情を浮かべ、右手を押さえ後退した。


「山本っ大丈夫か?」


 恩塚警部が心配して駆け寄る。山本警部はパートナーだけど俺はそれ以上の想いがあるのかな、と思った。


「大丈夫ではないが、まだ我慢出来る。だが、奴の強化した肉体は鉄のように硬いぞ」

「そうか。だけど朗報だ見ろ」


 先ほどジョレーンが使っていた強化されたのぼりを恩塚警部が指差し、山本警部に五本指を見せた。

 あれ?硬直してたのぼりが元に戻っている。これってひょっとして……。


「なるほどチャンスが来るまで待てと言うことか」


 勝機を見つけた山本警部は笑顔で応えた。


「貴様も能力者か?」


 マスターに聞かれた山本警部は首を横に振った。ああ、正直な刑事さん。例え嘘ついてでも戦った方が有利なのに。


「残念だ。互角に戦えると期待したのだがっふんっ!」


 右腕を振り下ろし駐車場のアスファルトを砕いた。牽制か? いや違う。力を誇示して絶望させるつもりだな。


「ほっほっどうした? 避けてばかりではないか?」

「悪いな、こんなのまともに受けたら全身打撲だ」


 マスターの挑発には乗らない山本警部はひたすら避ける。腕が鉄の強度になっているためか、繰り出すパンチの速度が鈍い。だからなんとか避けられるみたいだね。


「いい加減私の一撃食らったどうだね?」


 バキン!


 マスターは照明の鉄柱をへし折った。


「お前には公務執行妨害に加え器物破損の罪を加える」

「ふんっこの私が警察などに捕まるとでも?」

「ああ、捕まえてやるさ意地にでもな。その前に聞いておく。お前の依頼主は新咲か?」

「はっ?」


 マスターの左目だけが大きく見開いた。


「ああ、私の業界で悪名高き金持ちのお嬢様のことか、残念ながら違う」

「なんだとっ! だったら他に誰がこの子たちを狙う?」


 山本警部はチラリと俺たちの姿を見た。

 俺も意外だった。てっきり新咲が放った刺客だと。


「あんまり詳しいことは言えんが、クイーンに相当する役割の高校生が他に三人いる。すでに後継者が決まっていてそれぞれ協力する仲ではない。むしろ殺してしまった方がいいと考えている」


 えっ嘘だろなんで四高のクイーン同士いがみ合ってんだ?

 四高が東西南北の位置に建っているからてっきり中心を守るか封印する協力関係だと思っていたけど、どうやら見当違いだ。

 これまで俺を狙っていた刺客って、新咲の刺客じゃない可能性も出てくるな。


「なにっそれはお前の依頼主が朱雀、白虎、玄武いずれかのクイーンのことか?」

「ふんっこれ以上語ることは、私の依頼主との契約違反になる」

「そうか、ならば話はムショで聞かせてもらう。恩塚っ!」

「任せろ山本っ!」



 山本警部と目配せして恩塚警部が俺を守るように前に立った。やはり依頼主が違っても刺客の狙いは俺に変わらないみたいだ。

 俺は凛花ちゃんと抱きあって安全な場所に下がった。


 そう言えば親父はどうしたとふと思って周囲を探したら、車の陰で身を潜ませていた。足手まといだからってなぁ親父、少しは部下に指示だしたらどうなの?

 まあ、親父に食わせてもらっているから文句は言わないけど、あれでも高給取りなんだ。


「さっきから逃げてばかりだな?」

「そうか……」


 マスターの問いかけに答えながら山本警部は腕時計を確認する。


「そろそろか……」

「なにがそろそろだっいい加減私の一撃受けたまえ」


 ズバン!


 ついにマスターの鋼の拳が山本警部の胸部に貫いた。


「ぐっ……」

「どうした?」


 苦悶の表情を浮かべたのはマスターの方だった。


「どうやらお前の触った物質を鋼の強度にする能力の制限時間は五分で限界らしいな」

「ぐっなんて筋肉。まるで鋼のようだ。ふっ確かに私の能力の効果は五分までだ。だがそれがどうした? 再度強化すればよいではないか?」


 狂気の笑みを浮かべたマスターは全身を舐めるように触っていった。う〜ん。股間まで触るか?

 見ていた凛花ちゃんは赤面した顔を俺の腕に埋めた。ははっ可愛子ちゃんに頼られるのは悪くない。


「ぐふふ……全身強化した。能力発動…………」

「どうしたマスター急に黙って?」

「…………」


 仁王立ちのマスターは白い歯を見せたまま、固まってしまった。これってどう言うこと?


