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女の覚悟

 

 今回の生徒会選挙は実質角田須先輩と新咲との一騎討ちだ。

 でも、投票結果の発表の朝、ここ最近大人しかった新咲が俺に対して嫌がらせを開始した暴挙を見て、どちらが勝利したのかは張り紙を見なくても明白であった。


「い、嫌っ光ちゃん助けて」

「へへっ大人しくしてなお嬢さん。なに、女の一人二人七人くらい手を出してもこの学園内じゃあ許されるねぇ新咲の姉さん?」


 チッこのガニ股世紀末モヒカン男が好き勝手に言ってくれる。こんなの犯罪だぞ。でも、この男が言った通り、なにやっても学園内では許される学園だけの暗黙のルール。クイーン様と生徒会が手を出さなければ野放しの状態になる。


 例え学園内で犯罪が起きたとしても、外からは一切手が出せない大使館と同じ治外法権(ちがいほうけん)国家状態なんだ。

 こんな特殊な法律で守られている学園は竜神高校(ウチ)だけと思いきや、都内にある三つの高校朱雀(すざく)学園、玄武(げんぶ)高校、白虎(びゃっこ)学園も外部から介入出来ない社会が形成されている。


 竜神学園の旧名は青龍(せいりゅう)高校。四つの高校に共通しているのが中国が発祥の東西南北を(つかさ)る霊獣四神(ししん)。東の青龍、南の朱雀、西の白虎、北の玄武が校名になっているのは偶然じゃないと思う。

 四神校の中心になにか重要な場所があると思う。まあ、高校生の俺がそんな壮大な妄想しても意味はない。


 それよりも今起きている困難に立ち向かうことだ。

 凛花ちゃんが新咲の手下に襲われている。助けたいのは山々だけど、俺もか弱い女で返り討ちにあってしまう。

 だから情けないことに王子様の助けを待っているんだが、いつものように颯爽と駆けつけてくれないのはなんでだ?


「へへっ姉さん俺もう我慢出来ませんぜ」

「しょうがなわねぇ多目。でもちょっと待ちなさい。今から面白いイベントが始まるから」


 くそっなんだよ面白いイベントってこれ以上なにかあるのか新咲何某。しばらくしたら校門の人集りから手下の一人が、角田須先輩を引っ張って強引に連れてきた。


「ひひっ連れて来やしたぜ姉さん」

「よくやった大島」


 小島いや、大島は角田須先輩を新咲の前に突き出した。

 情けないことに四つん這いになって地面を見つめる角田須先輩に、両腕を胸の前に添えてリラックスしたポーズで見下ろす女王様のような貫禄な新咲。


「角田須負けを認めなさい」

「ぐっ……そんなはずない。きっと裏で不正したんだ……」


 角田須先輩は小さな声で呟いた。


「てめぇっ姉さんが不正する訳ねーだろうがおらぁ!」

「ひっ暴力反対です!」


 イキッた手下の一人が恫喝した。一体どこの不良校のチンピラ生徒だよ。一応竜神高校は進学校なんだけど頭の悪い輩が入れる訳がないんだよな。


「ちょっと黙ってなさいセイヤ!」

「ヘッへヘイ姉さん……」


 小太りの手下のセイヤは後ろ頭をボリボリ掻いて新咲に平謝りして引っ込んだ。

 なんだこの茶番は、昔の時代劇ならそろそろ主役が登場する場面なんだけど……。


「ここに座すのはぁ誰と存じるかぁ?」

「……」


 たった今新咲に注意されたのに、またセイヤが出しゃばって講釈たれた。て、言うか時代錯誤にもほどがある。

 ここは江戸時代か?


「セイヤお黙りっ!」

「すっすいやせんっ新咲生徒会長」

「ちっ先に言うんじゃないよ!」

「もっもうし訳ねえです姉さんっでは失礼します」


 セイヤはそそくさと退散した。手下が一人消えたがいいが今重要なことポロっと話したな……。

 確定。後は展開しだいか。


「ねぇ角田須首を上げなさい」


 角田須先輩の足元でサデスティックな目で見下ろす新咲。


「ぐ……」

「早く顔を上げろって言ってんだよ角田須!」


 ドカッ!


