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取り扱い説明書

 

 もう新咲の暴挙を止められるのはクイーン様だけだ。前回頼ったけど断られた。それでも俺はやることはやる主義だ。

 だから屋敷中くまなくクイーン様を探した。しかし、どこにもいない。あと考えられるのは食堂だけだ。

 俺は迷わず食堂に向かった。


 凛花ちゃんには誘わなかった。だって今日はショックで喉も通らないと思ってのこと。だけど帰りに大浴場に寄ってコーヒー牛乳でも貰って行こうと思う。これは俺なりの気遣いって奴だ。


 明日は凛花ちゃんを休ませないで登校させようと思う。だって騒ぎがあった初日に休んだら次の日も行き辛くなって引き篭もってしまうよ。

 だから、俺は心を鬼にして凛花ちゃんを登校させる。


 食堂にたどり着くとクイーン様の姿はなかった。食堂で働くメイドさんに聞くとまだ来てないらしい。

 なら、食わずに椅子に座ってクイーン様が食べに来るのを待つことにした。


「遅いなぁ……」


 席に座って注文せずにかれこれ1時間が経過した。時刻は8時であと1時間で食堂は閉まってしまう。

 俺は不安と焦りでイライラがつのった。


「なにを焦っている?」


 えっ?

 いつの間にか横に黒王子が座っていた。相変わらず黒ずくめのスーツと帽子を被っていた。どうでもいいけど食堂くらい帽子を脱げと言いたい。


「えっえっいつの間に座っていたのですか?」


 ビックリして立ち上がって聞いた。


「食堂に入ったら時を止めてお前の隣に座った」

「…………」


 俺を驚かすためにわざわざ能力使ったのがお茶目だと思った。それと考えてみれば時を止める能力は、チカンし放題じゃないでかぁ?試験なんか時を止めてカンニングすればどんな難関試験も楽勝ですよね。

 うーっ黒王子の能力があれば一生安泰(あんたい)な人生だよ。厨二心も満たされるしS SR級の能力だよ。

 だけど彼はその能力を知り私欲で使おうとしてないのが偉い。俺だったら欲望に走って手に負えなくなってると思う。


「クイーン様なら今日は食堂には行かない」

「えっなんで俺がクイーン様待ちなのを知っているのですか?」

「そのくらい能力を使わなくとも察する」

「はあっそうですかぁ……」


 結局待ち損と知りへなへなと椅子に座った。


「クイーン様は明日からイギリスに行く」


 えっそんな話聞いてない。こんな大事な時期にイギリスに行くなんて困るよ。


「俺も同行するのだが、2月下旬まで日本には帰らない」

「ちょっと待ってそれは困ります!」

「なにが困ると言うのか?」


 黒王子は振り向いて問いただした。帽子の影から鋭い眼光で俺を睨んだ。こっ怖っ。どうでもいいけど帽子取れよ。


「クイーン様の伝言だ。自分でなんとかしろと」

「そんなっ!」

「それとだ。クイーン様から渡してくれと依頼されたブツだ」


 ……ブツって他に言い方あるだろう。とは言えそれは50ページくらいの厚さのマニュアル本だった。表紙を見るとタイトルは『クイーン杯参加マニュアル』と記してあった。


「…………」


 クイーン杯のマニュアルが存在するのも驚きだけど、ページを開くと参加方法やら注意事項男子は参加出来ませんなど(当たり前だっ!)親しみやすいマンガで説明書きされていた。 


 説明書を読んでいくとクイーン杯の内容は、水中騎馬戦やらなんやらといくつかの競技をしてから水着審査して、総合点でクイーンが決まるやり方らしい。

 ちょっと競技って美を競い合う美人コンテストとかけ離れているし、水着審査って下品だと思う。あの威厳のあるクイーンさんが水着審査を受けたと思うと複雑な心境になった。


「クイーン杯に参加したくば開催1週間前までに委員会に申請すれば参加可能だ」

「えっそんなギリギリでいいのですか?」

「ああ、今回だけ特別。現クイーン様の配慮だ」


 ……配慮ってまるで俺が参加するのを見すえた感じだけど。


「お前なら大丈夫だ」


 まるで未来を見てきたかのように黒王子は言った。確かに黒王子に言われると安心する。

 でも、俺は男を捨ててクイーンなんかに、いやっ今そこに凛花ちゃんに危機が迫っている。

 きっとより深刻な事態に落ち入ると思う。あの新咲が手をゆるめるはずはない。


 よりによってこの時にクイーン様が不在となると頼れるのは王子いや、今回ばかりは力だけでは解決出来ない。

 ならどうする?

 やはり自分の力。クイーンになるしかないのか……。


「腹が減ったろ?」

「はいっ?」

「俺は注文するが一緒に食うか?」

「は、はい……」


 意外に寡黙な黒王子から食事の誘いを受けて俺は唖然とした。まあ、食堂だからそうなんだけどさ。

 あと、彼がなにを注文するのか急に興味が湧いてきた。


「今日の定食は二種ありますけどどれにします?」


 メニュー表には焼き魚定食ととっても美味しいほかほかオムライスもちもちチーズハンバーグ定食と書いてあった。

 ……なんか洋食の方がやけに長くないか?絶対メニュー考えた奴わざとつけただろう。


「俺は"とっても美味しいほかほかオムライスもちもちチーズハンバーグ定食だ」

「…………」


 黒王子は澄ました顔で言うもんだから、思わず吹き出しそうになったので口を押さえた。

 やれやれ洋食だけこんなに推した名詞だから食べて欲しいんだな。分かった食べてやるよ。


「すいませ――ん」


 俺はテーブルを拭いているメイドさんに声をかけた。


「なにか?」


 怪訝な顔をしたメイドさんが側に来てくれた。


「えっと、とっても美味しいほかほかオムライスもちもちチーズハンバーグ定食2つお願いします」

「…………」


 両手でを腰の前に握り黙って俺を見つめるメイドさん。んっ今俺なんか変なこと言った?

 まあ、確かにとっても恥ずかしいメニュー言ったけど。


「注文はカウンターで申し付け下さいね」

「あっ!」


 そう言ってメイドさんは元の場所に戻りテーブルを拭いた。

 俺は顔真っ赤にして言った注文が無駄になったと分かった。それに恥ずかしい注文をまたカウンターでしなくてはいけないんだ。


「……あのっ……」

「どうした?」

「焼き魚定食に変更しませんか?」

「…………」


 何故そこで黙る!


 黒王子は立ち上がって帽子をいじった。ちょっと!帽子の位置気にするより先に取れよ!

 すると黒王子は一人カウンターに歩いてメイドさんに話しかけた。


「とっても美味しいほかほかオムライスもちもちチーズハンバーグ定食一つ」


 ……コイツ自分の分しか言わんのかっ!


頑張って書き続けます。よろしくお願いします。

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