公開カミングアウト
一難去ってから地面に座って放心していた。凛花ちゃんからとはいえ、口づけされた。生徒達が見ている中での公開キスだった。
今から教室に行くのが怖いと言うか恥ずかしい。
でも、凛花ちゃんは俺に助けてもらったことが嬉しくて思わずキスしてしまったんだな。
うん。凛花ちゃんは新咲の手下多目に乱暴されるよりは、好きな女の子にキスしてカミングアウトして恥じらう方がまし。
新咲に挑戦状を叩きつけたのは先だけど、そのあとのキスによってより男を捨てる覚悟が出来た。
はあ〜とはいえ、山籠りとか武者修行などの男らしい強くなる覚悟じゃなくて、まずは男らしさを捨てる修行なんだな。
青王子であり盆栽部の副部長から女言葉を意識して使えと言われた。
クラスの女子もそうだけど、皆が女言葉を使っているかと言うと違うんだな。使わなくてもいいそれだけど、クイーンになるには気高い品格が問われると思う。だから、上品で艶のある女言葉が審査基準の一つだと思う。
そんな訳で一人考えていたら凛花ちゃんが左肩を指で叩いた。
「あっごめん凛花ちゃん」
「光ちゃん早くしないと遅刻だよ」
「えっキス生徒達に見られて恥ずかしくないの?」
「……大丈夫。吹っ切れたからそれより……」
「んっどうしたの急に黙って?」
チョンッ
「ひやあっ!!」
凛花ちゃんは俺の左脇腹を人差し指で突いた。止めてくすぐったい。
「なっなにするの凛花ちゃん?」
ツンッツンツン、ツンッ
「ひやあっダメダッダメ俺そこ敏感っ!」
「光ちゃん男言葉禁止」
「へっ?」
「副部長に言われたよね女言葉使えって?」
「……はい」
凛花ちゃんがお仕置きしたのはそれかぁ。いやぁ厳しい教官がいつも側にいたんだなぁ。
冗談抜きで凛花ちゃんは真剣だから、今から女言葉使えってカミングアウトかぁ?
ああっクラスの男子にいじられるだろうなぁ。
俺は立ち上がると凛花ちゃんの手を握って微笑んで見つめた。
さあ、ここからだ。
「ふふっ凛花ちゃん急がないと遅刻しちゃうわね?」
「うん。そうだね光ちゃん」
「あらまあ……」
鬼教官の凛花ちゃんが女言葉使わないってずるい。
分かっちゃいるけど普通は使わなくてもいいんだけどなぁ。
でも行こう。俺達いや、あたしは教室に向かった。
▷ ◁
教室の前に行くと、よりによって前後の扉が閉まっていた。
ああっこれは罠か?
「どうする凛花ちゃん?」
「……」
お互い顔を見合わせた。
「皆んな期待してるんだね」
「巻き込んでごめん凛花ちゃん」
「そ、そんなことないよ光ちゃん。私こそキスして巻きこんでごめんなさい」
「本当にもうっ今でも恥ずかしいんだからなっ! あははっ」
「ふふっ私も恥ずかしいけどコレで公認だね?」
「だな……」
誰もいない廊下で二人は見つめ合う。そしてお互いの唇の距離が縮まる。
「……」
「光ちゃん早く」
「…………いや、流石に今は不味い」
「なにが不味いのよ。私は美味しいよ」
「………………そう言う意味じゃないから凛花ちゃん」
顔が熱い。恥じらいとまだまだ残る男のスケベ心が俺の心臓を揺さぶった。
ガラガラッ……
「ちょっと! もどかしいわね二人共!」
「えっ?」
うしろの教室のドアが開いてクラス委員長の柊知恵子が顔を出し言った。その周りには半数のクラスメイトがコッチを見ていた。
俺と凛花ちゃんは思わず目を合わせた。
てっやっぱりクラスの皆んな息を殺して様子を伺っていたのか!
「ほらっもたもたしない。授業が始まるわよ」
柊さんは俺の手首を握って引っ張るから俺は凛花ちゃんの手を握って教室に入った。
クラスメイト全員着席していて一斉に俺達を見つめていた。一瞬怯んだけど、皆笑顔だったので悪意はないのかな?
いや、まだ分からないよ。だって嘲笑の笑みかも知れないし。
「今朝の二人共本当に凄かったわよ。皆んな拍手」
パチパチ……
柊クラス委員長があおる。
「あの新咲の焦った顔も見れたし、アンタ達の熱烈なキスは萌えたわ。ああっ同性同士だって愛があれば愛し合っていいのよ。ステキ」
柊さんは一人の世界に入り自分の手を握って合掌した。
とにかくここまでクラスの皆んなが受け入れてくれたことによって、とりあえず凛花ちゃんは不登校になる心配はなくなった。
本当よかったし、これから男を捨て女言葉を使っても恥ずかしくない。ないわよね?
「皆んなっいや、皆さん聞いて下さい。今日から俺は! 次期クイーンを目指すため女の教養の勉強のために男心を捨てるわ。どうかよろしく」
黒板の前に立った俺はお辞儀した。
パチパチ……
クラスの皆んなが静かに拍手で送ってくれた。
結婚披露宴かよっ恥ずかしいな。でも嬉しい。
「あのさっちょっといい?」
柊さんが俺に耳打ちする。今日の放課後盆栽部の皆んなと二人の歓迎会やりたいのいい?
「んっいいけど柊さんいつから盆栽部員に?」
「細かいこといいでしょ田中っそれより急遽だから大した祝いじゃないけど期待してね」
「はい。心遣い感謝するわ委員長」
「あら色っぽい。やっぱ田中って元々ソッチのけがあったの?」
「……違いますっ仕方なくやってます!」
いつかは言われると思った。TS男子特有の疑惑。あくまでフィクションの世界だと思ってたけどまさか自分がね。
聞かれた時は頭が真っ白になった。
とりあえずカミングアウトして少しは気持ちが軽くなったかな?
「光ちゃん……」
んっ凛花ちゃんがギュッと手を握った。
「どうしたの?」
凛花ちゃんは下を向いている。
「したい……」
ちょっとなに言ってるの!
「ま、不味いって!」
俺はキョロキョロ見回し額から溢れる汗をハンカチで拭った。
もう最近凛花ちゃんはどんどん大胆な性格に。
「キスしたい」
ああ、なんだキスかって違う! いや待って流石に教室で皆んなが見ている前でキスは大胆過ぎる。
俺は深呼吸して嫌われるのを覚悟でしっかり伝えることにした。
「好き同士でもキスは時と場所選ぼうよ凛花ちゃん」
「駄目キスしたい」
「……」
いつからこんなに頑固になった?
凛花ちゃんの唇が俺の唇に接近する。俺は慌てて凛花ちゃんの両肩を押さえて動きを止めた。
クラスの皆んなの黄色い声援がする。恥ずかしいの焦るのなんの。
焦った焦った流石にクラスメイトの前での公開キスは駄目だ。
はあっ……一体どうしたんだい凛花ちゃん?
変わったなぁまあ、俺も変わらずにはいられないんだけどね。




