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女子高生デビューの日

 

 女の子として登校する初めての日の朝。滅多に朝飯を一緒に食べない多忙な親父と母親と俺の三人で食事をした。

 親父は相変わらず少女の姿でたどたどしく茶碗と箸を持ってご飯を食べている。

 一方母はそんな変わり果てた親父を見捨てず10年も支えてきたから大したものだ。大事なのは容姿じゃない、愛なんだと分かる。


 いつも気になってたけど夜の営みはどうなってんのかな? 一応夫婦だから寝室は二人で寝ているけど、そこでナニしてるか子供には分からない世界だな。


 やっぱり母さんが一方的にリードしているのかな?


 ゴクリ …………いやいや、これ以上は高校生が考えることではない。終了。



「今日は女子高生デビューの日だな光輝」


 新聞を開いて顔を覗かせた親父は、神妙な顔で俺に話かけた。父の威厳って奴か? しかし見た目は可愛い小学生だけどな。


「ん、そうだけど……」

「恐らく波乱の人生の幕開けかも知れないが」

「くっ ……そんぐらい覚悟してるよ」

「舐められちゃいかんから、胸張って堂々と登校するんだな」

「なんだよ親父それだけか?」

「そうだ。学園内では親の出る幕はないならな、どんな困難にあってもお前自身の力いや、または仲間の力を借りて乗り切れば良し!」


 親父は為になる助言を残してから椅子からぴょんと降りて洗面所に行った。


「あらあらパパったらお茶碗くらい片付けていってほしいわね?」

「んっ 母さん俺が片付けるよ」

「あらっ優しい息子いや、今は娘だわねぇおほほっ娘を持って幸せよ」

「母さん茶化さないでっ!」


 俺は普段通りに返事を返したが、母からは甲高い娘の声として聞いているんだろうなぁ。


 もう違うんだな俺は …………。


「じゃあ、もう行くよ母さん」


 俺は当然女子用の紺色のブレザーに白の横縞が入ったミニスカートを履いてブーツを履いた。


「あら光輝。れみるちゃんが買ってくれたロングブーツは履かないの?」

「んっ 母さんそれ校則違反だよ。女子高生デビュー初日にそれ履いて登校したら目立って!」

「そうかしら? 大体ブーツ以前に金髪にその美貌は注目の的よ」

「ぐっ …………母さんそれは言わない約束だよっ、とにかく今日は専用の靴履いて行きますからね!」

「あら、どうせ目立つのだからもっと華やかにすれば良いと母さんは思って言ったのよ」

「むっ、それが余計なお世話ですっ、じゃあ行ってきます」

「ちょっと待って光輝」


 俺は靴を履いてから立ち上がってドアを開けると母が呼び止める。


「なんだよ母さん?」

「光輝っカバンは持った? 忘れ物はない?」

「 …………も――っうっさい! 子供じゃないんだからちゃんと持ったよ!」

「あら、惜しい」

「惜しいってなんだよ母さん。じゃあ、行ってくるね」


  全く母さんは誘導してんじゃねぇよ。

 思わず「ちゃんと持ったわよっ!」て女言葉言いそうになったじゃねえか!


 危ない危ない。


 俺が通う都内にある竜神高校は男女共学高校だ。実家から歩いて通えるので俺は通学路を歩いているんだけど。

 横を通り過ぎる学生達が、俺の姿をジロジロと物珍しそうに見てヒソヒソ話をしている。


 チッ分かっていたけどここまで噂が広まっていたとはなぁ、登校再開初日から試練だぜ。


 校門が見えてきた辺りから俺を見かけた学生達が騒ぎ出し、ぞろぞろと集まり俺を囲んだ。

 全員鼻息を荒くした男子だ。全く下心見え見えだぞ?


「お前本当に性転換したのか?」


 チッ誰だよお前は? 女の子にそんなこと聞くなんてデリカシーのない奴だ。


「光輝だろ? 俺だよ俺?」


 知らねーよっ俺が美少女になった途端にすり寄ってくるんじゃねぇ!


 どいつもこいつも好奇の目と下心の目で俺をジロジロ見やがる。勘弁してくれ!

 こいつら俺を囲んでどきやしねぇ、マジでレイプされそうな雰囲気だ。興奮して忘れているようだが、ここは正門前だぞ!


「コラ――――ッ!! なにやっとるか貴様らっ早よ教室に行かんかっ!!」


 ジャージ姿に竹刀を振り回した体育教師のおかげで俺は解放された。ふうっ危なかった。

 

「光輝だな?」


 体育教師が俺を呼び止める。だよねぇ俺って今一番有名人だから ……。


「はい …………んっ …………そうです」


 なんだか小恥ずかしくなって手を前に組んでうつむき加減で返事した。


「改めて紹介したいので、職員室で待機してくれるか?」

「んっはぁ …………分かりました」


 転校生扱いか、まあ、先生に紹介された方が助かる。俺は授業が始まるのを職員室で待った。


「光輝君皆んなに事情を説明するから一緒に来て」

「あっはい!」


 担任の土橋先生が抑揚のない口調で言った。土橋先生は30代の痩せ型メガネの男性教師で、仕事を淡々とこなすだけで冗談とか生徒と談笑しないから不評だ。

 俺はそんな教師の背中を見ながら廊下を歩く。他のクラスは授業が始まっていた。


 土橋先生が教室の引き戸を開けると、クラス全員の視線が後ろにいる俺に集まる。当然だ。

 

「皆も分かっているようだけど、改めて説明する。ここにいる生徒は2日前は男子だった光輝君だ。女性化したのは彼の特殊能力によるもの。はっきり言うと性転換が彼の能力と言えます」


 先生は淡々と状況を説明して更に説明を続けた。


「デリケートな問題なので光輝君の心情を理解した上で、今まで通り交流をして頂きたい。私からは以上だが、光輝君(・・・)いや、光輝さん(・・・・)て呼んだ方が良いのかな? 光輝さん一言」


 くすくす …………


「 ………… 」


 マジかよ。普段冗談言わない土橋先生がなんでこんな時に限って冗談言うんだよ ……くそっ失笑の嵐じゃないか?