「ぐはっ!」


 こともあろうことか、新咲は角田須先輩の背中を蹴った。

 もう確定だけども、権力を手にした新咲は本性を露わにし暴走してる様子だ。


「ぐ……分かりまし……た」


 苦悶の表情を浮かべる角田須先輩は顔を上げた。


「ちょっとアンタッ私のパンツ見るんじゃないわよっ!」


 新咲はスカートの裾を手で押さえ後退した。そりゃそうだけど、顔を上げろと言ったのはお前だからな。


「まあ、いい今回は許すけど、今度見たら処刑ですわよ」

「……」


 いくら治外法権でもやり過ぎだろ……まあ、冗談だろうけど。


「さて、そろそろメインイベントの締めですわね」


 パンパン


 新咲が手を叩くと手下達が大人数の生徒達を連れて来た。

 ギャラリー集めて見せしめってヤツか?どこまでも卑劣な女だよ新咲何某。


「大島」


 新咲は大島にあごを向ける。


「へっへい?」

「ちっ」


 意味が分からないのか大島は間抜けな返事を返したので新咲は再度あごをクィッと向けた。


「へ、へい、そっちですか?」


 大島は見当違いの方向に指差した。


「大島ぁっ!さっさとこの私を生徒達に紹介しなさいっ!」

「へっへいっかしこまりましたっ!」


 腰を低くした大島は手揉みしながら新咲の横に立った。どうでもいいけど多目といいこの大島は昭和の時代からタイムスリップして来たのか?


「皆の者っよく聞けぇここに座すのはぁ新生徒会長に当選したぁ新咲麗奈様であるぞ」

「うふふ、皆さん。この度は新生徒会長となりました新咲麗奈でございます。これから新咲生徒会が新たに作り直す校則に従って健全な学園生活を送ってもらいます。ただし、校則違反した生徒には厳しい処置がなされますのでご承知して下さい」


 長々と説明したけどコレは少しでも新咲に逆らったらタダでは済まない脅しだくそっ!


「なんだよそれは選挙演説の公約とまるで違うじゃねぇか?」


 男子生徒の一人が小さな声で呟いた。


「そこっ」


 小さな声の悪口も聞き逃さない新咲は、手下に向けてあごを向けた。全く地獄耳な女だな怖い。


「かしこまりやした」

「ひっなんだよっ俺がなにをしたっ!?」

「いいから来な!」


 暴言を吐いた男子生徒が新咲の前に連れて行かれ土下座された。


「お前今生徒会長である私の悪口言ったわね?」

「ぐっ……だからなんだよ。こんなの恐怖政治だろ?」

「お黙り!生徒会長の権限で貴様に処分を下す。本日をもって退学処分にする」


 背中をそって男子生徒を見下ろす新咲は指差して厳し過ぎる宣告を下した。


「えっちょっとなんだよっちょっと不平を言っただけで退学ってやり過ぎだろ?」

「いいから行くぞ」

「ちょっと!せっ先生っ聞いてるでしょ先生っこんな暴挙許していいのですかっ先生っ!」


 手下に引きずられる男子生徒は先生に訴えかけるが、先生達は目も合わせず無視して通り過ぎて行った。

 そう、この学園においては先生すら生徒会長に逆らえないんだ。


 しかし、生徒会長より絶対的権限があるのがクイーン様だ。そう学園の暴君となった新咲を止められるのはクイーンしかいない。

 そのクイーン様がよりによって不在だなんて……。


「さて、次はお前よ田中」

「なっなんだよ新咲っ!」

「てめえっ生徒会長様に対してこの口の聞き方ゆるさねぇ!」


 手下がししゃり出てきた。


「待ちなさい大島」

「へいっすまねぇ姉さん」

「ちっ頭悪いわねぇ生徒会長よ。まあ、それより田中よくも私の顔に泥を塗ってくれたわねぇ」

「はっいつアンタの顔に泥を塗った?」

「ちっ塗ったわよ。私より注目浴びて人気者になって金髪美少女に性転換して、クイーンに王子に気に入られて気に入らない。それが泥を塗ったってことよ!」

「…………」


 要するに俺に対する一方的な嫉妬じゃねぇか。


「生徒会長に就任した私に逆らったらどうなるか見せてあげるわ」

「な、なに?」

「多目っ田中のお友達をココに連れて来な!」

「へいっ」

「きゃあっ!」


 多目は凛花ちゃんを新咲の前に連れて来た。一体生徒の前でなにをする気だ?まあ、嫌な予感がするけど。


「好きにすればいいわ。多目こう言うの得意でしょう?」

「へ、へいっ大好きです」

「さっさと済ませるのよ」

「あーちょっと楽しみたい」

「駄目よ3分で済ませなさい!」

「あー3分は厳しいですぜ姉さん。もう少し延長して5分でどうですか?」


多目は五本指を見せて交渉した。なんだこの二人のやり取りは。


「ちっ仕方ないわねっそれ以上は駄目。チャッチャッとやりなさい」

「へいっ分かりやしたぁ!」


 ちょっと待てお前は寿司屋の大将かっ!