「関節まで硬くしたら身動きとれまい」

「…………」


 そうか、全身硬化したマスターは今、全身ブロンズ像状態なんだ。


「さて、少し休むか」


 山本警部は硬直化したマスターの前で胡座をかいた。


「山本飲むか?」

「おうっサンキュー」


 恩塚警部がホット缶コーヒーを山本警部に差し入れた。


「んっなんだ。ブラックかよ。俺はミルクだって分からんかな?」

「贅沢言うな山本警部。課長と同じお子ちゃま舌だな」

「むっ課長と一緒とは心外だ……」


 二人がいい感じで会話していると後ろから親父が『なにを言うか』と腕を振り上げ反論した。

 いやいや、親父もコーヒー入れる時メッチャミルク入れるよね? それに、つまみは食べるけどお酒は母さんに取り上げられるから、いつもジュースで我慢しているよね?


「さて、そろそろ時間だな」


 空き缶を路面に置いて山本警部が立ち上がった。


「ぐ…………んはっ! 効力が切れるのを待つとは余裕だな?」

「んっ解けたか待ちくたびれたぞ。だが、もう終わりだ」

「なにを言うかっ今度はそうはいかんっ左右下腕、胸、ひざを強化して動けるようにっ!」

「だからそのスキは逃さん!」

「なにっ!」


 山本警部は拳を握り腰を低くして構えた。


「喰らえ俺の鉄拳! アストロミリオスティグマ連星パンチ!」

「ぐおっぐおぐおぐおっ!!」


 山本警部の鉄拳がマスターの全身にまるで星の形を刻むように打ち込んでいった。


「ぐぬっ見事……」


 なにも出来ないまま、マスターは大の字で倒れた。やった! 山本警部の勝利だ。


「犯人確保だ――っ山本っ!」


 刺客が倒れた途端に駆け寄り命令を下した調子のいい親父。

 まあ、外見が可愛らしいからまだマシだけど、おっさんの姿だったら本当情けなかったね。


 ◇ ◇ ◇


 このあとしばらくしてから応援のパトカー三台が駆けつけ、拘束した刺客二人を警官が乗せた。


「山本警部っお手柄でした。お疲れ様です!」


 警官の一人が山本警部に敬礼すると親父が『こりゃっ俺を無視するなっ!』と両腕を振り上げピョンピョン飛んで抗議した。

 それでも警官の背丈には届かない。


「あっ田中課長そこにいたのですか?」

「こりゃっ! さっきからいたぞ!」

「済みません。小さくて気づきませんでした」

「なにおうっ!」


 警官にサラリと皮肉を言われ親父は腕組みしてソッポ向いた。まるで子供だ。見た目も子供だけどね。


「おっそうだっ!」


 親父と目が合った。


「んっなんだよ親っわあっ! ふっひっなんですのお父様?」

「息子よなんだその口調は気持ち悪い。ほほっそれにしても凛花ちゃんと仲いいのだな、さっきからイチャつきよってパパも仲間に入りたい」

「だあっ入らんでいや、入ってるヒマあるのかしらホホッ」

「……」


 白い目で見る親父。羞恥心に耐えろ俺っコレは乙女になるための修行なんだ。俺は可愛い鬼軍曹に睨まれヤケになっていた。


「さて、無事事件も解決し、励まし会が始められるな」

「駄目です課長。責任者として署までご同行願います」


 恩塚警部が言った。


「なんだとっ酒が飲めると楽しみにしてたのに!」

「駄目ですお酒はハタチの身体からです課長」

「なんだとっそれじゃ俺は一生ハタチに届かんぞ!」


 女体化してから、ここ十年ほど成長してない親父は不老と見られる。だから無常にも一生お酒は飲めない身体なんだね。


「行きましょう課長」

「こりゃっ離せ恩塚に山本っ!」


 二人の警部に両手を引っ張られパトカーに乗せられた。残念だったな親父。

 でも俺達も重要参考人だから署に行くのかな?


「皆さんを学校まで送りますので私の車に乗って下さい」


 恩塚警部が言って乗って来た黒塗りの覆面パトカーGT-Rの後部ドアを開けた。


「あのっ……お、あたしたち重要参考人ですよね?」

「ええ、そうですが、今日はせっかくの励まし会もありますから、事情聴取は後ほどでいいですよ」

「はあっ……分かりました、わ……」


 チラリと凛花ちゃんの顔をうかがった。プンプン口を尖らせていた凛花ちゃんは微笑み返した。


「…………」


 怖いなぁ鬼軍曹。


 しばらく現場検証があって親父たちは動けないらしい。長引きそうなので特別先に、学校までパトカーで恩塚警部に送ってもらった。


「では、失礼します」


 恩塚警部は敬礼して颯爽とパトカーに乗り込み立ち去って行った。校門の前とは言えボディガードがいない俺たちは早々校門をくぐった。


「ハロー」


 青い目の少女と目が合った。


 大変な目に遭った俺たちの気も知れず陽気に手を振る新入部員の金髪外国人の美少女シンディー。コイツと白王子の関係を知りたくて聞くと、いつもすっとぼける怪しすぎる女。

 そうだ。今夜必ず謎を突きとめてやるさ。


 俺たちは励まし会会場の部室に向かった。


いつも応援ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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