 こんな空気の中で一言なんて地獄だな ……。


「あっ、うんっ 皆んなっ改めて自己紹介するけど、能力のせいで女の子になったけど光輝だから、またよろしく」


 俺は脳内では男の声で喋ったつもりで自己紹介した後、ペコリと頭を下げてお辞儀した。


「すげぇ俺口調で喋った」


「マジであの光輝なのか?」


「ねぇねぇ光輝って初めからそのけがあったの?」


「トイレとかどうしてんの? 学校のトイレは男子と女子どっち使うの?」


「馬鹿おめえ女子に決まってんだろ?」


「やっべ 変態だっぎゃははっ!」


 大半が男子からの下品な声が耳に入る。


「………… 」


 むぅ――雑音は無視無視。

 

「おほんっ静かにしなさい。では光輝さん席に座って」


「はい …………」


 俺はしおらしく返事をしてから窓際一番奥の席に座った。右隣には眼鏡をかけたボブカットの物静かな女子生徒が、俺に興味ないのか目もくれず正面を見すえていた。

 彼女の名は確か村越 凛花(むらこしりんか)だったけ? 隣なのに一度も会話したことがないから印象が薄い。なんか無愛想なんだよなぁ ……。


 だけど今回ばかりは、隣が凛花で良かったよ。だって気にする素振りも見せないからね。気が楽だ。


 一時限目が終えて10分間の休み時間に案の定男子生徒が集まって来て、案の定性的な質問攻めを浴びせてきた。


  くそっこのエロ猿共が!


 こんな時にニタニタして話のタネを俺から聞き出そうとする輩は、はっきり言って友達じゃないと断言出来る!


「ちょっと男子っ光輝君が困ってるでしょ?」


 クラス委員長の柊 知恵子(ひいらぎちえこ)さんが男子達を注意して解散させてくれた。

 お下げ髪が良く似合う学級委員長だ。


「ふいぃ〜助かったよ柊さん」

「男子が心ない質問したらいつでも言って光輝君!」

「ありがとう感謝してるよ」

「じゃ頑張ってね」


 柊さんは手を振って席に戻った。あー本当真面目な子がいると助かるよ。サンキューな柊さん。


 ◇ ◇ ◇


 なんとか授業をこなして今の俺にとっては魔の時間となる放課後をむかえた。

 廊下を出ると予想通り野次馬で廊下が生徒でごった返していた。やれやれいつまで続くのかとため息を吐いてから俺は意を決して廊下を出た。


 ザワザワと一層騒がしくなる。


  …………慣れろ俺!


 さっさと帰るのが一番だよ。


 俺は野次馬をかき分けながら下駄箱に向かうと靴がない。


「チッ早速誰のいたずらか?」

「靴ならそこにあるわよ」


 背後から声をかけられた。


 ついこないだ聞いた意地の悪い声だ。


 思えばコイツのせいで能力が発動したんだ。


 俺は振り返らずに心の中で念じた。


「「 このビッチが! 」 」

「なんですって!?」


 まるで俺の心の声を聞いた反応のように。背後の女が言った。


「ちょっとさっさと振り向きなさいよ!」

「チッ キーキーうるさいなっ!」


 仕方なく俺は振り返る。


 そこにいたのは取り巻きを引き連れグショグショに濡れた俺の靴を持ってニタついた笑みを浮かべた女。

 そう。2日前放課後の教室で俺をハメた新咲 麗奈(しんざきれな)だ。


「 …………ここまで醜いとはね?」


 俺が言うと麗奈いや、新咲の取り巻き達に取り囲まれた。チッ手下使わないとイキレないのかよ?


「なにか私に言うことないのかしら?」

「はっ? 別にないけど?」

「キイッムカつくわねっアンタ今の状況分かってらっしゃるの?」


 学園一の美少女新咲が鬼の形相で吐き捨てるように言った。


「だからさっぱり理解出来ないのだが ……」


「チッ 鈍い男いや、女ね! はっきり言ってやりますわ。今や学園中の男子生徒の間ではアンタの話題で持ち切りよ!」


 はは〜〜ん 要するに話題を俺に奪われた嫉妬ですか?


 俺は彼女の醜い本質を知って少し心の余裕が出来た。


「ふんっそれって嫉妬ですか?」


 俺は前に腕を組んで新咲を見下すように笑みを浮かべ言った。


「 …………こっ殺す …………」


 新咲の顔がますます歪んで般若の形相で俺を睨んだ。

 危機的な状況の中俺はある種の興奮を覚えた。


 さっきの俺の態度はまるでクイーンのような振る舞いだった。


 そうか、学園のクイーンを目指すのも悪くない。



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