「いっ嫌っ来ないで!」

「お嬢ちゃん悪く思うなよコレも仕事だ」


 多目は凛花ちゃんの太ももに触れた。


「いっいやぁぁぁっ!!」

「ふぅん、少しは声出せるのね?」


 チッ新咲が言った。凛花ちゃんの障害のことを熟知してやがる。

 やはりあの非常勤講師も新咲の差し金か?


「助けてっ光ちゃん助けてよぉ……」


 くっ凛花ちゃんが俺に助けを求める。

 分かっている今すぐ助けたい。けど、非力な女の子の身体になった俺になにが出来る?

 助けに行ったとしても、返り討ちにあう関の山だ。


 でも助けなきゃ男がいや、女がすたる。

 そうこれまでクイーン様や王子様に助けを期待していたが、他力本願じゃ凛花ちゃんは助けられない。


 今日に限って助けが来ないのは俺が試されている?


 そうだな。自分の力を使って大切な女の子を守れないようじゃクイーンになる資格もないってことだな。

 なら、俺だけの武器を使おう。


 俺は新咲の前に立った。


「あら、土下座して謝罪する気になった?ふうっけどねぇ、今さら誤っても許されると思ってんのかぁ田中っ!?」

「黙れ新咲。俺は貴様を許さない」

「あら、許しをこうかと思ったら逆ギレ?ちょっと人気になっただけの一生徒が生徒会長に逆らえるの?」

「ああ、だから俺も手に入れることにした。生徒会長をも上回る絶対的な権限を」

「なっ!くっ……た、田中ぁ……」


 驚愕の表情の新咲の顔が怒りで歪んだ。


「俺は次期クイーン杯に出場する。もちろん新咲も出るよな?」


 もう腹を決めた挑発かつ宣言だ。


「生意気っ糞小娘の田中の分際でクイーン杯にでるうぅ?私に勝てるとでも思ってんのか?」

「ああ、勝てるわよ。例え不正されてもこの次期クイーン候補光がな」

「キイッ生意気っ生意気生意気っまだクイーンにもなってないてめえが私に逆らったらどうなるか分かって挑発してんのかい?」


 ああ、百も承知一か八かだ。

 後はこの危機から脱するには女の武器を使わせてもらう。


「すう〜〜っ」


 大きく息を吸った。


「ちょっとなにをする気?」


 まあ、見てないや、聞いてなだっ!


「いっやあああああああああああっきゃああああああっ!!」


 校内を響かせる大きな悲鳴をあげた。


「どうした?」

「おいっあそこにいるのは田中じゃねえか?」

「なんかやってるぜ?面白そうだ。行って見ようぜ」


 騒ぎを聞きつけた生徒達が集まって来て一瞬に新咲達を群衆が取り囲んだ。


「なっなんですのっ!?」


 明らかに動揺する新咲。


「あっ姉さん流石に不味いですぜ」


 そっと新咲に耳打ちする輩。


「わ、分かっているわよ流石に就任式の前に騒ぎを起こすのはよくないわね。ちっ覚えてらっしゃい田中」

「どうぞごゆっくり」


 忌々し気な顔を浮かべた新咲は手下を引き連れ退散した。


「ふうっ助かった」


 自分で危機を乗り越えた安堵から身体の力が抜け膝をついた。


「光ちゃんっ!」

「あっ凛花ちゃんよかった無事で」


 凛花ちゃんが俺の身体を抱きしめてくれた。

 ああ、温かいなぁ。


「ありがとう助けてくれて光ちゃん好き」

「んっ俺もスキだよ凛花ちゃん。んっ」


 なんと凛花ちゃんは生徒の前で大胆にもキスしてくれた。

 ギャラリーから「おおっ」と響めきがあがった。まあ、大半がスケベな男子の声だが……。


 ああ、別に構わない。いや、内心は火が出るほど恥ずかしいが。俺も凛花ちゃんのこと死ぬほどスキだから構わない。

 それに決めた。


 俺はクイーン杯に出て、男の心を捨てる覚悟を決めたから。大切なあの子を守るために全てを捨てる。


これからどんどん主人が色っぽく変化します。

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